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茂木澄花

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2024東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/05/jal800_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<p class="heading">Day2　ブレイクアウト</p>
<div class="inner"> </div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業におけるサステナビリティの取り組みは、サステナビリティ関連部署だけでは完結しない。経営層から末端の社員まで、そして社外のステークホルダーをいかに巻き込むかが成功の鍵を握る。先進的な取り組みを進める3社が、人と組織を動かすための戦略を紹介した。(茂木澄花)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ファシリテーター</strong><br />小山嚴也・関東学院大学 学長・経営学部教授<br /><strong>パネリスト</strong><br />小川宣子・日本航空 ESG推進部 部長<br />里見陵・UCCジャパン 執行役員 サステナビリティ経営推進本部長<br />ニコ・ミラ・ボルボ・カー・ジャパン Head of Sustainability &amp; PMO</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>仕組みを整え着実に、あらゆる部署と――JAL</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/05/jal.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>小川氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>JALには、サステナビリティを議論する4つの会議体がある。毎週行われる担当者レベルの会議から、四半期ごとに全役員が集う会議まで、定期的に開催されている。同社の小川宣子氏は「毎週の会議というのは地道な活動だが、着実に一つ一つ取り組みを進めていくことが、社内の意識醸成や成果物の作成に必要不可欠だ」と語る。</p>
<p>また環境マネジメントシステム(EMS)を構築し、各部門に責任者と担当者を設置することで、現場社員とのコミュニケーションも図っている。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「社員の(サステナビリティの)自分事化」の事例としては、最新鋭の省燃費機材に持続可能な航空燃料「SAF」を搭載し、実質CO2排出量ゼロを実現した「サステナビリティ・チャレンジフライト」の取り組みを紹介。原材料や調達に配慮した機内食の提供や乗務員による手話通訳の実施など、2030年の時点で目指すフライトのサステナビリティの形を最大限表現した企画便で、あらゆる部署や職種の社員がアイデアを出し合い、搭乗者と共にサステナビリティを自分事として考える良い機会になっているという。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>パーパスに組み込み、リスクにアプローチ――UCC</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
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<div class="elem_paragraph"><sup>里見氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>UCCは、2021年に「より良い世界のために、コーヒーの力を解き放つ。」というパーパスの下に経営方針を刷新し、サステナビリティを組み込んだ。同社の里見陵氏は「サステナビリティという言葉がない頃から意識的にやってきた会社だが、より明示的に『地球社会への貢献』を価値観に入れて日々浸透を図っている」と話す。</p>
<p>同社は非上場企業だが、近年自主的に取り組みを加速させ、CO2排出削減や自然資源の回復、小規模農家の支援など、コーヒーに関するあらゆるリスクにアプローチする。2022年以降、国内の9工場に再生可能エネルギーを導入した。またコーヒー豆の水素焙煎技術の開発も進め、2025年4月には年間5億杯分のコーヒーを製造できる大型焙煎機を稼働させる予定だ。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>販売店ネットワークと協働、時には後押しも――ボルボ</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/05/mira.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>ミラ氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>ボルボ車の日本での販売を担うボルボ・カー・ジャパン。販売店ネットワークのほとんどは独立経営のディーラーであるため、CO2排出削減においても、いかにディーラーと協働するかが重要だ。</p>
<p>ガバナンス体制の整備や研修の実施とともに、インセンティブ制度も活用する。サステナビリティの成果を上げたディーラーにはボーナスを支給するなどし、取り組みの優先度を上げている。同社のニコ・ミラ氏は、ディーラーの自主性は尊重しながらも、「サステナビリティの緊急性は忘れられやすいため、時には決断を急がせるための後押しが必要だ」と強調した。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/05/koyama.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>小山氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>ここでファシリテーターの小山嚴也氏は、組織にサステナビリティの考え方を浸透させ、行動につなげるための仕掛けについて、3氏に問いかけた。</p>
<p>これにUCCの里見氏は「やらされ感なく、主体的に取り組んでもらえるように工夫している」と応じた。例えば同社の社内SNSでは、さまざまな部署が業務に関連したサステナビリティの取り組みを自主的に発信しているという。</p>
<p>ボルボのミラ氏は、「安全性」という長年のパーパスが、サステナビリティの浸透にも役立っていると説明。人間の安全に加えて「地球の安全」も守るという考え方だ。従来から共感を得ている価値観に紐づけたことで、考え方の浸透は難しくなかったという。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>JALの小川氏は、サステナビリティは本業に直結した課題だと強調した。少子高齢化やコロナ禍の影響で需要が減り、飛行機に乗るきっかけづくりが必要になったことで、関連部署だけではなく、自ずとあらゆる部署の協力が欠かせないものとなっている。</p>
<p>3氏の回答を受けて小山氏は、サステナビリティは「その企業が社会に必要なのか、残っていくのか」という、パーパスそのものの問題になってきていると指摘した。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>いかに意思決定のスピードを上げるか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>人と組織を動かすために、いかに議論へのエンゲージメントを高め、意思決定のスピードを上げるか――。UCCでは、経営戦略に直結する意思決定はあえて少人数で行うことでスピードを確保し、最もサステナビリティに厳格な欧州からの意見を特に重視しているという。</p>
<p>「変化のスピードを上げるために、ボトムでできることはあるか」という会場からの質問に、里見氏は、「すでにやっている仕事の中でできることを見つけると差別化につながる」と回答。ミラ氏は、「ボトムを巻き込むためにも基本的なトレーニングが重要だ」と付け加えた。</p>
<p>最後は小山氏が「人を動かすためには、仕組みづくりや地道な取り組みも必要だが、種まきがうまくいけば組織は自ら動き始める」とまとめ、セッションを終えた。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

