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<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2023東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/12/ditop800_1.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<p class="heading">Day1 　ブレイクアウト</p>
<div class="inner"> </div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本企業でも当然の価値観として広がりつつあるDE&amp;I(多様性、公平・公正性、包摂性)。最近ではこれにB(Belonging、帰属意識)というワードも加わり、企業としても社会としても、一人ひとりの人間がそれぞれの個性を発揮できるよう、時には伴走し、背中を押すようなリレーション(関係性)の構築が求められる。暮らしも働き方も急速に変化するなかで組織としていちばん大切にすべき「人的資本」の根幹を巡って、グローバル企業の担当者や社会起業家らが意見を交わした。（眞崎裕史）</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ファシリテーター</strong><br />山岡仁美・サステナブル・ブランド国際会議 D&amp;Iプロデューサー<br /><strong>パネリスト</strong><br />朝山玉枝・イケア・ジャパン ピープル＆カルチャー カントリーピープル＆カルチャーマネジャー<br />河合将樹・UNERI 代表取締役CEO<br />武井浩三・社会システムデザイナー<br />山口有希子・パナソニック コネクト 執行役員 常務 CMO/デザイン部門担当役員/DEI担当役員/カルチャー&amp;マインド推進室 室長 </p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2022年は「人的資本経営元年」とも位置付けられた。初めにファシリテーターの山岡仁美氏は日本を取り巻く企業や社会、働き方の変化に触れ、「それぞれが個性を発揮してこそ、ヒューマン・キャピタル(人的資本)になっていくのではないか」と指摘。その上で、社内外でどのようなリレーション構築が重要かと投げかけ、セッションの口火を切った。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>経済成長よりも助け合いが重要</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/12/takei.JPG"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>武井氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>「上司、部下なし」の自律分散型組織を立ち上げるなど、約15年間にわたって「新しい経済と新しい社会をつくる」活動を実践する社会システムデザイナーの武井浩三氏は、リレーション構築のキーワードに「共感」を挙げた。人口減少社会では「経済成長」よりも「助け合い」が重要という観点から、代表取締役を務める非営利株式会社「eumo(ユーモ)」では、貨幣換算できない価値を資本とする「ギフトエコノミー」の構築に取り組み、例えば、自身が顧問として携わる養鶏場からは卵を、チョコレート会社からはチョコレートを現物報酬としてもらうなど、「お金がないと生きられない社会から人間性を取り戻す」ことに力を入れているという。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>環境に対する配慮においてもやはり軸になるのは「共感」で、ケニアから取り寄せた薔薇を販売する店では、薔薇1本に対して5円の寄付を募り、そのお金で毎月30本の植林をケニアで行い、CO2排出量をオフセットしている。中には5000円の花束を買って、1万円を寄付してくれる人もあるなど、「そういう取り組みが共感を呼び、人の活動が動いていく」のを実感しているようだ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>健全なカルチャーがないと企業は正しく動かない</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/12/yamaguchi.JPG"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>山口氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>日本を代表する大手企業であり、世界に３万人の従業員を有するパナソニック コネクトの山口有希子氏は、DE&amp;Iを推進する理由を「人権のためだ」と端的に表し、「どんなに良い戦略や組織能力があったとしても、健全なカルチャーがないと企業は正しく動かない。働いている人たち一人ひとりを、違いを含めて大切にしないと企業は存続できない」と力説した。<br />具体的には、LGBTQの人たちへの支援策として、日本では「同性婚を実現させなければいけない」ということを明確に表明するなど、さまざまなアクションを通じて従業員の行動変容を促している。男性の育休取得も5、6年前には数%にとどまっていたのが、実施を強化したところ3年で96.6%になるなど、大きな手応えも感じている。</p>
<p>もっとも大企業であればあるほど企業風土の変革にはトップの考え方、リーダーシップが欠かせない。昭和の成長戦略が染み込んでいる世代に向けては、D&amp;Iのトレーニングを通して気づきを促し、考え方や行動のアップデートにつなげることも。また、社員の状況を理解するためにも対話が必要で、「問題を放置しないカルチャー」の重要性を強調した。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>一緒に働く仲間から刺激を受け、日々感動も</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/12/asayama.JPG"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>朝山氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>一方、スウェーデン発祥でサステナビリティ先進企業ともされるイケアの日本法人、イケア・ジャパンから登壇した朝山玉枝氏は、「イケアでは仕事をする時、みんなと過ごす時、連帯感や環境と社会への配慮など、本当に大事にしているバリュー(価値)が8つある。このバリューができているかをいつもいつも確認しながら進めている」と話し、「人の力を信じている」と強調した。</p>
<p>2014年には「同一労働同一賃金」の取り組みを開始し、その際に「平等な機会創出」と「多様な人材の受け入れと活用」、「長期的な関係構築の保障」の3つを柱に据えたことを説明。これがあることで「みんなが人として尊重され、そのなかで、さあ次に何をしようかなという前向きな気持ちで毎日が進んでいく」という。それぞれがライフステージやその時々の意思によって職場でのポジションを決める仕組みで、「スキルが高い人よりもバリューに共感できる人を採用している」のも特徴だ。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>朝山氏自身、日本でのイケアの1号店ができてから約18年間勤めるなかで、「一緒に働く仲間から刺激を受け、感動して目頭が熱くなることも結構ある」と同じバリューを持つことの意味を熱弁。DE&amp;Iの推進においては、各店舗でコワーカー(従業員)のファミリーデイを設け、家族を呼んで「イケア」を体験してもらう取り組みにも力を入れているという。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>出会いをきっかけに成長する循環の仕組みを</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/12/kawai.JPG"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>河合氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>最後に登壇したUNERIの河合将樹氏は、社会起業家の支援を通したエコシステムづくりに奔走している。同社のミッションは「誰もが自分の道を歩めるような社会をつくっていきたい」。まだ20代で自身を「ぎりぎりZ世代」とする河合氏は活動にかける思いを「これからは共助によるビジネスモデルの必要性がめちゃくちゃ増す。つまり社会起業家の、民間起点で共助の仕組みをつくるプレイヤーの需要が高まるからだ」と話した。</p>
<p>起業家を支援する上で最も重要視しているのはソーシャル・キャピタル(社会関係資本)で、資金調達の直接的なサポートではなく、関係性を付与する「触媒機能」の役割に重点を置く。これは簡単に言うと、「出会いがきっかけになって成長していく。そんな循環の仕組みをつくること」であり、省庁や自治体と、起業家との間に同社が立ち、「それぞれの暗黙知を翻訳して関係性を紡いでいる」という。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>人的資本を生かす上で、どのようなリレーション構築が必要かという問いに対して、河合氏は「会社組織は階層よりも波紋に近い」とする考えを述べ、「大きな会社ほど誰が意思決定しているのかが分からなくなることもあると思う。大事なのは、会社というキャンバスに誰が最初に水を落とすか。年齢や役職に関係なく、最初に水を落とした人をみんなでエンパワーメントしていく。一人一人が波紋を起こしていくことで、結果的に触媒が連鎖し、関係性が構築され、組織が良い方向へ変わっていくのでは」と展望を語った。</p>
<p>セッションは最後に「DE&amp;Iの、そして人的資本経営の根幹になければならないのは何か」とする質問が投げられ、山口氏は「人に対する愛」、河合氏は「自分が本当にやりたいからやる、という人が増え続ける世の中になればいい」、朝山氏は「一人一人が尊重される会社でいたい」、武井氏は「地球とともに調和しながら生きる。自然の摂理に則って営む」と、それぞれに持論を披露。山岡氏が、「どんなに素晴らしいソリューションであっても、人のあり方で全く意味のないことになってしまう。人の集合体の社会や企業として、根幹をぶれずに推進していくことが重要だ」としめくくった。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

