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川村 雅彦

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第8回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1196697_2675.html">前回</a>は、EUタクソノミーのテクニカルな側面の重要課題である「閾値」の考え方と具体事例を取り上げました。今回は、EUタクソノミー成立に至る経緯と関連付けて、EUのサステナブル金融戦略の全体像について解説いたします。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>EUタクソノミー成立に至る経緯</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■パリ協定とSDGsから始まったタクソノミー</strong></p>
<p>これまで2回にわたり、EUタクソノミーの論点として、その狙いや分類基準である「閾値」について解説しましたが、TEG最終報告書はタクソノミーのことを自ら「ツール」と明言しています※1。それでは、一体、何のためのツールでしょうか。それは、すでに述べましたように、<strong>EUにおけるサステナブル金融(ESG金融)を押し進めるため</strong>です。しかし、実はそこに留まらず、その背後には「パリ協定」と「SDGs」という、もっと大きな目標が存在します。</p>
<p>(※1) 欧州委員会「TEG最終報告書(タクソノミー技術報告書 本編)」2頁<br />「What is the EU Taxonomy? AT A GLANCE」 より、以下引用。<br />“The EU Taxonomy is <strong>a tool</strong> to help investors, companies, issuers and project promoters navigate the transition to a low-carbon, resilient and resource-efficient economy.”</p>
<p>言うまでもありませんが、2015年12月に合意したパリ協定は、世界共通の目標として、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2.0℃未満に抑えるとともに、さらに1.5℃未満をめざすことを求めています。同年9月には、気候変動防止を含むサステナブルな地球社会の構築をめざすSDGsが採択されました。両者はともに国連の決議事項であり、戦略的にも表裏一体のもので、文明史的な転換点を意味します。そして、これらを受けてEUタクソノミーは動き始めたのです。</p>
<p><strong>■欧州委員会が主導するEUタクソノミー</strong></p>
<p>EUタクソノミーは欧州委員会が主導する形で形成されていくのですが、いきなり「ツール」であるタクソノミーを策定した訳ではありません。戦略的というのか用意周到というのか、まず、<strong>中長期的にサステナブルなEU経済に移行するには何が必要か、</strong>を考えようとしたのです。そこで、2016年12月に金融制度改革に焦点を当てた諮問委員会「<strong>HLEG</strong>」(High-Level Expert Group on Sustainable Finance：サステナブル金融に関するハイレベル専門家グループ)を設置しました。</p>
<p>このHLEGが2018年1月に「<strong>最終報告書2018</strong>」を提出し、EUのサステナブル金融のあるべき姿(新戦略の青写真)を示したのです。これを踏まえて、欧州委員会は同年3月に「<strong>アクション・プラン</strong>」を策定し、その実施に向けて同年5月には、タクソノミーを含む<strong>EU規則の3法案</strong>を欧州議会と閣僚理事会に提案しました。そのうえで、同年7月に同委員会はタクソノミー開発のための<strong>TEG</strong>を設置し、前回解説したようにTEGは2019年6月の中間報告書を経て、2020年3月に最終報告書を公表しました。これで事実上、EUタクソノミー本体が確定したのです。</p>
<p>上述の3法案の一つである「<strong>EUタクソノミー規則</strong>」については、すでに2019年12月の欧州議会と閣僚理事会の政治的合意により成立しています。ただ、その内容はEUタクソノミーの考え方や用法が条文として整理されているだけなので、実務的な解説を含むTEG最終報告書にはガイダンスとしての役割もあるようです(詳細は後述)。それから、タクソノミー本体はEU規則には含まれていませんので、別途、欧州委員会による「<strong>委託法</strong>」(政令的な位置づけ)で本年内に確定される予定です。これまでの全体の流れを一覧表にしたものが図表16です。</p>
<p><strong>図表16：EUサステナビリティ・タクソノミー成立に至る経緯(欧州委員会)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">（資料）欧州委員会の公表資料より筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナブル金融の新戦略を提言したHLEG</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■HLEGの設置が出発点</strong></p>
<p>さて、話を出発点であるHLEGに戻しましょう。EUはパリ協定に対応するべく、2030年目標として1990年比40％削減(現在、さらに50～55％削減へと法改正の準備中)、また2050年目標として「正味CO2ゼロ排出」を公約しました。<strong>このアンビシャスなサステナビリティ目標を確実に達成するためには、金融システムを広範な視点から再構築することが不可欠</strong>と判断した欧州委員会は、2016年12月にHLEGを設置したのです。</p>
<p>このHLEGの任務は、EUのもう一段上のサステナブル金融に向けた包括的な枠組とロードマップ(新戦略の青写真)の提言です。その背景には、ありていに言えば、パリ協定の目標を実現するためには莫大な資金が必要だが、<strong>公的資金だけではとても賄えず、広く民間資金を誘導・動員する必要がある、</strong>という認識があります。また、イノベーティブな技術開発を促進するためにも、その民間資金が向かうべきサステナビリティを明確にしようとしたのです。</p>
<p><strong>■画期的なHLEG提言</strong></p>
<p>HLEGが2018年1月に公表した最終報告書<a href="https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/180131-sustainable-finance-final-report_en.pdf"><strong>「Financing a SUSTANABLE European Economy：サステナブルな欧州経済に向けた金融」</strong>(PDF)</a>は画期的なもので、世界的にも大きな反響を呼びました。ESG投資の現状や課題を踏まえて、資本市場の制度改革に向けた多方面にわたる意欲的な提言を行ったからです。その中から、タクソノミーに焦点を絞れば、以下の通りです。</p>
<p>●「サステナブルとは何か」を明確にする<strong>「サステナビリティ・タクソノミー」</strong>の策定<br />⇒⇒そのためのテクニカル・ワーキング・グループ(後のTEGに相当)の立ち上げ</p>
<p>●長期的な視野と受益者のサステナビリティ選好を考慮する<strong>「機関投資家の義務」</strong>の明確化<br />⇒⇒アセットオーナーと運用機関は、重要なESGリスク・機会の検討(受託者責任)</p>
<p>●資本市場参加者と企業の<strong>「サステナビリティ情報開示ルール」</strong>の強化</p>
<p>●<strong>「EUグリーンボンド基準」</strong>の策定、そのための<strong>「EUサステナビリティ基準」</strong>の開発</p>
<p><strong>■HLEG委員構成から見える欧州委員会の意思</strong></p>
<p>最後に、このような提言をまとめたHLEGの委員構成に触れておきます。委員は公募により金融機関、運用機関、証券取引所、市民社会組織、学術機関から20名が選ばれましたが、サステナビリティの観点から見れば、「さもありなん」という印象とともに、欧州委員会の意思を感じます。特に議長を見れば明らかで、フランスの保険会社AXAの所属であり、EIB(欧州投資銀行)、UNEP FI(国連環境計画 金融イニシアチブ)、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)の重職を歴任された方が選任されたのです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>HLEG提言を実現するための「アクション・プラン」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■サステナブル金融をめざす3の目的と10の行動計画</strong></p>
<p>このHLEG提言から1カ月余りという早さで、欧州委員会は2018年3月に、その実現に向けて<strong>「アクション・プラン：サステナブルな成長のための金融」※2</strong>を公表しました。これは言わば、<strong>サステナビリティ課題(ESG要因)をEU金融規制に統合するための包括的な政策方針書</strong>です。</p>
<p>(※2)<br /><a href="https://ec.europa.eu/info/publications/180308-action-plan-sustainable-growth_en">https://ec.europa.eu/info/publications/180308-action-plan-sustainable-growth_en</a><br /><a href="https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52018DC0097&amp;from=E">https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52018DC0097&amp;from=E</a></p>
<p>そもそも、「サステナブル金融」とは何か、再度確認しておきましょう。ごく簡単にいえば、よりサステナブルな世界を構築するための金融となります。もう少し具体的に言えば、<strong>サステナビリティにかかわるリスク・機会を認識し、投融資の意思決定において環境的課題と社会的課題に配慮する金融プロセス</strong>と表現できます。このことが結局は、<strong>長期にわたるサステナブルな経済活動への資金供給の増加</strong>につながります。</p>
<p>ここで環境的配慮とは、気候変動の緩和と適応は元より、サーキュラー・エコノミーへの転換、生態系の保全・回復、さらにより広範な環境関連リスク(異常気象による自然災害、水資源の劣化、汚染の拡大など)への対応を指します。また社会的配慮には、貧困の撲滅、格差の縮小、雇用・労働における多様性・包摂性への対応、あるいは人的資本や地域社会への適切な投資などを含みます。これらはまさにSDGsの17目標そのものです。</p>
<p>このことから、アクション・プランは欧州経済ひいては世界経済のサステナビリティと金融を結びつける包括的な決意表明であることがわかります。そこには3つの大きな「目的」があり、それぞれにアクション(合計10)が明記されています(図表17)。その中でタクソノミーは〔目的1〕の「アクション1」という要に位置付けられていて、金融商品の標準仕様やラべリング、思慮深い運用義務、情報開示など他のアクションの基盤となっています(図表18)。</p>
<p>アクション・プランのもう一つの特徴は、すべての資本市場参加者を視野に入れたことです。タクソノミーを核として、機関投資家、アセットマネージャー、格付機関とデータプロバイダー、投資アドバイザー、銀行と保険会社、個人投資家、そして企業から成る資本市場全体(いわゆるエコシステム)の価値観と行動の変革を意図していることは明らかです(図表19)。</p>
<p><strong>図表17：欧州委員会によるESG金融に向けた「アクション・プラン」の全体像</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan2.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料) 欧州委員会『The Action Plan: Financing Sustainable Growth』(2018年3月)を基に筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>図表18：「アクション・プラン」におけるタクソノミーの役割</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan3.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料)欧州委員会「アクション・ブラン」14頁「Annex I – Role of the EU taxonomy in the Action Plan」を筆者仮訳</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>図表19：すべての資本市場参加者を視野に入れた「アクション・プラン」</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan4.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料) 欧州委員会「アクション・ブラン」19頁「Annex IV &#8211; Visualisation of the actions」<br />(日本語訳) 水口剛氏環境監査研究会講演資料「EUタクソノミーの動向」2020年3月15日</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次回(9)は、「EUタクソノミー規則」とTEG最終報告書の関係について、用法面からやや実務的に解説します。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

