経営 management

ガバナンス

情報開示

パートナーシップ

イノベーション

グリーンウォッシュ

パーパス

ステークホルダー

ブランド戦略

人的資本経営

マーケティング

川村 雅彦

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第12回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/top_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1202350_2675.html">前回(11)</a>はタクソノミー3兄弟の全体像と長兄たるタクソノミー規則(TR)の最新状況、そして運用機関と大企業への影響を解説しました。今回は3兄弟の一つ、<strong>「資産運用事業者等のサステナビリティ情報開示に関する規則」(SFDR)</strong>による新しい開示規制とその影響を解説します。</p>
<p>特にグローバル展開する日本の運用機関にとって、<strong>SFDRへの対応にはかなり負担感がある</strong>との声があります。なぜならば、これまで投融資判断においてあまり考慮・開示してこなかった<strong>サステナビリティ・リスク</strong>が根幹にあるからです。それは自ずと日本企業にも跳ね返ってきます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>SFDR(サステナビリティ情報開示規則)は、誰に何を求めているのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>SFDRは、<strong>運用機関</strong>に対して<strong>サステナブル投資(ESG投資)に関する情報開示</strong>を求めています。</p>
<p>・投資判断における<strong>サステナビリティ・リスクの統合方針</strong><br />・投資判断と投資商品における<strong>サステナビリティ(環境と社会)への悪影響の考慮</strong><br />・サステナビリティ・リスクと<strong>事業報酬</strong>の連動<br />・投資商品の<strong>目論見書と定期報告</strong>で環境性・社会性の開示</p>
<p>⇒SFDRのキモは、運用機関による<strong>投資商品のサステナビリティ・リスクの情報開示</strong>を通じて、<strong>投資先企業の気候・環境・社会課題に対する考慮</strong>を徹底することです。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■SFDRの狙いと全体像</strong></p>
<p><strong>●SFDRの目的と要点</strong></p>
<p>SFDRは、運用機関のサステナブル投資(ESG投資)の方針と、取り扱う投資商品・サービスのサステナビリティの情報開示に関する規則です。SFDRはTRの「グリーン・タクソノミー概念」に基づくもので、その目的はサステナブル投資の透明性向上にあります。具体的には二つです。</p>
<p><strong>①最終投資家が判断しやすい環境を整備すること、②投資商品のグリーンウォッシュを防止すること</strong></p>
<p>そのためにSFDRは運用機関に対して、以下の二点を新たな開示内容として求めています。</p>
<p>・投資の意思決定において、<strong>サステナビリティ要素(環境と社会)をリスク・マネジメントに組み込む</strong>方針と方法、および結果の開示<br />・運用機関自身と投資商品・サービスにおける、<strong>サステナビリティへの主な悪影響</strong><sup>※1</sup>の考慮</p>
<p><sub>(※1) Principal Adverse Impacts on sustainability factors(略称PAI)：投資の意思決定に伴う、気候・環境・社会要素への重要なネガティブ効果(範囲、深刻さ、発生の可能性と規模)。あるいは、投資商品のポートフォリオの構成銘柄(投資先企業群)がサステナビリティ要素にもたらす主な悪影響。詳細は後述。</sub></p>
<p><strong>●SFDRの適用対象者</strong></p>
<p>SFDRの適用対象者は運用機関全般ではなく、正確には<strong>資産運用事業者</strong>と<strong>投資助言事業者</strong>です。</p>
<p><strong>・資産運用事業者(financial market participants)<br />機関投資家などに資産運用商品・サービスを提供する運用機関。</strong>投資商品を扱う銀行・証券・保険会社、投資運用会社(ポートフォリオ・マネジメント)、企業年金基金、年金商品提供者、オルタナティブ投資運用会社、個人年金商品提供者などを含む。</p>
<p><strong>・投資助言事業者(financial advisers)</strong><br /><strong>機関投資家などに投資助言を行う運用機関。</strong>投資商品を扱う保険会社・保険仲介業者を含む。●SFDRの開示項目と開示媒体</p>
<p><strong>●SFDRの開示項目と開示媒体</strong></p>
<p>SFDRの開示項目は、<strong>事業者レベルと商品レベル</strong>に大別されます(図表29、30)。いずれのレベルでも、投資の意思決定における「<strong>サステナビリティ・リスク統合の方針</strong>」(第3条、第6条)と「<strong>サステナビリティへの主な悪影響</strong>」(第4条、第7条)の開示が求められます。</p>
<p>さらに事業体レベルでは「<strong>サステナビリティ・リスクと事業報酬の整合性</strong>」(第5条)。商品レベルではグリーンウォッシュを防止すべく「<strong>契約前開示(目論見書の交付)</strong>」(第6条～第9条)や10年分のデータ比較を含む「<strong>定期報告(年次報告)</strong>」(第11条)が求められます。開示媒体については、事業者レベルではウェブサイト、商品レベルでは開示項目に応じて異なります。</p>
<p><strong>商品はサステナビリティ考慮の程度で3分類</strong>され、「環境性・社会性を促進する投資商品(8条ファンド)」と「サステナブル投資が目的の投資商品(9条ファンド)」だけでなく、ESGを反映しない伝統的な投資商品(6条ファンド)も開示の対象となっています(稿末の【補足1】参照)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表29：「資産運用事業者等のサステナビリティ情報開示規則(SFDR)」の全体構成</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/29_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(注)SFDRの正式名称：Regulation(EU)2019/2088 on Sustainability-related Disclosures in the Financial services sector<br />(資料)EU官報「SFDR」を基に筆者作成<br /><a href="https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32019R2088&amp;from=EN">https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32019R2088&amp;from=EN</a><br />※リンク先は、外部サイトとなります</sub></p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表30：SFDRによる事業体・商品レベルの開示内容</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/30_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(資料)EU官報「SFDR」を基に筆者作成</sub></p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■SFDRによるサステナブル投資(ESG投資)の定義</strong></p>
<p>くどいようですが、大事なのでここでサステナビリティに関するSFDRの定義を確認しておきます。要は、<strong>環境と社会の考慮</strong>ですが、SFDRの狙いは投資商品のグリーンウォッシュを排除することにありますので、かなり厳密に定義されています(稿末の【補足2】参照)。</p>
<p><strong>●「サステナブル投資」の定義(第2条(17))</strong></p>
<p><strong>・環境課題の解決に貢献する経済活動への投資：</strong><br />エネルギー、再生可能エネルギー、原材料、水と土地の使用、また生産時の廃棄物発生や温室効果ガス排出などに好影響を及ぼす資源効率指標で計測できる経済活動に対する投資、あるいは生物多様性やサーキュラー・エコノミーに好影響を及ぼす経済活動に対する投資。</p>
<p><strong>・社会課題の解決に貢献する経済活動への投資：</strong><br />格差の解消に寄与し、社会的結束と労働関係を促進する投資、あるいは人的資本や経済的・社会的に恵まれない地域社会を改善する投資。ただし、①他の社会目的に大きな損害を与えないこと(DNSH基準)、②投資先企業が、健全な経営構造、従業員関係、従業員報酬、納税に関して優れたガバナンス慣行を実践していること。</p>
<p>⇒TRのミニマム・セーフガード</p>