SB国際会議

ニュース

サステナブル・ブランド国際会議2023

ウェルビーイング

社会 social

ダイバーシティー

DE&Iをぶれずに推進していくために。大切にすべき「関係性の構築」とは

川村 雅彦

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第21回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/14/kawamurasantop_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第20回)は、「TCFD開示の国際比較分析」の『前編』として、分析結果の全体感を述べました。今回は『中編』です。まず、国際比較分析から判明した日本企業のTCFD開示の現状を確認します。そのうえで気候関連のリスクと機会に関する、日本企業の構造的な経営課題として3点を指摘します。問題提起です。</p>
<p>(注)前回の稿末に、次は『後編』と書きましたが、少し編集して『中編』と『後編』に分けます。</p>
<p>なお『後編』の最後でも述べますが、<strong>TCFDの気候関連財務情報開示の「気候」を「サステナビリティ」に置き換えると、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の</strong><strong>「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項(IFRS S1号)</strong>」になります。日本企業がTCFD開示で判明した経営課題を抱えたままISSBに臨むと、「<strong>大変なことになる</strong>」予感があります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>日本企業のTCFD開示で、評価が低いのは何か？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ガバナンスとリスクマネジメントで評価が低い日本企業</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>改めて国・地域別にTCFD開示の推奨開示項目のスコアを見ると、日本企業は全体に評価が低いことがわかります(図表1)。中でもスコアが低かったのは以下の3点です。<strong>①「ガバナンスa)」の取締役会の監督、②「戦略b)」の気候リスク・機会の影響、③「リスクマネジメントb)c)」のリスクマネジメント・プロセスとERM</strong><strong>(Enterprise Risk Management</strong><strong>：全社統合型リスクマネジメント)</strong><strong>への統合</strong>。つまり、ガバナンスとリスクマネジメントが、日本企業にとって改善を要する分野だということになります。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1 TCFD開示の推奨開示項目スコア(国・地域別)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0101.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>　　　(注)スコアの下線は各推奨開示項目での最低値を示し、楕円は特に日本企業の低評価を示す。<br />　　　<a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1215298_2675.html">「前編」の図表6参照</a>。<br />　　　(資料)筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>そこで、TCFD開示におけるガバナンスとリスクマネジメントについて、評価の高い企業の特徴を見てみます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■評価の高いガバナンス態勢：「監督」と「執行」の分離、取締役会に気候の専任委員会</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表2にガバナンス評価の上位9社を示します。1位はTSMCとBPで、8位までを欧州と米国の企業が占めました。これらの企業はいずれも、<strong>取締役会の「監督」と経営陣の「執行」の機能分離が明確であり、取締役会とその専任委員会が、気候変動問題の方針決定に高次のリーダーシップを発揮している</strong>ことが読み取れます。</p>
<p>9位のリコーGはマネジメント・ボード型態勢です。<strong>マネジメント・ボード</strong>とは、日本企業に多いガバナンス形態で、取締役会が監督と執行の両機能をもち、業務執行の意思決定を重視する取締役会モデルです。これに対比されるのが<strong>モニタリング・ボード</strong>で、経営陣の業務執行に対する監督に専念するため、取締役会の構成は社外取締役が中心となります。<strong>欧米では多くの上場企業が後者を採用しており、TCFDもこちらを前提としています</strong>。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2 TCFD開示における「ガバナンス」評価の上位9社と特徴</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0202.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>　　　　　　　　　　(資料)各社のTCFD開示資料を基に筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■評価の高いリスクマネジメント態勢：気候リスクの財務インパクトの検証とERMへの統合</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次に、リスクマネジメント評価の上位10社を図表3に示します。TSMC、マイクロソフト、リコーGが同率1位ですが、半数を欧州企業が占めました。これらの企業は、<strong>気候関連リスク・機会による事業・戦略インパクト、さらに財務インパクトを検証し、ERMに統合している</strong>ことがわかります。ちなみに今回分析した日本企業の中には、ERMを明示的に表記するところはありませんでした。</p>
<p>ここでERMを簡単に説明します。ERMとは、企業目的を明確にして、あらゆる経営リスクを全社的視野で統合的・包括的に把握・評価し、ポートフォリオ効果によるリスク分散を狙うリスクマネジメント手法です。一般にはリスク・マトリックス(リスクの発生頻度と経営影響度)を基に、リスク・ポートフォリオを作成します。<strong>今回多かったERMの要素は、戦略・財務・オペレーション・ハザードのリスク側面でした。</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表3 TCFD開示における「リスクマネジメント」評価の上位10社と特徴</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0303.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>　　　　　　　　　　(資料)各社のTCFD開示資料を基に筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>TCFD開示から見えてきた、日本企業の気候変動対応の現状と経営課題</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■TCFD開示の国際比較からわかる、日本企業の気候変動対応の現状</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>TCFD開示の国際比較分析の結果を総合すると、<strong>日本企業に共通する気候関連リスク・機会に関する態勢や取組の現状(現在の到達点)</strong>は、以下の4点です。ただし、“開示なきは実践なし”を前提としています。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0404.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>既にお気づきのことと思いますが、<strong>このような日本企業の気候変動対応の現状は、もはや開示の巧拙の問題ではなく、そのまま経営課題である</strong>と言うことができます。そこで次に、評価の高い企業の態勢や取組を参考にして、経営課題とその解決方策を考えてみます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■日本企業にはTCFD開示以前の三つの経営課題</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記のTCFD開示から見えてきた日本企業の現状を踏まえると、<strong>日本企業の気候関連リスク・機会に関する経営課題は、TCFD開示以前の問題として、以下の3点に集約できます</strong>。これらは、いずれも構造的な経営態勢の問題です。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0505.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>以下では、各課題について現状と解決方策を説明します。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>課題1：気候リスク・機会について取締役会による監督の関与が不十分である。</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>➡解決方策：気候問題に対するガバナンス(監督)態勢の強化</strong><br /><strong>➡➡具体策：取締役会内に意思決定を委任された気候戦略・リスクの専任委員会の設置</strong></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■大事なことは、取締役会内に気候専任委員会の設置</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>評価の高い海外企業では、「監督」と「執行」の双方において、それぞれ気候関連リスク・機会に対応する態勢とプロセスを詳細具体に記述しています。これに対して、<strong>日本企業では執行側の仕組の説明が中心で、監督側の記述は限られています</strong>。この背景には取締役と執行役(員)が重なるマネジメント・ボード構造があり、「取締役会の実効性評価」にも関わるものと考えられます。</p>
<p>取締役会は執行側から上程された提案や報告を審議するだけでなく、時代の潮流を踏まえて、モニタリング・ボードとしての機能を発揮することが求められています。<strong>その機能を担うのは、意思決定を委任された専任委員会</strong>です(図表2参照)。実際、国際的な主要株価指数である米国のS&amp;P100や英国のFTSE100の構成銘柄(企業)では少なからず設置されています。ある米国企業では、取締役会内の専任委員会は独自の見識と人脈をもち、執行側とは一種の緊張関係にあると言われています。</p>
<p>今回の分析における日本企業で、気候に関する専任委員会を取締役会内に設置している企業はありませんでした。今後、気候関連リスク・機会とその財務インパクトについては、これまで以上に高次の経営判断が求められます。それゆえ、<strong>日本企業は取締役会の監督態勢強化のために、取締役会内に気候戦略・リスクについて独自の視点から意思決定のできる専任委員会を設置すべき時が来た</strong>、と言うことができます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■日本企業で散見される取締役会内の「諮問機関」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>気候専任委員会とは異なりますが、日本企業では<strong>取締役会への答申や提言を任務とする任意の諮問機関を取締役会内に設置</strong>する事例が散見されます。指名委員会等設置会社では指名・報酬・監査の3委員会とは別に、ブリヂストンの「ガバナンス委員会」(全委員が社外取締役)、味の素の「サステナビリティ諮問会議」(議長は社外有識者)の例があります。監査役設置会社では、リクルートの「サステナビリティ委員会」(委員長はサステナビリティ担当取締役)、丸井グループの「サステナビリティ委員会」(委員長は社外有識者)があります。</p>
<p>また、トヨタ自動車(監査役設置会社)には取締役会とは別に、<strong>社外取締役・社外監査役も参加する「サステナビリティ会議」</strong>(議長は取締役会議長)があり、企業の持続的成長に向けて社会目線で監督するとともに、ガバナンス体制について審議しています(同社のコーポレート・ガバナンス報告書：2023年4月10日更新より)。</p>
<p>このような<strong>日本企業の独自の取組が、上記の(気候に限らない)専任委員会と同等の監督機能を果たしうるのかどうか</strong>、情報開示の工夫も必要ですが、投融資家などとのエンゲージメントの際に、その実効性が問われることになると思います。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■TSMCの気候ガバナンス態勢：監督と執行の双方に複数の気候関連委員会</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本進出で話題となった世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)である台湾のTSMCは、TCFD開示でガバナンスとリスクマネジメントの両方で最も高いスコアを獲得しました(総合評価も最高位)。そこで気候ガバナンス態勢の先進事例として、同社の気候変動に関する「監督」と「執行」が連携した枠組をみてみます。</p>
<p>その特徴を端的に言えば、以下のようになります。<strong>TSMCは、役割と責任を明確にして意思決定を委任された委員会を取締役会(監督側)と経営陣(執行側)に多層的に配置し、双方が連携して気候変動対策にリーダーシップを発揮できる実効的なガバナンス態勢を整えています</strong>(図表4)。この枠組はマネジメント・ボードとモニタリング・ボードの折衷的な態勢ですので、日本企業には参考となるのではないかと思います。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表4 TSMCの気候変動に関するガバナンスとマネジメントの枠組</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/06n.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)TSMC「2021 TCFD Report」(p6-p11)を基に筆者作成<br /><a href="https://esg.tsmc.com/download/file/TSMC_TCFD_Report_E.pdf">https://esg.tsmc.com/download/file/TSMC_TCFD_Report_E.pdf</a></sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■TSMCの気候対策を監督する2つの専任委員会、さらに監査委員会と報酬委員会も</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>TSMCは<strong>取締役会の中に、気候変動対策を監督し意思決定する2つの委員会を設置</strong>しています。</p>
<p><strong>・ESG</strong><strong>運営委員会</strong>：気候変動対策の最高意思決定機関と位置付けられ、会長が議長を務める。<br />・<strong>リスクマネジメント運営委員会</strong>：全社的なリスク管理を監督し、気候変動に関するリスクマネジメントの審査と承認を担う。<br />さらに、取締役会直下の「監査委員会」と「報酬委員会」も気候問題に関わっています。</p>
<p><strong>・監査委員会</strong>：オペレーショナル・リスク全般を統括し、水不足・電力不足・自然災害などの気候関連リスクの優先順位を見直す。特に<strong>サプライヤーのリスクレベル別・材料別の洪水リスクマップ</strong>は他に例をみない。<br /><strong>・報酬委員会</strong>：気候変動を含むESG成果に応じた経営陣の業績連動型報酬の評価に責任をもつ。<br />他方、執行側にも監督側の委員会と密接に連携する気候関連の委員会が三つあります。</p>
<p><strong>・省エネ・炭素排出削減委員会</strong>：グループ全体の排出削減進捗を管理する。<br /><strong>・ESG</strong><strong>委員会</strong>：気候施策の部門間プラットフォームとして機能し、気候リスクの識別と管理を担当する。<br />・<strong>リスクマネジメント執行審議会</strong>：短中長期の時間軸による「気候リスク・機会マトリックス」を作成する。</p>
<p>『中編』はここで終わります。次回の『後編』では日本企業の「課題2」と「課題3」について、それぞれの現状と解決方策を説明します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1215298_2675.html">【統合思考経営20】TCFD開示の国際比較から見えてきた日本企業の経営課題と解決方策(前編)～『TCFD開示の業種別・日米欧企業比較分析』より～</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