コラム

【統合思考経営8】EUタクソノミーの『激震』(3)

沖本啓一HK

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph">
<p>サステナブル・ブランド ジャパン(SB-J)が実施した「新型コロナウイルス対策に関する緊急アンケート」には、企業を中心に自治体、NPO/NGO関係者、学生など580人が回答した。コロナ禍における企業などの対応や生活の問題点、そして各々がアフターコロナ/ウィズコロナの社会のサステナビリティをどのように予測しているのか。多くの人が「社会が変化する」と回答する一方、「都市部から地方への人口分散が起こると思わない」という回答が約半数に上るなど、今後のビジネスや社会の動向を見据える上で貴重な結果が見られた。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「新型コロナウイス対策に関する緊急アンケート」概要</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>実施期間：</strong>4月28日(火) – 5月12日(火)<br /><strong>設問数：</strong>全44問<br /><strong>回答数：</strong>580件（n=580）</p>
</div>
<div class="elem_pik_box col2">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/21/anke1_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">回答者所属(SB-J作成資料)</div>
</td>
<td class="separator"></td>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/21/anke2_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">回答者年代(SB-J作成資料)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>回答者の内訳は約70％が企業に所属。そのうち20％がCSR/サステナビリティ担当者。あくまで個人としての回答が前提。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/21/anke3.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">回答者の職種(n=519/SB-J作成資料)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>コロナ後の生活や社会の変化、どう予想するか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>アフターコロナにおける、問題発生前と比較した社会の変化について予想を聞いた設問では8割超の回答者が「以前と同じ生活、社会に戻るとは思わない」と答えた。個人の生き方の優先順位や働き方の変化を予測する回答が多い一方で、「会社の事業内容が変化する」と「都市部への人口集中から地方分散する」といった社会の構造に関する変化への予測は「そう思わない」「全くそう思わない」という回答者が過半数となった。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/21/anke4.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">設問「アフターコロナにおける、問題発生前と比較した社会の変化についてあなたの予想をお答えください」(n=580/SB-J作成資料)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業のサステナビリティは変わるのか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>アフターコロナにおける企業のサステナビリティの重視度の変化の予測では「重視度が上がる」という回答が約65％、「変わらない」「重視度が下がる」という回答が約24％となった。自由記述では「人々の健康と経済性という意味においてのサステナビリティが重視される」「雇用基準であれば上がる。経営基準では下がる」「新型コロナへの対応が優先され、優先度が若干下がることを懸念している」などの意見が寄せられた。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/21/anke7_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">設問「アフターコロナにおける、企業の経済性や収益性の重視度の変化についてお答えください」(n=580/SB-J作成資料)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/21/anke8.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">設問「アフターコロナにおける、企業のサステナビリティの重視度の変化についてお答えください」(n=580/SB-J作成資料)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業のサステナビリティのあり方の変化を聞いた設問(自由記入)では「企業が取引先の状況を入念にチェックするようになると思う」「ステークホルダー含めたサステナビリティがより重視され、リスク対応度合いが評価に加わる」といったサプライチェーン全体への影響への言及など、271件の回答が得られた。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>社会のあり方と企業の役割を考える</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>このほか、アンケートでは働き方の現状の問題点やSDGsとの関わり、ニューノーマルをどのように考えるかなど全44問に及び、自由記述による率直な回答も豊富に寄せられた。140ページに及ぶ全ての内容は今後、SB-Japanフォーラムや当サイトを通じて公開する。6月16日にはSB企業会員に限定せずに参加いただける「SB-Japanオープンフォーラム」をオンラインで開催する予定だ(詳細は後日発表)。</p>
<p>社会がこれからどうあるべきなのか、企業がどのような役割を持ち、何をするべきか。そして個人がどのように振る舞うのか。貴重なアンケートの集計レポートは、その議論と判断の材料となることだろう。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

ニュース

話題のキーワード

「コロナ後に生活や仕事が変わると思う」8割超：SB独自調査

【統合思考経営7】EUタクソノミーの『激震』(2)