<p><strong>●「サステナビリィ・リスク」の定義(第2条(22))</strong></p>
<p>それが顕在化した場合に、<strong>投資価値に対して実際のまたは潜在的な重大なマイナスの影響</strong>を引き起こす可能性がある、<strong>環境・社会・ガバナンスの事象または状況</strong></p>
<p>⇒投資のESGリスク</p>
<p><strong>●「サステナビリィ要素」の定義(第2条(24))</strong></p>
<p>気候・環境、社会、および従業員、また人権尊重、腐敗・贈収賄防止にかかわる事象</p>
<p>⇒環境と社会のサステナビリティ</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>SFDRで開示すべきサステナビリティ情報はどのようなものか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■SFDRの細則(RTS)による開示すべきサステナビリティ情報</strong></p>
<p>SFDRに基づき、2020年4月に<strong>ESAs(銀行、証券、保険・年金の金融監督当局)</strong>※2の合同委員会が、サステナビリティ情報開示の内容、方法論、表示に関する細則である「<strong>技術規制標準(Regulatory Technical Standards：RTS)</strong>」のハブコメ用法案※3を公表しました。その後、RTS最終案を2020年12月に公表予定でしたが、実際には2021年2月となり、この5月には欧州委員会による採択の予定です(本稿執筆時点では確認されず)。RTSの適用開始は2022年1月と見込まれます(<strong>事業体レベルの最初のウェブ開示※4は2023年6月</strong>)。</p>
<p><sub>(※2)ESAs：the European Supervisory Authorities(欧州金融監督当局)＝銀行局、証券局、保険・年金局<br />(※3)ESAs「Joint Consultation Paper：ESG disclosures～Regulatory technical standards」2020年4月<br />(※4)欧州に拠点のある日本の運用機関にとっては、「SFDR対応の負担が大きい」との声もある。</sub></p>
<p>図表31は、RTS最終案による<strong>資産運用事業者が開示すべき「サステナビリティへの悪影響」</strong>の全体像です。例えば、サステナビリティ・リスクに関するデューデリジェンス方針などの「声明」のウェブ公開(第4条)、投資先企業を検討する際の気候・環境・社会の具体的な指標(第6条)やエンゲージメント(第8条)が明記されています。なお、タクソノミー関連では珍しく、<strong>詳細なフォーマットが用意</strong>されています。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表31：資産運用事業者が開示すべき「サステナビリティへの悪影響」の全体像</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/31_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(注)具体的な開示指標のテンプレートである【表1】【表2】【表3】の詳細は図表32参照<br />(資料)欧州委員会、ESAs合同委員会「RTS最終報告案」(2021年2月)を基に筆者作成<br /><a href="https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/jc_2021_03_joint_esas_final_report_on_rts_under_sfdr.pdf">jc_2021_03_joint_esas_final_report_on_rts_under_sfdr.pdf (europa.eu)</a><br />※リンク先は、外部サイトとなります</sub></p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表32に示す【表1】の基礎指標(義務)と【表2】【表3】の追加指標(任意)を見ると、これまで<strong>日本の運用機関がほとんど開示していないネガティブ情報が多い</strong>ことがわかります。例えば、気候・環境面では「化石燃料関連企業」や「パリ協定の目標と整合的でない企業」への投資比率、社会面では「UNGC原則やOECD行動規範の違反企業」への投資比率、「人権デューデリジェンス方針の欠如」です。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表32：資産運用事業者が「サステナビリティに対する悪影響」として考慮すべき指標</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/32_1_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/32_2_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(注1)表中の朱書は、<strong>ネガティブ情報として日本の運用機関には馴染みのない開示項目</strong>である。<br />(注2)国債と不動産の開示指標は割愛した。<br />(資料)欧州委員会、ESAs合同委員会「RTS最終報告案」(2021年2月)ANNEXⅠを基に筆者作成</sub></p>
</div>
<p><a name="【補足1】" id="【補足1】"></a></p>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>【補足1】商品化を急ぐ欧州の運用機関(SFDRファンド3分類)</strong></p>
<p>ESG投資の老舗として知られるオランダの資産運用会社ロベコ(日本のオリックス傘下)は、SFDRに対応するべく全社横断的な専任チームを結成して、1年以上前から準備してきたとのことです。既にウェブサイトで情報開示を始めており、SFDRの開示要件に従って、投資ファンドを3分類しています。大半が8条ファンドで、インパクト投資やグリーン・気候ボンドなどの9条ファンドと合わせて95％を占めます。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・6条ファンド：<br />   サステナビリティ・リスクを投資の意思決定に統合せず、かつサステナビリティを促進しない伝統的な主流ファンド(ブラウン？)</p>
<p>・8条ファンド：<br />   他の特性に加え、環境特性や社会特性を促進し、かつ投資先企業が適切なガバナンス慣行に従っている投資商品(ライト・グリーン)</p>
<p>・9条ファンド：<br />   サステナブル投資を目的とする投資商品で、ベンチマークとしてインデックスが指定されたもの(ダーク・グリーン)</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(資料)ロベコのホームページを基に筆者作成<br /><a href="https://www.robeco.com/jp/sustainability/sustainable-finance-action-plan/">Sustainable Finance Action Plan (robeco.com)</a><br /><a href="https://www.robeco.com/jp/key-strengths/sustainable-investing/glossary/article-6-8-and-9-funds.html">Article 6, 8 and 9 funds &#8211; Sustainable investing (robeco.com)</a><br />※リンク先は、外部サイトとなります</sub></p>
</div>
<p><a name="【補足2】" id="【補足2】"></a></p>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>【補足2】「ベスト・イン・クラス」はグリーンウォッシュか？</strong></p>
<p>実は、RTSのハブコメ草案ではかなりの紙面を割いて投資商品のグリーンウォッシュに対する問題意識が述べられていたのですが、最終案ではすべて削除されました。意図的なアドバルーンだったのかも知れません。ここでは、かつて日本のSRI(社会的責任投資)ファンドで多用された、ポジティブ・スクリーニング型の銘柄選択手法である「ベスト・イン・クラス」に対するESAsの見解を紹介します。要約すると、以下の通りです。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ベスト・イン・クラス(ESG取組で同業他社の中では優れている業界内上位の投資銘柄選択)は、業種自体が持続不可能を意味する「ブラウン・タクソノミー」と最終投資家から理解される可能性もあることから、SFDRに基づく開示では、その方法論と根拠データを開示する必要がある。</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><div><sub>（資料）ESAs「RTSパブコメ草案」（RTS草案の10-11頁）を基に筆者作成</sub></div>
</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次回(13回)は、「タクソノミー3兄弟」の最後のLCBR(ベンチマーク規則)、そしてEUタクソノミーの日本企業への影響について解説します。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

