• 細田 悦弘
  • コラム
  • 公開日:2019.03.25
  • 最終更新日: 2025.03.02
第35回:築地の老舗料亭に学ぶ!時代が求める企業競争力
  • 細田 悦弘

築地の老舗料亭の歴史

東京築地に、日本三大料亭として名高い老舗料亭があります。数ある名門料亭の中でも、特にここが有名なのは、「芥川龍之介賞・直木三十五賞」の選考会場となっていることです。今回はこの老舗料亭から、時空を超えて「選ばれ続ける企業」であるためのヒントを学びます。

築地の老舗料亭の外観

この老舗料亭は日本橋茅場町で創業後、大隈重信邸跡地だった現在地に店舗を移転し、140年以上の歴史を誇ります。初代女将の姓が「伊藤さん」であったことから、首相経験者である伊藤博文も贔屓にしていたといわれています。

当時の建物は、大正12年の関東大震災により喪失しました。現在の建物は、歌舞伎座の改修を手掛けたことで知られ、数寄屋建築を独自に近代化した設計で昭和期に活躍した建築家・吉田五十八が設計し、改修を重ねたものだそうです。

そして、昭和30年頃から習慣的に芥川賞や直木賞の選考会場として使用されるようになり、昭和36年以降は全て当料亭内で開かれるようになったようです。

なぜ、芥川賞・直木賞の「選考会場」に選ばれ続けているのか

この料亭には、代々伝わる「店の初志」があります。それは、

・「支店を出さない」

・「宣伝をしない」

・「毎日が開店日(初心忘るべからず)」

・「無言のおもてなし」

の4点です。

また、「口の堅さ」でも定評があり、政財界人や文化人などの利用が多いことでも知られています。

「口の堅さ」。これこそが、芥川賞や直木賞の選考会場に選ばれ続けている重要な要素といわれています。築地というロケーション、極上の料理、最上級のおもてなしもさることながら、「(この料亭の)高い塀の中の出来事は、一切外に漏れない」という絶大なる信頼感が決め手となっています。企業の情報漏えいに対して、非常に過敏な現代社会において、この老舗料亭に本質的な競争力を学び取ることができます。

コーポレート・ブランドの芯

企業が持続的な成長を遂げるためには、企業理念・ビジョンを明確すべきというのは、経営学の基本といえます。理念の実現へのたゆまぬ努力とともに、それを軸として、企業を取り巻くステークホルダーとコミュニケーションを図っていくことが重要です。

企業活動に対する理解を促進し、価値観が共有でき、良好な関係を構築できれば、戦略的な競争優位を築くことができます。良好な関係が構築できれば、企業の社会的評価(コーポレート・レピュテーション)は高まり、「信頼」へとつながっていきます。

企業への信頼は、製品やサービスへの信頼をもたらし、価格プレミアムや継続取引、ロイヤルティ(自社へのステークホルダーからの求心力)の醸成につながります。

現代のコーポレート・ブランドの芯や背骨になるのが、「信頼」です。ブランド戦略というと、大企業を中心とした特別な能力を持った専門領域の仕事と思われがちですが、実は極めて現業的なものです。最も大切なことは、この料亭で例えれば、女将を中心に、接客サービス担当(仲居さん)をはじめとするスタッフ一人ひとりが、理念や自店のブランドが目指すべき価値をしっかりと認識し、その実現は自分自身の肩にかかっているのだという意識を持って業務に携わることです。

ブランドは、顧客や社会とのあらゆる接点(タッチポイント)で創られます。とりわけ、フロントに立つ人たちの日々の一挙手一投足の積み重ねにより築かれていきます。

「信用・信頼」は競争力

信用度や信頼性の高さは、企業のアドバンテージとなる

「信頼性の高い企業」の主たるご利益(ごりやく)は、以下の通りです。

・新規営業による取引先開拓の際、まったく未知の企業よりも、相手先の担当者が会ってくれる可能性が高まります。これを「オープン・ザ・ドア効果」といいます。昨今は、特にビル内のセキュリティが高く、受付段階での優位性を確保できます。

・昨今のような売り手市場において、優秀な人材を獲得できます。「採用ブランド」が向上します。

・社員が自社に誇りを持ち、イキイキと働くことにつながります。モチベーションの向上と優れた社員の流出を抑えることができます。

・意識の高い社員が企業理念を深く理解し、行動指針にのっとり、秀でた製品・サービスを提供することにより、業績向上に寄与します。

・株式市場において、「非財務」に対する評価を獲得でき、株価に好影響を与えます。

・金融機関の与信審査において、定量的に計測できないような「取引先などのステークホルダーからの評判」や「良き組織風土」といった財務以外の重要チェック項目において加点されます。

現代社会において、自社への信用・信頼(社会からの定性的な評価)は、「見えない資産(intangibles)」であり、時代が求める企業競争力といえます。

written by

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師 一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。 ◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史 ◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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