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><div><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？</strong></div>
<div><strong>～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～</strong></div>
<div><strong>第6回</strong></div>
</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/19/kawamura.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回のコラムでは、ESG金融に関する直近の『事件』の一つとして、ブラックロックの「サステナビリティ宣言」を解説しました。今回は、法的拘束力をもつ「EU規則」として、ESG金融の普及・拡大をめざす「EUタクソノミー」を取り上げます。</p>
<p>本稿では、EUタクソノミーの狙いと全貌、あるいは影響や効果などをお伝えしようと思うのですが、実はとても幅が広く奥が深いので、4回に分けてお届けいたします。今回は、その第1回です。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>EUタクソノミーの「つかみ」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>EUタクソノミーの全体像を一言で説明することは難しいですが、本論に入る前に、読者の理解の一助となればと思い、その狙いを簡単にまとめると次のようになります。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>なぜタクソノミーか？</p>
<p><strong>●　EU</strong><strong>タクソノミーとは、気候変動を抑制するパリ協定を達成するために、欧州委員会がEUの公式目標である2050年までに「正味CO<sub>2</sub>ゼロ排出(カーボン・ニュートラル)」を実現することをめざして、適格(結果として、不適格)な投資分野を特定(分類)する仕組みである。</strong></p>
<p><strong>●　つまり、タクソノミー基準に適合した(真に環境貢献度の高い)投資分野に、長期的視点から投資家の資産運用や企業の設備投資を集中させる戦略である。これにより、持続可能な経済・社会を構築しつつ、EUの産業競争力を高め、経済発展と雇用創出を狙う。</strong></p>
<p><strong>●　他方、表面的・短期的には気候変動の解決に役に立ちそうに見えるが、長期的には実質的に2050年のカーボン・ニュートラルに貢献しない「グリーン・ウォッシュ」を防ぐ狙いもある。本当に必要な投資分野だけを選抜して、フラグを立てる仕分けの仕組みである。</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「EUタクソノミー」の登場と狙い</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■タクソノミーとは</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>最近、日本でもタクソノミーという言葉を聞くようになりました。またカタカナですが、これはEUの行政執行機関である欧州委員会の「<strong>サステナブルな金融に関する技術専門グループ</strong>(the Technical Expert Group on Sustainable Finance：略称TEG)」が、『<strong>タクソノミー技術報告書</strong>』の中間報告書を昨年6月に、今年3月には最終報告書(本編とANNEX)を公表<a href="https://ec.EUropa.EU/info/files/200309-sustainable-finance-teg-final-report-taxonomy_en"><strong><sup>※1</sup></strong></a>したからだと思います(図表9)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>図表9：欧州委員会のTEG最終報告書『タクソノミー技術報告書』(表紙)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/19/ta.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>(資料)欧州委員会ホームページ(2020年3月公表)<br />タクソノミー技術報告書 本編 (<a href="https://ec.EUropa.EU/info/sites/info/files/business_economy_EUro/banking_and_finance/documents/200309-sustainable-finance-teg-final-report-taxonomy_en.pdf">PDF</a>)<br />タクソノミー技術報告書 ANNEX (<a href="https://ec.EUropa.EU/info/sites/info/files/business_economy_EUro/banking_and_finance/documents/200309-sustainable-finance-teg-final-report-taxonomy-annexes_en.pdf">PDF</a>)</p>
<p>とは言え、馴染みのない言葉です。そもそも、タクソノミー(taxonomy)とは何を意味するのでしょうか？　</p>
<p>一般語としては単に「分類法」です。ただ、欧州委員会が「<strong>サステナビリティに貢献すると考えられる経済活動に関するEU統一の分類体系</strong>」を「EUサステナビリティ・タクソノミー(以下、EUタクソノミーもしくはタクソノミー)」と称したことから、その賛否を含めて、世界的に注目を集めるようになりました。いずれにせよ、これがEUタクソノミーの基本的な定義と言うことができます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ESG金融の「適格基準」を明示したTEG報告書</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ここで、EUタクソノミーの具体的な内容を説明する前に、その狙いや意義について確認しておきたいと思います。その方が、EUタクソノミーの本質や内容を理解するには効果的だからです。さて、上記の定義をもう少し具体的に表現すれば、以下のようになります。</p>
<p>EUタクソノミーとは、<strong>すべての経済活動を「サステナビリティ(特に気候変動の解決)に対する貢献度」で分類するための体系</strong>です。視点を変えると、<strong>サステナブル・ファイナンス(ESG金融)に「適格」かどうかを判別するための分類(仕分け)システム</strong>です。その分類(仕分け)を業種別に具体的に規定したのが、冒頭で紹介したTEG最終報告書(タクソノミー技術報告書)です。その内容は事実上確定しており、法的拘束力をもちます。その詳細については後述します。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■このままではカーボン・ニュートラルは実現しない!？</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>なぜ、EUはこのようなタクソノミーを制定したのでしょうか。その背景にはEUの気候変動に対する強い危機感があり、何としても「パリ協定」を成功させるという強い意思があります。つまり、<strong>EUの公式見解である「1.5℃目標」を達成するために、</strong><strong>2050</strong><strong>年までに「正味CO<sub>2</sub>ゼロ排出(カーボン・ニュートラル)」への移行が不可欠である</strong>、という確固たる信念です。</p>
<p>そして、そこに企業を効果的に誘導するには、<strong>『金融・投資の力』を活用して、「資本の流れ」を方向転換させる必要がある</strong>との認識です。すなわち、サステナブル・ファイナンスです。しかし、現状のままでは、カーボン・ニュートラルの実現は楽観できません。そこで、現状を打破し、方向転換を確実にするための方策ないし手段が必要となったのです。</p>
<p>このように見てくると、EUタクソノミーの制定は、<strong>明確な目的をもったESG金融(投資・融資)への転換を意図したもの</strong>であり、そのための資本市場のソフト・インフラ整備(資本市場関係者の意識変換を含む)と位置付けることができます。実際、TEG最終報告書ではEUタクソノミーの意義について、<strong>機関投資家、資産運用者、金融機関、企業あるいは証券発行体などの資本市場参加者が、「サステナビリティの意味」を実践的に共有するための統一された分類体系</strong>である、と説明しています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>アンビシャスなEUタクソノミー</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■仕分けのための判定基準：閾値</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>さて、ここまではEUタクソノミーの狙いや意義を述べてきましたが、ここからはその内容に触れつつ、もう少し実際的な説明をしてみましょう。EUタクソノミーとは、すなわち、<strong>業種別に個々の経済活動について、長期的視点から判断して、環境問題(特に気候変動)<sup>※2</sup>の解決に本当に貢献するのかどうかを仕分けするシステム</strong>です。</p>
<p>(※2)当面の重点課題は気候変動の緩和と適応ですが、これ以外にも、水と海洋資源、サーキュラー・エコノミー、汚染防止、生物多様性と生態系が含まれます。詳細は後述します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ここで注目すべきは、<strong>その仕分けのための適否判定の基準値や目標値となる「閾値(しきいち：threshold)」</strong>を明示したことです。EUタクソノミーでは「<strong>技術的スクリーニング基準</strong>」とも呼ばれますが、併せて閾値の計測単位である「指標」も明記されています。</p>
<p>TEG最終報告書(ANNEX)では、気候変動の解決(緩和と適応)に向けて、2050年のカーボン・ニュートラルを視野に入れた長期的なライフサイクルの視点から、業種別に個々の経済活動の閾値(つまり適合基準)を明確に示したうえで、実質的に貢献できると判定された経済活動だけが「<strong>タクソノミー適合(taxonomy-aligned)</strong>」として公表されています。</p>
<p>逆に言えば、このタクソノミー分類表に記載のない経済活動は「タクソノミー不適合」、つまり「正味CO<sub>2</sub>ゼロ排出への移行に対して実質的に貢献するものではなく、ESG金融には不適格である」と判定されたことになります。因みに、<strong>石炭や石油による火力発電は記載されていません</strong>。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■タクソノミー適合の経済活動を特定</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>TEG中間報告書でタクソノミー案がパブリック・コメントのために公表された時は、EUだけでなく世界的にも反響を呼びました。TEG最終報告書(本編10頁)に記載された結果によれば、全体でコメント者は830主体、コメント数は3920件でした。その大半は気候変動緩和(CO<sub>2</sub>排出量削減)に関するもので、特にエネルギー関連事項が多かったとのことです。なお、日本からは経団連や全国銀行協会などの団体もコメントしたと言われています。</p>
<p>結局、TEG最終報告書(ANNEX)には、気候変動の「緩和」と「適応」に対して実質的に貢献すると考えられるタクソノミー案として、それぞれ8業種・70経済活動、9業種・68経済活動が詳細に記載されました(図表10)。ただし、TEGも述べているように一部の解釈はオープンであり、タクソノミー本体はこれで確定ではありません。法的に最終化するのは、2020年末までに欧州委員会にて採択される予定の「委託法(delegated act)」です(詳細は後述)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>図表10：EUタクソノミーに記載された業種と経済活動(気候変動の場合)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/05/19/kwamura2.png"/></div>
<div class="m_paragraph">(注1)EUタクソノミーで採用されている業種(Sector)は、欧州標準産業分類(NACE)に基づく。<br />(注2)TEG最終報告書(本編56～63頁)には「タクソノミー要約表」がある。<br />(資料)欧州委員会「TEG最終報告書(タクソノミー技術報告書ANNEX)」の目次より筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>それでは実際問題として、具体的にどのような経済活動が「タクソノミー適合」と認定され、どのような判断基準(閾値)が採用されたのでしょうか？　</p>
<p>ここが最も関心の高いところだと思いますが、本稿では代表事例として、EUタクソノミーの主要課題の一つである「気候変動緩和(CO<sub>2</sub>排出量削減)」について、<strong>特にアンビシャスな閾値として議論の多かった自動車製造と発電事業</strong>を取り上げます。</p>
<p>ところで、冒頭でEUタクソノミーを一言で説明するのは難しいと申し上げましたが、ここであえてざっくりと一つの言い方をすれば、「<strong>欧州連合の基本戦略の一環として、真のESG金融を押し進めるための大いなるインフラ整備</strong>」となります。いかがでしょうか。今後は、この点も視野に入れながらお読みください。</p>
<p>次回(7)は、「EUタクソノミー」のテクニカルな議論の中心となった、自動車と火力発電の「閾値」について具体的に解説いたします。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営6】EUタクソノミーの『激震』(1)