SB国際会議

ニュース

サステナブル・ブランド国際会議2024

経営 management

ステークホルダー

いかに人を動かすか――サステナビリティで企業をドライブさせるための組織戦略

パーパスとサステナビリティの方程式

佐々木 恭子

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" style="color: initial;" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/31/20231223_800x350.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回のコラムでは、多くの日本企業が創業時から掲げる社会的な理念をパーパスと捉え、自社の事業活動を、理念に基づいた「当たり前」なことをしているに過ぎないと考える傾向にあること、そう考えるあまり、今起きている変化に対して消極的になってしまう可能性を指摘しました。つまり、「三方良し」に代表されるような「社会に良い」事業を長年実践してきたと自負する企業は、すでに良いことをしているのだからこのままで良いはず、と捉えがちだということです。こうした企業は、従業員一人一人への浸透や企業文化への定着を通じて、パーパスを「義務の側面(Duty-based perspective)」から実践しているということになります。</p>
<p>それでは、そのような、企業理念をパーパスとして捉えている日本企業は、「パーパス論」の背景にある気候変動や格差の問題など、今まさに起きているさまざまな社会課題をどう捉えているのでしょうか？</p>
<p>私の研究に協力いただいた日本企業6社のうち4社はパーパスの「義務の側面」だけでなく、同時に「目標の側面(Goal-based perspective)」も実践していました。</p>
<p>パーパスの「目標の側面」とは、第2回で紹介したように、企業の目標設定や戦略的ポジショニング、戦略立案などと関連し、システム思考と自然科学に基づいています。すなわち組織や企業にフォーカスし、変化のメカニズムはトップダウンです。4社においては、パーパスの実行化の手段としてサステナビリティ戦略があり、パーパスとサステナビリティのつながりが明らかでした。また、これらの企業に共通して見られたのは、自社の存続に対する「危機感」でした。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>パーパスは長期的な利益をもたらす？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/31/04photo_1.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>筆者が留学していた大学のキャンパス内の様子。夏の間は屋外ステージで音楽の演奏があり、学生たちはリラックスして過ごします(筆者撮影)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>そもそも企業は「なぜ」パーパスを策定し、継承するのでしょうか？</p>
<p>今回の6社には共通して、パーパスを策定、継承する背景に「競争の動機」がありました。「競争の動機」とは、短期的・長期的に利益を上げることを目的としています<sup>1</sup>。この動機を持つ企業は一般的に、利益をもたらしてくれる顧客や資金を提供してくれる投資家の利益を重要視します。</p>
<p>6社の中には、創業の理念を次世代に引き継ぐ際、自社の存続とさらなる成長への思いを込めて策定した「社是」をパーパスとしていたり、合併により新会社を設立した際に、各社の強みを生かした事業成長を期待し、存在意義を明確化したという企業がありました。新社長の就任を機に、「これまでのやり方では会社が存続できない、あるいは競争力の面で大きく変わらなければならない」という意識を持ち、パーパスの策定プロジェクトを開始した企業もあり、企業はパーパスを掲げ、実行化することで長期的に利益がもたらされると信じていることが分かりました。</p>
<p><sup>1 <a href="https://www.jstor.org/stable/1556363">Bansal &amp; Roth, 2000, p.724</a></sup></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業によって異なるパーパスの実践手段</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>一方で、パーパスの実践手段は企業により異なっていました。6社中4社は、パーパスを実行するための組織全体の戦略やフレームワークを策定し、そのすべてがサステナビリティに関連したものでした。</p>
<p>例えば、パーパスに基づき『価値創造ストーリー』を策定した企業では、自社が解決できるサステナビリティ課題を特定し、『2030年の社会像』を描いた上で、特定した課題の解決に向けた具体的なアプローチと戦略を策定しています。この企業の担当者の方は、「『価値創造ストーリー』と戦略を策定することで、パーパスを追求する道筋がより明確になった」と説明してくれました。</p>
<p>この4社は、いずれもパーパス策定の背後にある「競争の動機」に裏付けられた自社の存続と成長を追求する中で、自社を取り巻く社会課題を俯瞰(ふかん)し、現状に危機感を覚えていました。そしてシステム思考や自然科学に基づき、組織全体の戦略をトップダウンで策定・実行化しており、パーパスの「目標の側面」を実行していると考えられます。一方、「競争の動機」を持つものの、「目標の側面」を実行していない2社は、現状への危機感が4社と比較して弱く、パーパスの主な実行手段は社内への浸透であり、パーパスとサステナビリティの結びつきは明確ではありませんでした。</p>
<p>パーパスの「目標の側面」と「義務の側面」を理論化した欧米の学者たちによれば、目標の側面は企業のサステナビリティ行動と直接は結びついていません。むしろ第2回で紹介したように、「義務の側面」の方がサステナビリティとの関連性が深いことを示唆しています。興味深いことに、私が調査した日本企業ではこれとは逆の傾向がみられました。これはなぜでしょうか？</p>
<p>その訳に迫り、日本企業の特徴を考察するために、次回のコラムでは、欧米の社会経済制度の流れをくむオーストラリア企業の調査結果について解説していきます。</p>
</div>
<p></p>
</div>
<p></p>

コラム

【佐々木恭子コラム】第4回：日本企業が実践するパーパスの「目標の側面」とサステナビリティ戦略

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>第6回未来まちづくりフォーラム</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/26/g00.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>「サステナブル・ブランド国際会議2024 東京・丸の内」と同時開催された「未来まちづくりフォーラム」。ここでは2024年を「ポストSDGs検討元年」と位置付け、白熱した数々のセッションを展開した。最終日となる2月22日は「SDGs達成への折り返し地点現状と今後の展望」をテーマにクロージングセッションを実施。企業や大学、自治体関係者など4人のパネリストを迎え、危機的状況にあるSDGsの達成について「日本の果たせる役割や可能性」を探った。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>アフタヌーン</strong> <strong>プレナリー</strong></p>
<p><strong>ファシリテーター</strong><br />笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム 実行委員長、千葉商科大学 教授、サステナビリティ研究所長<br /><strong>パネリスト</strong><br />有馬利男・一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)代表理事<br />太田 昇・真庭市長<br />橋本隆子・千葉商科大学 副学長<br />岡田晴奈・ベネッセホールディングス サステナビリティ推進本部 常務執行役員</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/25/g01.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>笹谷氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>ファシリテーターを務めた未来まちづくりフォーラム実行委員長の笹谷秀光氏はまず、SDGs元年となった2015年を「193カ国の合意を得るという意味では(大きな紛争や政権による影響を受けない)エアポケットのような年だった」と振り返った。2030年の目標達成を目指している “今” を折り返し地点と捉え、「これから重要な局面に突入するが、2024年を『ポストSDGs検討元年』として議論を始め、SDGs万博と言われる2025年大阪・関西万博で日本の取り組みや姿勢を発信し、2027年のSDGs見直しに備えよう」と呼び掛けた。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「SDGsの理解度」を上げていくことが不可欠――GCNJ</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/25/g02.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>有馬氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>国連グローバル・コンパクトは、健全なグローバル社会を築くための世界最大のサステナビリティイニシアチブであり、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」に関わる10の原則に賛同する世界約160ヵ国、1万7500を超える企業・団体が参加している。</p>
<p>GCNJで代表理事を務める有馬利男氏は、SDGsの世界的な進捗状況について、2023年の中間レビューを基に状況を報告した。SDGsインデックス145のうち、順調なのは15%であり、軌道を外れているものが48%、後退・停滞しているのが37%だと説明。グテーレス国連事務総長の「このままだと、SDGsという言葉は墓場に刻まれる言葉になりかねない」という言葉を引用し、「つまりSDGs達成は危機的状況にある」と訴えた。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>GCNJは2016年以来毎年、加盟している日本の企業・団体を対象に、SDGsへの取り組み進捗を調査している。有馬氏は2021年と2022年の結果を比較したグラフを示し、SDGsの「目標3健康と福祉」以外の項目は重要度が増している結果だったと説明した。</p>
<p>従業員数別の詳細な調査では、「目標達成を役員報酬につなげること」はGCN本部で重視しているが、日本の大企業では低いスコアになっているという。また中小企業は、経営課題としてSDGsを掲げているが、その実績開示やKPI設定などの実践が伴っていないと指摘。「日本の99.7%が中小企業と言われている中、中小企業の取り組みが非常に重要であると言える」と有馬氏は強調した。さらにSDGsの認知度に触れ、認知度は非常に高いものの、「本質的な理解度」が極めて低いため、特に一般生活者や中小企業の意識変革が必要だと指摘した。</p>
<p>最後に有馬氏は、日本は「目標5ジェンダー・平等」の取り組みが遅れており、性別役割と分業意識が停滞していると欧米の専門家から指摘を受けていること、また「目標13気候変動」では、再エネコストや技術開発で世界とギャップがあり、石炭火力に頼っていると海外の専門家やNGOから不信感を持たれていることなどを課題として挙げた。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「地域の資源」で地域の付加価値を上げ、誇りを守る――真庭市</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/25/g03.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>太田氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>続いて、SDGsに先導的に取り組む自治体として、岡山県真庭市の太田昇市長が登壇した。2015年に稼働したバイオマス発電所を、「廃棄物だった間伐材を活用し、山を守って河川の氾濫を防ぎ、さらに財を生み出した。環境にも経済にも貢献できている」と紹介。この発電所によりエネルギー自給率が11.6%から32.4%になったり、処分費が１億円以上かかる未利用木や産廃処理物が、資源として有価で取引しているなど、効果を挙げている。だが一方で発電単価の高さが課題であり、技術力による解決の可能性を探っているという。</p>
<p>また、画期的な取り組みとして注目されている2024年に本格稼働する「生ごみ等資源化施設」は、生ごみと糞尿などを混ぜることで発生したガスで発電を行い、濃縮したものを農業の濃縮バイオ液肥として活用するものだ。そのため全市で生ごみを資源として収集し、一方で燃焼させる必要のあるごみは処理料金を上げるという。可燃ごみの量を削減するとともに、循環型の低コスト農業実現を目指す。太田市長は「地域の資源を使い、地域の付加価値を上げることで、市民の誇りを守りたい」と力強く語った。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>それぞれが 『ハートウェア』 の構築を――千葉商科大学</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/25/g04.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>橋本氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>「SDGs推進には、トップのリーダーシップとボトムアップが重要。真庭市はそれを体現している」と述べたのは千葉商科大の橋本隆子副学長だ。同大学では原科幸彦学長がリーダーシップを取り「自然エネルギー100％」を目指して、国内の大学で最大規模の太陽光パネルプラントを設置している。</p>
<p>橋本氏はSDGs達成には、ハードウェアとソフトウェア、そして学生がSDGsを自分事と捉え、自分たちで展開するという『ハートウェア』の構築が重要だとし、「大学にはリスクを恐れず試行錯誤できる土壌があるからこそ、私たちも学生も学びの中で引き続き挑戦し続けていきたい」と話した。2021年に、「自然エネルギー大学リーグ」を設立し、広島大学など10校と自然エネルギー 100 ％を目指す大学を増やすことを目指している。</p>
<p>また、自身が人工知能の研究者であることからAI活用のリスクに触れ、「AIはサステナビリティなどさまざまな分野で貢献する一方で、AIを使う人間とAIに使われる人間という、新たな階層社会ができている」と指摘。そうした社会に重要なのは「倫理」だと強調し、「AIを利用する人間に倫理的な教育を行うことに力を入れていきたい」と語った。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>ポストSDGsは経済と企業理念のバランスが不可欠――ベネッセホールディングス</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/25/g05.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>岡田氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>企業パネリストとして登壇したベネッセホールディングスの岡田晴奈・常務執行役員は、ポストSDGsは「経済性と理念における高レベルのバランスが不可欠だ」と指摘した。同社は、企業理念(パーパス)に「誰もが一生成長できる。自分らしく生きられる世界へ」を掲げ、社員の「社会課題の自分ゴト化」を促進するため、パーパスを中心に社会課題を語り、刺激しあう企業文化を醸成しているという。また、併せて社会課題を捉え多様なニーズに応える事業開発を行っていき、これら2つの両輪でパーパス実現を目指している。 </p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/25/BNE.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(講演資料より)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ポストSDGsの取り組みでは、2022年に設立した「ベネッセ ウェルビーイングLab」を紹介。多様性と対話を重視し、ウェルビーイングの土台を広めることやウェルビーイングを深める活動に取り組んでいる。また社員一人一人の一生に寄り添い、その時々のウェルビーイングを叶えていくという。岡田氏は講演資料を示しながら、「今後も事業を通じて収集した知見を積み上げ、社会に還元していく」と話し、ベネッセが考えるSDGs18番目のゴールは「超高齢社会の解決」だと述べた。</p>
<p>パネリストによる事例紹介や意見交換を受け、笹谷氏は「SDGs4番の教育と9番の産業技術における日本の強みをどう生かしていくか、またそれをどう自分事化していくかが、ポストSDGs検討における鍵だ」と総括した。そして「サステナビリティのためのサステナビリティにならないよう、環境、社会、経済をシンクロさせ、三位一体で社会を良くしていくことを進めて行くことが今後は重要になる。その上でもうひとつの “S”、これらの取り組みを “スケール(拡大)” させていくことを目指そう」と力強く語った。(清家直子)</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