コラム

【統合思考経営12】その後の「タクソノミー3兄弟」(その2)

沖本啓一HK

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/13/700.png"/></div>
<div class="m_paragraph">積水化学工業の上脇氏(右上)、法政大学の長谷川氏(右下)、不二製油グループ本社の門田氏(左下)、ファシリテーターの川村氏 </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>パネリスト：</strong><br />上脇 太 積水化学工業 取締役、専務執行役員<br />門田 隆司 不二製油グループ本社 取締役 兼 上席執行役員 最高ESG経営責任者 (C”ESG”O)<br />長谷川 直哉 法政大学 人間環境学部 兼 大学院公共政策研究科 教授</p>
<p><strong>ファシリテーター：</strong><br />川村 雅彦 サンメッセ総合研究所(Sinc) 所長／首席研究員</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ファシリテーターの川村氏は、企業が統合思考経営を実現するために4つの変革が不可欠だと説明する。さらに、統合思考経営とは文字通り「経営課題」であることを強調した。最終的には経営層の意志決定なくして実践することができず、その点で多くの国内企業が課題を抱えている。</p>
<p>登壇したのは積極的に非財務指標の経営への統合を進める積水化学工業の上脇氏、不二製油グループ本社の門田氏と、ファンド構築や投資、企業経営、環境経営について豊富な経験と知見を持つ長谷川氏。それぞれの現状と統合思考経営の実践における課題、解決のための視座・視点を共有した。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/13/IMG_1208.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>非財務情報を組み込んだ指標を経営の軸に</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>積水化学工業は「住宅」、「環境・ライフライン」、「高機能プラスチックス」、そしてエネルギー分野、メディカル分野を扱う「コーポレート」の4つのドメインに持ち、プラスチックスの加工をベースとするメーカーだ。「ESG経営に非常に力を入れている」という同社。上脇氏はその具体的なESG戦略を解説した。</p>
<p>まず同社では、戦略の軸を「社会課題解決貢献力」、「利益創出力」、「持続経営力(資本効率やガバナンス)」という3つに置き、それぞれ財務指標と非財務指標を組み込んだ3軸から、ROIC(投下資本利益率)と資本コストの差を導き出し「セキスイ・サステナブル・スプレッド」として指標化。この指標(差)が増加傾向であればESG経営が円滑にまわっていると判断する。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/13/seki_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>資本コストの設定には工夫がある。従来から財務指標に使われるWACＣ(加重平均資本コスト)だけでなく、例えば将来の人財や環境、DXといった基盤に投資しなければ資本コストが上がるということを社内で独自に指標化し、財務指標と非財務指標を一体として分析しているという。上脇氏は「この変革はCXへの挑戦だ」と説明した。</p>
<p>より実務的な点をクローズアップすれば、社会課題解決力の源泉となる製品に重点がある。同社では2006年から「社内認定制度」を開始。これはNPOの代表や消費者、研究者などの社外アドバイザリーによって、社会課題を解決する製品の認定を行うもの。現在では認定製品が売り上げの約6割だが、将来は8割を目指すという。</p>
<p>メーカーである同社の製品の要は技術だ。「社会課題解決力と収益性が高い製品には、技術を通じたイノベーションが重要だ」上脇氏は説明する。これは直接、同社のPXにも結び付いている。例えば、住宅領域は家屋単体からまちづくりへ。モビリティ領域は自動車中心からドローンや航空機分野への素材提供に。既存の技術を組み合わせながらイノベーションを起こすことで、事業の中身が変化しているという。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>経営層から現場までマテリアリティ特定と対応のための組織を構築</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>不二製油グループは椰子油やパーム油といった植物性油脂、それらの加工製品や業務用チョコレートなどを事業領域とするほか、近年では大豆由来の代替肉や乳代替製品などを開発し、新たな食品分野を開拓している。門田氏は不二製油グループ本社の「C”ESG”O」=ESG経営戦略の責任者だ。同社のGXを中心に事例を示した。</p>
<p>同社は、「社会的・地球的なサステナビリティへの貢献を進めることがブランディングの基礎」として、取締役会の諮問機関にESG委員会を設置しているという。そのメンバーはCEOを含めた全CXO。委員長は門田氏が務め、外部有識者をアドバイザリーに置く。</p>
<p>取締役会はESGのマテリアリティの特定とその対応をESG委員会に諮問。委員会は毎年、マテリアリティの見直しを行い、具体的な対応テーマを定め、その進捗を確認して取締役会に答申している。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/13/huji_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>マテリアリティ、対応テーマは世界のグループ会社に落とし込まれ、毎年改善される。2020年の取り組み事例としては「環境ビジョン2030」の策定や、CO2削減目標におけるSBTi認定の取得、サステナブル調達などだ。門田氏は特に調達について、詳細を語った。</p>
<p>同社が重要視していることは「自社で環境や人権に取り組むだけでは、製品がサステナブルであるとは言えない」という点だ。原材料のサプライチェーン全体が把握・整備されることが非常に重要だという。例えばパーム油は油脂の生産効率が高く、安価な栄養源として世界中で必須の食材だ。しかし、「森林や泥炭地の開発を行って農園を広げたり、出稼ぎ労働者から搾取するという、環境や生物多様性の破壊、人権の問題を起こす生産者も一部に存在する」と門田氏は解説する。</p>
<p>さらに「なぜこのような問題を起こす生産者がいるのか。それを考えて行動をすることも重要だ」と踏み込んだ解決策を模索する。同社はNGOと協力して農家の教育や支援、増収に協力しているという。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>取締役会の実効性が経営の大きな課題に</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2社の事例を踏まえ、長谷川氏は統合思考経営に必要な社内外の人財を活用したガバナンス体制について解説した。</p>
<p>「財務情報と非財務情報」と言えば、それらがまったく別物のようにも感じてしまうが、長谷川氏は両者を「利益の量と利益の質」という視点で説明する。利益の量はROE(自己資本利益率)が重視され、利益の質はESGというかたちで評価する流れが「統合思考経営」と言えるわけだが、最近ではそれらを結び付け「ROESG」という概念を提唱する研究者もいるという。</p>
<p>これらはもちろん企業経営に直接関わる視点であり、ESGのうち「G」が重要になるが、長谷川氏は「Ｇは非常に重要だがわかりにくいため、形式要件だけ揃えばいいという社内の風潮になりやすい」と警鐘を鳴らす。実際この点において、企業と投資家の認識に齟齬があるという。特に国内では、取締役会の実効性の面で投資家の不満があることがデータからもわかる。取締役会の実効性を考える上で重視されるのは、「社会の目」を社内に取り込むための独立した社外取締役だが、ただ設置すればいいというわけではない。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/13/hase_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>社外取締役のあり方を語る上で長谷川氏は「ルール違反を起こさないというコンプライアンス型の『守りのガバナンス』の時代は終わったのではないか」と話す。サステナビリティを目指す社会の中で、企業が「何もしない」ということに歯止めをかける「攻めのガバナンス」が必要になっている。その時、企業の外の感覚、外からの視点を社内に吹き込むことが重要になる。</p>
<p>「例えば脱炭素はガバナンスの一丁目一番地だ。経営判断がなければ脱炭素は進まず、脱炭素の推進ができない企業はESG経営、サステナビリティ経営を実践することが難しい。経営判断が社会に問われる中で、社外の『目』を社内に取り入れながらどう取締役会の実効性をあげていくのかがポイントとなる」(長谷川氏)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「企業の価値とは何か」に向き合う</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ファシリテーターの川村氏は「統合思考の観点から財務非財務の戦略的融合のポイントはどのように捉えているか」と登壇者に投げかけた。これに対し上脇氏は「非常に難しいことだ」とした上で積水化学工業の対応を説明した。同社ではこれまで経営者や取締役の業績評価は財務指標に偏ったスキームだったが、非財務指標と5分にしようとしている。その時にポイントになるのは非財務指標のKPIの設定だと考えたという。</p>
<p>「今まであまり数値化していなかったことをKPIとして、非財務要因に投資をする際にもそれをリターンの判断基準にするというように、可視化していくことが一つのポイントではないかと考えて取り組みを進めている」(上脇氏)</p>
<p>不二製油グループ本社でも同様に財務中心の評価・考え方だったが、「それを変化させようとしている」と門田氏。財務指標の考え方と、社会のリスクやチャンスを考えるESGマテリアリティを並列に置き、両方が企業の課題であることを社内外に示すようにし始めた。KPIの設定では、今はまだ定量化が不十分ではあるが取り組みを促そうとしているという。</p>
<p>さらに門田氏は「投資家の評価を得るために、非財務の結果が財務にどういう影響を及ぼしているかを示す必要があると考えている」と説明。例えばCO2の削減効果がどう財務指標に影響しているか。その相関関係を見つけ、分析して投資家や従業員に示すことができれば、「かなり説得力を持たせられるのでは」と考え方を話した。</p>
<p>これに対し長谷川氏は「非財務要因が財務要因にどのように影響しているかを測ることは、究極のテーマだ」と核心を語った。例えばある企業の株価が上がれば、その要因は「社会要因」「業界要因」「個別銘柄の要因」「その他要因」に切り分けられるが、非財務情報は「その他要因」に内包されてしまい、切り分けが難しい。そこで長谷川氏が示した視点は以下だ。</p>
<p>「本業のビジネスの中で、例えば脱炭素を進めるために事業構造をこう変化させたかということを示せば、結果として本業の稼ぐ力のどこにそれが影響しているかを示すことになるのではないか。具体的な収益への影響よりも、稼ぐためのプロセスとして何をしてきたかを示せば統合思考につながる。</p>
<p>企業活動のそもそもの目的と、それを実現するために財務要素、非財務要素をどう使うかを統合報告書から読み解ければ、投資家も納得するのではないか」(長谷川氏)</p>
<p>上脇氏は「非財務指標を上げるために取り組んだことがビジネスモデルの良化にどう影響していくのかといった、数字以外で語ることも必要ではないかと感じた」とヒントを得た手応えを語った。川村氏は「将来に向けて価値創造をしていくことが統合思考。企業価値とは何かを将来に向けて考えていくことが必要だ」とテーマの本質を明かした。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

SB国際会議

ニュース

サステナブル・ブランド国際会議2021

経済 economy

ESG投資

先進企業はESGを組み込む「統合思考経営」をどう実践しているか

【統合思考経営11】その後の「タクソノミー3兄弟」(その1)