【統合思考経営5】ブラックロック『変心』の衝撃

箕輪弥生

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/04/02/4_600400.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>多くの企業がSDGsで設定されている17のゴールを目指しているが、ゴールを見ているだけではSDGsの本質は見えず、また本来の企業戦略を見失ってしまう恐れがある。SDGsを超えて本質的な企業の存在価値を見つけるにはどうすればいいのか。第4回サステナブル・ブランド国際会議2020横浜の2日目にこの難問に挑戦するセッションが開かれた。SDGsに明確な目標が定められていない介護や人事に取り組むベネッセスタイルケアやOne HR(東京・江東)も参加し、活発な論議を行った。(環境ライター 箕輪弥生)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>17のゴールだけを見ていてもSDGsの本質は見えてこない</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2030年までに全世界で解決するべき問題を、 17の目標と169のターゲットに落とし込んだSDGsは多くの企業で意識されているが、実はSDGsの最も重要な哲学が表現されているのはその前文と宣言にある。</p>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/04/01/1_600400.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>セッションの進行役を務めたSDGパートナーズの田瀬和夫CEOはこう冒頭で話した。前文にある有名な言葉「誰一人取り残さない」は、2000年代を通じて広がってしまった格差を解消し、社会的弱者が排除されない「すべての人が参画できる社会」への決意を示している。</p>
<p>そして、最も重要なキーワードは同じく前文に出てくる「in larger freedom(一層大きな自由)」だと田瀬CEOは言う。つまりこれは、多様な選択肢から生き方を「選ぶ」ことのできる社会、すべての人が自分らしく生きられることを意味しており、この考え方はルーズベルト大統領のニューデール政策から綿々と続いてきた国連システムを根底から支えてきた概念だという。</p>
<p>このほかに、「well-being(よく生きる)」や「将来の世代のニーズに応える」も前文と宣言にある重要なキーワードとしてあげた。“世代を超えて、すべての人が、自分らしく、良く生きられる”というSDGsのビジョンを理解することが何よりも重要であり、それは17のゴールだけを見ていてもわからないと説明する。</p>
<p>つまり、企業はSDGsの概念を理解した上で、それを超えたところにあるものを目指すべきであり、そこに本当の企業の存在意義(パーパス)があると田瀬CEOは説く。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「超高齢社会への対応」を18番目のゴールに設定―ベネッセスタイルケア</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/04/01/2_600400.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>田瀬CEOによるSDGsの解説に続いて、実際にSDGsを超えたゴールを設定した企業や組織が実例を紹介した。</p>
<p>日本が直面する大きな課題である「少子高齢化」は実は17のゴールには含まれていない。介護事業をスタートして25年、運営する老人ホーム数は約330拠点という日本でも最大の介護ビジネスを行うベネッセスタイルケアは、18番目のゴールとして「超高齢社会への対応」を独自に設定する。</p>
<p>介護は専門性の高い職種でありながら、一般の人にその認識が低い。各種のマスコミ等でも「外国人労働者に単純労働である介護への門戸を国が開いた」などと表現する場合がある。</p>
<p>ベネッセスタイルケアの滝山真也社長は「介護は単純労働ではなく、専門性が必要とされる難しい仕事だ」と語気を強める。そのため、同社は介護の仕事の専門性を言語化し、人材育成を体制化することに力を注いだ。</p>
<p>たとえばある老人ホームである人の認知症ケアで困っていたとする。それを3時間話しただけで今まで見たことのない笑顔を引き出したスタッフの介護技術を言語化し、その人のノウハウを社内に広げて人材育成に生かしていく。またこういった「神業ともいえる専門性」を専門資格制度で認定し、報酬にも反映していく。</p>
<p>またこれまで25年の事業で蓄積してきた介護技術や知見を「介護アンテナ」というサイトでまとめて、外部に無償で提供する仕組みをスタートした。今後はサイトに介護技術を紹介する動画や災害時の対応情報なども追加していく意向だ。滝山社長は「介護の仕事の価値を高め、社会に還元することが売り上げにもつながっていく」と説明する。</p>
<p>ベネッセとはラテン語で「well-being」の意味を持つ造語であり、「よく生きる」ことがグループ全体の存在意義となっている。その中で、ベネッセスタイルケアが目標とする「その方らしさに、深く寄りそう」ことはSDGsを超えた意味を持つゴールなのではと考えさせられた。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナブルな令和型人事を提案―One HR</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/04/01/3_600400.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>続いて登壇したのは、企業の人事や人事事業者を中心に約1000名が活動する若手の有志団体「One HR」の西村英丈共同代表だ。</p>
<p>One HRは、持続可能な個人や組織をつくるために、これからの時代の人事機能(Human Resources)に必要な「HR’s SDGs」を昨年発表した。HR’s SDGsで掲げる6つのゴールは以下だ。</p>
<p><strong>1．</strong>働く責任 働く自由　<strong>2．</strong>違いを力に　<strong>3．</strong>本音で語れる場づくり　<strong>4．</strong>志と志を重ねて　<strong>5．</strong>育つために育てる　<strong>6</strong>．はたらくを楽しく</p>
<p>(詳しくは<a href="https://onehr.amebaownd.com/posts/6159774">One HRのホームページ</a>を参照)</p>
<p>働く個人の目標と、企業の存在意義や社会的課題への取り組みが一致してこそゴールが達成できると西村共同代表は話す。それには、組織視点であるアプローチ(人材発掘、評価報酬、人材配置)と、働き手の個人視点であるアプローチ(安心安全、つながり、承認欲求、自己実現、自己超越)がリンクすることが重要だと説明する。</p>
<p>つまり「企業のビジネスプランを達成する上で本人へ与えられた役割」と「個人の承認欲求や評価」をいかにリンクさせるかが、令和型人事部モデルの核となるというわけだ。そして、そのどちらにも「well-being(よく生きる)」が共通の概念として根底に流れている。</p>
<p>最後に田瀬CEOは、「一人ひとりが自分らしく生きるためにはどうしていけばいいか、企業も従業員も考えること。その上で、どういう社会を引き継いでいくか、その企業がどんな役割を果たしていくかを考えていくことでSDGsを超えたゴールが見えてくるのでは」と締めくくった。</p>
<p>SDGsを考える上で、まずは前文や宣言を改めて読み解いてみることから始めるのがいいのかもしれない。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_link emphasis">
<p><a href="https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf">我々の世界を変革する：持続可能な開発のための 2030 アジェンダ (SDGs)　全文(仮訳)</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

