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  • 公開日:2019.05.08
  • 最終更新日: 2025.03.02
タイの無電化地域に日本とタイの学生が支援の輪

「ENERGY Gift mini」プロジェクトで届けられたソーラーランタンを太陽にかざす、タイ南部のクラビー県・ハン島の子どもたち(写真:ENERGY MEET)

電気が通っていないため教育環境に課題を抱えるタイの農村に、ソーラーランタンを届ける取り組みがある。日本とタイの大学や学生が共同で進める「ENERGY Gift mini」プロジェクトだ。単に製品を届けるだけでなく、企画段階から現地の大学と協働して進めることで現地の住民と学生間の継続的な関係をつくり、同国での人材育成教育にも結びつけている点が特徴だ。プロジェクトを主宰するENERGY MEET(東京・渋谷)のオオニシタクヤ共同代表に話を聞いた。(オルタナ編集部=堀理雄)

タイの学生が社会課題に取り組むきっかけに

「ENERGY Gift mini」プロジェクトでは、タイ南部の西海岸に位置するクラビー県の「ハン島」に、太陽光で充電できる小型のライト(ランタン)を届けることが目的だ。

ハン島では、島民の多くが天然ゴム農家として生計を立てている。70人ほどの子どもが小学校に通うが、電気が通っていないため質の高い教育の提供に課題があり、また夜になると明かりがなくなり勉強ができないといった問題がある。

オオニシ氏は「子どもたちの学びを支援することで、将来の可能性を拓くきっかけになれば」と話す

オオニシ氏は「ゴム農家を継ぐのももちろん大事な選択肢。ただ子どもたちが進学をあきらめることで、収入面や行動範囲が制限されてしまったり、新しいアイデアや可能性を閉じてしまうことになるとすれば問題だ」と述べる。

「現地に電気を届けると同時に、大学教育のなかにプロジェクトを入れ込み、タイの都市部で暮らす大学生に同国での社会課題に気づいてもらう。こうした人材育成やリーダーシップ教育にも結び付けることで、社会の発展をデザインの領域から支援していきたい」

こう話すオオニシ氏は、元々タイのキングモンクット工科大学で講師として10年以上デザインや建築学などを教えてきた経験を持つ。その後「エネルギーをデザインして社会を変える」ことを目指し、2012年に日本でENERGY MEETを設立。現在は慶応義塾大学環境情報学部で准教授も務めている。

持続的な「しくみ」をデザイン

日本とタイの学生が中心となってデザインした完成品(左)と構成パーツ(右)。外側から中の基盤が覗けるなど、遊び心を大切にデザインされている (写真:ENERGY MEET)

2016年から1年半ほどかけて製品をつくりあげた。デザインは慶応義塾大学の学生や卒業生が主に担当し、その図面をタイに送付。プロジェクトのパートナーであるキングモンクット工科大学の学生や教員が製造に向けた調整を行い、プロトタイプ(試作品)が完成した。

製品の外観もユニークだ。内部の基盤が外から見えるシンプルな構造になっている。「子どもたちの知的好奇心をくすぐれるよう、アリの巣を覗いているようなチラリズムを取り入れたデザインになっている」(オオニシ氏)という。

合板や基盤、ソーラーパネルなどのパーツは比較的簡単に組み立てられる仕組みになっている。製品は完成品として提供するのではなく、組み立てキットとして配布することで、子どもたちがエネルギーや電気について学ぶ機会にする。

子どもたち自らが組み立てることで、技術的な教材としても役立てる狙いだ (写真:ENERGY MEET)

2017年12月には日本とタイの学生とともにハン島の小学校に製品を持っていき、現地で子どもたちとともに授与ワークショップを開催した。2018年12月にも再度訪問し、交流を深めた。

これまでに製作した製品は計40個ほど。基盤のハンダづけなどは、キングモンクット工科大学の学生が実習をかねて一つひとつ行っている。「プロジェクトはまだ走り始めたばかりで、継続的に活動を進めていきたい。今後他の無電化地域にも拡大できれば」とオオニシ氏は述べる。

プロジェクトは2018年度のグッドデザイン賞を受賞。「無電化地域に、手作りのソーラーキットをただ配るのではなく、丁寧なプロセスを経て、現地の都市部の大学および大学生によって、持続的に広がっていく『しくみ』にまでデザインした」と評価された。

オオニシ氏は「実践するなかで、子どもたちが普段の生活のなかで製品を使うための工夫など、課題も見えてきた」と振り返る。またプロジェクトへの参加を通じ、学生の変化にも手応えを感じているという。

「2国間の学生同士の交流、地元の島の人たちとの交流を体験して、より広い視野と深い洞察力で社会と関わることに関心を持ってくれている。未来を牽引する国際的なリーダーが一人でも多くここから生まれてくれることを願っている」

2017年に続いて2018年にも島を再訪問し、ワークショップなど交流を深めた (写真:ENERGY MEET)

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