社会 social

まちづくり

ポストSDGsは「18番目のゴール」の設定から始まる

眞崎裕史

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2024東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/22/kanai800_1.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<p class="heading">Day1　プレナリー</p>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>金井政明・良品計画 代表取締役会長</strong> </p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>シンプルで機能性の高い商品が、多くの人の生活に浸透している「無印良品」。その始まりは世界で大量消費、大量廃棄型経済が進み、日本もバブル景気に沸いた1980年代に、『過剰な消費社会へのアンチテーゼ』の意味合いを込めて市場に送り出されたものだった――。今や世界に1200以上の「MUJI」の店舗を展開し、サステナブル・ブランド ジャパン アカデミックチームが行う&#8221;生活者のSDGsに対する企業ブランド調査『Japan Sustainable Brands Index(JSBI)』 でも2年連続で1位になるなど、名実ともにサステナビリティのリーディングカンパニーである良品計画の経営の神髄を金井政明会長が語った。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>無印良品のカラーとしてなじみ深い、えんじ色(良品計画は“弁柄色”としている)の背景に白字。セッションは、スクリーンに映し出された「幸せですか？」との問いかけから始まった。会場を見回しながら、「(主語を)『私たちは』、というふうに聞くと、皆さんちょっと困ってしまいますよね」と金井氏。なぜなら、個人で幸せを感じていても、その問いかけの範囲が子どもや孫、さらに将来世代ともなると、答えに窮してしまう人が多いだろうから。水・食糧・エネルギー不足や『地球沸騰化』など、さまざまな問題が差し迫っているからだ。</p>
<p>それらの根っこにある『過剰な消費社会』に対し、無印良品は1980年の創業時から「闘っていこうというアンチテーゼ」を持つと同時に、「みんなが感じ良い暮らしや社会とはどういうことかを探求してきた」と金井氏は力説する。人間には「人と比較してうらやましがったり、ねたんだり、見せびらかしたり」という特性があり、資本の論理もそこに向かって過剰な消費をつくりだしがちであるのに対し、無印良品では、クリエイティブチームがアドバイザリーボードという形で経営の軌道を修正する仕組みを続けてきたという。</p>
<p>「家に戻ってネクタイを外して、家族だけに、あるいは自分ひとりだけになった時にどんな商品と暮らしたいか、どんな商品を選んでもらえるだろうか、というのが僕たちのマーケティング」と金井氏。そのような「素の自分」へアプローチする商品は、「素材に無駄がないか」「必要以上に加工に手間がかかっていたり、付加価値を付けていないか」など、徹底的に削ぎ落とした「素材としての良品」であり、背景には「少ない方が豊か」という生活美学がある。</p>
<p>今や無印良品の店舗は世界32の国と地域で1200以上に広がり、その半数以上が海外だという。金井氏はその一つ一つが「単純なチェーンオペレーションではなく、思想を共有した個店経営だ」と説明し、特に日本ではこれから人口が半減するとされる2100年を見据え、「小売の仕事だけではない、『超小売』として」地域と対話し、協業を進めていく方針を強調。ここでセッション冒頭の問いかけを自らに向け、「他者(ひと)の役に立てている実感と、『困ったらお互いさま』という社会をみんなで一緒につくっていく。そこに自分がいることが本当の幸せではないでしょうか」。このような答えを導き、講演を終えた。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<p class="heading">青木茂樹・SB国際会議アカデミック・プロデューサーと対談</p>
<div class="inner">
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人間という、動物の一種類が私たちなのだ、と再認識する。人間中心主義ではない、本来に戻ることが必要だ</h2>
</div>
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<div class="elem_paragraph">
<p>続いてセッションは、青木茂樹・SB国際会議アカデミック・プロデューサーが、良品計画のこれまでやサステナビリティの考えについて金井氏に深掘りする形で進行。初めに、無印良品を創業した中心人物で、セゾングループを築き上げたことで知られる堤清二氏の『イズム』が、無印良品の中にどう息づいていたのかを聞くと、金井氏は『人間はそもそも矛盾した生き物なんだ』という堤氏の言葉を紹介しつつ、当時のクリエイティブなメンバーに共通する戦争体験や『弱いもの、小さいものに対する強いまなざし』を指摘し、無印良品誕生のバックボーンとして説明した。</p>
<p>サステナビリティの言葉が普及するはるか前から、それにつながる思想と経営を続けてきた良品計画。青木氏が「時代がやっと追いついてきたのか。トレンドをどう感じているか」と問うと、金井氏はSDGsやESGなどの言葉に「本質を感じていない」と応じ、「今の価値観の何が豊かで、何が幸せで、何が美しいのか、もう一度考える。この惑星の中で、人間という、動物の一種類が私たちなのだ、と再認識する。人間中心主義ではない、本来に戻る、ということが必要だ」と述べた。</p>
<p>一方、無印良品のグローバル展開に関連し、青木氏が「標準化と適応化」のバランスについて尋ねると、金井氏は自律分散型の組織を目指しているとし、「社員が株主、経営者であるべきで、ワーカーではなくプレイヤーだ」と強調。食や衣料に浸透したグローバリズムを「今のままでいいのか」と疑問視した上で、「思想を共有した人たちが、それぞれの地域や店舗で自ら考えていく。そういった経営が、最後は役に立ってもうかると思う」と話し、実際に世界各地で、店舗の一部を工芸作家らに無料で開放し、地域の人と人をつなげる取り組みが行われていることを紹介した。</p>
<p>サステナビリティがビジネスの主要なテーマとなる中、日本で40年以上前に生まれた「MUJI」はグローバル市場をどう生き抜き、さらなる成長につなげていくのか——。青木氏の最後の問いに、金井氏は「計数的にエビデンスがないといけない風潮があることの難しさ」を指摘しつつ、「エビデンスだけが全てではない。会社のビジョンや哲学の価値を計数化できないとしても、顕在化できるようなことは考えないと負けてしまう」と力説。競争は激しさを増す中、本質を見極める経営の大切さを改めて伝え、セッションは幕を閉じた。(眞崎裕史)</p>
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<p>関連記事＝<a href="https://www.sustainablebrands.jp/article/interview/detail/1219554_1533.html">サステナブル・オフィサーズ 第62回</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/article/interview/detail/1219554_1533.html">原点は“素の自分”にマーケティング　『感じ良い暮らしと社会』をどうつくっていくか――金井政明・良品計画 代表取締役会長</a></p>
</div></div>
</div>
<p></div>
<p></p>