SB国際会議

サステナブル・ブランド国際会議2017～2020

SDGsのゴールを超えて、企業の本質的な存在価値を見つけるには？

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第4回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所（Sinc） 所長/首席研究員</a></p>
<div><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">川村 雅彦</a></div>
</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/03/16/thumb_knowledge01_200117.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(3)は、日本における「統合思考」を含むサステナビリティにかかわる諸概念の混乱を背景に、日本企業の統合報告書の発行状況を解説しました。今回は、「統合思考」の概念を理解するために、統合思考に至る諸概念の位置関係の全体像とともに、各概念の本質を再確認します。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「統合思考」に至るCSR/CSV/SDGs/ESG</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「統合思考経営」の基盤となる「統合思考」が、CSR/CSV/SDGs/ESGとどのように関係しているのか、これまであまり議論されていませんでした。そこで、これら諸概念の相互関係ないし位置関係について全体像を示します(図表6)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表6：「統合思考」に至るサステナビリティ諸概念の位置関係</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/03/30/4_1_900.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料)筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>〔根本思想はサステナビリティ〕</strong><br />この図でまず注目いただきたいのは、究極の到達目標である<strong>サステナビリティをすべての根底にある「根本思想」</strong>と位置づけていることです。サステナビリティを阻害する要因である<strong>社会的課題を解決</strong>するには、企業の立場から見れば、CSR(経営リスク的側面)とCSV(ビジネスチャンス的側面)の両面があります。</p>
<p><strong>〔CSRとCSVの共通点と相違点〕</strong><br />ISO26000によるCSRの定義は、「企業の意思決定と事業活動が、環境と社会に及ぼすインパクトに対する責任」です。コンプライアンスや単なる社会貢献活動とは異なります。そこで、自社の事業や製品が社会的課題の原因となっていないかを自問する必要があります(<strong>CSR</strong><strong>デューデリジェンス</strong>)。</p>
<p>これに対し、競争戦略論のポーター教授が提唱したCSVの狙いは、本業で経済価値と社会価値を同時に実現し、価値を共有することです。すなわち、フィランソロピーを超えて、<strong>社会全体の課題をビジネスチャンスと捉え</strong>、それを解決する製品・サービスを開発・販売することです。</p>
<p>CSRとCSVに共通することは、社会的課題に焦点を当てて自社事業を見直すことです。逆に本質的な違いは、前者は自社事業にかかわるステークホルダーの価値向上をめざすこと、後者は自社の強みを活かして社会的課題を解決するビジネスを起こすことです。</p>
<p>筆者は、これらを合わせて「<strong>CSR</strong><strong>の実践とCSVの実現</strong>」と呼びますが、実は、このことがSDGsの理解と取組に大きく関係します。</p>
<p><strong>〔SDGsはCSRとCSVの集大成〕</strong><br />企業は「CSRの実践」と「CSVの実現」によって、社会的課題の解決をめざす<strong>「SDGsの達成」</strong>に貢献することができます。前者は企業活動や製品に伴うマイナス・インパクトの抑制、後者は社会的課題解決型のビジネスによるプラス・インパクトの強化を意味するからです。</p>
<p>SDGsは自社のバリューチェーン全体で考える必要がありますが、CSRとCSVはそれぞれバリューチェーン上のマイナスとプラスのインパクトに相当します。それゆえ、CSRとCSVをSDGsのターゲットレベルのKPIで管理すれば、<strong>SDGs</strong><strong>は目標年のあるCSRとCSVの集大成</strong><strong>、</strong>と言うことができます。</p>
<p><strong>〔ESG金融の加速化〕</strong><br />他方、金融サイドから企業のESG(環境・社会・ガバナンス)を評価する動きが活発になっています。当初は石炭火力発電へのダイベストメント(投資撤収)などのESG投資が主流でしたが、最近では融資や不動産でも問われるようになり、包括的に「ESG金融」と呼ばれるようになりました。つまり、<strong>ESG</strong><strong>金融の加速化</strong>です。</p>
<p>直近では、英国スチュワードシップ・コードのESG原則化(日本版も類似の視点から、この3月24日に改訂)、世界最大の資産運用機関である米国ブラックロックのESG投資への転換、あるいはBIS規制当局による「グリーンスワン報告書」の発行などがあげられます。</p>
<p><strong>〔統合思考とESG対話〕</strong><br />金融の動きに対応して、企業はSDGsの取組を踏まえつつ、<strong>長期にわたる価値創造・毀損防止を考える「統合思考」</strong>を模索し始めました。そして、金融と企業をつなぐのが、<strong>ESG</strong><strong>対話(エンゲージメント)</strong>における短・中・長期のESG情報であり、その開示に至るプロセスが「統合報告」です。</p>
<p><strong>〔SDGsとESGは統合思考を介して連携〕</strong><br />ESGの中核はガバナンスです。<strong>メガトレンド(外部環境の構造的変化の潮流)</strong>を背景に、既存のビジネスモデルはこのままで大丈夫か、社会的課題への対応は十分かなど、取締役会は中長期視点から経営の戦略・戦術を議論し決断することが任務だからです。このように考えると、<strong>SDGsは「統合思考」を介してESGと連携</strong>している、と言うことができます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナビリティの意味</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ここで改めて問います。そもそも、根本思想たるサステナビリティとは何か？　この言葉は幅の広い概念であり、最近では多様な領域で使われるようになりましたが、その意味や解釈は様々です。そこで、予め筆者の考え方を明確にしておきたいと思います。</p>
<p>図表6でサステナビリティを「世代を超えた、環境・社会・経済の持続可能性」と説明しているように、本コラムシリーズでは、サステナビリティとは「<strong>環境・社会・経済の持続可能性</strong>」の意味で使います。つまり、環境・社会・経済の３つの観点から、相互の調和を図りつつ持続可能な地球社会・地域社会を実現していくことです。</p>
<p>この考え方は、1987年に国連「環境と開発に関する世界委員会(通称ブルントラント委員会)」が発行した最終報告書『Our Common Future(邦題：地球の未来を守るために)』の基本理念である「<strong>Sustainable Development(</strong><strong>持続可能な開発)</strong>」に基づくものです。</p>
<p>その定義は「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現代のニーズを満たすような開発」です。簡単に言えば、<strong>将来世代の経済発展の基盤を危うくしない開発</strong>ですが、当時、環境と開発の調和、世代間平等を明示したことが画期的でした。</p>
<p>持続可能な開発は、既に環境保全の国際的な共通理念として広く認識されていますが、現在では人権や労働などの社会的要素も含め、より広く捉えられて、SDGsが強調するように、「社会的包摂(social inclusion：<strong>誰も置き去りにしない</strong>)」とともに環境的に持続可能な経済発展をめざす概念となっています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>健全な環境・社会あっての経済と企業</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>しかし、現代の地球社会を全体で見ると、人口が増加し経済が発展する一方で、食糧やエネルギーの消費量の増大を背景に生態系劣化や気候変動、あるいは貧困・飢餓・格差など複雑で解決が容易でない地球規模の課題を多く抱えています。もはや「<strong>地球は無限大」という思い込み</strong>は通用しません。</p>
<p>こうしたグローバルな社会的課題に対する政府の課題解決力の限界が明らかになる中で、世界経済において存在感と影響力を増した企業への期待が高まっています。つまり、グローバルな社会的課題を解決し、「持続可能な開発」を実現するには、もはや企業セクター抜きには考えられなくなっています。このことはローカルの社会的課題についても同様で、SDGsの問題意識と軌を一にするものです。</p>
<p>最近の新型コロナウィルスの世界的な蔓延を見るまでもなく、<strong>地球社会は一つにつながって</strong>います。当然ながら、将来にわたって地球環境と地球社会が健全でサステナブルでなければ、環境と社会を存立基盤とする経済、そして企業もサステナブルな発展は望むべくもありません(図表7)。</p>
<p>地球社会と地域社会のサステナビリティを実現するためには、それを阻害する社会的課題を企業が本業を通じて解決することが肝要です。別の表現をすれば、<strong>21世紀に発展する企業とは、社会的課題を解決するためのビジネスを戦略的に展開する企業である</strong>、と言うことできます。それゆえ、社会的課題に着目する必要があるのです(詳細は後日稿を改めます)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表7：サステナブルな環境・社会あっての経済と企業の発展</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/03/30/4_2_750.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料)筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次回(5)は、「ESG金融の加速化」の直近の動きであるブラックロックのESGの投資、BIS規制のグリーンスワン報告書、ならびにスチュワードシップの改訂について解説します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<div class="elem_link emphasis">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/columnist/1194904_2672.html" target="_blank">これまでの連載はこちらから</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営4】「統合思考」に至るサステナビリティ概念の位置関係

