• 細田 悦弘
  • コラム
  • 公開日:2018.11.22
  • 最終更新日: 2025.03.02
第31回:サステナビリティ時代の「企業ブランド」の築き方
  • 細田 悦弘

あなたは、どちらの会社を選びますか?

①成長する会社 
②社会に必要とされる会社

サステナビリティ時代においては、社会に必要とされなければ、企業の成長は見込めません。社会の幸せから離れた企業に、社会からの信頼・支持は得られません。いつの日か、ブランドは錆び、老け、朽ち果ててしまいます。ズバリ、②の会社であることが、①の会社につながります。

マーケットインからアウトサイドインへ

サステナビリティが基軸となってきている現代社会においては、企業ブランドに「社会への対応力」を備えれば、次元を超えたアドバンテージとなります。

近年、マーケティング分野においても、プロダクトアウトからマーケティングインへとシフトし、ここにきて「アウトサイドイン」の基調が注目されています。外部環境を起点として、何をすべきかを考えることです。主に、社会課題の解決を起点にしたビジネスの創出という文脈で登場します。そして、商品・サービスに「社会性」を組み込むことで、新しい価値の創出、新しい市場の開拓につながります。

「企業ブランド」のエンドースメント効果

このアプローチは、「商品・サービス」の競争力を高めるだけではありません。

顧客は、商品がコモディティ化(一定の質に収まった標準化された商品で、「いくらでも代わりがある」という状態)する中で、「社会性」を組み入れた価値に新たなニーズを抱くと同時に、その企業の想いや姿勢を評価します。

すると次の段階では、「商品が同じようなものであれば、この企業のものを買おう」と、個別商品だけでなく、その企業の商品全般を支持するようになり得ます。「このブランドだけは特別」と思わせる力であり、企業サイドからみると、戦わずして他社よりも一歩生活者に近づくことができる強力な武器となります。

これこそが「企業ブランド力」の真骨頂であり、エンドースメント効果といいます。エンドースメントとは、企業ブランド(親ブランド)が商品ブランド(子ブランド)に対する保証を与えるという意味です。「同じような商品なら、この会社のだったら間違いない」という判断をしてもらえるということです。

あわせて、企業ブランドが高まれば、顧客だけでなく、取引先、投資家、従業員、地域社会といったステークホルダーの信頼と支持を獲得できます。「あの会社は金儲けではなく、世のため人のために経営されていたのだ」ということが理解されると、いよいよ強力なブランド力を発揮し始めます。

時代にふさわしいミッションがブランドに磨きをかけ、そのブランド力がさらにミッションを強固にします。顧客を惹きつけ、その他のステークホルダーも共鳴して集まってきます。

「ブランドプロミス」を一貫して守り続ける

社会から信頼と愛着を獲得し、経営を中長期的に安定させるためにも、「企業(コーポレート)ブランディング」は欠かすことができません。コーポレート・ブランディングとは、顧客をはじめとするステークホルダーが想起するブランドイメージと、企業側が自社のブランドをどう思われたいか(ブランド・アイデンティティ)を一致させるための活動です。

このブランド・アイデンティティこそが、「自社らしさ」です。ブランディングで目指すのは、この「らしさ」を社会(ステークホルダー)に約束し、あらゆる企業活動において一貫して守り続け、「企業と顧客や社会との長期的なゆるぎない絆」を構築することです。

社会からの期待に企業が応え続けることを「ブランドプロミス」といいます。ブランドになるということは、相手との信頼関係を築けたということであり、崩壊するのは、ブランド側がその信頼を裏切ったときです。

企業がブランドを通じて何を約束するかを明確にし、社会の期待に応え続けることで、長期的で揺るぎない精神的な関係(絆)を構築する。

骨太のブランディングの3つの基本ステップ

うわべだけでない「骨太のブランディング」を目指すのであれば、下記の3つのステップをきちんと踏むことが重要です。

1)第1ステップ
まずは、「ブランド・アイデンティティ」(自社らしさ)を見つけ出すプロセスです。

・自分たちが「何者」であり、
・「何を考え」、「どんな価値観」を持ち、
・「何を約束」 し、
・「どこへ向かおうとしている」のか

を再確認・検証します。「らしさ」は、志があってはじめて醸し出されるものです。このステップが、ブランディングの起点となります。そして「検証」で重要なことは、サステナビリティの概念を中心として、自社の利益だけではなく、「社会性」が盛り込まれているかということです。この視点が、現代のブランディングの肝となります。

私の「CSRブランディング研修」では、オリジナルの「BI(ブランド・アイデンティティ)開発シート」を使用し、ワークショップを行っています。この手法で、社内の合宿などでブレストや熱いディスカッションができれば望ましいです。

2)第2ステップ
「自社らしさ」(ブランド・アイデンティティ)の社内浸透・共有です。これを「インターナル・ブランディング」といいます。

社員に対して、自社の企業理念や「らしさ (ブランド・アイデンティティ)」を認知・浸透させ、さらには、日々の価値判断や行動に反映させることを目的とします。社員一人ひとりが「自社のブランドが目指すべき価値、日々変化するステークホルダーの要請・期待をしっかりと認識し、その実現は自分自身の肩にかかっているのだという意識を持って業務に携わってもらうこと」がゴールです。

3)第3ステップ
「らしさ」とブランドイメージは表裏の関係です。「らしさ」を世の中に発信し、従業員も体現して、認知・共有を図ります。

すなわち、「ブランド・コミュニケーション」です。自社のブランドが持つ素晴らしさを世の中に伝えていく活動です。社会に資するミッション・ビジョンのもとに共有された価値を軸に、顧客をはじめとするステークホルダーを引き寄せ、信頼と愛着につなげていくことを目指します。

ビジネスは、ある意味で「コミュニケーション活動」です。ステークホルダーとのリレーションシップの中で、その価値が評価され共有できたときに、はじめて「価値」として存在意義を発揮することができます。この前提となるのが、地道な草の根のインターナル・ブランディングです。

ブランドづくりの3つの基本ステップ

企業ブランディングに「社会対応力」をビルトインした戦略メソッドが、「CSRブランディング」です。

written by

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師 一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。 ◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史 ◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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