廣末智子

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/02/16/aeon.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>イオンは、同社のプライベートブランドである「トップバリュ」の商品について、原材料の調達から製造、在庫管理、配送、販売までの全プロセスに関わる取引先の従業員から相談や通報を受け付ける「お取引さまホットライン」を開設した。企業がサプライチェーン上で起きている環境や人権問題をいち早く認識し、それに対処する人権デューディリジェンスの取り組みの一環だ。まずは第三者機関が対応に当たる相談窓口に気軽に声を寄せてもらい、内容によってはイオンが解決に動くことも含めて、個々の相談に寄り添った救済を行う「グリーバンスメカニズム」(苦情処理・問題解決の仕組み)の構築を目指す。(廣末智子)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人権上のリスクに救済の手段を　急務だったホットライン</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>同社は商品のサプライチェーン全体に責任を持つポリシーに鑑み、各サプライヤーに法令の遵守や適切な雇用などの人権課題や環境への取り組みを依頼する、独自の「イオンサプライヤー取引行動規範(CoC)」を2003年に制定。各サプライヤーが行動規範に適合した経営を行なっているかどうかを同社の認定監査員らが評価と監査を通じて確認し、各サプライヤーが主体的に改善することで、サプライチェーン全体に影響力を発揮するような体制づくりに注力してきた。</p>
<p>もっとも2019年にこの行動規範を人権デューディリジェンスの観点から見直し、同社のサプライヤーが、さらにその原材料の仕入れや調達を行なっているサプライヤーへと対応を要請していくことを強調した内容へと改定する中で、いくつかの課題が浮かび上がった。例えば、それまで生鮮商品を中心とする「トップバリュ」と、アパレルを含む「トップバリュコレクション」の2ラインにおける、国内外の、商品化に至る最終の加工場までは同社の監査が行き届いていたのに対し、それより上流に位置する工場や生産者に対しては行動規範の遵守を契約に盛り込んではいても実際の状況を把握できていないといったことがあり、そうしたことが今回のホットラインの開設につながったという。</p>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/02/17/image001.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>これについて、同社の木村紀子・環境・社会貢献部イオンサプライヤーCoC事務局マネージャーは「2019年、2020年と、トップバリュの生鮮品の生産者さま、つまりサプライチェーンの最上流に位置する、農業や漁業、畜産を行っている方々の状況を確認するため、委託先様経由でアンケート調査を行いました。その回答率が6割程度と低かったことで、当社の意向や要求といったものが届いていない、もしくは確認できていないことがいちばんの課題だと分かりました。その原因を一つに絞るのは難しく、業界団体と対話をするにも時間がかかります。またいただいた回答の中で際立ったリスクは見えなかったのですが、やはり、外国人の技能実習生が送り出し国から借金を抱えて来日しているような状況の改善といった対応が現状できていないことは明らかでした。ですから、こうした人権上のリスクに対して救済の手段が与えられるように、急ぎ、開設をしたのが今回のホットラインです」と説明する。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>第三者機関としてNGOが窓口対応</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2020年の上期を過ぎた頃から本格的に検討に入り、イオン単独で行うのか、さらに大きなグローバルなイニシアチブの枠組みで行うのか議論を重ねた結果、人権問題に加え、「商品の品質を担保する上で、安全な製造ラインに関する案件にも対応できる窓口にしたい」という思いからも同社単独での開設を決めた。その上で、窓口の対応に当たる第三者機関として、サプライチェーン上の課題解決に取り組むNGOである一般社団法人「ASSC(ザ・グローバル・フォー・サステイナブル・サプライチェーン＝アスク)」の協力を取り付け、同法人との協働でグリーバンスメカニズムを推進することとなった。現在はトップバリュの国内の製造委託契約先である約900の企業や組織に所属する従業員を対象としており、今年下期には海外の約300の企業、組織にも広げる方針だ。</p>
<p>相談はイオンのHP上の相談フォームかメール、またはフリーダイヤル、もしくはアスクの運営するスマートフォンアプリから受け付ける仕組み。相談内容は基本的に児童労働や強制労働、虐待・ハラスメント、差別などの人権侵害に関することや、労働時間、賃金、福利厚生など労働条件に関すること、職場における安全衛生など職場環境に関することが中心だが、イオンの要請から逸脱する事案やイオンとの取引における意見などに関しても受け付ける。総合窓口はアスクが行い、相談者が希望する場合のみ匿名でイオンに報告、相談の内容によってイオンとアスクが解決に向けた対応を取る。サプライチェーン上の雇用の課題などに関しては基本、アスクとイオンのCoC事務局が、製品の安全などに関するものは同社の品質管理や開発担当の部署が担当し、またイオンへの苦情やクレームに関しては取引管理や総務部門に引き継ぐ流れだ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>8言語対応、守秘義務厳守でハードル低く<br />ベトナム人ら技能実習生の相談を想定</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>アプリは日本語、英語をはじめベトナム語や中国語、タイ語、ミャンマー・ビルマ語など8言語に対応しており、イオンのHP上の相談フォームに関しても同様の対応に近づける。それ以外の言語についてもメールや電話による通訳を介した相談が可能で、窓口を利用するにあたっての言語のハードルを極力低くした。また相談をしたことによって本人に報復が及ぶことのないよう、守秘義務の厳守はもちろんのこと、最終的に相談当事者の情報以外はアスクからイオンに報告されるが、内容によってはアスクが解決策を提示することで相談が完結するような対応をとることも考え、どんな案件を抱える人に対しても、できるだけ気軽に相談できる体制づくりに気を配る。</p>
<p>木村氏によると、相談者にはやはりベトナム人をはじめとする外国人の技能実習生本人らを想定している。「日本の方だとほかにも相談できるところがあるかもしれませんが、そういったことができにくい外国人労働者の方に、こういう救済の場があることを知ってもらい、そうした方の声を拾いたいと願っています」。もっともどれだけの利用があるかは、蓋を開けてみないと分からない部分も多く、「国内の場合は、身近な、イオンの名前で発信することで、予想以上にいろいろな悩みやご相談が寄せられるかもしれませんし、一方で、委託先様にとっては、自分たちの問題がイオンに行ってしまう、ということにネガティブな思考を持たれるところも依然あり、そういう意味で、委託先様の方から(ホットラインを)積極的に展開するというには時間がかかるのかなとも思っています」とみる。</p>
<p>「すでに第三者様への相談窓口があり、それが機能しているところに関してはそれを着実に活用いただく。必ずしもイオンのこのホットラインを使ってくれ、というメッセージではなく、どこに相談すればいいかということをちゃんと提示し、このホットラインについてもできるだけ気軽にお使いいただけるよう、ポスターなどの掲示をお願いしたいと考えています」</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「持続可能な調達方針」の裏付けにも</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>同社はこのほど行われた2020年度の「イオンのサステナブル経営説明会」の中で、2050年に向けた脱炭素ビジョンに加え、「持続可能な調達方針」についても、農産物や畜産物、水産物、紙・パルプ・木材、パーム油の分野での2020年目標に対する進ちょく状況を報告し、新たにコーヒーについても同社が認定する第三者認証を取得した原料を使用することなどを発表した。今回のホットライン開設に伴うグリーバンスメカニズムの構築も、同社のESG経営の「S」の部分、人権に配慮した公正なビジネスに向けた取り組みであるのはもちろん、この持続可能な調達方針の裏付けとして、生産者や労働者のコミュニティを支援し、生活や労働環境の改善に寄与するという意味で、位置づけとしては、その文脈に入るものだ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>日本企業に浸透低いグリーバンスメカニズム</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本企業にグリーバンスメカニズムはどれくらい浸透しているのか。森翔人・アスク理事によると、「ここ数年で問い合わせは増えているが、実際に体制を構築している例は少なく、サプライヤーとの円滑なコミュニケーションをとりながら、具体的な行動規範を基にした相談窓口を機能させていこうとしている今回のイオンの事例が先進的と言える」という。2011年に国連人権理事会で全会一致で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、ビジネスと人権の救済に向けた人権デューディリジェンスへの対応を求める国際的な流れが加速する中で、この問題に対してサプライチェーン全体に一層の理解を働きかけ、かつ具体的に行動することが今、日本企業に求められている。</p>
<p>国内外のサプライヤーに対し、CoCに基づいて、実際に現場に赴いての監査を通じたコミュニケーションを重視しているイオン。木村氏によると、コロナ禍でもできる限り現場を訪れるようにしているが、緊急事態宣言下であったり、受け入れ先の状況によっては、セルフアセスメントの結果をリモートでインタビューするなどして状況の確認を行っているという。もっとも木村氏は、「こういった状況だからこそ、雇用に関する課題は発生している状況だと認識している」と強調した。コロナ禍の今、動き始めたイオンのグリーバンスメカニズムは、どの程度実効性を持ったものとなるのか。日本の先進事例としても、今後の動きに注視したい。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

