• 細田 悦弘
  • コラム
  • 公開日:2018.03.20
  • 最終更新日: 2025.03.02
第23回:社会と会社を幸せにする、サーバント・リーダーシップ

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

~ ビジネスと社会課題解決を両立させ、‘らしさ’で競争優位を創り出す!待望の戦略メソッド ~

「オレについてこい!」とぐいぐい引っ張るリーダーから、支えるリーダーへ。権力ではなく、権威で動いてもらうリーダーへ。企業は関わる人々に対し「サーバント・リーダーシップ」を発揮し、共感と信頼を獲得することで、持続的成長・中長期の企業価値向上につながります。次の時代に向けて、社会と会社を幸せにするための視点として、「サーバント・リーダーシップ」という考え方を取り上げます。

「サーバント・リーダーシップ」って、何?

新しい言葉のように聞こえるかもしれませんが、以前からある概念です。1970年に、元AT&T(アメリカ電話電信会社)のロバート・K・グリーンリーフ博士が提唱した、あるべきリーダー像です。

「サーバント(servant)」と「リーダー(leader)」が合わさると、対極のものとして若干の違和感がある向きもいらっしゃるでしょう。ふつう「サーバント」という言葉は、「従者」や「召使い」を示し、「リーダー」は、通常「指導者」や「導き手」の意味で使われるので、一見相容れないようです。グリーンリーフは、サーバントを「尽くす人」「奉仕する人」として捉え、まわりの人々に、そういう意味でのサーバントとして接することがリーダーの基本姿勢だと主張しました。

最初に尽くしたい(奉仕したい)という自然な感情に始まる。まずはそれを実践し、その後でリーダーとしての役割も果たさなければならない、と考えるのが「サーバント・リーダーシップ」です。

従来のリーダーが、まずは相手の上に立って相手を動かそうとしがちなのと対照的な概念です。

この驚くべきパラドックスは、現代における企業と社会(従業員を含むステークホルダー)との関係を考える上でも、新たな気づきが得られる彗眼といえます。

現代社会における、企業のサーバント・リーダーシップ

サーバント・リーダーのことを、そのまま「召使い型リーダー」とすると、ただ尽くしさえすれば、まわりがついてくると捉えられがちですが、「リーダー」という言葉に深い意味あいがあります。それは、夢やミッション・ビジョンの実現です。

リーダーは、自分が達成すべきことや夢に対して強い使命感を持ち、それを実現するために、自らの意志でサーバントに徹するのです。実現を望む社会的なミッションを奉仕の名のもとに掲げ、自分についてくる人(フォロワー)たちに尽くす。それが、サーバント・リーダーの姿です。

企業には、存在意義ともいえる「経営理念」があります。企業はそれを実現するために、関わる人々(従業員を含むステークホルダー)とともに事業活動を行なっています。企業が究極的に実現したい目的のために協力してくれる人々に尽くそうと思うのは当たり前のことです。

サーバント・リーダーシップとCSR

サーバント・リーダーシップでは、企業の第一の目的は、唯一の動機である利益の追求だけではなく、社会に建設的な影響(ポジティブ・インパクト)をもたらすことでなければならないとされます。

CSR(Corporate Social Responsibility)の根幹には、社会に対して負の影響を抑え、正の影響を醸し出すということがあります。その先に、サステナビリティを見据え、変わりゆく社会への対応力を磨きます。

企業が、現代も次世代においても「社会を幸せにしたい、社会を豊かにしたい」という理念を掲げるならば、そのために、社会(ステークホルダー)に誇り高く奉仕する。そのことが、社会からの共感を生み、信頼を獲得できれば、企業もまた、持続的成長・中長期の企業価値向上につなげられるといったストーリーが成立します。

奉仕者であり、リーダーであるというのは、共存可能です。奉仕の精神で人々を導き、社会変革を促すことが、社会のメインプレーヤーである企業に求められています。

CSR部門は、「権力」でなく「権威」で社内を動かそう!

CSR部門のお悩みテーマは、草創期より「社内浸透」のようです。社長直轄組織であっても、元よりCSR部門に「権力」などありません。すなわち、トップダウンは効きません。とすれば、自部門のミッション(あるべき姿)を明確に持ち、社内に伝える努力が不可欠です。

社内に対して、真心込めてCSRの本質や意義を説き、そして理解と共感を得て、自主性・主体性を醸成し出す努力を惜しんではなりません。すなわち、インターナルブランディングです。その上で、渾身の力で支えていくことで、まわりから「権威」が認められ、頼りにされる存在となります。CSR部門は、よい意味で「権威」を持ち、社内で一目置かれる存在となることが組織に必須の資質です。

このスタンスは、取引先にも通用します。サプライチェーンにおける企業の影響力が取り沙汰され、「持続可能な調達」という概念が進展しつつある今、サプライヤーとの間で、価値観やCSRの重要性を共有することが喫緊のテーマとなってきています。自社だけではなく、サプライヤーを支え、導く際の発想としても、サーバント・リーダーシップの考え方を活かせましょう。

社会と会社が幸せになれる

企業社会では、リーダーは力強く引っ張る人だと思われがちですが、サーバント・リーダーは、そうではなく、ミッションに向かって自発的に取り組む人を後押しします。それは使命感に基づいてなされる高貴な行動であり、組織の目標を達成させる大きな力となります。

理念に基づき、会社が社会のために奉仕すれば、社会が会社に共感し、支持や信頼がもたらされます。そして会社は、理念を実現しようとする社員や取引先を支えることで、これまで以上に相互信頼が育まれ、結果として、社会と会社が幸せになれます。

このサーバント・リーダーシップという考え方は、現代企業のステークホルダーとの関係のあり方、CSR部門の社内との接し方に、大きな示唆を与えてくれます。時代に選ばれ、次代にも輝きつづける企業であるための戦略メソッド「CSRブランディング」にも資する視点です。

☆編集部から参考情報です。
来月、細田さんの新しい講座「目からウロコのCSR超基礎」研修が開催されます。ご関心のある方は、以下より詳細をご覧下さい。
https://school.jma.or.jp/products/detail.php?product_id=150572

written by

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師 一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。 ◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史 ◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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