![]() ワークショップでの話し合いを発表する参加者
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サステナブル・ブランド ジャパンの法人会員コミュニティ「SB-Jフォーラム」で開催する分科会。2019年度はデロイト トーマツ コンサルティング合同会社との共同企画で「N2X(NPO/NGOと企業)連携:持続可能な成長のためのクロスセクター連携を考える」をテーマに据えた。その最終回では、これからの時代や社会に沿って具体的に誰がどうやってコレクティブインパクトを実現するのか、そのエコシステムの構造と手法の詳細な解説と参加者によるワークショップを行った。
第1回目の分科会では社会課題解決の中の「悪循環」をどのような視点で抽出するのか、第2回目ではその「悪循環」を「好循環」に転換する方法について探った。
第1回SB-Jフォーラム分科会「N2X連携:社会課題の解き方(Solving)」
第2回SB-Jフォーラム分科会「N2X連携:社会課題の解き方(Solving)続」
最終回となる第3回目ではいよいよクロスセクター連携によって社会課題を解決するために誰が、どう行動するべきなのかという実装の段階を話し合った。官公庁・自治体、NPO/NGO、企業の連携の構造の中でも、企業の役割や動きを中心に分析を行ったのはデロイトトーマツコンサルティング合同会社の金辰泰Social Impact Office Managerだ。
これまでの2回を踏まえ、改めて大前提となる視点は3つだ。現在は「社会に良いことをしないと儲けることは難しい」、そしてどれだけ巨大な企業であっても、優れた技術を持った企業であっても「個人を蔑ろにすれば大きな(経済的・社会的)ペナルティを負うことになる」。
さらに重要なのが、前回までの分科会で話し合われたように「社会課題は複雑であること」だ。その複雑さに真正面から立ち向かわなければ、善意の新規事業でも俯瞰してみれば課題解決の妨げにすらなり得ると金氏は強調する。企業の立場で言えば、社会課題の解決者として先を走ってきたNPO/NGOとのコラボレーションが必須になるというわけだ。
コレクティブインパクトとは何か
そもそもコレクティブインパクトとは何か。ソーシャルセクターが連携するためのスキームにはさまざまな種類があるが、その中のひとつでマイケル・ポーター氏が出資し設立した、コンサルティングファーム「FSGコンサルティング」が提唱したものだという。定義としてはマルチセクターが共通のアジェンダに対しコミットメントしていくということで、そのポイントは5つあると金氏は説明した。
・共通のアジェンダ、共通の理解やビジョンを持つということ
・共有された評価、測定システムでモニタリングし改善を行うこと
・お互いに活動を後押しするシナジーのある設計であること
・連携の中だけでなく、対外への発信も含めた継続的コミュニケーション
・バックボーンとなる組織を持つこと
これら5つの定義(構成要素)を実践した実例として、イスラエルでのSTEAM人材の育成プロジェクトなどの実例がある。ただし、この定義は「コレクティブインパクト2.0であり、KPIやトップダウンといったカラーがある。現在ではマネジメントからムーブメント、KPIよりラーニングが重要ではないかという『コレクティブインパクト3.0』の議論もある」と金氏は注釈する。メソッドを丸呑みするのではなく時代や背景、また関わる機関、人によってアップデートすることも必要だ。
コレクティブインパクトのメリット
では、コレクティブインパクトを取り入れる必然性はどこにあるのか。企業のメリットは複数あるが、「オープンイノベーションの土壌となる仕組みやプログラムが既にあるため、取り組みやすい」という。M&Aなど課題解決につながり得るほかのスキームと比較しても期間は決して長くなくむしろ実行までは早い。NPO/NGO側の課題でもある「風呂敷を広げにくい」という点を補うことができ、その点は大きなシナジーとなる。
自社財団の設立によるインターフェースの設置などに加えてアクセラレーションプログラムやコーポレートベンチャーキャピタルといった仕組みを、コレクティブインパクトへと昇華することが「今後の企業のトレンドになる」と金氏は明言し、さらに「今後、儲かるスキームはコレクティブインパクトであることは間違いがないと考えている」と語気を強めた。
バックボーン組織とWGの設定
具体的な方法論として「バックボーン組織を立てるのが通例だ」と金氏は解説する。データを収集し、モニタリングする処理を担うだけでなく、細分化したワーキンググループを運営するためのステアリングコミッティをつくることもある。
短期的には核となる連携を創出してニーズへの解決策の提案を徹底し、中長期的には解決策をパートナー組織に展開する。18カ月間を目安として「重要なのは最初の6カ月。そこで成功を確定し、あとは実践できるかが鍵となる」という。
ステアリングコミッティは何をするべきか。基本は3種類のワーキンググループを打ち立てることが多い。つまり「分析・モニタリングのWG」「イノベーションのWG」「それらを外部に伝えるアドボカシーのためのWG」だ。
必要な人材は揃っているか
さらにコレクティブインパクトを想定する上で重要なのが、どの組織が連携するかということに加えて「そこに人材が揃っているか」という視点だ。デロイト トーマツ コンサルティングでは以下をフレームワークとして示している。
・リーダー:決定者
・カタリスト:イノベーションのために触媒として働きマルチセクターを巻き込む
・オーガナイザー:調整者
・サバイバー:課題の当事者
・アドボケーター:当事者の代弁者
・サポーター:資金や知識を提供する
特に重要視されるのは「サバイバー」だ。企業単独ではサバイバー不在となりかねず、NPO/NGOとの連携の(もちろん、それだけではないが)ひとつの大きな要素となる。
ワークショップ
![]() ワークショップの様子。右手奥は登壇した金氏
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ここまで金氏が解説したコレクティブインパクトの定義、具体的な構造を踏まえ、ワークショップでは児童労働、海洋プラスチック、地方創生の3テーマにわかれて「ドリームチーム」を考案し、現実に即した解決手法を探った。ワーキンググループやバックボーン組織をどう構成し、想定した人がどの役割を果たすのかを検討する。
各テーマのテーブルではNPO法人ACE、WWFジャパン、美しい村連合からそれぞれ課題の解説、現状の分析などが提示された。例えば海洋プラスチックの課題をテーマとしたテーブルでは、WWFジャパンから「自主コミットメントが世界の潮流で、問題解決のために目標年までに何をする、ということを宣言することを世界の大企業は導入している。日本企業はコミットメントまでに至らないことが多い。自主コミットメントの精神が結局課題の解決のために大きな役割を果たす」「デメリットの縮小は消費者というより企業、政策の役割と認識している」といった説明が参加者にインプットされた。
議論の中では「リーダーは政府でないといけないのではないか」「セクターとして存在していない消費者はどういう役割を担うのか。第3.5セクターとして存在するのではないか」「声を挙げられない人の声をサバイバーとして取り込むにはどうすればいいのかという問題がある」「課題が局地的になればなるほど、強いリーダーがたくさん必要になる」など、プロジェクトを想定する上での新たな課題や視座を参加者が発見した。
役割を考える上で「本来は政府のルールづくりを前提とした市場があるわけだが、日本ではそれが逆になっていて、市場の様子を政府がうかがってルールをつくっている節がある」といった鋭い指摘も聞かれた。
「複雑さ」に真正面から向き合う
金氏が強調するように「課題の複雑さに着目することが重要」だ。そのために企業のコーチとしてNPO/NGOの声を聞くことも必須となる。全3回の分科会を通し、参加者は課題の複雑さに正面から向き合い、具体的な解決の過程を経験した。金氏は「社会課題解決に向けて門戸を広げ、セクターが手を組みながらでないと前に進めないのではないか」と広い連携を呼びかけた。