話題のキーワード

サプライチェーン

イオンが「グリーバンスメカニズム」構築へ　サプライチェーン従業員向け相談窓口開設

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/01/22/p10.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「統合経営思考」の実践と、重要な4つのトランスフォーメーションについてゲスト講師を迎えながら議論、意見交換をしてきESGオンラインシンポジウム。最終回の「総括編」ではサンメッセ総合研究所(Sinc)の3人が視聴参加者からの質疑を取り上げて議論、振り返りを行い、将来の社会におけるビジネスのあり方を改めて語り合った。社会が求める企業の姿に向かって事業の転換(PX)を実現するために、経営層の価値観をどうやって変化させるのか。全体像を踏まえた実践的な考え方と現場の行動とは。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>「SB ESGシンポジウム online」は、SBJ Labコラム『統合思考経営のWhy ,What &amp; How』をベースに【統合思考伝道師】川村雅彦氏が「統合思考経営」を解説します。シンポジウム第6回目は最終回の総括編です。川村氏と山吹 善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員の講演、さらに田中 信康・サンメッセ総合研究所(Sinc)代表／SB国際会議 ESGプロデューサーを加えた3者討論を展開します。</p>
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1197953_1501.html">SB ESGシンポジウム online 第1回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1198249_1501.html">SB ESGシンポジウム online 第2回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1198649_1501.html">SB ESGシンポジウム online 第3回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1199099_1501.html">SB ESGシンポジウム online 第4回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1199298_1501.html">SB ESG シンポジウム online 第5回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/index.html"><strong>SBJ Lab </strong><strong>連載中コラム『統合思考経営のWhy ,What &amp; How</strong><strong>』はこちら</strong></a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「脱成長」の可能性も視野に</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/01/22/2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2020年、ダボス会議など国際的な議論の場で、資本主義のあり方は新自由主義からステークホルダー資本主義に変化すると言われ始めた。まさに「激動」と言うべき1年間と、「SB ESGシンポジウム online」を振り返ったのは、山吹 善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員だ。</p>
<p>コロナ禍が世界の経済に打撃与え、まだまだ影響を与え続ける中、国内の新聞では毎日のように気候変動に対応する社会の動向が1面で伝えられている。2030年までにガソリン車をなくす、水素社会を展開する、企業各社でもカーボンニュートラルに向かう戦略が策定されている。</p>
<p>従来「ミッション・ビジョン・バリューズ」という言葉で説明されていた企業の姿勢はパーパスに立脚した説明へ、「2020年を境目にして変化が起こっている」と山吹氏は解説した。そのときにネックになり得る議論が「資本主義の位置付け」だ。ステークホルダー資本主義は果たして実現ができるのか、まずはしっかりと検証し、どのように実現するかを考える大きな動きがみられる。一例を挙げればトゥルーコストの考え方だ。これまで使い放題と思われていた大気や水に大きな問題が起こった場合、それを価格に反映しなければ正規の価格にはならない。</p>
<p>一方で、個別のテーマでは、同時に「脱成長」という違う方向性のキーワードも登場している。「ステークホルダー資本主義」への変革は、従来と同じく経済的成長を基盤にしている。世代的にも若者たちは「成長では気候変動の問題や環境負荷の問題を解決することはできない」ということを実感している。これはひとつのポイントだ。</p>
<p>現状の多くの企業の姿勢としてはステークホルダー資本主義を目指している。山吹氏は「当然、これまでに比べて大きな進歩をする方向性であり、これからはこの方向性でなければある意味では企業活動が成り立たない、ということが大前提」とし、かなり将来のことまで意識をしながら次のようにシンポジウムを総括した。</p>
<p>「海外・国内問わず、先進的な大企業の中にはESGに関連する目標を会社の定款に盛り込んでいるところもある。つまりは覚悟だ。ステークホルダー資本主義を実現する上で、経営者、経営陣がどこまで覚悟を決めてどんな風に成長というものを捉え考えるのか。「循環」や「地域の自律的な活動」を意識できるように事業を行っていくのか」</p>
<p>覚悟を決めるためにどのようなプロセスを経るのか。それが「SB ESGシンポジウム online」で語られた「4つのトランスフォーメーション」の議論だ。参加者から寄せられた質疑へのかなり踏み込んだ回答も含め、サンメッセ総合研究所 Sinc所長/首席研究員の川村雅彦氏がその真髄を語った。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「統合思考経営」と「統合報告書」の捉え方とは</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/01/22/600315_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>SB ESG シンポジウム onlineでは一貫して「統合思考経営」が必要だと提案し、テーマに掲げ議論をしてきた。そもそもなぜ統合思考経営が必要か、川村氏は改めて総括した。</p>
<p>「問題意識は2つの危機。気候変動と感染症だ。人類の生存に関わる問題として直面しており、これらが起こった背景には利益追求型のグローバル化も一因にあるのだろう。気候変動による生態系の変化が叫ばれている。見方によっては、気候変動と感染症の問題は同根なのではないかとも言える」(川村氏)</p>
<p>つまり、仕組みやシステムの問題ではないか。従来の資本主義システムは平時の経済合理性、効率を追求したものだが、想定外の事象には非常に弱い仕組みであろうと言えるからだ。そうすると、全体的な思考(Holistic Thinking)あるいは枠組みそのものが必要では、と川村氏は話す。企業の視点での今後の生き残り方策として４つのXとその実践を提案してきたというわけだ。企業がメガトレンドを背景に長期戦略的視点に立つとき、「統合思考経」の実践である「4つのX」が不可欠だ。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/01/22/kawa2.png"/></div>
<div class="m_paragraph">参加者アンケート、質疑応答から見えてきた「4つのX」の論点(当日資料より)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回までの5回の間にシンポジウム参加者からは多くの質疑、意見が寄せられた。企業の現場、最前線でESG課題に向き合う立場にある参加者も多く、実感のこもった内容だ。その中からいくつかと、川村氏の応答を掲載する。</p>
<p><strong>日本企業の考え方を変えることには限界があり、むしろ特有の良さを生かすべきだ。</strong></p>
<p>川村：「日本企業の良さ」とは何かを議論したい。20世紀、高度成長期を支えた年功序列や終身雇用というシステムは「特徴」だが「良さ」ではない。当時の成功は欧米流のハウツーを理解し、導入実践してきたという手段主導によるものだが、そもそも何を目指すかという目的主導型ではない。日本的な企業の特徴だ。</p>
<p><strong>日本企業では「ガラパゴス的生き方」が最適解な場合もあるのでは。</strong></p>
<p>川村：構造的にそれが可能なのか、疑問だ。</p>
<p><strong>「石炭火力は悪」を前提に議論しないでほしい。</strong></p>
<p>川村：善悪でなく「責任と経営戦略」の問題だ。石炭火力をいつまで続けるつもりなのか。日本企業は21世紀に、何で食っていくのか。20世紀の遺産を食いつぶしてやっていけるのか。とは言え当面は現本業で稼ぎつつ、戦略的投資を行うという、両睨み経営が有効だ。フォアキャストとバックキャストは対立するものではない。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>統合報告書は「統合思考経営」を報告するもの</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/01/22/esg_kawa.png"/></div>
<div class="m_paragraph">価値創造のプロセスは「オクトパスモデル」図に集約されているが「この図を作成することが目的ではない」と川村氏は釘を刺す(当日資料より)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>現在、国内の約500の上場企業が「統合報告書」を発行していると言われる。英オックスフォード大学のエクレス教授らが2018年3月に公表した「統合報告書の10カ国比較分析」では、日本企業の発行する統合報告書の情報品質は下から3番目という結果だった。</p>
<p>川村氏は「統合報告書は、現在の取り組みを評価する自己評価や通信簿ではない。メガトレンドへの理解の中で企業が価値創造をどう捉えているのかを社長、もしくは経営層が語るものである」と指摘する。</p>
<p>統合報告書とは財務資本の提供者(投資家など)へ基礎的情報を提供するものだ。それのみによって投資判断されることはないだろうが、これを土台としてさまざまなエンゲージメント築くツールとなる。つまり、狭い意味での環境・CSR部門が担当するものではないのだ。PXを担当する部署がつくるべきものである。</p>
<p>また川村氏は「IIRC(The International Integrated Reporting Council：国際統合報告委員会)の内容要素が不可欠にも拘わらず、日本企業にはまだ理解が浸透していない」とも分析する。<br />統合思考に基づき「将来への戦略的な、経営上のマテリアリティとは何か」という点が記載されるべき内容だが、従来の「環境報告書」や「サステナビリティレポート」のようにCSR的なマテリアリティを掲載している会社も見られるという。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>成長と発展、意識改革、評価のあり方――</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/01/22/4.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>これまで川村氏のコラム、本シンポジウムで「統合思考経営」と「4つのX」を深堀してきた。シンポジウムの締めくくりとなるサンメッセ総合研究所(Sinc)の三者による討論ではまず、「成長」と「発展」の捉え方が語られた。社会の状況、地球環境の状況を顧みて企業を含め私たちの活動を見直すとき、そもそも根本にある人類的な動機付けをしっかりと再定義する必要があるのだろう。</p>
<p>川村氏は「個人的には必ずしもGDPを伸ばせばいいとは思っていない」としながら、「社会はどうしても経済的な成長を望むと思われる」とし、「発展」とは量的な拡大のみを意味せず、質や内容にウェイトを置く、と自身の考えを述べた。</p>
<p>田中氏は年間300人以上の企業の経営に関わる人物と対話する中で、自己変革の必要性を愚直に訴えているという。近年では民間企業だけでなく、行政が学校・教育機関、それも大学のみならず高校・中学校も巻き込んで地域の社会課題の解決と価値創造について議論している。</p>
<p>「地域の社会課題をリアルに体験し、向き合うことは並大抵の意欲ではできず、心の折れる作業でもあるとは思う。幅広いステークホルダー間の座組をしっかり構築し、ディスカッションだけでなく現実的な解決に向かいたい」(田中氏)</p>
<p>山吹氏は「問題提起はされているが、現実の解決の形を示して行かないと、次につながらないという時期に来ている。具体的な事例は2月のサステナブル・ブランド国際会議2021横浜でもさまざまなセッションで紹介されるだろう。情報共有し、関心をもってもらいたい」と話した。</p>
<p>討論会に寄せられた参加者からのリアルタイムの質疑応答</p>
<p>1950年から2020年までに世界の人口は26億から78億人へと3倍に拡大、経済活動(世界総生産)は15倍に拡大している。2050年には人口は90億人を超えると推定されているが、一方で国際的な軋轢も増大しそうに思う。このような時に、日本が世界の中でイニシアチブを取るという認識が不足しているように感じている。日本企業、経営者の意識を変えていくために求められることは。</p>
<p>Sincでは、トップ層、経営層とフランクに話す時間をつくるという手法を取っている。川村氏は「経営層の方々に気づいていただく仕組みが必要。トップの意識が変わった会社は、何かのきっかけがあった。経営陣が世界的なカンファレンスや先進的議論をしている場に出席すると、啓示を受けるという事例は数多くある」と提言。「社長室に引きこもっていてはだめだ」ということだ。周囲の人間やESG担当者は、トップ層やそれに準じる社内の人物を、公で議論する場に連れ出すことが必要だ、と檄を飛ばした。</p>
<p>田中氏は国内企業の経営層の意識はコロナの影響で変わってきた実感があると話した。</p>
<p>「2020年に多かったのは、『経営とサステナビリティの統合・融合』の話をもう一度聞きたいという声だ。中長期、ロングポジションで経営を考えることに着眼された経営者も多く、中長期でしっかり企業を評価してほしいというニーズは高まっている。こういった声は来年、再来年にかけてより大きくなってくるのでは。傾向としては良い方向に向かっていることを肌で感じている」(田中氏)</p>
<p>SB ESG シンポジウム online は6回にわたり、企業が社会課題を認識しながらステークホルダーにとっての事業活動を実践していけるのか、それを実践していくために何をどう変える必要があるのか、総論から幅広い各論までを網羅的に議論した。当然明確なひとつの回答があるわけではない。2030年、2050年、さらにその先を見据えて議論を続け、観察と理解、対応を続けることが重要だ。</p>
<p>田中氏は締めくくりに次のように述べた。</p>
<p>「ESG経営の特にEとSへの取り組みが、企業価値に対してコストを上回るベネフィットを生み出すのかという経営層の疑念はまだ強いと感じている。一方で、投資家から見れば企業がどういう効果を期待してESGに取り組むのかがまだまだ明らかではなく、そのギャップは相変わらずある。</p>
<p>機関によって変わるESG評価アンケートに企業が疲弊しているという一面もあるのではと考えている。評価プロセスの透明性の向上や、評価機関からのフィードバックを企業側に適切に届けるということも求められているのでは。ESG評価の課題が企業の取り組みに水を差さないよう、その点にも解決策が必要だ」</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>SB ESGシンポジウム online はご好評のうちに全6回を終了いたしました。2月24日-25日に開催する「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」内のブレイクアウト・セッション<strong>「価値創造戦略としての統合思考に基づく4X(4つの変革)」</strong>では、川村雅彦氏ファシリテーターを務め、4X(環境、デジタルや技術、そしてビジネスモデルや事業ポートフォリオ、コーポレートガバナンスの変革)の観点から、先進企業事例'(エネルギー、重工業、電機など)の成功要因を探ります。ぜひご参加ください。</p>
</div>
<div class="elem_link emphasis">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/event/sb2021/" target="_blank">サステナブル・ブランド国際会議2021横浜　特設サイト</a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_link emphasis">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html" target="_blank">SBJ Labについてはこちら</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