過剰な消費社会へのアンチテーゼと、感じ良い暮らしの追求――無印良品の40年

依光隆明

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2024東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/04/matsuda800_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<p class="heading">Day2　プレナリー</p>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>毛籠(もろ)勝弘・マツダ 代表取締役 社長兼CEO(最高経営責任者) コミュニケーション・サステナビリティ統括</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>広島に拠点を据えるマツダは、時に革新的な技術を全世界の自動車市場に供給し続けてきた。その筆頭格がロータリーエンジンだ。今や伝説ともなったこのエンジンを、毛籠勝弘氏はさらなる期待を込めて「ジキルとハイド」と表現する。そしてモビリティ産業が変わりゆく中でも『走る歓び』を進化させ、提供し続けることへの決意は揺るぎがない。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>毛籠氏は「今日は持続可能性に向けた飽くなき挑戦の話をしたい」として、マツダの歩みを振り返りながら未来を語った。命題として掲げたのは、「時代の要請に適合する」と「生活に価値を提供し続ける」の2つ。時代の要請はカーボンニュートラルの実現であり、車における「価値」をマツダは『走る歓び』に置く。毛籠氏は「これらは企業の持続可能性に欠かせない」とした上で、「マツダ独自の1つの技術に着目し、この2つの命題をどう突破しようとしているかを話したい」と語りかけ、「その技術とはマツダの代名詞ともなっているロータリーエンジンだ」と続けた。</p>
<p>かつてロータリーエンジンが小型軽量高出力で夢のエンジンと言われたこと、世界中の自動車メーカーが実用化に取り組んでは断念するなか、1964年にマツダが世界で初めて量産化に成功したことを毛籠氏は説明していった。1978年にはロータリーエンジンを積んだコンパクトスポーツカーである初代RX-7を生み出し、大ヒットにつながったこと、1991年にはル・マン24時間耐久レースで日本車として初めての総合優勝をロータリーエンジン搭載車で達成したこと。語られたのは、ロータリーエンジンがスポーツカーエンジンとして世界的人気を得ていった軌跡だ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>ジキルとハイドのような二面性に魅力――ロータリーエンジンへの思い</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>この後、毛籠氏は「ロータリーエンジンは実は環境エンジンとしての可能性を秘めている」と話を転じた。「当社では1990年頃から水素を燃焼させる研究開発を進めた。水素は燃焼させると排気ガスとしては水蒸気しか出さない。究極の環境エンジンだ」と。半面、水素は扱いにくい。「水素を燃焼させるのは夢のまた夢だった。意図しないタイミングで爆発するなど、水素はコントロールが非常に難しい。ところがロータリーエンジンはそれをブレークスルーする特徴を持っている」。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/04/enjin.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>一般的なピストンエンジン(左)はピストンが上下運動することで、圧縮、爆発、排気、吸気の工程が1つのシリンダー内で完結するが、ロータリーエンジン(右)はおむすび型のモーターが回転し、吸気、圧縮・爆発、換気の工程が独立した部屋で行われるため、燃焼コントロールがしやすい構造になっている(講演資料より)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>具体的には、一般的なピストンエンジンと違い、ロータリーエンジンは、吸気、圧縮・爆発、換気の工程を独立して行う構造のため、燃焼コントロールがしやすい。同社ではこの特徴を生かして水素を直接燃焼させる技術を確立し、2008年にはノルウェーの水素国家プロジェクトに提供するとともに、国内でも実証実験を続けている。さらに、この水素ロータリーエンジンを発電機として使い、電気モーターを組み合わせたハイブリッド方式の技術実証にも取り組む。いずれも「遠い将来をにらんだ、環境対応の布石」の位置付けだ。</p>
<p>「ロータリーエンジンは小型軽量高出力で、気持ちよくどこまでも噴き上がる官能的なエンジンとして根強いファンを持つ。一方、知られない側面として、究極の環境エンジンの可能性も併せ持つ。ジキルとハイドのような二面性を持ったこの魅力に私たちは魅了され続けている」と、毛籠氏はロータリーエンジンへの憧憬(しょうけい)を語った。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>世界中の自動車が電気自動車になれば問題が解決するのか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>話題は身近なカーボンニュートラルへの取り組みに移り、マツダも2030年にすべての車を電動化するなど、時代の要請に適合し、電動化を大胆に進めることを表明。しかし、そこで毛籠氏は「では世界中の自動車が電気自動車になれば問題が解決するのか」と問いかけた。手段ではなく、目的に立ち返らなくてはいけないという思いからだ。</p>
<p>「電気自動車は確かにテールパイプからは排出ガスを出さない。しかしライフサイクル全体、つまり資源や石油採掘から、運搬、車両製造、使用、廃棄といったすべての過程を捉えると、電気自動車もCO2を排出している」</p>
<p>そう前置きした上で、毛籠氏は「例えば化石燃料への依存度が高い日本の例で申し上げると、ライフサイクル全体で最もCO2を多く排出するのは、実は電気をつくる火力発電だ。太陽光発電などの再エネ電力がない場合、車に充電する電気はCO2を排出して作られている」と指摘。データを示しながら、「ライフサイクル全体でのCO2排出量は、電気を使う電気自動車とガソリンを使うハイブリッドでほぼ同じ程度だ」と強調した。</p>
<p>ではマツダはどうするか。毛籠氏は「当社はマルチソリューションというアプローチを取っている」と話した。クリーンディーゼルやプラグインハイブリッド、電気自動車など、「ユーザーのライフスタイルに適応した多様なソリューション」を提供し、選択の自由を担保することで、「より早く、より多くの方にCO2削減に貢献いただける」という考え方だ。</p>
<p>その上で毛籠氏は、将来的には「水素、バイオ、合成燃料など多様なカーボンニュートラル燃料を社会実装していくタイミングが来る」という見通しを述べた。そこに向かい、同社ではミドリムシから作ったバイオ燃料の実証実験を行っていることも明らかにし、そうしたバイオ燃料を含むカーボンニュートラル燃料が市販化されれば、「CO2の排出を劇的に削減することが可能になる。インフラ面でも、既存のガソリンスタンドが活用でき、社会資本に負担をかけることがない」と主張。時間と共に技術は絶えず進化していることを踏まえ、カーボンニュートラルへのロードマップとして、幾筋もの道を探っていることを重ねて強調した。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>車はスマホや家電のようにコモディティ商品になってしまうのか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>そして、もう1つの命題、「人々の生活に価値を提供し続ける」について、毛籠氏は、多くの人から聞かれるという「変わりゆくモビリティ産業のなかで、車はスマホや家電のようにコモディティ商品になってしまうのか」という問いに答える形で話し始めた。</p>
<p>「私の答えは、イエス&amp;ノー。電気自動車に搭載されているバッテリーやモーターは、エンジンに比べてコモディティになりやすいとも言えるが、マツダは走る歓びやマツダデザインなど、感情的な要素を大切にしており、電動化の時代でもその独自性にこだわり抜こうと考えている」。ここでいう『走る歓び』とは、「単にA地点からB地点へと移動するだけでなく、楽しく移動できる。移動すること自体がワクワクする。生活が生き生きとする」、そんな価値を指す。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/04/car_2.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>マツダが昨年のジャパンモビリティショーに出展した、ロータリーエンジンを使った独自のソリューションによる未来のコンパクトスポーツカー「MAZDA ICONIC SP」</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>カーボンニュートラル時代に『走る歓び』は存在し続けるのか――。その1つの答えとして、毛籠氏は、デザイン性の高さとスポーツカーとしての走行パフォーマンスを兼ね備え、さらにマツダ独自のロータリーEVシステムを採用したコンセプトカー「MAZDA ICONIC SP」を紹介し、「夢に描いたロータリーエンジンが、本来の環境エンジンとして社会に役立つときがようやく到来した」と笑顔を見せた。</p>
<p>「我々が提供する商品やサービス、ブランド体験によって、お客さまの今日が前向きな1日であってほしい。お客さまを走る歓びでワクワクさせ続けたい」</p>
<p>最後は、昨年、同社が策定したパーパス、「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」に重ねてそう力強く呼びかけ、講演を締めくくった。(依光隆明)</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