コラム

【統合思考経営21】TCFD開示の国際比較から見えてきた日本企業の経営課題と解決方策(中編)～『TCFD開示の業種別・日米欧企業比較分析』より～

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2023東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/08/jinteki800_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<p class="heading">Day2 　ブレイクアウト</p>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>これまでも「我が社は人が資本です」という日本企業は多かった。だが、この言葉を具体化し、それをどう施策のなかに落とし込んでいくか、となると、容易ではない。人的資本経営とは、従来の経営の延長線上と考えている企業が大半のなか、そうではなく、企業価値の向上に向け、経営戦略と連動した人材戦略を進めるにはどうすればいいのか。すでにこの分野での独自の取り組みを実装する2社と、外資系金融機関で投資家としての20年以上の経験をもつESG評価のスペシャリストが対話を深めた。(依光隆明)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ファシリテーター</strong><br />田中信康・サステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサー<br /><strong>パネリスト</strong><br />小野真吾・三井化学 グローバル人材部 部長<br />堀川拓郎・リクルート スタッフ統括本部 人事 人材・組織開発室 室長/ヒトラボ ラボ長<br />小野塚惠美・エミネントグループ 代表取締役社長CEO</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>ポートフォリオ変革の即戦力を積極採用</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
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<div class="elem_paragraph"><sup>田中氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>セッションは田中信康氏の問題提起から始まった。「人的資本経営は本当に浸透しているのだろうか、答えは『まだまだ』。有価証券報告書への開示が義務化されることで多くの方が戦々恐々としているのでは」と述べ、小野真吾氏と堀川拓郎氏に取り組み内容を聞いた。</p>
<p>小野氏は事業統合を重ねた三井化学の歴史を説明した上で、まさに事業継続に不可欠な能力として、企業文化や人的資本の増強に力を入れていることを説明。2030年までに執行役員多様化人数を10人以上とすることや、管理職女性比率を15%にすることなど、個別の目標を定めてモニタリングするとともに、毎年、事業と連動する優先課題を実行力のある方策に落とし込んでいるという。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/08/mitsuikagaku.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>小野氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>具体的には2016年から、将来の経営者候補のパイプラインをつくる活動として、CEOや本部長クラスもコミットし、人材の一人ひとりについて、求められる期待水準への準備度合いや中長期的なキャリアの方向性などを評価しながら可視化する「キータレントマネジメント」制を導入。ポートフォリオ変革の即戦力となる、女性や外国籍を含む多様な人材を積極採用し、経営者候補として育成することで、会社の価値創造能力を強化する戦略を進める。</p>
<p>2018年からはグローバルで、従業員の会社に対する愛着を測るエンゲージメントスコアのモニタリングを開始。その結果、「自社の強みが権限委譲と自律性にあること」が分かり、さらなるエンゲージメントの向上に向け、他社に先駆けてテレワークや副業を解禁するなど、「経営陣と人事部門、そして現場が一体となって地道に改善をし続け、従業員の自由な発想を促している」ことが紹介された。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「人の見立て」に尋常ならぬ熱意</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
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<div class="elem_paragraph"><sup>堀川氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>一方のリクルートも、創業以来、「人は内発的動機に基づいて仕事をする時が一番パフォーマンスが高い」という考えで事業運営を行ってきた。堀川氏によると、2021年4月に会社が再統合された時にも「価値の源泉は人であることを引き続き(経営の)ど真ん中に置くこと」を決めた。そして、今後の会社のあり様を再定義するなかで、公園と、「CO-ENCOUNTER」(出会う、創発するといった意味の造語)を引っ掛けた、「CO-EN」というコンセプトを掲げたという。</p>
<p>「CO-EN」には、「社員一人ひとりの好奇心を情熱に変え、新しい価値を生み出す場としての会社でありたい」という思いを込めている。約1万7000人の従業員のうち約1万3000人が中途入社で、退職率も12%と比較的高いが、同社では会社を出ることを“卒業”と呼んでいるそうで、堀川氏は「退職者の14%は独立されており、まさに一人ひとりの新しいチャレンジを育む舞台となっている」と胸を張って説明した。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>チャレンジを支える仕組みには、各人が将来実現したい計画を踏まえて上司が部下の現状を評価し、結果を本人にフィードバックする「人材開発委員会」がある。そこでは、「一人一人の人の見立てを、縦のラインのマネージャーだけに完結させない。隣のグループのマネージャーや斜めのグループのマネージャー、場合によっては二階層上、三階層上まで含めて複眼的に議論する」のが特徴で、堀川氏は「人を見立てることに対してリクルートは尋常ではない熱意を注いでいる」と強調した。</p>
<p>組織の状態を可視化する「エンゲージメント・サーベイ」についても年2回行い、「会社と個人をつなぐ大切な存在としての職場の価値をどう上げていくのかということを人事施策を通じて実践している」という。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「報酬だけがインセンティブではない」は日本の価値</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
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<div class="elem_paragraph"><sup>小野塚氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>2社の報告に続き、外資系金融機関で投資家として長年資産運用に携わった経験から発言した小野塚惠美氏は、初めに「日本と欧米では人的資本に注目する目的と背景が違う」と指摘。日本社会では「賃金格差や労働人口の減少、低生産性、革新不足といったところが大きな課題で、人的資本経営に期待されるのはあくまで企業の経済性の向上」であるのに対し、欧米社会では「富の格差や差別、過剰な労働流動性、世論といったものに押され、企業の社会的責任を追求する流れで、人的資本経営にフォーカスしている」ことから、「世界のベストプラクティスを持ってきて日本に当てはめるだけでは解決にならないのではないか」と提起した。</p>
<p>議論が深まるなかで、小野塚氏からは日本企業の報酬面のインセンティブについての質問も飛び出し、2社が「退職理由の一つに報酬はあるが、もっと大きな要因は働きがいや、自分の強みが生かせるか、わくわくするかということだ。そちらのファクターの方が大きくて、報酬を整えにいったところで出る人は出てしまう。報酬と働き方はセットであり、どちらか一方ではない」(堀川氏)、「われわれも金銭的な報酬では釣っていない。自主自律の自由度やボトムアップの緩やかなカルチャーをエンジョイできる方が大事だと考える社員が多い」(小野氏)と返す場面も。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>回答を受け、小野塚氏は「外資金融だと特に金銭的なインセンティブが大きく、われわれ投資家も役員報酬やインセンティブについて話をするが、お二人の会社では、『そこだけではないんだよ』ということが言語化されている点がすごい」と評価。さらに「わくわくさせるだけで人が働いてくれるなんて、経営者からしたらこんな素晴らしいことはない。これは日本の価値だ」と続け、「インフレや円安を踏まえて対価を払うことは別の議論として当然だが」とした上で、「ここが日本の企業の強みなんだということを統合報告書やIRミーティングできちんと開示していくことが、日本の企業をより評価してもらえることにつながる。ぜひその文脈で発信し続けてほしい」と力を込めた。</p>
<p>日本企業において、もともと人は大事にされてきたが、時代の流れとともに、人事と事業が経営のアジェンダとしてひとつにつながり、大きなインパクトを生み出している。パネリストたちは「人的資本は経営戦略であり、人事課題ではない」ことを確認し、セッションを終えた。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

