ヒルトン・ワールドワイド 日本・韓国・ミクロネシア地区運営最高責任者
オルタナ編集長
|
――グローバル企業として、サステナビリティについてはどう考えていますか。
ソーパー:ヒルトンは2011年から「トラベル・ウィズ・パーパス (Travel with Purpose、目的ある旅)」と名付けたCR(Corporate Responsibility)活動を展開しています。
この名前は、ヒルトンという会社の存在意義を問いつつ、その事業を「旅」という言葉に置き換えて生み出されました。もちろん企業として利益を上げることは重要ですが、ヒルトンという会社が存在するのは社会への責任を果たすためでもあります。
創業者であるコンラッド・ヒルトンは「Assume your full share of responsibility for the world in which you live(あなたが住む世界は、あなたがその責任のすべてを負っている)」という理念を掲げました。ヒルトンのCRはその理念を受け継いだものです。
「Travel with Purpose」は、ホテルを運営している国や地域に根ざし、今後もグローバルで存在感のある企業であるためのヒルトンの役割を明示する言葉です。
――具体的にはどのようなものでしょうか。
ソーパー:グローバルのCRには3つの柱があります。第1に従業員が能力を最大限生かせる機会をつくることです。第2に、ホテルが位置する地域社会への責任を果たし、貢献すること。そして、環境を保全し、事業による環境負荷を減らしていくことです。
アジアパシフィックの3つの柱は、まず若者の雇用です。2019年までに100万人の若者に対してキャリア説明会などを通して働きかけたいと考えています。そのためには、人材育成や勤続の促進などの制度を充実していく必要があります。
次にジェンダーダイバーシティ(性の多様性)です。男女の雇用機会の均等化やワーキングマザーへの支援を強化します。
そして、サステナビリティ。持続可能な社会への取り組みとして、ホテルで消費されるエネルギー量や廃棄物の削減などを実施しています。
――従業員にはどのようにCRを浸透させていますか。
ソーパー:毎年10月に世界中のヒルトン系列ホテルで取り組んでいる「ヒルトン・グローバルサービス月間」を通して行っています。2016年は93カ国で4166の取り組みを実施しました。海の清掃やフードバンク活動などさまざまな取り組みがあります。日本国内だけでも約40のボランティア・プロジェクトを期間中に行います。
こちらのコーポレート・オフィスの取り組みでは、千葉県館山市の児童養護施設に遊具を提供しました。約70人が暮らしていますが、遊具はアメリカから取り寄せ、このオフィスにいる約100人の従業員が一日がかりで設置をしました。設置した後は、子どもたちとパーティをしました。
児童養護施設に遊具を設置するボランティアは、NPO法人プレイグラウンド・オブ・ホープ(東京・港)と協働し、毎年さまざまな場所で行っています。
地域貢献とミレニアル世代の雇用
――グローバル企業として、ローカル(地域)への社会貢献に重点を置いているのですね。
ソーパー:ホテルは地域に密着したビジネスです。グローバル企業でもホテルが拠点を置く地域コミュニティへの貢献は重要です。地域に貢献することは、その地域からも何らかの形で恩恵があるということです。
その良い例が、若者の雇用です。いま新規で採用する世代は世界中で「ミレニアル世代」と呼ばれていますが、これまでの世代とは別の価値観を持っています。
彼らに「人生で大事なものは何か」と聞くとします。25年前なら、面接に来る人の多くはお金や給料、良い暮らしと答えました。今の世代にもそういう考えはあるでしょうが、「社会的責任を果たしている企業で働きたい」と話すのです。
ヒルトンでは年間で数百人を採用しています。CRを果たすことは、ミレニアル世代の採用を行っていく上で当然のことです。新しい世代は、お金に還元できない価値観で動いているのです。
![]() 全国6カ所のホテルで開催されるチャリティープロジェクト「クリスマス・トレイン」
|
――他に国内で取り組まれていることはありますか。
ソーパー:「クリスマス・トレイン」の展示です。毎年、お客様から好評をいただいています。ヨーロッパの冬の風景を再現したジオラマと鉄道を全国6カ所のホテルのロビーに展示しています。
車両や看板などの模型それぞれに企業のロゴが入っています。広告としてさまざまな企業に協賛していただいており、この広告費の一部を国内外の子どもを支援するNPO法人などに寄付しています。
時代の要求に応えることが生き残る策
|
――ヒルトンの株主の間で、CRへの関心は高まっていますか。
大企業の株主であれば、どこであれCRに一定の注目をしていると思います。社会や宿泊客が関心を持つことは、株主も関心を持っています。
ヒルトンは1919年に創業してもうすぐ100年目を迎えます。次の100年を生き残るためには、今の世の中が求めるCRやその哲学を無視することはできません。でないと、ミレニアル世代はヒルトンで働いてくれないでしょう。
――CSRまたはCRの株価への影響はどう思われますか。取り組まなければ株価が下がると思いますか。
明言はできませんが、そういう見方もあるでしょう。10年前にCRについて話していた人などほとんどいませんでした。それなのに今では、多くの人が企業の社会的責任について話しています。次の10年がどんな10年になるかでしょうね。
――ジェンダーダイバーシティにも力を入れているようですね。
今年から日本・韓国・ミクロネシア地区の女性スタッフを招き、ウーマン・リーダーシップ・カンファレンス(女性リーダー活躍推進会議)の開催を始めました。
第1回目は、女性の活躍推進を阻むものはなにか、推進するためには何ができるのかについて意見を交わしました。
今後の目標は、2017年までに総支配人の2割を女性に引き上げ、2019年までに3割にすることです。ヒルトンは総支配人になる女性人材の育成に力をいれています。

英国出身。カークリーズ大学卒業。数社のホテルで働き、1988年にヒルトン・ワールドワイド入社。ヒルトン・ロンドン・オリンピアで料理飲料部担当ディレクターを務めた後、アジアを拠点に韓国、東京、名古屋で総支配人を務めた。2007年から中国・モンゴル地区の運営最高責任者となり、2012年10月から現職。

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。