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  • 公開日:2019.12.18
  • 最終更新日: 2025.03.26
「畑に社員を行かせよう」ーー相模原市のel&sがファーム・トゥ・ビジネスの効果を語る

やなぎさわ まどか

オーガニック食材を使った社員食堂や人材開発事業を行うel&s(イーエルアンドエス、神奈川・相模原市)は、農業体験研修などを通して、多忙を極める企業人たちに日々の「食を意識する効果」を伝えている。畑で行う農作業は、種苗から収穫まで多岐にわたり、一連のマネジメントは組織運営に通じるところがある。「畑を体験する研修には、社会や組織を俯瞰できる効果がある」と話す同社の塚本サイコ代表に、食がビジネスシーンにどう影響するのかを聞いた。(やなぎさわまどか)

神奈川県は都心との距離に加え、海も山も街も、それぞれ人気のある観光地が揃うなど魅力の幅が広い。今回は山の方に向かい、山梨県にもほど近い相模原市の津久井(つくい)というエリアを訪ねた。この日は、塚本さんが運営を請け負う形で某アパレル企業の社員研修が行われており、都内から津久井を訪れた約20名が地元の農家で農業体験の真っ最中だった。

自然豊かな環境と山間部ならではの寒暖差を活かし、農業も盛んな津久井。塚本さんは2015年に一家で相模原市内に住まいを移したことをきっかけに、農家をはじめとした地域との関わりを深めてきた。現在スマートニュース (東京・渋谷)の社員食堂を運営するなど、確固たる実績に裏付けられた同社の人気は、相模原を含む関東圏内のおいしい野菜を使っていることも大きい。各農家がどんな思いで持続可能な農法に取り組んでいるか等、彼らのストーリーを伝える機会も意識してきた。すると少しずつ、社食の野菜がどのように作られているのか、作り手の農家はどんな人か、といった質問を受けることが増えたという。

「皆さんとお話しているうちに、自分が食べているものに意識を強めた人は、社会や組織を俯瞰する目をもっていると気づきました。私は長年、食を通していろんな方と交流してきましたが、野菜や畑への興味を強めていく方の多くが、周りの変化や流れに敏感で、物ごとによく気づく方が多いと思っていたんです。それはきっと企業に勤める人たちにとって成長の要にもなる意識ですよね。そこで少しずつ、食を含めた社員研修や人材教育を提案させていただくようになりました」(塚本さん)

企業側との連携は進み、2019年から社員研修の運営事業を開始。チームビルディングの一貫としてミーティングや合宿を行う際、市内の津久井や藤野にある施設の利用や、地域食材を活かした食事の手配などをトータルでマネジメントし始めた。プログラムの一環として、el&sが食材を仕入れている農家の畑を訪ね、農作業する時間を折り込んでいる。

この日に農作業体験をしていたアパレル企業は、塚本さんからの提案内容を聞き、自社の理念と共通するものを感じた研修の担当者が社内で参加希望者を募った。1泊2日の合宿、もしくは、日帰りでのワークショップといった過去3回にわたる実施は毎回、部署の垣根を超えて20名前後が集まるという。取材時は、社員同士のコミュニケーションや学びの時間のほかに、地域の「長谷川農園」を訪れて農作業を体験。草取り、タネまき、収穫などいわゆる「土に触れる体験」と、代表の長谷川さんと交流する時間をもち、普段社食で食べている野菜の「生まれた場所」を体験していた。

「積極的に野菜やタネについて長谷川さんに質問したり、昼食にお出しした野菜にも興味をもたれる方が予想以上に多くて驚きました。参加くださった方の多くが日常的な食べものや料理自体に興味を強めたようで、後日ご担当者様にフィードバックを伺いにいったところ、そうした視野の変化がいずれ環境問題や社会課題の解決へ広がることに期待されていると聞き、大変うれしかったです」(塚本さん)

食のトレンドや健康意識は都心から発信されることが多いものの、あわただしく働く都心のビジネスパーソンたちは実際「土」からいちばん遠い存在だともいえる。目の前のタスクが重要で緊急で大量であるほど食はおざなりになりやすいが、ひとたび食の源泉に目を向けることで開ける視点があるようだ。

少しずつ広がる変革には強さがある。社員たちの心に芽生えた新しい意識はゆっくりと成長し、いずれ企業に大きな恵みをもたらすのだろう。

written by

やなぎさわ まどか

神奈川県出身。ナチュラリストの母により幼少時代から自然食や発酵食品で育つ。高校在学中から留学など度々の単身海外生活を経験。都内のコンサルティング企業に勤務中、東日本大震災で帰宅難民を経験したことをきっかけに暮らし方を段階的にシフトする。現在は横浜から県内の山間部に移り、食や環境に関する取材執筆、編集、翻訳通訳のマネジメントなど。

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