話題のキーワード

日本ならではの人的資本経営の目的と価値とは

【統合思考経営20】TCFD開示の国際比較から見えてきた日本企業の経営課題と解決方策（前編）～『TCFD開示の業種別・日米欧企業比較分析』より～

細田 悦弘

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/04/19/47top.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>子どもの頃に「なりたい職業は何ですか？」と聞かれれば、多くの人は「プロ野球選手」「幼稚園の先生」「看護師」「パイロット」などと答えた記憶があることでしょう。では今の子どもたちはというと、ナント『会社員』という回答が大勢を占めているようです。ただ、次世代がイメージする『会社員』は、かつてとはだいぶ異なるようです。企業が次世代の従業員に活躍してもらいたいなら、「人的資本経営」が待ったなしのようです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>なりたい職業1位は、『会社員』</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
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<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>子どもたちに「将来、何になりたいですか？」という質問を投げかけると、昭和から平成の初めくらいであれば、「プロ野球選手」「幼稚園の先生」「看護師」「パイロット」などといった答えがよく聞かれました。<br />ところが近年ではだいぶ様相が違ってきているようです。</p>
<p>第一生命保険が発表した、「第34回 大人になったらなりたいもの」調査によれば、<u>首位は小・中・高の男子と中・高の女子が『会社員』</u>で、小学生女子は「パティシエ」となりました。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/04/19/4702.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ちなみに、この調査は2022年12月中に実施され、小学3年生から高校3年生までの3000人を対象にインターネットアンケートで実施されたものです。したがって、小学校男子の3位に「サッカー選手」がランクインしているのは、「2022 FIFAワールドカップ」で日本代表がベスト16に進出したことが影響したものとみられています。よって、その後「WBC2023(第5回ワールド・ベースボール・クラシック)」における侍ジャパンの大活躍を目にしたあとでは、『野球選手』が躍進していることも想像できます。</p>
<p>このように、プロスポーツ選手人気は今も昔も定番ではありますが、今回の調査で特筆すべきは、<u>中・高の男女の結果をみると、すべての1位に『会社員』が並んだことです</u>。そして、「会社員としてどんな仕事がしてみたいか」という質問に対しては、小・中・高の男子と高校生女子では「学者/研究者」がランクインしました。サステナビリティ時代を反映して、好きな学問を究めたり、社会や環境の課題解決に役立つ職業への注目度の高さがうかがえました。コメントの中にも、「高校でSDGsを学び、未来の海洋資源のために役立つ研究をしたいと思った」といった回答がありました。また、「その職業を選んだ理由」への回答においても、小・中の男女を共通して1位は「好きだから」でしたが、中・高の男女の2位は<u>「人の役に立ちたいから」</u>でした。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人的資本としての『会社員』</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/04/19/47033.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>この調査からも見てとれるように、Z世代・α(アルファ)世代を受け入れる企業側にとっては、従来の経営スタイルから脱皮し、<u>「人的資本経営」へのシフトが待ったなし</u>となっていることです。人的資本経営とは、経済産業省の定義によれば、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」です。すなわち、人材を『コスト(原価管理の対象)』と捉えるのではなく、『資本(投資の対象)』として捉え、積極的に人材に投資することで企業価値を高めていく考え方を意味します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>主な着眼点は以下のとおりです。<br />〇従来の経営：従業員は『身内』<br />コストとしての「人的資源」、相互依存、囲い込み型<br />　　　　↓↓<br />◎人的資本経営：従業員は『ステークホルダー』<br />投資対象としての「人的資本」、個の自立、会社と従業員は選び・選ばれる関係</p>
<p>これまでは人的資源(Human Resource)という考え方が主流であり、人材は「企業が事業を行う上で活用する労働力」であり、人材にかかる費用は『コスト』と捉えられていました。しかし、人的資本の考え方に基づけば、<u>人材は「知識やスキル、経験を有し、事業活動における価値創造の源泉」</u>とされ、人材にかける費用は<u>『企業の成長に資する投資』</u>と捉えられます。「資源」から「資本」へのパラダイムシフトです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>『社員を大切にする』とは</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/04/19/4704.jpeg"/></div>
<div class="elem_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>そもそも『社員を大切にする』という考え方は、有力な日本企業は創業時から伝統的に備えています。これまでも多くの企業が、雇用の保障や福利厚生の充実という形で従業員に報いてきました。しかし、いま大きく変わってきているのは、従業員としての『労働条件の満足』から一歩踏み込んで、<u>『個人のウェルビーイング』と会社のパーパス(存在意義)や中長期の経営計画をしっかりとつなぎ合わせてマネジメントしようとする点</u>にあります。すなわち、従業員の成長や価値観と会社の目標達成の方向を一致させ、意欲的に仕事に打ち込んでもらえるよう促すことが要諦となります。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>したがって、まずはパーパス(社会的存在意義)をしっかりと標榜することが求められます。従業員からパーパスへの共感(自己実現と会社のめざす姿とがシンクロした状態)を得ることはエンゲージメントを強化し、モチベーションの基盤となります。</p>
<p>「自分を高めたい」という従業員の成長を奨励し、<u>「人(社会)の役に立ちたい」</u>という生きがいを醸成することで、会社の発展にもつなげていくという考え方です。とりわけ、Z世代の若手社員にとって、<u>社会的存在意義が実感できる会社の社員であることの誇り</u>は、従前の大企業に就職することで得られた処遇面の誇りとは異なります。パーパスを実践している企業で働くことで、会社との『強いつながりや愛着(ロイヤルティー)』が育まれます。パーパスは企業としての未来のあるべき姿を示すもので、個々の社員の価値観や自身の将来のありたい姿とを一致させることで実現が促進されます。現代企業へのロイヤルティーは、その昔の大企業への『忠誠心』とは質が異なります。忠誠心・愛社精神が尊ばれ、もてはやされた時代は明らかに過去ものとなりました。</p>
<p>これからの『会社員』の就職先選びは、決して「大企業」「上場企業」「老舗企業」にこだわるわけではなく、中小企業やスタートアップ企業にも、十分目が向けられます。中小企業が抱える喫緊の経営課題が、いわゆる『優秀な人材』が離職することや確保しにくいということであるならば、人的資本経営は競争優位につながります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>自社が好きな『会社員』がたくさんいる会社は、持続的成長が果たせる</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/04/19/4705.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>人を最大の『資本』と捉え、投資し、熱意あふれ(エンゲージメントの高い)従業員を育む。それによって、企業のビジョンやパーパスの実現につなげる経営が求められる時代が到来しました。従業員が自社のパーパスや価値観に共鳴し、エンゲージメントが高まれば、『人的資本』は磨かれ輝きを増します。『自分の会社が好きな社員』がたくさんいる会社は、持続的成長・中長期の企業価値向上が見込まれます。</p>
<p>本調査で「大人になったら『会社員』になりたい」と回答した、<u>5年後・10年後の従業員</u>が自らの志と価値観のもとにパーパスに共鳴し、自社らしさを発揮してビジネスと社会課題解決を融合できれば、力強くサステナブル・ブランディングが実現できます。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