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第3回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所（Sinc） 所長/首席研究員</a></p>
<div><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">川村 雅彦</a></div>
</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/03/09/thumb_knowledge01_200117.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(2)は、「統合思考」に欠ける日本の統合報告書、その当然の結果として国際的な評価は低いことを述べました。今回は、日本における統合思考を含むサステナビリティにかかわる諸概念の混乱を背景とした、統合報告書の発行状況を解説します。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>CSR/CSV/SDGs/ESG、そして統合思考の登場</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業経営の非財務領域においては、この20年間でサステナビリティ(持続可能性)にかかわるCSR、CSV、SDGs、あるいはESGや統合報告と、新しい言葉ないし概念が矢継ぎ早に登場してきました。簡単に振り返ると、以下の通りです。</p>
<p>まずESGはUNPRI(国連責任投資原則)の公表(2006年)によります。その後、CSRはISO26000「社会的責任の手引き」の発行(2010年)、CSV(共有価値の創造)はマイケル・ポーター教授の提唱(2011年)、さらにSDGsは国連総会での採択(2015年)によるものです。統合報告(あるいは統合思考)については、IIRC(国際統合報告評議会)の提唱が2013年です。</p>
<p>これらの概念は、相互に関連しつつもそれぞれ特定の目的で登場し、その時期も異なります。いずれも欧米発のサステナビリティにかかわる概念であることから、日本企業はそれぞれの意味を理解しようと努めてきました。今後の企業経営には不可欠な概念として、次第に積み重なって現在に至っています。</p>
<p>これらの概念に対する取組はいずれも規制的・義務的なものではなく、企業が自らの判断で採用するガイダンスという共通の特徴があります(ごく一部の国を除きます)。ただし、現実には国際的なデファクト・スタンダードとなっています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナビリティにかかわる諸概念の混乱</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>しかし、筆者のこれまでの経験から判断すると、正直に申し上げて、<strong>これら諸概念の相互関係ないし位置関係について、日本企業は必ずしも整理が出来ていないのではないか</strong>、という懸念があります。</p>
<p>実際、担当部署も多くの企業ではそれぞれ分れています。例えば、CSRはCSR部、CSVは経営企画部、またSDGsはCSR部、ESGはIR部や広報部が中心となっています。統合報告書については企業により様々ですが、多くはCSR部やIR部が担当しているようです。</p>
<p>さらに、上記の諸概念のイニシアチブが細則主義から原則主義へ転換していることも注目すべきです。原則主義では、具体的に何をするべきかは、原則を理解したうえで事業特性に応じて企業独自の創意工夫が求められます。ただ現実問題として、取組事項を細かく規定する細則主義に慣れた日本企業には、原則主義にはまだ馴染めないところが多々あるようです。</p>
<p>このような事情から、これら諸概念は内容的に相互に関連するにもかかわらず、社内での統一ないし調整はあまり行われていないのが実情と考えられます。行われたとしても、それほど容易ではないことが推察されます。このことから、<strong>「組織のタコツボ化」が「情報のタコツボ化」をもたらしているのではないか</strong><strong>、</strong>と言うことができます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>概念混乱の中で増加する「自称」統合報告書</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>他方、このような概念の混乱の中で、IIRC(国際統合報告評議会)が財務要素と非財務要素を統合すべきとする「統合報告書」を提唱すると、日本でも<strong>統合報告書(のような報告書</strong>)を発行する企業が急増しました。2019年末で既に530社を超しています(図表5)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表5：日本における統合報告書の発行企業数の推</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/03/10/kawa1_800.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(注)「<strong>狭義の統合報告書</strong>」とは、統合報告書等のレポート名、IIRCフレームワークへの言及がある報告書、あるいはWEB等で統合報告書等と謳っている企業の報告書を指す。<br />(資料)㈱ディスクロージャー&amp;IR総合研究所「統合報告書発行状況調査2019(最終報告)」2020年2月</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>そこで、2019年度版の「自称」統合報告書を読んでみました(もちろん全てに目を通した訳ではありませんが)。しかし、「統合報告」の原則主義に伴う消化不良のせいか、前回「国際比較」の稿で述べましたように、<strong>日本企業の多くは統合報告の本質(指導原則や内容要素を含む統合思考)を理解していない</strong>、と言わざるを得ません。</p>
<p>図表5の(注)に「<strong>狭義の統合報告書</strong>」の説明がありますが、逆に言えば、報告書の編集方針や発行趣旨にIIRCの統合報告フレームワークの記載がない報告書が少なからずあります(筆者の推計では概ね3割)。なお、筆者から見れば、発行の目的や位置づけが曖昧な、いわゆるコーポレート・レポートもこれに含まれます。</p>
<p>一部には極端な誤解もあり、統合報告書との名称ながら、<strong>従来型のCSR(サステナビリティ)報告書の体裁(目次構成)のままで、オクトパスモデル(価値創造プロセス)に似た図と主要財務指標一覧を追記しただけの「自称」統合報告書</strong>が散見されます。これで本当に、本来の読者である投資家や金融機関に訴求できるのでしょうか？</p>
<p>次回(4)は、「統合思考」にかかわる諸概念の位置関係の全体像とともに、各概念の本質的な意味も含めて解説します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<div>
<div>(つづく)</p>
<div> </div>
</div>
</div>
<div>
<div> </div>
</div>
</div>
<div class="elem_link emphasis left">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/columnist/1194904_2672.html">これまでの連載はこちらから</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営3】サステナビリティ概念の混乱の中で増加する「統合報告書」