時代の要請に適合し、『走る歓び』を進化させ続けていく――マツダの飽くなき挑戦

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" style="color: initial;" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/02/28/20231223_800x350.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回のコラムでは、パーパスには「目標の側面(Goal-based perspective)」と「義務の側面(Duty-based perspective)」の2つがあるという理論を紹介しました。日本企業によるパーパスの実践は、2つの側面と照らすとどのように見えるでしょうか？ また、パーパスの議論の背景にあるサステナビリティ課題の解決とどのように関係しているでしょうか？</p>
<p>私の研究では、まず世界の大企業500社(Fortune Global 500)の中から、ホームページや統合報告書でパーパス(自社の存在意義)を開示しており、なおかつグローバル共通のサステナビリティ課題である国連持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいる企業を洗い出しました<sup>1</sup>。 Fortune Global 500に日本企業は53社リストされており、そのうち44社(83％)が何かしらの形でパーパスを表明し、SDGsに取り組んでいることが判明しました。これは米国の企業(121社中57社：47%)よりも高く、日本企業の間ではすでにパーパスやSDGsへの取り組みが「当たり前」になっていることを改めて確認する結果となりました。</p>
<p>それでは、企業はなぜパーパスを掲げ、それをどう実践しているのでしょうか。また、そこにサステナビリティ課題(SDGs)はどのように関わっているのでしょうか。統合報告書などで開示している情報は企業活動のほんの一部でしかないため、これらの疑問を解くには十分ではありません。そこで私は先に絞り込んだ日本企業44社のうち6社の協力のもと、10人に直接お話を聞かせていただきました。また、日本企業との比較のためにオーストラリア企業10社にも同様にご協力いただきました。</p>
<p><sup>1 調査時期は2020年</sup></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業理念もパーパス――要点は従業員による実践</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/02/28/HIGH600.jpg" alt="" /></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>カフェ文化が有名なメルボルンですが、最近はごみが出ない食べられるコーヒーカップも登場(筆者撮影)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>パーパスを「企業の存在意義」として定義した上で、自社のパーパスの有無について聞いたところ、6社中4社の参加者は「『企業理念』をパーパスとして捉えている」と回答されました。また他の2社は2020年にこれまでの理念を刷新する形で新たにパーパスを策定していました。</p>
<p>その2社になぜ新たにパーパスを策定したのかを聞くと、新社長の就任によりパーパスを策定したという企業の参加者が、「パーパスは企業理念に包含される概念ですが、例えば、企業理念を刷新したとするよりも、パーパスとして自社の『存在意義』を明確に定義したとすることで、従業員が自分事として、さまざまな取り組みをパーパスに関連付けて捉えやすい面があるように思えます」と答えてくれました。つまり、従業員による実践をパーパスの要点として考えていることが分かります。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>さらに、企業理念など既存のステートメントがパーパスであると答えた企業の中には、「私たちのミッション(企業理念)は、パーパスに値するほど十分に強い」と答えた方もいました。つまり自社の中に浸透している理念が既にパーパスの要素を満たしていると考えていたのです。これらの企業の参加者は、自社の理念を永遠で普遍的、理想的な組織基盤であるとみなしていました。なぜなら、企業理念は組織の本質的な信念や価値を含んでおり、従業員を鼓舞し、行動を導くものであるからです。この点において、「企業理念」か「パーパス」かといった、ステートメントの名称自体は重要ではないことが分かりました。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>パーパスの社内浸透と社会課題の関連は？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>多くの日本企業にとって、社会に貢献するという考え方は新しいものではなく、創業当初から数十年以上にわたって組織の中に「当たり前」にあるものと捉えられていることは先行研究とも合致しています。私の研究に参加いただいた企業の1社は、創業が19世紀に遡りますが、企業理念に書かれていることは社会における自社の「責務」であり、従業員一人ひとりの「使命感」につながっていると話してくれました。別の企業の方は、企業理念が「従業員に誇りと帰属意識をもたらす」と説明しました。最近パーパスを策定した企業でも、創業者や初期の経営層の思想や発言を洗い出し、そこに含まれる組織としてのDNAをパーパスに反映していました。要は企業理念であってもパーパスであっても、社会に貢献するという思想や理念を組織の中で活かし続けることが重要だと考えているのです。</p>
<p>創業時の社会的な理念をパーパスと捉え、継承している企業は、経営者から従業員へのメッセージにパーパスの文言を含めたり、創立記念日にパーパスをリマインドするイベントを開催したり、オフィスや工場にポスターを掲示したりするなど、さまざまな方法で組織内にその文言を浸透させていました。また、一人ひとりの従業員の仕事とパーパスを関連付ける社内ワークショップを実施したり、パーパスに基づくベスト・プラクティスの社内表彰を開催している企業もありました。これらの活動は、企業が社会の中で果たすべき役割を一人ひとりの価値観や道徳に働きかけ、内発的動機をパーパス実践の駆動力にしているという観点から、前回の記事で整理した理論に照らし合わせた時、パーパスの「義務の側面(Duty-based perspective)」を実践していると考えられます。</p>
<p>では、パーパスの「義務の側面」の実践はどのように把握されているのでしょうか。<br />
調査に協力いただいた日本企業では、パーパスの「義務の側面」の実践度合いについて、従業員アンケートによるパーパス認知度やエンゲージメントスコアで把握されていた一方、「パーパス論」の背景にある気候変動や格差の問題など、SDGsに記されている社会課題とパーパスとの関連性については明確な回答は得られませんでした。つまり、「パーパスを実践していることと、パーパス論の背景にある社会課題は直接結びついていないのではないか」と考えられます。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。創業時から社会的な理念を掲げていることを理由に、パーパスを既に自社が実践している「当たり前」なことと捉えてしまった場合、その理念が自社の既存の事業活動を肯定するあまり、今起きている変化に対して消極的になってしまう可能性も考えられます。</p>
<p>そうならないためにはどうしたら良いのでしょうか。次回は日本企業の中でパーパスの「目標の側面」を実践する企業の考え方と取り組みについて紹介します。</p>
</div>
<p></p>
</div>
<p></p>