第47回 『なりたい職業1位』が示唆する！待ったなしの人的資本経営

SUSTAINABLE BRANDS

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/03/07/2_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup><a href="https://www.paulpolman.com/conscious-quitting-has-arrived/">「2023 Net Positive Employee Barometer」</a></sup><sup>表紙</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>最低限の仕事はするが、気持ちの上では退職したかのように働く「静かな退職」の時代から「意志ある退職」の時代へと突入しようとしている。ユニリーバ前CEOのポール・ポールマン氏が率いるチームは1月、英米にある従業員数250人以上の民間企業で働く4000人を対象に<a href="https://www.paulpolman.com/conscious-quitting-has-arrived/">調査「2023 Net Positive Employee Barometer」</a>を実施した。調査によると、景気が不安定な状態にも関わらず、回答者のおよそ半数(英：45%、米：51%)が、雇用主と自分の価値観が合わない場合には退職を検討するだろうと答えた。また、どの会社で働くかを決める重要な基準としては、「給与」(英：86%、米：93%)や「福利厚生」(英：87%、米：93%)のほかに、「雇用主の価値観」(英：80%、米：88%)、「環境への取り組み」(英：76%、米：73%)、「社会的平等への取り組み」(英米：75%)が挙がった。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>調査によると、英国では41%、米国では36%が今月の支払いを心配していると回答した。さらに、地球や社会の将来を心配していると回答した割合は英国で68%、米国で61%だった。とりわけ、環境や経済、健康に関する衝撃的な出来事に相次いで直面してきた「パーマクライシス(長期化する不安的な状況)」時代に社会人となったZ世代・ミレニアル世代ではその割合が英国で70%、米国で71%に達した。</p>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/03/05/maru.png"/></div>
<div class="elem_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>英国のZ世代の気候変動活動家で<a href="https://www.forceofnature.xyz/">Force of Nature</a>の創設者であるクローバー・ホーガン氏はこう話す。</p>
<p>「私の世代で不安が増えつつあります。私たちは気候危機、壊れた政治システム、分極化が進む社会を受け継いでいます。グリーンウォッシュや口先だけの約束に疲れているのです。Z世代に抱くイメージとは逆で、私たちはビーズクッションや卓球台をオフィスに置いて欲しいとは思っていません。私たちの価値観を反映した組織で働きたいのです。それが見えておらず、行動に移さないCEOは取り残されるでしょう」</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>調査で説明されているように、昨年はインフレが進み、成長が鈍化したことから、多くの人が「大退職時代」は消え去ると考えていた。しかし、経済の不透明さにも関わらず、従業員の退職は後を断たない。2022年11月には、米国の労働者の2.7%にあたる約420万人が仕事を辞めており、2021年同月に記録した3％と比べてもわずかしか減っていない。</p>
<p>調査は、こうした退職を促す要因として、雇用主と従業員の価値観のずれを指摘する。人材の維持に努めたいCEOは、仕事のやりがいと企業の社会・環境的インパクトには極めて重要な関連性があることを認識しなければならない。</p>
<p>ポールマン氏とアンドリュー・ウィンストン氏の共著<a href="https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/22/09/29/00403/">『Net Positive　ネットポジティブ「与える＞奪う」で地球に貢献する会社』</a>では、企業が、差し迫った多くの問題はビジネスモデルを変革することでレジリエンスを高める手段へと変えられると確信していることが書かれている。 </p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「静かな退職」から「意志ある退職」へ</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>今回の報告書の序文で、ポールマン氏は「CEOは自身が置かれている新たな現実に目覚めなければならない」と述べている。それはつまり、従業員が仕事の優先事項や中心に、パーパスやより良い影響を与えることを求めており、静かな退職(Quiet Quitting)、そして今では意思ある退職(Conscious Quitting)に象徴される大退職時代(Great Resignation)時代にいるということだ。</p>
<p>序文を以下に抜粋する。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/03/05/4_1.png"/></div>
<div class="elem_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>急速に変化する労働市場では、従業員の力がこれまで以上に強くなっているように思える。経営幹部には、いかにして最良の人材を雇用・維持するかというアドバイスが数多く寄せられている。誤解をしないでほしいが、従業員がより良い給料を求め、より柔軟に働き、ウェルビーイングを高めたいと思っていることを示す数々の研究は間違いなく正しい。</p>
<p>しかし、これらは間違っているわけではないが、従業員が求めているものの一部に過ぎず、それだけに頼るのは危険だ。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>こうした分析は、従業員をただ単に狭い意味での労働者としか見ていない傾向にある。多くの従業員は、お金や柔軟性に加えて意義や充足感を強く求めている。</p>
<p>経済が転換点にあり、多くの人の仕事に対する考え方が多様化する中、私たちは、こうした課題に対してより人間的な視点を取り入れるために調査を行った。調査では、目を見張る発見があった。多くの人は、経済的なニーズや個人のウェルビーイングについて考えるだけでなく、自らの価値観を共有でき、人類が直面している最大の課題、特に気候変動と経済の不平等に取り組んでいる企業で働きたいと考えていることが明白になった。</p>
<p>回答者の多くは、雇用主が悪い影響を減らそうと取り組んでいることを理解しているが、それではまだ十分ではないと考えている。企業が自社の価値を守ろうとしない場合、従業員の多くは退職する心構えができているという。給与を少し増やし、在宅勤務も増やし、ジムの会員証を渡すことで、人材獲得戦争に勝とうと考えているCEOは失望することになるだろう。意志ある退職(conscious quitting)の時代が来ようとしているのだ。</p>
<p>――ポール・ポールマン</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>調査報告書のポイント</strong></p>
<p><strong>回答者らは未来に不安を感じており、それに対して何らかの取り組みを行っている企業で働きたいと考えている。</strong></p>
<p>・回答者の3人に2人は、地球や社会の将来に不安を抱いている。 (英：69%、米：66%)</p>
<p>・大多数の回答者は、世界に良い影響をもたらそうと取り組む企業で働きたいと考えている。(英：66%、米：76%)</p>
<p><strong>企業の取り組みは多少、進歩しているにも関わらず、回答者らは十分でないと考えている。</strong></p>
<p>・経営陣と社員の熱意にはギャップがある。多くの回答者は、企業が環境や社会の課題に取り組んでいると認識しているにも関わらず、両国の3人に2人は企業の現在の取り組みが十分ではないと答えた。（英：68％、米：62％）</p>
<p>・多くの回答者は、CEOや経営幹部がこうした問題に関心がないとみている。英国の回答者の45%、米国の回答者の39%が、経営陣は会社の利益だけを考えていると答えた。</p>
<p>・4分の3の回答者が、企業は、従業員やステークホルダーのみならず、より広い世界に対して自社がもたらす影響に責任を持つべきだと回答した。(英：77%、米：78%)</p>
<p><strong>ビジネスは知らぬ間に「意志ある退職」の時代に突入しようとしている。</strong></p>
<p>・半数近くの回答者が、企業の価値観が自身の価値観と合致しなければ退職を考えるだろうと答えた。(英：45%、米：51%)</p>
<p>・実際、3分の1(英米ともに35%)の回答者は今シーズンに退職したと答えた。とりわけ、この傾向はZ・ミレニアル世代で高かった。(英：48%、米：44%)</p>
<p>・Z世代とミレニアル世代の半数近くが、自身の価値観を共有する企業で働くために給与の減少を受け入れることを検討するだろうと答えた。(英：48%、米：44%) </p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ポールマン氏は「こうした傾向を無視する経営幹部が背負うリスクは明らかだ。現在、そして未来の従業員の期待やニーズにそぐわないことをし続けていたら、企業は魅力を失い、生産性は下がり、成功することも難しくなるだろう」と述べている。</p>
<p>「裏を返せば、進歩する企業はモチベーションやイノベーション、忠誠を引き出すことができる。さらに、より持続可能で責任感があり、利益を上げる事業を生み出す取り組みを加速させることが可能になる。そういう企業を私たちは『ネット・ポジティブ』な企業と呼ぶ。ネット・ポジティブな企業とは、地球・社会に与える悪影響を上回る良い影響を創出することで、繁栄し、長期的な価値を提供する企業のことだ」 </p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>ネット・ポジティブな時代に経営幹部への3つのアドバイス</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・自社の価値と影響力に関して高い志を示す</strong><br />高い志とは、世界が求める目標を設定することで、簡単に実現できる目標を設定することではない。さらに、社会システムの変化を起こすために同業者や政府などと連携することだ。</p>
<p><strong>・自社の志を伝えるより良いコミュニケーションが求められている</strong><br />回答者の3人に2人(英：67％、米：66％)が自社に対し、深刻な環境・社会課題への取り組みに関してさらにコミュニケーションをとってほしいと答えている。オープンで意義のある双方向の対話こそが、自社がとるべき行動をとっていると従業員に確信させる唯一の方法だ。</p>
<p><strong>・自社の助けになってもらうためにも、従業員に権限を与える</strong><br />多くの回答者が自社に社会・環境課題に取り組んでもらいたいと考えているだけでなく、自らも貢献したいと考えている。英米の回答者の半数以上(英：53%、米：60%)は、企業のより良い変化に貢献する大きな役割を果たしたいと回答。この割合はZ世代やミレニアル世代で高かった。(英：64%、米：66%)</p>
<p>報告書は、行動に移さないCEOは今後数年間に、人材を失い、エンゲージメントや生産性が低下し、事業の成功が難しくなるリスクがあると結論づけている。前進することを選ぶCEOには、より責任感のあるサステナブルで利益を上げる企業になるために、最高幹部とともに取り組みを加速させてくれる、やる気があり、イノベイティブで、忠誠のある従業員が力になってくれるだろう。</p>
<p>米ヨーグルト製造大手チョバーニのCEOである<a href="https://sustainablebrands.com/library/view/how-to-rise-to-the-top-by-embracing-inclusionhttps:/sustainablebrands.com/library/view/how-to-rise-to-the-top-by-embracing-inclusion">ハムディ・ウルカヤ氏</a>は「世界に良い影響をもたらすことはもはや良いビジネスの副次的効果ではなく、私たちが存在する理由そのものだ。今のような激動の時代に、従業員が大きな社会・環境課題の解決に努める企業で働きたいと望むのは驚くことではない。私たちは、そうなるための道のりの一歩一歩をともに歩んでいく」と語っている。</p>
<p>・関連記事<a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/us/detail/1205448_1532.html">「ビジネスにヒューマニティを取り戻す」 ユニリーバ前CEOポール・ポールマン氏語る、得る以上に与えるビジネスの在り方とは</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

ワールドニュース

企業との価値観の違いを理由に退職する人が増える時代に　ユニリーバ前CEO ポール・ポールマン氏が英米2カ国で調査

<div class="u-mt30">
  <div class="c-interview_info">
                                  <div class="c-interview_info__block">
        <div class="c-interview_info__block__en">interviewee</div>
        <div class="c-interview_info__block__name">佐藤 千佳</div>
        <div class="c-interview_info__block__company"><p>NEC 人事総務部門 I&#038;D担当<br />
コーポレート・エクゼクティブ</p>
</div>
      </div>
                              <div class="c-interview_info__block">
        <div class="c-interview_info__block__en">interviewer</div>
        <div class="c-interview_info__block__name">松島 香織</div>
        <div class="c-interview_info__block__company"><p>サステナブル・ブランド ジャパン</p>
</div>
      </div>
            </div>
</div>