SBシンポジウムレポート

SBコミュニティニュース

ステークホルダー資本主義をどう実現するか　統合思考経営の実践を――SB ESGシンポジウム online 第6回開催レポート

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/11/18/top_700.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">法政大学人間環境学部 兼大学院公共政策研究科 教授　長谷川直哉氏</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「攻めのコーポレートガバナンスなくしてサステナビリティ経営の実現はない」――。そう力を込めるのは法政大学人間環境学部 兼大学院公共政策研究科 教授の長谷川直哉氏。従来のコンプライアンス重視型のガバナンスだけでなく、社会のために「何もしない」ことに歯止めをかける攻めのガバナンスの必要性を訴えた。要となるのは企業に「外の目」をもたらす社外取締役の実効性だ。統合思考経営を実現するCX(コーポレートガバナンス・トランスフォーメーション)とPX(ビジネスポートフォリオ・トランスフォーメーション)をもたらす社外取締役のあり方とは。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>「SB ESGシンポジウム online」は、SBJ Labコラム『統合思考経営のWhy ,What &amp; How』をベースに【統合思考伝道師】川村雅彦氏が「統合思考経営」を解説します。シンポジウム第5回目のテーマは「CX、PX実践のための取締役会の在り方」。安田海上火災保険(現・損保ジャパン)などでのファンド構築や金融、投資、資産運用、企業研究、環境経営について豊富な経験と知見を持つ、法政大学人間環境学部兼大学院公共政策研究科 教授 長谷川直哉氏がゲスト講師として解説します。</p>
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1197953_1501.html">SB ESGシンポジウム online 第1回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1198249_1501.html">SB ESGシンポジウム online 第2回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1198649_1501.html">SB ESGシンポジウム online 第3回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1199099_1501.html">SB ESGシンポジウム online 第4回セミナーレポートはこちら</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/index.html"><strong>SBJ Lab 連載中コラム『統合思考経営のWhy ,What &amp; How』はこちら</strong></a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>国内企業の課題は「社外の目」取り込むこと</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本が京都議定書を締結した2002年から2014年の期間、GDPとGHG(温室効果ガス)の削減量を国別に見ると、世界的には欧州を中心にその両方が伸びている傾向にある。しかし日本はGDPも増えず、GHGの削減も不十分な状況だ。脱炭素はトップダウンで実践しなければならない。「この姿はある意味、日本の企業の集積ともいえるのではないか。原因は国であれば政策判断、企業であれば経営判断にある」と長谷川氏は警鐘を鳴らす。</p>
<p>長谷川氏がファンドマネージャーの経験を通して感じたことのひとつに、経営層、つまり取締役会に対する、投資家と企業の「認識のギャップ」があるという。注目したいのは社外取締役の存在だ。投資家はその実効性に、もっとも注視する。社会、投資家といった「外の目」を社内に取り込み、適切に開示すること。そこに国内企業の課題がある。「社外取締役が経営の要」になっていると長谷川氏は強調する。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/11/18/5_600.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>独立取締役を選任することが企業価値を高める</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>実際に独立取締役、社外取締役が企業経営にどういう影響を与え、役割を果たしているのか。大和総研のレポートによれば、独立取締役の選任をしているかしていないかでROE(自己資本利益率)に差が出ている。独立選任取締役を設置す3182社と、設置していない企業のROEを比べると明らかに前者のROEの平均値の方が高い。さらに、独立取締役の選任がある企業は業界平均を上回り、専任がない企業は下回っている。</p>
<p>複数人の独立取締役を選任している場合と、一人だけの場合を比較しても同様の差がみられ、前者の方がROEが高い。つまり一人でも多く、積極的に独立取締役を選任しようとしている企業の方が、ROEが高くなる。独立取締役を選任することが、企業価値を高めるひとつのファクターとして効果的である可能性が高いということを示唆し、同時に投資家が、複数人の取締役を選任している企業を投資候補として選ぶ可能性が高くなる。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>形式上でなく、実効性ある選任を</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>なぜ日本の取締役会の中で独立取締役が必要か。CEOの昇格ルートが内部昇格か外部招聘かで比べると、世界平均は77％。日本の企業は96％が内部昇格と、世界で一番高い。日本ではひとつの企業で長く勤め、選別され、会社に残った人が企業のトップにつく。ある意味で企業の価値観や風土を体現した人がトップになる仕組みだ。組織内のコンセンサスを取る能力は優れているが、一歩間違えれば目線が企業向き、内向きになるあまり、内部の常識と社会の常識がかけ離れてしまうというリスクが潜んでいる。その最たるものが企業不祥事だ。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/11/18/4_600.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>内向きになりがちな日本企業のガバナンスのあり方を変えていく上で必要になる外からの目。それが社外取締役の役割だが、日本の上場企業のうち社外取締役を選任している企業は30％程度と、欧米に比べてかなり低い。</p>
<p>「この数字には日本企業特有の体質が出ているのでは。内向きの人が多い取締役会の中で外の人を『異分子』として入れることに抵抗感が強く、また調和を乱さないような人を選びがちなのではないか」と長谷川氏は所見を述べる。</p>
<p>企業間で株式の持ち合いをしているケースは年々減少しているが、社外取締役を持ち合いしているケースが増加しているという。予定調和を乱さない人選の結果、形式的には「社外」「独立」として整理されているが、実態を見れば仲間内という事態が起こる。そうなれば「外の目」の効果が出ないばかりか、むしろ経営に対して異論を挟まない傾向が強くなるのかもしれない。</p>
<p>「企業と社会の関係性をきちんと認識し、20年後、30年後の将来、社会の中で自社がどのような役割を果たしているのかを議論し戦略に落とし込むことが重要だ。外の目を踏まえて戦略を立て、それを投資家との建設的な対話につなげなければならない」(長谷川氏)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>取締役候補、起業と人材をマッチングするシステムが必要か</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>では投資家が社外取締役に対して期待することは何か。ここにも企業と投資家の間のギャップがある。「こういう人がこういう意図で社外取締役になっているんだな」と腹落ちする人選がひとつのポイントだと長谷川氏は解説する。前述の「社外取締役の持ち合い」のケースであれば、形式的な配置にすぎないと思われ、投資家は社外取締役に期待しなくなる。</p>
<p>では社外取締役をどう選ぶか。企業から見れば、まず候補者を発見することが難しい。「有為な人材はいても、マッチングができていないということもあると考えられる。企業が自社に最適な社外取締役候補を見つけやすくするシステムの構築も重要なのではないか」という。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「物申す社外取締役」が企業価値をもたらす</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「ビリーフ・ドリブン」と言われるように今の消費者は機能や品質、価格だけでなく、製品・サービスの裏側にある価値観や理念に共感できるかを重要視する。未来の社会で選ばれる企業とは、社会からの共感と信頼がある企業だ。それを得るためにはストーリーをつくり、将来の社会で自社がどういう役割を果たすのか、示すことが必要になる。</p>
<p>長谷川氏は「ルール違反を起こさないというコンプライアンス型の『守りのガバナンス』の時代は終わったのではないか」と話す。サステナビリティを目指す社会の中で、企業が「何もしない」ということに歯止めをかける「攻めのガバナンス」が必要になっている。それがまさにサステナビリティ経営の実践ということだという。</p>
<p>「何もせずに先送りする経営では今後を生き残ることはできない。言うべきことを言う『物申す社外取締役』を取り入れてビジネス・オポチュニティの獲得をしなければならないのではないか。攻めのコーポレートガバナンスなくしてサステナビリティ経営の実現はない」(長谷川氏)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>委員会方式は「中身が重要」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/11/18/2_700.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>講演の後、シンポジウム視聴者へのリアルタイム・アンケートなどを利用した質疑応答が行われた。例えば次のような双方向のコミュニケーションが図られた。</p>
<p>視聴者の所属企業でどのようにサステナビリティに関連する問題を経営課題として議論しているのか。積極的に大変革の時代を意識して議論する場として、取締役会でその議論ができるのか、委員会を設置し専門的に議論した上で取締役会で協議する、という方法を取っているのか。それとも、取締役会では議論していないのか。結果は次のとおり。委員会方式を採用している会社が多いようだ。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/11/18/6_500.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>長谷川氏は「アンケートの結果は一般的」と解説する。特にサステナビリティや脱炭素に関しては、日本では取締役会で質問・意見が出ることは多くなく、委員会での検討が重要になる。つまり委員会の中にどういうメンバーがいるのか、どういう見識が共有されるのか、が企業にとって重要な問題になるというわけだ。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/11/18/7_500.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">取締役会で議論・意思決定が必要と考えるサステナビリティ課題は何か――。ほぼすべてのシンポジウム参加者が、「長期ビジョン・長期戦略の策定」に回答した</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>SB ESGシンポジウム online 次回は【番外総括編】。12月10日 16:30-18:00にオンラインで開催します。テーマは「気候変動・コロナ時代に2050年を見据えて4Xをどう実践するか ～ESGにかかわる『統合思考経営』の更なる加速～」。川村 雅彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)所長／首席研究員が「『4つのX』の総括～連続セミナーのまとめと実践事例～」、山吹 善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員が「大転換の年「2020」を乗り越えた先とは」と題した講演を行い、さらに田中 信康・サンメッセ総合研究所(Sinc)代表／SB国際会議 ESGプロデューサーを交えての三者討論を展開します。</p>
</div>
<div class="elem_link emphasis">
<p><a href="https://sbtokyo-hkt.wixsite.com/sb-esgsymposium2020" target="_blank">詳細・参加お申込はこちらから</a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_link emphasis">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html" target="_blank">SBJ Labについてはこちら</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