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、「統合思考経営」なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～</strong><br /><strong>第2回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所（Sinc） 所長/首席研究員</a></p>
<div><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">川村 雅彦</a></div>
</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/02/13/thumb_knowledge01_200117.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(1)は、ESG金融の主流化を背景として、「統合思考」の考え方と「統合思考経営」の定義を提示しました。今回は、日本企業の統合報告書から見える「統合思考」の到達水準です。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>オクトパスモデルの意味するもの</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表2は、IIRCの提唱する有名な「価値創造プロセス(いわゆるオクトパスモデル)」です。私の認識では、日本企業はこれまで自称「統合報告書」で、このオクトパスモデルを模した各社独自のモデル図を作ることに一生懸命だったように思います。</p>
<p>しかし、その多くは、長期にわたる価値創造をめざす「統合思考」に基づくものではないために、納得感のある“価値創造ストーリー”を表現しているとは言い難いものでした。昨年あたりから変化の兆しはありますが、本文の内容についても、主要財務データを付録的に載せたものの、従来のCSR(サステナビリティ)報告書とあまり変わらないと言わざるを得ません。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>オクトパスモデルはIIRCの提唱する統合報告書の全貌を一つの図に凝縮した優れもの、と私は理解しています。このモデルは、図下にある時間軸を意識した「長期にわたる価値創造(保全、毀損)」のために、「外部環境」の変化(私はメガトレンドと呼びます)を含めて、報告すべき8つの「内容要素」をストーリー性をもって語るべきことを端的に示しています。</p>
<p>なお、誤解なきよう申し上げると、「長期にわたる」とは、長期のことだけを考えればよいということではなく、短期・中期・長期の時間軸でバランスよく考えることを意味するものです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：価値創造プロセスで見過ごしがちな「時間軸」と「外部環境」、そして「内容要素」</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/02/17/octpas.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料)IIRC「国際統合報告フレームワーク」15頁に筆者加筆</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>価値創造の流れ</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>価値創造に向けたビジネス全体の流れとしては、以下のことを示しています。つまり、図左にある6つの資本群(財務・非財務要素からなる価値創造の源泉)がインプットとしてビジネスモデル(価値創造の仕組み)に投入され、事業活動を通じてアウトプット(製品・サービス、副産物および廃棄物)を産み出します。</p>
<p>その結果、インプットされた資本群は変化し、増加・減少あるいは相互に変換されて新たな6つの資本群(アウトカム)となります。<strong>その変化分が“創造された価値”に相当するのです</strong>。そして、それがまた新たなインプットとなるのです。実は、ここは価値創造のプロセスないしストーリーとしても重要なところゆえ、後日詳細に述べます。</p>
<p>資本群は、IIRCでは財務資本に加えて製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本の6つに分類されています。これらの資本群は経営資源そのものであり、いずれも企業の発展を支える“価値の蓄積”に他なりません。つまり、財務資本以外の諸資本が統合思考における「非財務要素」の基礎となります。よって、統合報告書では資本の説明は不可欠です。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>国際的には評価の低い日本の統合報告書</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本企業の多くは、率直に申し上げて、統合思考に基づく統合報告書のあり方を誤解しているのではないかと思います。内容要素についても無頓着のように感じます。果たしてと言うべきか、英国オックスフォード大学のエクレス教授達が昨年3月に公表した<a href="https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3345590">『統合報告書の10カ国比較分析』</a>では、日本企業の発行する統合報告書の情報品質は低いと評価されました(図表3)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表3：統合報告書の国別総合スコアとランキング</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/02/17/graph.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料)エクレス等『統合報告書の10カ国比較分析』を基に筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>評価に当たっては、10カ国からそれぞれ優良と考えられる5企業が選ばれています。日本は、味の素、中外製薬、大和ハウス工業、コニカミノルタ、オムロンです(2017年度版統合報告書)。いずれもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用機関から表彰されているにもかかわらず、上記の結果となっています。それでは、彼らの評価基準はどのようなものでしょうか。</p>
<p>その評価基準はIIRCの「価値創造にかかわるマテリアリィ(ガバナンス)」に加え、内容要素(リスクと機会、戦略目標と資源配分、戦略目標の達成度、今後の見通し)の開示状況です(図表4)。スコアは評価項目ごとに3点満点で、「関連する開示なし」の場合には0点となります。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>図表4：エクレス達による統合報告書の評価基準(IIRCの内容要素に準拠)</strong></p>
</div>
<div class="elem_table">
<table border="1" cellpadding="0" cellspacing="0" style="width:633px">
<tbody>
<tr>
<td style="width: 170px; background-color: rgb(255, 255, 204);">価値創造のマテリアリティ<br />(ガバナンス)</td>
<td style="width:463px">
<ul>
<li>●長期にわたる価値創造に影響しうる事項の明示的な説明<br />●価値創造に関するマテリアリティの特定プロセス<br />●マテリアリティにかかわる取締役会の役割</li>
</ul>
</td>
</tr>
<tr>
<td style="width: 170px; background-color: rgb(255, 255, 204);">リスクと機会</td>
<td style="width:463px">
<ul>
<li>●短・中・長期の企業の価値創造に影響を与える、具体的なリスク・機会<br />●そのリスク・機会に対する対処方策</li>
</ul>
</td>
</tr>
<tr>
<td style="width: 170px; background-color: rgb(255, 255, 204);">戦略目標と資源配分</td>
<td style="width:463px">
<ul>
<li>●経営戦略としてめざす姿<br />●戦略目標の実現のために策定した資源配分の実行計画</li>
</ul>
</td>
</tr>
<tr>
<td style="width: 170px; background-color: rgb(255, 255, 204);">パフォーマンス<br />(戦略目標の達成度)</td>
<td style="width:463px">
<ul>
<li>●戦略目標ないし実行計画の当期の達成度<br />●6資本への影響と効果</li>
</ul>
</td>
</tr>
<tr>
<td style="width: 170px; background-color: rgb(255, 255, 204);">今後の見通し</td>
<td style="width:463px">
<ul>
<li>●戦略遂行において直面する可能性のある課題と不確実性<br />●ビジネスモデルの検証、ならびに将来の潜在的なリスク</li>
</ul>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>〔評価スコア(3点満点・4段階評価)〕</strong><br />　　0点：関連する開示なし<br />　　1点：形ばかりの文章、あるいは上滑りの議論である<br />　　2点：トピックの議論は、主に現在のパフォーマンスに焦点を当てている<br />　　3点：トピックの議論は、短期、中期、長期の文脈で議論されている</p>
<p>(資料)図表3に同じ。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>評価結果は暫定とされ、企業別の詳細スコアも公表されていませんが、日本企業は全体として評価が低く、総合スコアは1.38点と半数未満であり、10か国の中で8位です。これは、統合思考に基づく内容要素が記載されていない、あっても内容が不十分ということが推定されます。評価項目別には、特に「パフォーマンス」と「今後の見通し」のスコアが低くなっています。</p>
<p>関係者からは驚きの声も上がりましたが、私は「統合思考」の認識が希薄な日本企業の低評価は当然の結果だと思います。言うまでもなく、彼らの評価(基準)は絶対・唯一のものではありませんが、その示唆することは謙虚に受け止める必要があります。足元のビジネスは疎かにできませんが、メガトレンドが経営環境を構造的に激しく変える現代にあっては、同時に中長期の価値創造(毀損防止)を戦略的に考えることが不可欠です。</p>
<p>現在成功しているビジネスモデルは、これまでの事業環境に適応して確立されたものです。しかし、その事業環境が大きく変化すると、そのビジネスモデルはどうなるでしょうか。需要と競争力を失えば捨てる決断も必要ですが、同時に新しいビジネスモデルの構築が必要です。これは本業転換にもつながり、将来の“事業ポートフォリオ”を戦略的に考えることに他なりません。ESG金融側はここを見ています。</p>
<p>次回(3)は、「統合思考」をはじめCSR/CSV/SDGs/ESGのサステナビリティにかかわる諸概念の位置関係について解説します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営2】「統合思考」に欠ける日本の統合報告書