【佐々木恭子コラム】　第3回：日本企業に共通するパーパスの「義務の側面」

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" style="color: initial;" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/01/12/20231223_800x350.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2010年代以降、米国での出来事を発端に注目を浴びている企業のパーパス(目的、存在意義)を見直す議論。第1回のコラムで触れたように議論の火付け役は投資家や企業団体などの実務者でしたが、実社会での動きを背景に、学術界でもパーパスの研究が再び注目されるようになりました。今回のコラムでは、パーパスの理論的背景について解説します。</p>
<p>企業のパーパスについて、多くの実務者や学者がさまざまな視点で議論を交わす中、米国ペンシルベニア大学ウォートン校のクラウディン・ガーテンバーグ教授は、パーパスに関する議論を2つの大きな視点で整理しました<sup>1</sup>。1つ目はCorporate purpose、2つ目はPurpose of the corporationです。日本語にすると両方「企業の目的」となってしまいますが、この2つのニュアンスの違いを簡単に説明します。</p>
<p>1つ目のCorporate purposeは、組織の機能やリーダーの役割に焦点を当てたもので、企業全体の行動を導く指針としてのパーパスについて掘り下げた理論体系です。前回のコラムで取り上げた企業理念に関する議論や欧米の経営学で確立されたミッション、ビジョン、 バリューなどの理論がこちらに含まれます。</p>
<p>そして2つ目のPurpose of the corporationは、社会における企業の役割に注目した理論です。企業は一元的に株主に対する責任を持つというプリンシパル=エージェント理論や、企業が責任を持つ範囲は株主だけでなく従業員や地域社会などのステークホルダーを広く含むというCorporate social responsibility (CSR)理論もこちらに含まれます。1つ目のCorporate purposeの視点が企業の内部に注目していたのに対し、2つ目のPurpose of the corporationの視点は、企業を外から見たときの企業の目的について議論しています。</p>
<p>企業のパーパスが企業のサステナビリティ行動にどのように関係しているのかを追求するため、私は主に1つ目の視点、つまりCorporate purposeについて掘り下げて研究しました。このコラムで今後パーパスと書く場合は、Corporate purposeの視点を主軸とします。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sup>1：<a href="https://www.elgaronline.com/edcollchap/book/9781839105340/book-part-9781839105340-9.xml">Gartenberg, C. (2022)</a></sup></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/01/12/merborn.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>筆者が留学していたメルボルンの街のシンボルである「フリンダース・ストリート駅」(筆者撮影)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>目標と義務 : 2つの側面</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>さて、パーパスは企業全体の行動を導く指針のようなものであり、企業理念やミッションと似たような位置づけであることを説明しましたが、これをさらに体系化した学者たちがいます。経営学の有名ジャーナルの一つであるJournal of Managementに論文を発表したジョージ教授らです<sup>2</sup>。彼らはパーパスに関する既存の論文や理論を広くレビューし、パーパスの議論にはGoal-based perspective(目標の側面)とDuty-based perspective(義務の側面)の2つがあると主張しました。</p>
<p>このうち「目標の側面」は、企業のミッション、ビジョン、戦略的意図に関する理論と密接に関連し、必ずしも社会的な視点を含みません。目標設定、戦略的ポジショニング、戦略立案などと関連し、システム思考と自然科学に基づいています。組織や企業にフォーカスし、変化のメカニズムはトップダウンと外発的動機によります<sup>3</sup>。経営学の歴史を紐解くと、パーパスの目標の側面に関する理論は20世紀の初頭まで遡ることができ、組織におけるミッションステートメントの研究などが当てはまるとしています。</p>
<p>パーパスの目標の側面について、前述のガーテンバーグ教授が挙げた分かりやすい例があります。米国最大規模の銃器メーカーであり、170年以上の歴史をもつSmith and Wesson(スミス&amp;ウェッソン)は、独立宣言に根差したアメリカ人の自由、平等、安全に貢献するという強力なパーパスを持つことで知られていますが、「社会的」という概念を余程広くとらえない限り、この会社が社会的、またはサステナビリティに貢献しているとはいえないでしょう。しかし、パーパスの目標の側面に照らしてみれば、パーパスに基づく経営を実行しているとガーテンバーグ教授は論じています。</p>
<p>これに対してパーパスの「義務の側面」は、倫理、価値観、道徳の理論を包含し、企業の社会的・環境的義務を明示します。依拠するパラダイムは組織ではなく従業員個人に焦点を当てたヒューマニズムと社会科学で、「目標の側面」とは対照的に、変化のメカニズムはボトムアップと内発的動機に基づいています。また、CEOなどの意思決定者の価値観と深く結びついており、従業員一人ひとりを「人間」として扱います。彼らの価値観やモラルに働きかけることで、パーパスを通じた組織的行動が促進されると考えます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sup>2: <a href="https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/01492063211006450">Geroge, G. et al. (2023)</a><br />
3: <a href="https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589811623000022">Dahlmann, F. &amp; Stubbs, W. (2023)</a></sup></p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ジョージ教授らによれば、気候変動や格差などの社会課題を背景とした昨今のパーパス議論は主にパーパスの義務の側面と関連があると説明しています。例として、英国発の自然派化粧品・コスメブランドであるThe Body Shop(ザ・ボディー・ショップ)とその創業者であるアニータ・ロディック氏を挙げ、彼女の没後も同社は環境スチュワードシップ、人権の擁護、自尊心、フェアトレードの支援など創業者の価値観に基づくパーパス経営を行っていると紹介しました。同社のように利益と同時に社会的価値を追求する社会的起業家は、パーパスの義務の側面を実行しているのです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>理論から実証へ</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ジョージ教授らやガーテンバーグ教授など積極的にパーパス研究を行っている学者たちにとっても、まだ解き明かされていない課題がたくさんあります。例えば、ジョージ教授らはパーパスの目標の側面と義務の側面という2側面を提示しましたが、これらが実際に一企業の中に同時に存在するのかどうかは明らかになっていないとしています。また、ガーテンバーグ教授は、パーパスとサステナビリティはお互いに関連し合っているだろうと推測しますが、具体的にどのように関連しているのかについては、今後実証研究が必要だとしています。</p>
<p>今回のコラムでは、パーパスの議論に関して、欧米の学者が整理する理論をご紹介しました。日本企業の昨今のパーパスに関する考え方や取り組み、企業理念、サステナビリティに関する行動は、これらの理論をもとに整理してみるとどう見えるでしょうか？次のコラムから日本企業の事例をもとに解説していきますのでお楽しみに。</p>
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【佐々木恭子コラム】　第2回：欧米の研究にみるパーパスの理論的背景とは