社外取締役が企業経営の要に：「攻めのガバナンス」で統合思考経営の実践を――SB ESGシンポジウム online 第5回開催レポート

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/09/24/forum1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph">LIFULL 小池氏(右上)、SBプロデューサー 足立氏(右下)、ベネッセ 泉氏(左下)、富士通 森川氏(左上)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>サステナブル・ブランド ジャパンは9月15日、「コロナ禍で企業はどう変わったか」をテーマに「第2回SB-Japanフォーラム」をリアルとオンラインで開催した。緊急事態宣言下で、多くの企業が新たな働き方を模索した。宣言が解除されたいま、もとに戻る企業もあれば、新しい働き方、暮らし方、ビジネスへと移行する企業もある。これから企業はどう変わり、そして変わっていくべきなのか――。フォーラムでは、富士通、ベネッセ、LIFULLの3社の事例を通して、これからの企業に求められる変化について考えた。 (サステナブル・ブランド ジャパン編集局)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>組織のターニングポイントが来た</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>富士通は7月、新たな働き方の方針「Work Life Shift」を掲げ、国内グループ社員(製造拠点や顧客先常駐者を除く)約8万人を基本的にテレワーク勤務にすると発表した。同社は2015年から在宅テレワークをトライアル実施し、2017年4月に全社に導入。緊急事態宣言前までの在宅テレワーク実践率は48%だったが、宣言中は90%、宣言後は80%となっている。現在、コアタイムのないフレックス勤務を全従業員に拡大し、定期券代の支給や単身赴任の廃止などを進める。</p>
<p>「もとに戻ることはない、というのが企業としての考えだ」。森川学・富士通 総務・人事本部シニアディレクターはそう語り、「テレワーク・遠隔勤務が中心となり、全員集合型から非接触型の働き方が基本になる。離散集合を通じて、自律・分散・協働できる組織をつくっていく」と語った。</p>
<p>「Work Life Shift」の3本柱となるのが「Smart Working(最適な働き方の実現)」「Borderless Office(オフィスのあり方の見直し)」「Culture Change(社内カルチャーの変革)」だ。これらを実行する上で「バーチャルでフラットな組織への転換」「マネジメントの転換」「コミュニケーションの転換」が重要になるという。</p>
<p>「組織、マネジメント、コミュニケーションのターニングポイントが来た。社員の高い自律性と信頼がベースになる。企業も社員を信頼し、社員も企業を信頼する必要がある。両者が対等になることが求められる。これまで日本企業はきちんとした就業規則をつくり、ルールを設けてきたが、そうしたものを一旦壊そうという考え」</p>
<p>富士通では今後、自律的な人材とそれを支える人事プラットフォームを設立する方針で、その一環としてジョブ型人事制度を導入する。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>コロナ禍で起きた「いい変化」をどう持続させるか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ベネッセはコロナ禍で学校が一斉休校になる中、わずか数日の間に、さまざまな教育上の課題解決に取り組んだ。その一つが、他社がダウンロード版教材を無償提供する中、紙の総復習ドリルを配布したことだ。ネットや印刷環境が揃っていない子どもへの配慮と、「これまでの知見から、年齢が低い子どもにとっては鉛筆を持って書くことが重要と考えたため」と説明する。最終的には40万部を全国に配布。その後、休校が長期化する中、学校によって学力差が生じ始めたため、その差を診断する「全国実力診断テスト」も実施した。さらに、「幼稚園がないことで生活リズムが崩れる」という要望に応えるために「オンライン幼稚園」サービスを立ち上げた。幼稚園が始まる時間帯に合わせて、挨拶をし、体を動かし、歌い、昼休みをとるといった幼稚園仕立ての動画を公開した。</p>
<p>こうした迅速な対応ができた背景に、1年前から行ってきた「パーパス(存在意義)の見直し」がある、と同社ブランド広報部の泉ひろ恵課長は説明する。「教育を行う企業として、エビデンスを重視し、石橋を慎重に叩いて渡る姿勢でやってきた」と言うが、コロナ禍で社会からの要請に応え、パーパスを実行したことである変化が起きた。</p>
<p>「社員が変わった。目の前で発生したことに対して、一人ひとりがきちんと自分の目で見て、頭で考えて実行するという習慣がついた。そういう社員が増えるということは、変化が常態化する将来に向けて、会社が生き残るための術を得たと言えるかもしれない。緊急事態宣言下で生まれた『いい変化』をどう継続させていくかがこれから重要になる」</p>
<p>教育現場でもコロナ禍で変化が生まれているという。学童保育では、子どもたち自身がウイルス対策に率先して対応するようになり、塾はオンライン指導と対面指導のそれぞれの良さを発見し、学校でもインターネットを生かした学びが加速するなど変化が起きている。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>自分らしく自由に働ける企業になれるか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>LIFULLは2017年、場所やライフライン、仕事などの制約に縛られることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方を実現できる社会を目指し、共同運営型コミュニティ「LivingAnywhere Commons」を設立した。シェアサテライトオフィスとレジデンスを備えた複合施設を日本各地で展開している。「そういう生き方を選択できないこと自体が社会課題と考えた」とLivingAnywhere Commons事業責任者の小池克典氏は設立理由について語った。</p>
<p>LivingAnywhere Commonsは、1IDあたりの月額が2万5000円。費用には滞在費用と水道光熱費、通信費が含まれる。全国のLivingAnywhere Commonsの拠点を巡って、年間30万円で暮らすことも可能だ。</p>
<p>「ミッションは定住からの解放。地方創生が目的ではない。食や電気、通信、水道、医療、教育などの制限から開放されることで、人は自分らしく、もっと自由に暮らせるようになる。その結果として、地方創生などの課題解決にもつながっていく」</p>
<p>今年7月、LIFULLは、企業や自治体と連携して拠点を一気に増やすため、場所に縛られない働き方を実現するためのプラットフォーム構想「LivingAnywhere WORK」を立ち上げた。</p>
<p>「働く場所の選択肢がいまはオフィスか家かの2つしかない。それを100、1000に増やすと日本の働き方も大きく変わってくる」</p>
<p>その選択肢に全国自治体を加えることで、過密状態を避け、多様な働き方・ライフスタイルを実現しながら、個人や企業、地域による多方向の交流を活性化していくことができる。今後、賛同した企業70社や自治体20社(9月1日時点)への意識調査、ワーケーションの実証実験、自治体とのマッチング、イベントや勉強会、サテライトオフィス開設に伴う不動産情報の共有などを行う。なお、LIFULLでもLivingAnywhere Commonsを勤務地として許可し、社員が利用している。すでに、さまざまな企業の人が集まることで、集まった人たちによる連携や協創が実際に生まれているという。小池氏は最後にこう話した。</p>
<p>「『自由』や『寛容な働き方』というワードに関心があるのは20－30代前半の世代。採用のシーンでも効果が生まれている。採用する人の約3割は、そういう新しいライフスタイルを実践したい、地域に貢献したいという考えを持っている。これからは、スーツを着て、会社に定時に行くというライフスタイルは求心力がなくなるのではないか。会社は磁石のような機能になる。より自由に、自分らしさを表現できる企業に働く人たちは集まって来るのではないだろうか」</p>
<p>ファシリテーターを務めた足立直樹 サステナビリティ・プロデューサーは、「もうもとには戻らないということを強く感じた。変化は始まり、社員のマインドセットも職場の概念も、それをどう使っていくかということも変わってきている。若い世代は、いいお給料をもらいたいということよりも、なにか新しいものを一緒につくりたいという理由で職場を選ぶようになってきている」と語った。事例発表の後にはワークショップも行われた。</p>
<p>次回のSBJフォーラムは11月17日、『WE ARE REGENERATION』をテーマに開催。これから社会を再生し、その中で企業が求められる役割を考える。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>＜お問い合わせ＞<br />サステナブル・ブランド ジャパンの法人会員コミュニティ「SB-Jフォーラム」にご興味のある方は事務局までお問い合わせください。<br />SB-Japanフォーラム事務局(株式会社博展)　<br />E-mail： forum@sustainablebrands.jp</p>
</div></div>
</div>
<p></div>
<p></p>

コロナ禍で企業はどう変わったか：第2回SB-Japanフォーラム

【統合思考経営10】EUタクソノミーの『激震』(5)

【統合思考経営9】EUタクソノミーの『激震』(4)