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/interview/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/01/31/01.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>NECはI&amp;D(インクルージョン＆ダイバーシティ)を、パーパスを実現する経営・事業における成長戦略そのものと位置付けている。通常D&amp;I(ダイバーシティ＆インクルージョン)の取り組みとするところを、同社はあえてインクルージョン(包括・包含)を前に出しI&amp;Dとしている。組織にはそれぞれ独自の社風や風土などがあるが、いくら多様な人材が集まっても彼らを受け入れる組織風土が整わなければ、全ての社員が個々の能力を発揮することは難しいと考えるからだ。人事総務部門でI&amp;Dを担当するコーポレート・エクゼクティブの佐藤千佳氏は、「同質性からの脱却」をI&amp;Dの課題として挙げ、全社をあげて今取り組んでいると話す。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>インクルージョンがあってこそ、人材が生かされる</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>――2021年に発表された「2025中期経営計画」では、経営・事業における成長戦略としてI&amp;Dが非常に大きな役割を担っています。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>人事の計画ではなく、まさに中期経営計画の真ん中にI&amp;Dが入っています。パーパス実現のためにEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)成長率を年平均9%上げるなどの目標を設定した「戦略」と、エンゲージメントスコア50%達成<sup>※</sup>を目指した「文化」がありますが、この文化を支えるのがI&amp;Dとなります。</p>
<p>私たちはダイバーシティをイノベーションの源泉と考えています。2021年には、社長を委員長とし、人事・コミュニケーション領域のリーダーと当事者とが同じテーブルで打ち手を議論し、トップが方針を決定する「I&amp;D推進委員会」を立ち上げました。2026年4月1日までに当社単体で、役員における女性／外国人比率を20%、管理職における女性比率を20%、全社員における女性比率を30%にすることを目標に掲げています。</p>
<p>当社の現状からすると非常に高い目標ですが、2026年4月時点でこの水準をクリアできていないような企業は、もう世の中から相手にされないのではないか、と考えています。</p>
<p><sup>※</sup>グローバル人事コンサルティング会社Kincentric社サーベイによる。エンゲージメントスコア50%は概ねグローバル上位25パーセンタイルに該当し、Tier１レベル。</p>
<p><strong>――多くの企業ではD&amp;Iとしていますが、貴社ではI&amp;Dとされていますね。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>私たちはあえてインクルージョンを先に持ってきています。なぜなら、多様な人たちがきちんと組織に包含され、彼ら彼女らが持ち味を発揮して既存のチームと切磋琢磨しながら価値を出していくことが重要だからです。そのために、働き方の改革やジョブ型マネジメントの導入にも取り組んでいます。全ては同質性の高い組織からの脱却につながっていきます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>同質性が高いが故のリスクを意識してI&amp;Dに取り組む</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>――「同質性の高い組織」とはどういうことでしょうか。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>残念ながら当社と国内グループ会社の意思決定層は、同じような経歴・経験をした日本人男性で占められ、極めて同質性が高い状態です。2025中期経営計画の期間中に、意思決定層に多様な人材を入れたいというのが私たちの挑戦です。</p>
<p>「そこからイノベーションが生まれるのか？」「こうした意思決定の場からグローバルなビジネスはできるのか？」と同質性が高いが故のリスクがないかどうかを徹底的に意識しています。実は日本企業の多くが悩んでいるのではないでしょうか。</p>
<p><strong>――多様性を持たせるために、主に女性の登用や活躍促進に力を入れるのでしょうか。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>I&amp;Dでフォーカスされるのは女性だけなく、障がい者や新卒や中途で新しく入ってくる仲間、それからLGBTQや外国人など、多様な人材全般になります。</p>
<p>2018年度と最新データを比較すると、キャリア人材年間採用数は524人、グローバル人材はM&amp;Aの影響も含めて1.1万人、女性管理職比率は2.7％増えています。いずれの数字も上がっていますが、実は退職者の女性比率も上がってきています。そうした意味では、人材をいかにつなぎとめていくかということも、ひとつの課題になりつつあります。</p>
<p>人事にはいわゆる「飛び道具」のような解決策はありません。入社した社員を地道に育成し、彼らや彼女たちを昇格させていくことになります。退職を防ぎつなぎとめるリテンションとともに、外部に対してはI&amp;Dの取り組みを当社のブランドとして打ち出すことにも、今まさにフォーカスしています。</p>
<p><strong>――どのように多様な人材の雇用率を上げていこうとお考えですか。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>全社員に対する女性比率を上げるためには、新卒採用での女性比率向上が必要不可欠です。新卒の学生は年間約600人採用していますが、現在の女性比率は34%程度。当社は技術職のポジションが多く、技術職採用の大部分を占める学校推薦枠の女子学生比率が低いという課題があります。</p>
<p>2025年までに新卒採用の女性比率50％を目指しますが、2024年に新卒で入社する女性社員をまず40％まで増やしたいと考えています。長期的な対策としては、理工系の女子学生を増やせるよう、大学や高等専門学校、高等学校にアプローチする施策なども検討し始めています。</p>
<p>また、女子学生に当社で働くイメージを持ってもらうためのワークショップを開催したり、インターンシップの拡充を図ったりしています。</p>
<p>さらに理工系の女子学生が少ないという課題については、技術職やDXに興味・素養があれば、理工系出身でなくとも、入社後にその職種を担えるよう育成する制度を打ち出せないか議論しています。</p>
<p><strong>――文系出身で理工系の知識がなくても採用し、入社後に理工系の勉強をしてもらうということですか。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>現在の日本の状況で、採用対象を理工系のみと決めてしまうと、女性の比率や採用数は変わりません。少し違う面から考えていかなくてはいけないと思っています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>イメージが変わったと言われるところまでやり抜きたい</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>――中途採用・キャリア採用についてはどのような取り組みをされていますか。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>中途採用・キャリア採用のマーケットにはそもそも女性が少なく、日本企業と外資系企業で取り合いになっている状況です。そのため、当社に興味を持ってくれる人を早くから発掘して2年ぐらいの期間で関係構築していくことも大切です。しかるべきタイミングでその人に当社への転職を検討いただく、こちらで適切なポジションが作れるときに入社していただくようなプロジェクトも始めています。</p>
<p>当社は2018年ぐらいから全社の変革を推進しており、企業風土もビジネスのあり方も進化したと自負しています。他社で働くために退職した人材にコンタクトして復職していただく取り組みもスモールスタートですが実を結び始めました。</p>
<p>退職した人にNECの現在のI&amp;Dの話をすると「そこまで変わってきたのか」と驚かれます。ですから、当社が取り組んでいることをもっと伝えたい。ブランディングの発信をここ2～3年してきていますが、良くも悪くも「意外ですね」と言われる。まずは「意外ですね」と知ってもらい、NECはイメージが変わったと言われるところまでやり抜きたいと考えています。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/interview/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/01/31/02.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サクセッションプランニングをもとにKPIを設ける</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>――I&amp;Dの取り組みについて、社内への浸透はどのようにされていますか。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>濃淡はあれど、理解されていると思います。ただ、理解はしているが、業務に戻るとI&amp;Dと実務が離れてしまうときがあるので、しつこいくらいに「これで本当にチームとして活性化しますか」「グローバルでやっていけますか」と質問を投げかけています。</p>
<p>現場に近いほど、熱量が届いていないかもしれません。ジュニアマネジャーが一番チームメンバーに対する影響が大きいのですが、「会社は良いことを言っているけど自分の周りでは全然動いていない」と社員がフラストレーションを募らせることがないように横からいろいろな刺激を与えています。成功事例はいくつか出てきていますので、それを広く共有し、さらなる成功事例を増やしていきたいです。</p>
<p><strong>――経営層への多様性を考えるとき、サクセッションプランニング(後継者育成計画)においてもI&amp;Dの取り組みや人材育成のあり方が重要になってきます。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>3～5年先のサクセッションプランニングの候補者も多様性を持たせるよう、今年度からKPIを設けました。まず自分自身の直属部下のポジションのうち4割以上に必ず多様性人材(女性・外国人・キャリア採用)の名前が入っていること。それから、今年度中に採用・登用するミドル・ジュニアレベルのマネジャーのうち25%を必ず多様性を持つ人材にすることをKPIに入れています。</p>
<p>当社ではトップ・オブ・トップというハイポテンシャル人材を約100人選抜しています。その中のシニア・ミドルの女性マネジャーは約20人います。この20人に対して役員レベルのスポンサーをつけて1対1で業務のシャドーイングをする、キャリアのアドバイスをするなどをしています。少ない人数ではありますが、効果が出始めているという感触をもっています。</p>
<p>またアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は誰にでもあるものですが、COVID-19の流行以前から、社長や役員レベルには順次、アンコンシャス・バイアス・トレーニングを実施しています。まずは組織を担うリーダー格からトレーニングをしていき、アンコンシャスバイアスをきちんと意識し、それを排除しながら組織マネジメントに携わってもらえるように進めてきています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>フレキシブルな働き方は社員にとっても会社にとってもWin-Win</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>――「適時適所適材の実現」のためにジョブ型人材マネジメントを推進されていますね。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>私たちはジョブ型人材マネジメントというのはエコシステムだと考えています。つまり、個々の仕事のあり方を、多様に連関する会社全体の業務のなかで認識するということです。経営戦略に基づいた組織デザインをしたうえで、各ポジションのミッションは何なのかを策定して結果を出し、その結果に基づいて評価する。一連のエコシステムとして全てつながっています。</p>
<p>2018年頃から順次取り組んできましたが、2022年から2023年では報酬やグレードの部分に踏み込んでいます。これによりジョブ型人材マネジメントのエコシステムが強化されます。</p>
<p><strong>――障がい者の雇用は貴社グループ会社含め2.39%と公表されていますが、選考基準が一般社員と同様とされており、少し厳しいのではないかと思いました。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>障がい者の人たちにも当社の理念に共感してもらい、業務のなかでさまざまに学び能力を発揮してもらいたいと考えています。だからこそ採用方法は同じとしています。入社後も処遇・キャリアアップにおいて区別はありません。もちろん、さまざまなハンディキャップにより難しい業務があるかと思いますが、テクノロジーを使ってこういうことができるとか、それらを組み合わせることによってこんなビジネスができるとか、可能性を模索していきたいと思います。</p>
<p>障がい者の方々につきましては、私たちはその方々の自立・自活に向けたサポートをしていきたいと思っています。おそらく今後も法定雇用率は上がっていくので、そこに先駆けて雇用数を上げていく必要があり、そのために職域拡大をしているところです。</p>
<p><strong>――在宅勤務は多様な働き方のひとつだと思いますが、貴社にとっての影響やメリット・デメリットを教えてください。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>在宅勤務やリモートワークの技術は正に当社のビジネスのひとつですので、こうした働き方はCOVID-19の流行以前から導入していました。メリットは、育児中の社員のうち、育児時短勤務制度の利用者数が減ったことです。勤務時間はコアタイムなしのスーパーフレックス制とし、合計時間で見ています。通勤にかけていた時間を業務に充てられるようになり、育児等の理由で業務を一時的に離れることもできるようになったため、フルタイム勤務に戻す社員が増えたのだと考えます。社員個人としても会社としてもメリットになり、Win-Winだと思います。</p>
<p>一方でこうした働き方には自己規律が大事になります。会社としてフレキシブルな働き方を提供する反面で、社員は自分を律してパフォーマンスを下げず、むしろ上げていくことが大切になります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>自分らしさを発揮できる職場環境に</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>――最後に佐藤さんがI&amp;Dを推進するうえで大切にしていることについて教えてください。</strong></p>
<p><strong>佐藤：</strong>やはり目標は同質性の高い組織からの脱却です。グローバルで多様なバックグラウンドを持つ人たちがNECという会社に惹きつけられて入社し、長く働き続け、活躍したいと思うこと。それができる会社にしていきたいです。</p>
<p>それにはいかに自分らしく働いてもらえるかが大切です。自分らしさを発揮できる職場環境であり、それが受け入れられること、それにより会社も成長していく、そんなサイクルを回すようにしたいです。それから、世界を視野に入れて優秀な人材を獲得していくことを考えなくてはなりません。市場はグローバルなのに、日本語を話せる人から採用するのではもう勝負が見えていますから。</p>
<p>写真・高橋慎一</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

<div class="c-interview_card">
  <div class="c-interview_card__title">interviewee</div>
  <div class="c-interview_card__inner">
        <div class="c-interview_card__thumb">
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    </div>
        <div class="c-interview_card__body">
      <div class="c-interview_card__name">佐藤 千佳(さとう・ちか)</div>
      <div class="c-interview_card__company"><p>NEC コーポレート・エグゼクティブ</p>
</div>
      <div class="c-interview_card__text">
      <p>1982 年住友電気工業株式会社入社、人事部門に勤務。その後米国在住を経て、帰国後外資系ベンチャー企業。1996～2011 年 GE にて、組織開発、採用、HR ビジネスパートナーおよび企業買収・統合業務等を担当し、HR リーダー職を複数ビジネスで経験。2011 年～2016 年日本マイクロソフト株式会社 執行役人事部長、2016 年ノキアにて日本・東アジア地区 HR リーダーを経て、2018年 4月にNECにカルチャー変革本部長として入社。その後人材組織開発部長を担い、2022年4月より現職に就任。</p>
      </div>
    </div>
  </div>
</div>

