• 細田 悦弘
  • コラム
  • 公開日:2019.04.15
  • 最終更新日: 2025.03.02
第36回:令和のフレッシュパーソンが望む!「非金銭報酬」
  • 細田 悦弘

​新元号「令和」の発表とともに、新入社員が入ってきました。そして、来年度(令和入社)に向けた就活も真っ只中です。今どきのフレッシュパーソンへの処遇は、給料(金銭報酬)だけではなく、「非金銭報酬」が重要なようです。

給料だけでなく、「働きがい」ください

就業価値観が多様化する今日のフレッシュパーソンは、給料以外の報酬を企業に望むようです。それは、仕事を通じて「社会のためになりたい」「自分を高めたい」というのが二大潮流のようです。

自社で働くことで、「社会の役に立つ」という使命感のもとに、どれだけ働きがいや充実感を持って仕事ができるか、また仕事を通じて「自己成長感」を実感し、今後のキャリアデザインをイメージできるか。近年、若手社員を中心に、この2つの要素から醸し出される「働きがい」を重視する傾向が高まってきています。

仕事を通じて働く人が成長すること、つまり「就労経験を通じての成長」が重要となっています。若年層の初期キャリアにおける成長は、長期的な観点から、30代、40代、50代になった時の企業自体はもとより、産業や地域、そして国の将来の成長に大きな影響を与えます。

現代を生きるビジネスパーソンにとって、「働きがい」は給料以外の処遇、すなわち「非金銭報酬」なのです。企業が従業員に期待する帰属意識やモチベーションは、金銭報酬だけでなく、非金銭報酬を合わせた「総報酬(トータルリウォード:Total Reward)」によって醸成されます。

環境の変化が激しく、専門性が求められる時代においては、働きがいを通じてこそ、単なる業務効率を超えた高付加価値による生産性の向上が実現できます。現代企業は、「雇用の質」が問われています。この構造をハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」を用いて解説してみます。

ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」

「動機付け・衛生理論」とは、二要因理論とも称され、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱しました。「職務満足」および「職務不満足」を引き起こす2つの要因に関する理論のことです。

ハーズバーグは、「動機付け・衛生理論」の中で、職務満足に関する要因には「不満足要因」と「満足要因」があるとしています。「不満足要因」には、会社方針や職場環境、給与、対人関係などがあり、これらが少しでも欠けると、人は不満を感じるということです。不満足要因は、「衛生要因」とも呼ばれています。

一方、「満足要因」とは、仕事内容、達成感、承認、責任、昇進、成長の可能性などを指します。これらの要因が十分であるときに、人は意欲が高まります。満足要因が満されることで、積極的な動機付けが行われ、やる気が増幅することから、「動機付け要因」と呼ばれています。

ここで留意することは、満足な(動機付け要因が満たされている)状態と、不満ではない(衛生要因が満たされている)状態とはまったく異質なものだということです。少ないとネガティブな低感情を作り出してしまいますが、しかし多く与えたからといってそれがやる気などのポジティブな高感情には必ずしも比例しないというのが、「衛生要因」だとしています。やる気を引き出すには、衛生要因が満たされるだけでは足りず、「動機付け要因」が働く必要があります。

一方、動機付け要因だけを増やしても、衛生要因が満たされていなければ、従業員の不満が高まっていきます。言い換えれば、衛生要因を満たすことは、やる気を引き出すための前提条件と言えます。

これをレストランに例えると、厨房が不衛生だと不満足ですが、厨房をピカピカにするだけでは、美味しい料理は出来上がりません。逆に、美味しい料理は、厨房が衛生的であってこそ成り立つものです。すなわち、給料があまりにも低いと不満だけども、給料さえ上げれば満足するということにはならないという意味です。2要因のバランスを考慮することが重要です。

「不満足」の反対は、「満足」ではない

この理論で注目すべきは、職務における「不満足」の反対が「満足」でない点です。そのため、職務に満足してもらおうと、どれだけ不満足要因の解消に努めても、不満足でない状態になるだけで、決して職務満足には至らないということです。すなわち、不満足の反対は、「満足」ではなく、「不満足でない」ということです。「満足」を得たいなら、動機づけ要因が要るというわけです。

企業が持続的成長を果たすには、不満要素である衛生要因をクリアした上で、満足要素である動機付け要因をいかに満たしていくかがポイントになります。この時代に意欲を持って働く人たちにとって、金銭報酬だけでなく、非金銭報酬が必要不可欠といえそうです。

仕事で感じるやりがい、達成感、承認感、また仕事を通じて成長できているという実感、将来にわたって自分のキャリアデザインが見通せる期待感などは、まさしく令和のフレッシュパーソンが望む「非金銭報酬」といえます。「働きやすさ」といっしょに「働きがい」が欲しい、「衛生要因から動機づけ要因」への流れがきているようです。

「CSRブランディング」で、誇りイキイキ

本コラムのテーマである「CSRブランディング」は、ビジネスと社会課題解決を両立させ、『らしさ』で競争優位を創り出す戦略メソッドです。仕事を通じて、社会のためになる。社会課題解決に資するビジネスを考案するためには、柔軟な思考によるイノベーションが求められます。それは、結果として、自己の成長に加えて、仕事の意義を感じられます。そして、自社のブランドを担い、「らしさ」を発揮することにより、社員のロイヤルティとモチベーションが醸成されます。

社員が『誇りイキイキ』と職務にあたれば、持続的成長・中長期の企業価値向上につながります。「CSRブランディング」は、企業にとっては「財務・非財務」に貢献し、社員には「金銭報酬・非金銭報酬」の源泉をもたらします。

☆編集部から参考情報です。
今月、細田さんの新刊『選ばれ続ける会社とは――サステナビリティ時代の企業ブランディング』が出版されました。ご関心のある方は、以下より詳細をご覧下さい。
https://www.shc.co.jp/book/10250

written by

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師 一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。 ◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史 ◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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