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第8回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1196697_2675.html">前回</a>は、EUタクソノミーのテクニカルな側面の重要課題である「閾値」の考え方と具体事例を取り上げました。今回は、EUタクソノミー成立に至る経緯と関連付けて、EUのサステナブル金融戦略の全体像について解説いたします。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>EUタクソノミー成立に至る経緯</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■パリ協定とSDGsから始まったタクソノミー</strong></p>
<p>これまで2回にわたり、EUタクソノミーの論点として、その狙いや分類基準である「閾値」について解説しましたが、TEG最終報告書はタクソノミーのことを自ら「ツール」と明言しています※1。それでは、一体、何のためのツールでしょうか。それは、すでに述べましたように、<strong>EUにおけるサステナブル金融(ESG金融)を押し進めるため</strong>です。しかし、実はそこに留まらず、その背後には「パリ協定」と「SDGs」という、もっと大きな目標が存在します。</p>
<p>(※1) 欧州委員会「TEG最終報告書(タクソノミー技術報告書 本編)」2頁<br />「What is the EU Taxonomy? AT A GLANCE」 より、以下引用。<br />“The EU Taxonomy is <strong>a tool</strong> to help investors, companies, issuers and project promoters navigate the transition to a low-carbon, resilient and resource-efficient economy.”</p>
<p>言うまでもありませんが、2015年12月に合意したパリ協定は、世界共通の目標として、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2.0℃未満に抑えるとともに、さらに1.5℃未満をめざすことを求めています。同年9月には、気候変動防止を含むサステナブルな地球社会の構築をめざすSDGsが採択されました。両者はともに国連の決議事項であり、戦略的にも表裏一体のもので、文明史的な転換点を意味します。そして、これらを受けてEUタクソノミーは動き始めたのです。</p>
<p><strong>■欧州委員会が主導するEUタクソノミー</strong></p>
<p>EUタクソノミーは欧州委員会が主導する形で形成されていくのですが、いきなり「ツール」であるタクソノミーを策定した訳ではありません。戦略的というのか用意周到というのか、まず、<strong>中長期的にサステナブルなEU経済に移行するには何が必要か、</strong>を考えようとしたのです。そこで、2016年12月に金融制度改革に焦点を当てた諮問委員会「<strong>HLEG</strong>」(High-Level Expert Group on Sustainable Finance：サステナブル金融に関するハイレベル専門家グループ)を設置しました。</p>
<p>このHLEGが2018年1月に「<strong>最終報告書2018</strong>」を提出し、EUのサステナブル金融のあるべき姿(新戦略の青写真)を示したのです。これを踏まえて、欧州委員会は同年3月に「<strong>アクション・プラン</strong>」を策定し、その実施に向けて同年5月には、タクソノミーを含む<strong>EU規則の3法案</strong>を欧州議会と閣僚理事会に提案しました。そのうえで、同年7月に同委員会はタクソノミー開発のための<strong>TEG</strong>を設置し、前回解説したようにTEGは2019年6月の中間報告書を経て、2020年3月に最終報告書を公表しました。これで事実上、EUタクソノミー本体が確定したのです。</p>
<p>上述の3法案の一つである「<strong>EUタクソノミー規則</strong>」については、すでに2019年12月の欧州議会と閣僚理事会の政治的合意により成立しています。ただ、その内容はEUタクソノミーの考え方や用法が条文として整理されているだけなので、実務的な解説を含むTEG最終報告書にはガイダンスとしての役割もあるようです(詳細は後述)。それから、タクソノミー本体はEU規則には含まれていませんので、別途、欧州委員会による「<strong>委託法</strong>」(政令的な位置づけ)で本年内に確定される予定です。これまでの全体の流れを一覧表にしたものが図表16です。</p>
<p><strong>図表16：EUサステナビリティ・タクソノミー成立に至る経緯(欧州委員会)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">（資料）欧州委員会の公表資料より筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナブル金融の新戦略を提言したHLEG</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■HLEGの設置が出発点</strong></p>
<p>さて、話を出発点であるHLEGに戻しましょう。EUはパリ協定に対応するべく、2030年目標として1990年比40％削減(現在、さらに50～55％削減へと法改正の準備中)、また2050年目標として「正味CO2ゼロ排出」を公約しました。<strong>このアンビシャスなサステナビリティ目標を確実に達成するためには、金融システムを広範な視点から再構築することが不可欠</strong>と判断した欧州委員会は、2016年12月にHLEGを設置したのです。</p>
<p>このHLEGの任務は、EUのもう一段上のサステナブル金融に向けた包括的な枠組とロードマップ(新戦略の青写真)の提言です。その背景には、ありていに言えば、パリ協定の目標を実現するためには莫大な資金が必要だが、<strong>公的資金だけではとても賄えず、広く民間資金を誘導・動員する必要がある、</strong>という認識があります。また、イノベーティブな技術開発を促進するためにも、その民間資金が向かうべきサステナビリティを明確にしようとしたのです。</p>
<p><strong>■画期的なHLEG提言</strong></p>
<p>HLEGが2018年1月に公表した最終報告書<a href="https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/180131-sustainable-finance-final-report_en.pdf"><strong>「Financing a SUSTANABLE European Economy：サステナブルな欧州経済に向けた金融」</strong>(PDF)</a>は画期的なもので、世界的にも大きな反響を呼びました。ESG投資の現状や課題を踏まえて、資本市場の制度改革に向けた多方面にわたる意欲的な提言を行ったからです。その中から、タクソノミーに焦点を絞れば、以下の通りです。</p>
<p>●「サステナブルとは何か」を明確にする<strong>「サステナビリティ・タクソノミー」</strong>の策定<br />⇒⇒そのためのテクニカル・ワーキング・グループ(後のTEGに相当)の立ち上げ</p>
<p>●長期的な視野と受益者のサステナビリティ選好を考慮する<strong>「機関投資家の義務」</strong>の明確化<br />⇒⇒アセットオーナーと運用機関は、重要なESGリスク・機会の検討(受託者責任)</p>
<p>●資本市場参加者と企業の<strong>「サステナビリティ情報開示ルール」</strong>の強化</p>
<p>●<strong>「EUグリーンボンド基準」</strong>の策定、そのための<strong>「EUサステナビリティ基準」</strong>の開発</p>
<p><strong>■HLEG委員構成から見える欧州委員会の意思</strong></p>
<p>最後に、このような提言をまとめたHLEGの委員構成に触れておきます。委員は公募により金融機関、運用機関、証券取引所、市民社会組織、学術機関から20名が選ばれましたが、サステナビリティの観点から見れば、「さもありなん」という印象とともに、欧州委員会の意思を感じます。特に議長を見れば明らかで、フランスの保険会社AXAの所属であり、EIB(欧州投資銀行)、UNEP FI(国連環境計画 金融イニシアチブ)、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)の重職を歴任された方が選任されたのです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>HLEG提言を実現するための「アクション・プラン」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■サステナブル金融をめざす3の目的と10の行動計画</strong></p>
<p>このHLEG提言から1カ月余りという早さで、欧州委員会は2018年3月に、その実現に向けて<strong>「アクション・プラン：サステナブルな成長のための金融」※2</strong>を公表しました。これは言わば、<strong>サステナビリティ課題(ESG要因)をEU金融規制に統合するための包括的な政策方針書</strong>です。</p>
<p>(※2)<br /><a href="https://ec.europa.eu/info/publications/180308-action-plan-sustainable-growth_en">https://ec.europa.eu/info/publications/180308-action-plan-sustainable-growth_en</a><br /><a href="https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52018DC0097&amp;from=E">https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52018DC0097&amp;from=E</a></p>
<p>そもそも、「サステナブル金融」とは何か、再度確認しておきましょう。ごく簡単にいえば、よりサステナブルな世界を構築するための金融となります。もう少し具体的に言えば、<strong>サステナビリティにかかわるリスク・機会を認識し、投融資の意思決定において環境的課題と社会的課題に配慮する金融プロセス</strong>と表現できます。このことが結局は、<strong>長期にわたるサステナブルな経済活動への資金供給の増加</strong>につながります。</p>
<p>ここで環境的配慮とは、気候変動の緩和と適応は元より、サーキュラー・エコノミーへの転換、生態系の保全・回復、さらにより広範な環境関連リスク(異常気象による自然災害、水資源の劣化、汚染の拡大など)への対応を指します。また社会的配慮には、貧困の撲滅、格差の縮小、雇用・労働における多様性・包摂性への対応、あるいは人的資本や地域社会への適切な投資などを含みます。これらはまさにSDGsの17目標そのものです。</p>
<p>このことから、アクション・プランは欧州経済ひいては世界経済のサステナビリティと金融を結びつける包括的な決意表明であることがわかります。そこには3つの大きな「目的」があり、それぞれにアクション(合計10)が明記されています(図表17)。その中でタクソノミーは〔目的1〕の「アクション1」という要に位置付けられていて、金融商品の標準仕様やラべリング、思慮深い運用義務、情報開示など他のアクションの基盤となっています(図表18)。</p>
<p>アクション・プランのもう一つの特徴は、すべての資本市場参加者を視野に入れたことです。タクソノミーを核として、機関投資家、アセットマネージャー、格付機関とデータプロバイダー、投資アドバイザー、銀行と保険会社、個人投資家、そして企業から成る資本市場全体(いわゆるエコシステム)の価値観と行動の変革を意図していることは明らかです(図表19)。</p>
<p><strong>図表17：欧州委員会によるESG金融に向けた「アクション・プラン」の全体像</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan2.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料) 欧州委員会『The Action Plan: Financing Sustainable Growth』(2018年3月)を基に筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>図表18：「アクション・プラン」におけるタクソノミーの役割</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan3.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料)欧州委員会「アクション・ブラン」14頁「Annex I – Role of the EU taxonomy in the Action Plan」を筆者仮訳</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>図表19：すべての資本市場参加者を視野に入れた「アクション・プラン」</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/04/kawamurasan4.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph">(資料) 欧州委員会「アクション・ブラン」19頁「Annex IV &#8211; Visualisation of the actions」<br />(日本語訳) 水口剛氏環境監査研究会講演資料「EUタクソノミーの動向」2020年3月15日</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次回(9)は、「EUタクソノミー規則」とTEG最終報告書の関係について、用法面からやや実務的に解説します。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営8】EUタクソノミーの『激震』(3)

KEYWORDS

#ガバナンス

KEYWORDS キーワードから探す