サステナブル・オフィサーズ

インタビュー

多様な人材を生かし、同質性の高い組織からの脱却を目指す ――NECが経営戦略として取り組むI&D

松島香織

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/01/31/01_0720.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>従業員の自律的なキャリア形成支援に取り組む企業を表彰する「グッドキャリア企業アワード2022」の表彰式とシンポジウムが1月24日に開催され、16社が受賞した。「大賞」に雪印メグミルクやトラスコ中山など５社が、「イノベーション賞」に明治安田生命保険、富士通、NTTコミュニケーションズなど11社が選ばれた。アワードは厚生労働省が主催し、企業の理念や取り組み内容などを広く発信し、キャリア形成支援の重要性を普及・定着させることを目的に2012年度から実施。2年ぶりとなった今年度は前回の約2倍に当たる89社から応募があった。(松島香織)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>不確実性が高いからこそ、従業員の自律的な学びが必要</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>シンポジウムでは審査委員長を務めた法政大学経営大学院教授の藤村博之氏が登壇し、「キャリア開発とは売れる能力、つまり企業が必要とする能力を維持・向上させていくこと」だと説明した。「時代はますます不確実性が高まり、5年、10年後にどういった能力が必要とされるのかわからない。だからこそ従業員個人の自律性が必要になる」という。</p>
<p>ただし、キャリア形成は従業員任せにするのではなく、企業もどういう能力が必要かを考え、機会を提供し、支援することが重要だ。そうしてこそ、「結果として企業利益は上がる。本アワードの受賞企業は当然だが、それができている」と藤村氏は強調した。そしてアワードへの応募は、「書類を作る過程で自分たちがやっていることが理解できる、とてもいい機会」だと結んだ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人事制度を抜本的に見直し、エンゲージメントで現場の声を制度に反映――トラスコ中山</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>大賞を受賞したトラスコ中山は、さまざまな部署を経験させ社員を育成するジョブローテーションを実施しているが、逆にキャリア形成がしにくく、さらに専門的なレベルアップに挑戦する機会が少ないといった課題があった。そこで人事制度を見直し、HRサポート課の新設、面談を活用したタレントマネジメントシステムの運用、エンゲージメントサーベイ(エンゲージメントを測定し組織の状態を可視化する診断ツール)により現場の声を制度に反映するなど改善に取り組んでいる。</p>
<p>パネルディスカッションに登壇した同社人事部部長の喜多智弥氏は「当社の人事は人事管理がメインで企業戦略に結び付けていなかった」と反省する。新たな取り組みに関して「人に関して正解はない。きちんと社員ひとり一人が自分事として捉えられるよう意識して伝えている」と話した。</p>
<p>エンゲージメントサーベイは同社では初めての取り組みであり、社員の声を聴いて改善し続けている。喜多氏は「定年まで頑張るのではなく気が付けば定年まで働いていた、が理想。キャリアプランは全員があるものではなく、わからないも時もあり、しかも個人の中で価値観は変わる。どんな環境でも社員のキャリア形成を支援していきたい」と力を込めた。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業に大小は関係ない、京都からロールモデルを目指す――ナンゴ―</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ナンゴ―は京都・宇治市にある15人の会社で、汎用機械器具などを製造している。2018年にイノベーション賞を受賞したが、経営理念である「仕事を通じて私たちは向上する！！」に沿ってプロジェクトグループ室を設置し、自主的な勉強会の実施や生産性効率や職場環境の改善などに継続的に社員が関わっていることが評価され、今回大賞となった。</p>
<p>同社代表取締役の南郷真氏は、大手企業を経てナンゴ―を引き継いだ時、それまでいた大企業とでは人材スキルが違うことに愕然としたという。だがすぐに社員それぞれに学びたい気持ちはあるが、その機会がなかっただけだと気づき、最終学歴ではなく「最終学習歴」を更新し社員の人間力を高めることに注力してきた。</p>
<p>「自分の意志でSDGsの講習を受けた社員が勉強会でほかの社員に情報共有し、会社としてものを無駄にしない取り組みにつながった。一人の学びは確実に広がる」と自発的な社員の行動に嬉しそうだ。</p>
<p>そうした社員の行動が全社員のことを考えて積極的に活動する会社風土につながり、さらに大きな波及効果もあった。会社としてSDGsを意識することにより、地域や他社との連携・コラボレーションが実現しているという。南郷氏は「こうしたことは社員の人間力が高くなったからできたこと。企業に大小は関係ない。今後も学びあいを深めながら当社がロールモデルになりたい」と力を込めた。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>福祉の現場から、明るい話題を発信したい――社会福祉法人平鹿悠真会</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>社会福祉法人平鹿悠真会は3回目の応募にして、今回初めてイノベーション賞を受賞した。秋田県横手市にある同法人は高齢者福祉事業に携わっており、職員の平均年齢は43歳、約8割が女性だ。同法人特別養護老人ホーム悠西苑の施設長、辻田誠氏は「女性職員が多く、長く働いてもらうために家庭と仕事を両立することができる制度が必要だと考えた」と話す。</p>
<p>職員が主体的にキャリアを積み上げることを主軸に考え、産休育休希望者に復職後の託児所利用など細かく聞き取り、不安がないように復職をサポート。また国家資格に挑戦する職員には情報提供や費用助成などで支援している。こうした取り組みにより、復職率は100％を達成し、介護職員21人全員が介護福祉士の資格を保有するまでになった。</p>
<p>「介護施設は離職率が高く、業務内容も過酷だと社会からネガティブな見方をされがち。小さな組織なのでこうした取り組みができたのかもしれないが、介護職でもキャリアを積み重ね長く働くことができる。私たちの受賞が明るい話題になれば」と辻田氏は期待を込めて話した。</p>
<p>「グッドキャリア企業アワード2022」の受賞団体は以下のとおり。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>【大賞　５社】<br />・イデックスビジネスサービス：福岡市、その他の小売業(249人)<br />・えびの電子工業：宮崎県えびの市、電子部品・デバイス・電子回路製造業(690人)<br />・トラスコ中山：東京・港区、機械器具卸売業(2996人)<br />・ナンゴー：京都府宇治市、はん用機械器具製造業(15人)<br />・雪印メグミルク：東京・新宿区、食料品製造業(4221人)</p>
<p>【イノベーション賞　11社】<br />・NTTコミュニケーションズ：東京・千代田区、通信業(9364人)<br />・コカ･コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス：東京・港区、その他のサービス業(2575人)<br />・西部ガス絆結：福岡県春日市、その他のサービス業(25人)<br />・ダイムワカイ：京都市、職別工事業(90人)<br />・トゥモローゲート：大阪市、映像・音声・文字情報制作業(40人)<br />・社会福祉法人 平鹿悠真会：秋田県横手市、社会保険・社会福祉・介護事業(37人)<br />・富士通：東京・港区、情報サービス業(36216人)<br />・明治安田生命保険：東京・千代田区、保険業(47415人)<br />・ヤフー：東京・千代田区、インターネット附随サービス業(7905人)<br />・洛北義肢：京都市、業務用機械器具製造業(74人)<br />・LAPRAS：東京・品川区、情報サービス業(41人)</p>
<p>※(　)内は従業員数</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「グッドキャリア企業アワード2022」厚生労働省ホームページ<br /><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30058.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30058.html</a></p>
</div>
<p></div>
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「グッドキャリア企業アワード2022」大賞に雪印メグミルクやトラスコ中山など 従業員の自律的なキャリア形成を支援