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、「統合思考経営」なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第1回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="http://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所（Sinc） 所長/首席研究員</a></p>
<div><a href="http://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">川村 雅彦</a></div>
</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/01/20/thumb_knowledge01_200117.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>新コラムシリーズ「なぜ今、『統合思考経営』なのか？　～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～」では、時代の大変革期にあって、近年主流化しつつある「ESG金融」に対応すべく、長期戦略的な視点に立った価値創造をめざす「統合思考経営」の考え方を解説します。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業はESG金融に対応できるか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>環境・社会・ガバナンスの頭文字をとったESGという言葉は、「ESG投資」が牽引役となって、ここ数年で日本の金融業界にもかなり浸透しています。直近では、金融庁が昨年末に日本版スチュワードシップ・コード(「責任ある機関投資家」の諸原則)の改定案を公表し、「原則1」と「原則4」の指針にESG要素を重視する内容が盛り込まれました(1月末まで意見公募、3月施行予定)。</p>
<p>最近では投資だけでなく、融資(間接金融)や不動産運用においてもESGに配慮する動きが出てきました。特に、世界的な気候変動の激化を背景に、CO2排出量の多い石炭火力発電への融資について、大手邦銀は新規融資の原則中止を表明しました。これらを踏まえて、金融機関のESG配慮は包括的に「ESG金融」と呼ばれるようになりました。</p>
<p>他方、このような金融機関の大きな変化に対して、日本企業はESGへの対応が十分にできているのでしょうか？</p>
<p>確かに一部の先進企業では、「ESGに配慮した経営」を標榜するようになりました。しかしながら、その定義や意義は統一されておらず、それぞれ独自のもので曖昧な部分もあります。また、これまでのCSR経営やCSV経営との違いについても、必ずしも明らかではありません。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>理解すべき「統合報告書」の目的</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>そこで私が着目するのが「統合報告書」です。なぜかと言えば、IIRC(国際統合報告評議会)が2013年に公表した「国際統合報告フレームワーク」で、統合報告書の目的を「<strong>企業が財務資本の提供者に対して、どのようにして長期にわたり価値を創造するのかを説明すること</strong>」と明示したからです。「財務資本の提供者」とは、言うまでもなく投資家など金融機関のことです。</p>
<p>統合報告書の最大の特徴は、従来のCSR(サステナビリティ)報告書と異なり、ESGを視野に入れ、長期的な時間軸をもって価値創造に焦点を当てることです。そのためには、<strong>財務要素と非財務要素を有機的・包括的に織り交ぜて「統合」する必要があります(財務・非財務情報の単なる「合体」を意味しません)。実は、このプロセスが統合報告書の根幹を成す「統合思考(integrated thinking)」です。</strong></p>
<p>このことは、企業報告としての財務報告書、CSR(サステナビリティ)報告書、統合報告書について、目的、読者、開示内容を比較するとよく理解できます(図表1)。つまり、企業報告の目的により、読者と開示内容が異なることは明らかです。当然ながらマテリアリティも自ずと異なってきますが、特にCSR報告書と統合報告書の基本的な違いを、日本企業はあまり理解していないように見えます。</p>
<p>CSR報告書(CSVを含む）では、自社事業に伴う環境・社会へのインパクトとその対処が基本的な開示内容です。これに対して統合報告書では、財務報告書とCSR報告書を踏まえて、短・中・長期の価値創造の道筋を開示するものです。なお、「コーポレート・レポート」と称する報告書を発行する日本企業も散見されますが、報告目的が曖昧と言わざるを得ません。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：企業報告の位置付けの違い</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/01/27/kawa2_1_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料)IFAC『Materiality in &lt;IR&gt; 2015』Table 1(p11)に筆者加筆</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「統合思考経営」の定義</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>これまで述べてきたことから、「統合思考」を根幹に据えた企業経営が「統合思考経営」であり、その「統合思考経営」の内容を開示したものが「統合報告書」です。逆に言えば、「統合思考経営」の実践がなければ、本来の「統合報告書」は作ることができません。</p>
<p>ここで「統合思考経営」を定義すると、暫定的・説明的ながら以下のように表現できます。<br />すなわち、統合思考経営とは</p>
<p>・企業経営の新たなフェーズとして、CSRとCSVの本質を踏まえつつ、<br />・環境・社会と企業のサステナビリティの同時実現のために、<br />・メガトレンド(長期的な外部環境の構造変化)を認識し、<br />・ESG金融に対応できる、長期視点に立った「統合思考」に基づき、<br />・長期にわたる企業価値とステークホルダー価値の創造と毀損防止をめざす、<br />・ESG課題に挑戦する戦略的な企業経営である。</p>
<p>ESG金融と統合思考経営の関係は、機関投資家のための「日本版スチュワードシップ・コード」と、企業のための「コーポレートガバナンス・コード」の両輪関係に似ています。いずれも企業の持続可能な成長と中長期の価値創造をめざしているからです。因みに、後者の「基本原則２：株主以外のステークホルダーとの適切な協働」では、ESG課題への対応も示唆されています。</p>
<p>したがって、この両輪関係の意味するものは、金融側が一方的にESGで企業を評価することではなく、サステナブルな社会経済の実現に向けて、企業と連携して同じ目標に向かうことです。企業側の立場に立てば、受動的にESG課題に対応するのではなく、長期にわたる価値創造に向けて能動的に自らを変革し、積極的に金融側にエンゲージ(対話)することが必要です。</p>
<p>次回(2)は、日本企業の統合報告書から見える「統合思考」の到達水準について述べます。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

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