Coro Strandberg

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<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/01/04/g1_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: </sup><a href="https://www.pexels.com/photo/a-man-and-a-woman-taking-notes-in-a-meeting-7688373/"><sup>Kindel Media</sup></a></div>
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</tr>
</tbody>
</table>
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<div class="elem_paragraph">
<p>ますます多くの企業が自社の存在意義を示す社会的パーパスを掲げるようになっている。社会的パーパスを掲げる“ソーシャルパーパス企業”にはさまざまな定義があるが、基本的には、より良い世界をつくることが存在意義となっている企業を指す。利益を得て人や地球の課題解決を行いながらも、害を及ぼさないことも要件の一つだ。これは、すべての人の長期的なウェルビーイングにも貢献できる最適な企業戦略といえる。(翻訳・編集＝小松はるか)</p>
<p>パーパスを掲げる企業は、宣言するだけにとどまることなくすべての取り組みに積極的にパーパスを統合している。それができなければ“パーパスウォッシュ”のリスクに陥ってしまう。パーパスを実行するということは、パーパスをガバナンスに組み込み、内部監査やリスク管理、マーケティング、人事など全ての部門を通じて取り組むということだ。</p>
<p>企業がパーパスを実装するために重要なのが測定基準だ。マーケターや人事マネジャーは、顧客や従業員にパーパスが浸透しているかを測る基準を必要としている。先進企業は、パーパスの信頼性、ステークホルダーとの連携や、パーパスの実装に取り組む意欲を測定するために意識調査を行なっている。例えば、「この企業は本質的で、パーパス・ドリブンな企業だと思うか？」「この企業と関わることで、自分は世界をより良い場所にしたいと考えているか？」「この企業のパーパスに貢献しようという気持ちになるか？」というような質問をする。</p>
<p>しかし、パーパスを実際に達成するには、企業はまず半年から1年を費やし、社内でパーパスの認知度を高め、社会的パーパスを持つ企業とそうでない企業がどう異なるのかを従業員が理解できるようにし、自らの役割やチーム、部署においてパーパスを生かすために従業員が知識やスキルを備えられるように取り組む必要がある。</p>
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<div class="elem_heading_lv2">
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<h2>パーパスをけん引する「ソーシャルパーパス・プロフェッショナル」</h2>
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<div class="elem_paragraph">
<p>そこで、パーパスの実装に携わる職務に就いている人たち、特にリーダー層向けのツール<a href="https://purposeeconomy.ca/wp-content/uploads/2023/10/CPEP_The-Social-Purpose-Professional_V3.pdf">「ソーシャルパーパス・プロフェッショナル」</a>を紹介する。パーパス経済への移行を促進する<a href="https://purposeeconomy.ca/">“カナダ・パーパス・エコノミー・プロジェクト(Canadian Purpose Economy Project)”</a>が発行したものだ。</p>
<p>ソーシャルパーパス・プロフェッショナルとは、パーパスを掲げそれに基づいて行動するパーパス・ドリブンな企業のなかで、組織の社会的パーパスを積極的に活用するだけでなく、部門・チーム内にパーパスを取り入れようとする経営層や管理職のことだ。そうしたリーダー層の人々は、組織やその垣根を越えてより良い社会をつくるための推進力になる。さらに、自社と関わる企業に社会的パーパスを採用するよう促し、組織内外の人たちがパーパスに基づいて行動するように巻き込んでいく役割も果たす。彼らは社会的パーパスに基づく意思決定を行う手本となる人物であり、組織や職業の枠を超えて社会的パーパスを積極的に推進する人たちだ。</p>
<p>このツールのメリットは大きい。当然のことだが、ソーシャルパーパス・プロフェッショナルは企業が確実にパーパスを実行する上でも、パーパスウォッシュと非難されるリスクを低減するのにも役立つ。形ばかりではない“生きたパーパス”は、経営層や管理職が、価値観を重視する従業員やチームを魅了し、引き込み、動機を与える手助けにもなるだろう。同時に、企業の内外においてパーソナルブランドを構築するのにも役立つ。社会的パーパスに関する専門的な知識や実績は、こうしたリーダー層の人たちの経歴の一つにもなり、彼らの仕事にさらなる意義をもたらすこともできるのだ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>ソーシャルパーパス・プロフェッショナルになるための6つのステップ</h2>
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<div class="elem_paragraph">
<p>「ソーシャルパーパス・プロフェッショナル」は、パーパスを掲げる企業の従業員にとって必読のツールだ。ここでは、ソーシャルパーパス・プロフェッショナル(専門家)になるための6つのステップを紹介する。</p>
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<div class="elem_paragraph">
<p><strong>1</strong> <strong>ソーシャルパーパス</strong><strong>について学ぶ</strong><br />1)ビジネス記事を読み、ソーシャルパーパスに携わるソートリーダー(思想的指導者)やインフルエンサーをフォローする。例えば、カナダ・米国のおすすめのサイトやSNSは<a href="https://corostrandberg.com/wp-content/uploads/2022/11/purpose-news-feeds-2022.pdf">こちら</a>。<br />2)カナダ・パーパス・エコノミー・プロジェクトが発行する<a href="https://purposeeconomy.ca/">メールマガジン</a>も参考になる。</p>
<p><strong>2</strong> <strong>ソーシャルパーパスの実装に取り組む団体・コミュニティを立ち上げる</strong><br />1)自社と関連する産業や地域のマーケットのなかで、ソーシャルパーパスを掲げる企業を探す。そのなかで自社と同規模の3～4社から、パーパスをどう実装しているかを学ぶ。<br />2)部署の中でソーシャルパーパスの実装に取り組む同僚を探し、1年に数回は集まって課題や成功事例、信頼できる情報を共有し、互いに学び合うためのコミュニティをつくる。</p>
<p><strong>3</strong> <strong>自らのチームのメンバーに働きかけ、ソーシャルパーパスを業務に統合する</strong><br />1)自社のソーシャルパーパスにつながる「部門内の」ソーシャルパーパスを定める。<br />2)チームのすべてのメンバーのためにソーシャルパーパスの達成目標を策定し、インセンティブや評価プログラムにソーシャルパーパスの項目を取り入れる。また自身の業績目標にソーシャルパーパスの達成目標を含める。<br />3)ソーシャルパーパスについて学ぶ機会を設け、チームメンバーを支援する。部門のプロフェッショナル育成予算にソーシャルパーパス教育を含める。<br />4)すべての職務説明書や求人票にソーシャルパーパスに対する責任項目を含める。例えば、「企業のソーシャルパーパスの実行を支援する」などと記載する。<br />5)新しいプロジェクトやイニシアチブを始める時には、自社のソーシャルパーパスが業務範囲にどう影響するのか、新たなプロジェクトやイニシアチブが社会への恩恵をどう生み出すのかを明確にする。<br />6)企業のソーシャルパーパスを浸透させ実行するために、部門の目標を毎年決める。<br />7)他の部門やチームにもソーシャルパーパスを共有するようメンバーを後押しし、自らも全社に対しソーシャルパーパスを提起する。<br />8)ソーシャルパーパスにまつわるストーリーを組織に定期的に共有し(イントラネットや社内報が理想的)、成功事例や課題、教訓を伝える。ソーシャルパーパスの実行とは何かを他の人たちが理解するに役立つだろう。<br />9)重要な会議で“ソーシャルパーパスの時間”を設け、人々を鼓舞するようなソーシャルパーパスの経験を共有する。</p>
<p><strong>4</strong> <strong>ソーシャルパーパスに取り組むために、自社を取り巻く体制を整える</strong><br />1)自社と関わりのある職能団体に、従業員向けのパーパス教育を提供できないか聞いてみる。もしリソースがあるなら、ソーシャルパーパスについてのウェビナー講座や研究論文の後援を申し出る。<br />2)ソーシャルパーパスを取り入れ、社会をより良くするために職能団体に働きかけ、支援する。またその団体とリソースを共有する。<br />3)既存のサプライヤーやベンダー、請負業者にソーシャルパーパスがあるかを尋ねる。ある場合は、調達文書に記載してもらうよう依頼する。<br />4)実用的なパーパスを統合するための取り組みを社内外に積極的に共有する。公の場で伝える機会を見つけ、ソーシャルパーパスを採用するよう団体に働きかける。<br />5)ソーシャルパーパスに基づいたビジネスキャリアを積み重ねていくことを後押しするべく、企業のリーダー層や同僚とツールを共有する。</p>
<p><strong>5</strong> <strong>個人のパーパスを決める</strong><br />1)パーソナルパーパスは、あなたがどんな人であるかを定義するのに役立つ。そこに自らの情熱や価値観を反映させる。人生のパーパスを要約する文章やフレーズを書いてみる。自らのパーパスは時間と共に変化する可能性があることを認識しながら、定期的にパーパスに立ち返る。<br />2)自身のパーパスを同僚にも共有し、同僚にもパーソナルパーパスを定めるよう勧める。</p>
<p><strong>6</strong> <strong>パーパス・ドリブン・リーダーとしてキャリアを積む</strong><br />1)ソーシャルパーパスへの理解を深め、自社のパーパスの実現に尽力したなら、職務履歴に新たな知識やスキル、経験を加えることができ、昇進を目指す際にも経歴の一つとして紹介できる。<br />2)ソーシャルメディアを活用し、ソーシャルパーパスの実装に取り組んだ経歴をLinkedInのプロフィールに追記したり、ソーシャルパーパスに取り組むリーダーや組織をフォローする。</p>
<p>ソーシャルパーパス・プロフェッショナルの“お手本”は多い。そうした人たちは情熱を持ってパーパスを推進し、組織やその枠を超えてパーパスエコノミーを推進するために個人の影響力を高めている。例えば、カナダの通信大手<a href="https://www.telus.com/en">テラス(TELUS)</a>の公共政策チームで政府関係のリーダーを務めるトム・チャーヴィンスキー氏は、他のソーシャルパーパス企業に対し、カナダをソーシャルパーパス・ビジネスのハブにするための政府のキャンペーン活動に参加するよう呼びかけた。同氏は、そうすることが自社や関係するコミュニティの繁栄に役立つと考えている。また、自社のパーパス(テクノロジーと思いやりによって、人類の目覚ましい進歩を可能にする)に命を吹き込むためにも、ビジネスにおいてソーシャルパーパスを推進する意義のある役割を担いたいという。</p>
<p>自社のソーシャルパーパスや企業内での役割にかかわらず、自らのキャリアにより良い変化をもたらす方法は数多くある。ソーシャルパーパスを考えることで、皆さんは自らの仕事や人生をより満足できるものにしていくことが可能であり、また、自社がより良い世界をつくるのに役立つこともできるだろう。</p>
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ワールドニュース