一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント

SBコミュニティニュース

「人的資本の好循環」を生み出す街に！ 『日本橋サステナブルサミット2022』レポート

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<div class="elem_paragraph right">
<p>SB-J コラムニスト・細田 悦弘　新春特別寄稿</p>
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<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/01/10/hosoda800_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Photo by <a href="https://unsplash.com/@iamchang?utm_source=unsplash&amp;utm_medium=referral&amp;utm_content=creditCopyText">Chang Duong</a> on <a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/Sj0iMtq_Z4w?utm_source=unsplash&amp;utm_medium=referral&amp;utm_content=creditCopyText">Unsplash</a></sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>変わりゆく時代の年頭にあたり、アスピレーション(Aspiration：強い思い、向上心)のもとに、志高く仕事始めを迎えたビジネスパーソンも多いことだろう。その「志」を持ち続けて日々を過ごせば、品格・人格が陶冶(とうや)され、人徳を蓄えることができよう。これは企業にも当てはまる。企業の志、すなわち社会的存在意義ともいえるパーパス(Purpose)を標榜し、その実現に立ち向かうことで社格・社徳が醸成される。結果として社会からの信頼や支持が得られ、企業ブランド向上につながる。ところが、ここで留意すべきは、個人は自分ひとりが「志」を誓えば済むが、企業の場合は、経営層はじめ従業員すべてが「パーパス」を共有し腹落ちしていなければ、日々のビジネスや企業行動には反映しにくい。その際、従業員は旧来とは異なり、今や『身内』ではなく、ステークホルダーと位置付けられることを肝に銘じ、お仕着せではなく『共感』を得る働きかけをすることが決め手となる。</p>
<p>サステナビリティが経営戦略の中核に据えられる今日、イノベーション・トランスフォーメーションが鍵となる。それを成し遂げる従業員は、時代の変化への感性を研ぎ澄まし、自律的・主体的に取り組むことが不可欠である。それには従業員が高いエンゲージメントのもと、パーパスへの共感(個々の志と会社の目指すところとのシンクロ)により、想像力や創造力等の能力を存分に発揮する必要がある。従業員はコストとしての人的資源ではなく、投資をして高める「人的資本」としての人事戦略が求められる。それがサステナビリティ経営と連動することにより、持続的成長と中長期的な企業価値向上へのプラットフォームとなる。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「人的資本」重視の潮流と背景</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業が抱える人材の価値を示す「人的資本」という言葉がよく聞かれるようになった。<br />2006年、国連のコフィー・アナン元事務総長が提唱し成立した「責任投資原則(PRI：Principles for Responsible Investment)」に署名した国内外の投資家たちの思考と投資行動が、欧米の人的資本の開示ルール変更を大きく促した。「人的資本」を大切に育み、それを持続成長と中長期的な企業価値向上につなげていることを情報開示していくことは、今後の日本企業の経営のあり方を大きく変容させていくだろう。<br />人的資本は従業員が持つ知識やスキルなどを資本とみなしたものである。教育や訓練などで蓄積され、新しい価値創造やイノベーションの惹起につながる。サステナビリティを軸とする新しい時代を迎え、優秀な人材を確保したり育成したりできるかが企業の競争力を大きく左右するようになっている。</p>
<p>リクルートが実施した調査「人的資本経営の潮流と論点 2022」によれば、世界的に人的資本が注目されるようになった潮流や背景として、次の4つの視点が挙げられる。<br />この視点のポイントとともに、筆者の補説を付してみたい。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>① <strong>社会的視点</strong>… 従来の株主資本主義から脱却し、ステークホルダー資本主義への動き。ESGや持続可能な社会づくりに向けたコミットメントが求められる。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>〈補説〉<br />ステークホルダー資本主義は、決して株主を蔑ろ(ないがしろ)にするわけではない。むしろステークホルダーにきちんと目配せすることが、持続的成長を促し、結果として株主に中長期のリターンをもたらすということに覚醒したといえる。さらには、従業員はすでに『身内』でなく、ステークホルダーとして捉える必要がある。日本的経営の『三種の神器』が尊ばれた時代はとうに過ぎ去り、従業員は『就社』ではなく、１人ひとりが自らのキャリアを築き上げるという視点から『就職』をしているという認識が重要である。会社選びに際しては、業績が良い会社であることは大事だが、その前に「社会の役に立っている会社なのか」「自分を成長させてくれる会社なのか」という視点が台頭してきている。従業員を含む社会(ステークホルダー)に目配せすることが、持続的成長と中長期的な企業価値向上を担保し、結果として株主への中長期のリターンにつながる。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>② <strong>経済的視点</strong>… 投資家目線の企業評価のモノサシが財務から非財務へシフト。投資先を選別する判断指標として「見えざる資産」を重視する傾向が強まっている。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>〈補説〉<br />企業を評価・選別するにあたり、非財務が重視されるようになった。その中核が「見えざる資産」(無形資産)とされる。企業価値を増大させるエンジンが有形資産から無形資産となってきており、人的資本は無形資産の中心的な位置づけとなっている。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>③ <strong>戦略的視点</strong>… DXをはじめとした産業構造の転換期において、企業はイノベーションの創出が不可欠であり、イノベーションを担う従業員がいきいきと創造的に働く環境を整備することが重要課題である。</p>
</div>
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<div class="elem_paragraph">
<p>〈補説〉<br />サステナビリティを希求すれば、イノベーション・トランスフォーメーションを避けては通れない。そのためには、従業員が受け身ではなく自律的・主体的に取り組み、創造力や粘り強さ等を如何なく発揮する必要がある。したがって、個々の価値観や仕事観とパーパスを融合させるような働きかけをすることにより、ロイヤルティ(帰属意識)やモチベーションを高めることが基盤となる。その上で、DXにまつわるリスキリング、ダイバーシティ・エクイティ＆インクルージョン(DE&amp;I)、健康経営等を推進することが、サステナビリティ経営の成否を分かつ戦略的な人的資本投資となる。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>④ <strong>世代価値観の視点</strong> … ミレニアル世代やZ世代、それに続くアルファ世代は社会的な感性が高い。環境問題や社会課題に対して非常に関心が高いといわれている。こうした若い世代の社会的価値観を企業経営に織り込んでいくことも、重要な経営課題となっている。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>〈補説〉<br />社会課題への関心が高い若い世代(主にZ世代)に、いかに自社の「社会性」を訴求するかが、求心力や帰属意識に影響する。結果として、離職率の低下(リテンション強化)をはじめ、モチベーションに資する。サステナビリティ時代にふさわしいパーパスを掲げ、それに個々の従業員の目指す姿が折り重なることによって、高い目標(ハードル)に挑む達成意欲を引き出すことが重要である。それにより、有為な人材の獲得(採用ブランド向上)にもつながる。人的資本への投資は、経営戦略の根幹である。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>気になる、『開示ありき』</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>近年、企業は幅広い経営情報の開示が要請されるようになった。「人的資本」も重要テーマの一つだ。欧米を中心に従業員を「付加価値を生み出す資本」と捉える動きが広がっており、投資家が財務情報だけでは測れない企業の将来に向けた本質的な価値をみる材料となる。サステナビリティを重視する時代においては、人的資本に関する情報開示に関心が高まるのは必然の流れだ。人を重んじる企業が求められており、それが企業のゴーイング・コンサーン(事業を継続させ、持続的に成長させていく)に通ずる。</p>
<p>我が国でも本年から、売上高や利益、資産・負債といった財務に関する情報だけでなく、経営のサステナビリティに関する項目も非財務情報として有価証券報告書への記載が必要になる。この非財務には気候変動対策や人的資本関連がある。上場企業など約4000社が対象で、3月期決算企業の報告書から適用される。人材面では、人材の育成方針や職場環境の整備など、人的資本の充実に向けた方針や施策、指標などの開示が求められる。</p>
<p>こうした流れを受け、ここにきて『開示』の対応に翻弄されている企業が散見される。人的資本の開示の強化を受け身で捉え、『開示しなければならない』という義務感・切迫感のもと、開示自体を目的としてしまう様子がうかがえる。いきおい、『やっつけ仕事としての開示』となりがちである。すると、開示義務のあるチェックリスト等の項目だけを埋めようとし、本来の人的資本による企業価値向上の道筋(ストーリー)が描けず、外部評価も伴わなくなる。『木を見て森を見ず』に陥りかねない。</p>
<p>『開示ありき』に気をとられすぎて、いきなり一般的によく見られるチェックリスト等を参照するような付け焼き刃的な対症療法に没入することには注意が必要だ。開示のための開示ではなく、まずは投資家をはじめとするステークホルダーの関心や狙いがどこにあるかをきちんと把握した上で、開示による高評価を獲得するために、個別の課題に対して精緻に対応することが重要である。</p>
<p>パーパスのもとに自社の将来像を描き、その実現のために非財務情報がどのように寄与するのかを得心して実践する。それを自信をもって開示するという思考法が大事だ。なぜならば、投資家は個別アイテムの達成状況もさることながら、将来の企業価値向上に向けたストーリーをしっかりと吟味したいからだ。</p>
<p>その骨子は下記のとおりだ。<br />企業価値に占める人材を中心とした無形資産の割合が高まっており、企業価値を測る上で人的資本の価値をみることが重要となっている。PRIやスチュワードシップコードに基づいた中長期のリターンを求める投資家にとって、持続的成長・中長期的な企業価値向上を果たす企業を見極めたいのは自明である。そのための重要成功要因が無形資産であり、その中核が人的資本ということなら、自ずと経営戦略と人材戦略(人的資本にいかに戦略的に投資するか)が紐づくはずだ。</p>
<p>この文脈を「目的-目標-手段」として端的にまとめると、以下のとおりである。</p>
<p>・<strong>目的</strong> …<u> サステナビリティ時代に持続的成長・中長期的な企業価値向上を果たすために、</u><br />・<strong>目標</strong> …<u> 人的資本をはじめとする無形資産を充実させる</u><br />・<strong>手段</strong> …<u> それを非財務情報として、投資家はじめマルチステークホルダーに開示する</u></p>
<p>駆け込み寺的に専門機関やコンサルティングファーム等に頼る前に、じっくりと『開示』の本質的な意義や目的(WHY)を押さえておくことを推奨したい。開示はきわめて重要だが、目的ではなく『手段』として捉え、開示の先にある持続的成長・中長期的な企業価値向上につなげることが本来の『目的』である。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業は人なり</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業の価値創出の原動力が有形資産から無形資産に大きく重心がシフトする中、人的資本は日本企業の競争力の最後の切り札といっても過言ではない。脈々と受け継がれてきた「企業は人なり」「人は城、人は石垣」といった経営哲学を、「人的資本経営」によって現代バージョンにアップデートできれば、世界における競争優位の巻き返しを図る日本企業にとって福音となることであろう。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/01/10/hosoda.jpeg"/></div>
<div class="elem_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>細田 悦弘 　(ほそだ・えつひろ)<br />公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師<br />一般社団法人日本能率協会 主任講師</p>
<p>1982年 メーカー系マーケティング会社 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとして活躍中。サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において、豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」が魅力の一つである。</p>
<p>一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、経営品質協議会認定セルフアセッサー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員、 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。</p>
<p>◎専門分野：サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史</p>
<p>◎著書 等： 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」：連載コラム(2016.6～)など。</p>
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/columnist/03.html">コラムニストの記事一覧へ</a></p>
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今なぜ「人的資本」なのか――「開示」に終始せず、サステナビリティ経営との連動を根幹に

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