• 細田 悦弘
  • コラム
  • 公開日:2019.06.25
  • 最終更新日: 2025.03.02
広報のためのサステナブル・ブランド戦略 入門(1)

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

映画「スパイダーマン」の最新作が話題となっています。本シリーズ作品の名ゼリフから、現代企業のあるべき姿が読み取れます。今回より、会社の個別の部門を想定して、それぞれの機能に戦略的に活用できる「サステナブル・ブランディング」の深淵なる魅力をわかりやすくお届けします。スタートは、「広報部門」向けです。

ベンおじさんに学ぶ!「R」の本質

名作「スパイダーマン」の最新作の予告で、ピーターに向かって相手役が「This is my responsibility」と言うシーンがあります。字幕では、「ここは私に任せろ」と表示されます。ここで使われているresponsibilityに関して、ファンならすぐに想起されるのが、ベンおじさんが主人公のピーターに捧げた名言:「With great power comes great responsibility」ではないでしょうか?

和訳は「大いなる力には、大いなる責任を伴う」です。この「responsibility」こそが、CSR(Corporate Social Responsibility)の中核概念である「R」の本質なのです。この単語はresponse(反応する、対応する)と、ability(力、能力)からなります。つまり、「対応する能力」ということです。いつの時代にも、磐石な経営基盤を確保しつつ、社会からの要請や期待に主体的に対応していくことこそが、CSRの本分です。

現代社会において、広報部門の主要ミッションである企業ブランディングを実現するには、このResponsibilityを芯や背骨に入れたオペレーションが必須となります。まさに、サステナビリティ時代に生きる企業の矜持(きょうじ)です。

ベンおじさんの名言と「ノブレス・オブリージュ」

ベンおじさんの珠玉の言葉「大いなる力には、大いなる責任を伴う」は、フランスの格言である「ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)」とも相通ずるものがあります。19世紀にフランスで生まれた言葉で、「noblesse(貴族)」と「obliger(義務づける)」を合成した言葉です。財力、権力、社会的地位の保持には責任が伴うということです。高貴の身(身分の高い者)には、それに応じて果たさねばならない社会的責任と義務があるという意味あいです。いわば「立場は責任を伴う」ということです。

この考え方は、企業経営にも充分当てはまります。法的義務はないけれども、自己の利益のみを優先することなく、社会のことをおもんばかった行動を促す規範や戒めとなります。社会の変化にともなって企業に対する要望が高まり、企業が社内外から理解を得なくてはならない領域が拡がってきています。その時代を象徴するテーマが、企業の社会的存在意義の訴求といえます。今日の広報部は、企業が社会(ステークホルダー)に対して「responsibility」を果たしていることを社内外に伝え、理解と共感を獲得する重要な役割を担っています。

広報活動と「影響圏(sphere of influence)」

グローバル標準の「社会的責任の国際規格・ISO26000」の定義を見てみると、社会的責任とは「組織の意思決定と事業活動が、社会や環境に及ぼす影響に対する責任」とされています。企業がこの世に存在し事業を営めば、地球や社会に必ず影響を及ぼします。その「影響」には、ポジティブとネガティブ、正の影響と負の影響があります。この「影響」こそが、キーとなります。まずは、自社のビジネスが人権・労働、消費者や環境などに悪影響を与えるのを防ぎ、緩和することが要請されています。その上で、自社の強みを活かした社会課題の解決などの良い影響は、いっそう醸し出してほしいと期待されている、ということがポイントです。

ISO26000では、この影響が及ぶ範囲のことを「影響圏(sphere of influence)」と謳っています。昨今の企業活動は、自社単体だけでなくグループ会社、そして取引先を含むサプライチェーンへと影響圏が拡大し、「responsibility」が強く求められています。

With great power comes great responsibility (大いなる力には、大いなる責任を伴う)…。企業も規模が大きくなればなるほど、影響力の範囲が拡大し、大きな責任を伴うということです。サステナビリティ時代に企業ブランディングを目指す広報部には、さまざまなステークホルダーからの要請や期待にしなやかに対応していく、「responsibility」のセンスが大いに期待されています。

パン屋さんと画家のお父さんの「responsibility」

広報部門は、「地域社会」との共生にも注力されていることでしょう。企業も一市民として地域に受け入れられないと、今後生き延びることが困難になるからです。この地域の一員としての振る舞い方のヒントとして、2人の地域住民の例をあげておきます。

ある町内会で、運動会があったとします。限られた予算の中で、盛り立てたいのは皆同じです。ところが、やはり「パン食い競争」は外せないと思うのですが、昔と違って最近の舌の肥えた子供たちが喜びそうなパンの調達に苦労します。立派な入場門はつくれないが、登場ゲートに何もないのはさみしいものです。

そんな時、近所のベーカリーや画家のお父さんが、「This is my responsibility(ここは、私に任せてください)」と名乗り出て、パンや入場門を快く提供してくれたら、町内会や子供たちはこれほどありがたいことはありません。これが、企業ブランドに寄与する「自社らしい社会貢献」の典型例です。

次回以降は、私が提唱する「サステナブル・ブランディング」の戦略フレームを広報バージョンにアレンジして、順次わかりやすく解説していきます。

written by

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師 一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。 ◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史 ◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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