パーパス・プロフェッショナルになるための6つのステップ　キャリアを生かしより良い変化をもたらすには

SUSTAINABLE BRANDS JAPAN

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<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/tr/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/01/09/g00_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>IMAGE: KAO CORPORATION</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
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<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>Kao’s Guard Our Future project aims to greatly reduce transmission of dengue fever by focusing on three main areas: community activities, raising awareness among the next generation, and dengue fever forecasting.</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>Approximately one million people die annually worldwide from mosquito-borne infectious diseases. In <strong>Southeast Asia</strong>, in particular, the spread of dengue fever — which is transmitted mainly by yellow-fever mosquitoes — remains a social issue. To solve this problem,<a href="https://www.kao.com/global/en/"> Kao Corporation</a> launched its <a href="https://www.kao.com/global/en/newsroom/stories/dengue/">Guard Our Future</a> project — centered on an innovative concept of a product that keeps mosquitoes away from people&#8217;s skin — globally to protect future lives from mosquitoes. According to <a href="https://www.linkedin.com/in/mitsutoshi-kamiya-56223942/">Mitsutoshi Kamiya</a>, VP of Health &amp; Beauty Care Asia (International) Business at Kao Corporation, the goal of the project is to develop a new model to balance both business activities and activities to solve social issues, in order to achieve Kao&#8217;s mission to &#8220;<a href="https://sustainablebrands.com/read/walking-the-talk/how-kao-is-creating-a-more-sustainable-beautiful-kirei-life-for-all">create a <strong>Kirei</strong> life for all</a> — providing care and enrichment for the life of all people and the planet.&#8221;</p>
<p>In pursuit of its mission, Kao promotes its mid-term plan with the vision of &#8220;Protecting future lives — sustainability as the only path&#8221; along with its &#8220;Kirei Lifestyle Plan&#8221; ESG strategy, formulated in 2019.</p>
<p>At <a href="https://www.sustainablebrands.jp/event/sb2022/en/">Sustainable Brands 2022 Yokohama</a>, Kao President and CEO <a href="https://www.weforum.org/people/yoshihiro-hasebe/">Yoshihiro Hasebe</a> used gears to illustrate the idea of a &#8220;society that has both development and circularity.” He declared that by identifying the relationship between seemingly separate social issues and utilizing innovative technologies, “we aim to build a business model that is appealing to many partners and will invite collaboration. Kao will strive to be the gear that connects them; and by linking multiple social issues and business models, we aim to realize a &#8216;society that circulates while developing&#8217; — where business development and the resolution of social issues are self-sustaining.&#8221;</p>
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<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/tr/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/01/09/g0101.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>One new business model where Kao could serve as a &#8220;gear&#8221; is the Guard Our Future project.</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>Dengue fever threatens areas home to half the world’s population</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>Mosquitoes are the deadliest creatures on the planet; and according to 2022 data from the German online platform Statista, one million people die annually from mosquito-borne infectious diseases. Although most of these people are on the continent of Africa, people in Southeast Asia also suffer mosquito bites and are exposed to the risk of <a href="https://sustainablebrands.com/read/product-service-design-innovation/what-if-we-could-geo-locate-the-next-deadly-outbreak-months-before-it-happened">mosquito-borne infectious diseases</a> such as dengue fever on a daily basis. Most of those infected are children.</p>
<p>Mosquitoes themselves are not significantly affected by the virus, but they can transmit it to humans through their bite. Mosquitoes that transmit dengue fever are vulnerable to cold weather; but their habitat is expanding due in part to global warming. Since they can multiply in small amounts of unclean water, such as water pooled in garbage on the street, there is a growing concern that the infection could further spread in areas undergoing economic development and <a href="https://www.npr.org/sections/goatsandsoda/2022/11/01/1133106651/this-urban-mosquito-threatens-to-derail-the-fight-against-malaria-in-africa">urbanization</a>. As of 2018, the World Health Organization and UNICEF have found that in the future, 3.9 billion people in 128 countries, which are home to approximately half of the world&#8217;s population, will be at risk of contracting dengue fever.</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>The sale of repellent alone will not reduce infection</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>Kao&#8217;s <a href="https://www.biore.com/en-gb/">Bioré</a> brand offers a lineup of products that protects skin from a variety of environmental stress factors, based on the idea that the skin is the interface between people and society. <a href="https://www.kao.com/global/en/newsroom/news/release/2022/20220615-001/">Bioré Guard Mos Block Serum</a> is a mosquito repellent based on a repellent technology that makes the skin surface repulsive to mosquitoes causing them to fly away before biting it; the goal is not to kill mosquitoes, but to reduce the infection caused by mosquitoes by protecting the skin. This product is representative of Kao&#8217;s commitment to solving social issues according to its vision to protect future lives.</p>
<p>The Guard Our Future project was launched in February 2022 by donating approximately 20 million yen worth of Bioré Guard Mos Block Serum to the <strong>Thai Ministry of Public Health</strong>. Then, in June 2022, Kao began selling the same product in Thailand. However, Kamiya emphasizes that providing Bioré Guard Mos Block Serum itself will not reduce dengue fever. It is impossible to prevent infection unless people play an active role in protecting their own health (avoid mosquito bites); so, it is necessary to transform people&#8217;s mindsets.</p>
<p>Mosquito repellents that are commonly used today have odors that repel mosquitoes or use <strong>DEET</strong> — a volatile, chemical repellent. Since such ingredients may have an unpleasant smell or texture, Thai people — especially children — are not in the habit of using mosquito repellents on a daily basis. To prevent transmission of dengue fever, there’s a need to continue to communicate the importance of protecting ourselves from mosquito bites. Therefore, in conjunction with <a href="https://isid.org/asean-dengue-day-2023/">ASEAN (Association of Southeast Asian Nations) Dengue Day</a> on June 15 — which was established with the aim of eliminating dengue fever from ASEAN — Kao holds educational events in Thailand with the participation of the Thai Ministry of Public Health and the local affiliate of <a href="https://www.takeda.com/">Takeda Pharmaceutical Company</a> <strong>(Takeda Thailand)</strong> since 2022. </p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/tr/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/01/09/g0202.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Special program class at Phyathai School, Bangkok, September 2022</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>The project focuses on three main areas: community activities, raising awareness among the next generation, and dengue fever forecasting. Community activities include working with the industrial park association in the area home to the Kao plant, and with local residents to remove puddles where mosquitoes lay eggs and abandoned garbage where puddles are likely to form.</p>
<p>To educate the next generation, project members visit schools to hold classes about dengue fever and look for places where mosquitoes could be present on the school premises with children, in collaboration with Takeda Thailand and local distributors. Another initiative is called dengue fever forecasting, which aims to protect lives from dengue fever by providing information. The team is working on developing capabilities for <a href="https://play.google.com/store/apps/details?id=th.or.nectec.rootan&amp;hl=en_US&amp;gl=US&amp;pli=1">RooTan</a> — an app run by <strong>NECTEC</strong>, an affiliate of the <strong>Thailand National Science and Technology Development Agency</strong> — to provide extensive information on this infectious disease. The map on this app shows the real-time number of dengue fever cases in each region, which is color-coded. In the future, they will add a feature to project how many more cases are expected in each region.</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>Instilling the mission of protecting future lives among employees of Kao Thailand</h2>
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<div class="elem_paragraph">
<p>The Guard Our Future project would not have developed to become a public-private-academic initiative without the understanding and actions of local employees in Thailand.</p>
<p>Kamiya, who has been at Kao Thailand as the head of marketing since 2021, was the driving force behind the launch and promotion of this project. In launching the world&#8217;s first Bioré Guard Mos Block Serum, he did not take the conventional approach of simply advertising and distributing the product. The core products of the Thai business are detergents, and hygiene and home-care products; and the local employees focus on sales strategies for detergents.</p>
<p>&#8220;In Japan, it is easier to gain an understanding of the sustainable value of projects. However, since Kao is a small company and brand outside Japan, we often struggled getting our messages across,&#8221; Kamiya says. Moreover, the early days of the project were in the middle of the pandemic and communicating with the team while remote working was often a challenge. However, he carefully explained that the purpose of this project was to realize the Kao Group&#8217;s vision of protecting future lives, the social significance of promoting the initiatives, and his own passion for the Guard Our Future project.</p>
<p>His enthusiasm came across to local employees, who reached out to doctors of the Ministry of Public Health to explain Kao&#8217;s mosquito-repellent technology. The key stakeholders of the Ministry related to and highly regarded Kao&#8217;s philosophy and technology, which led to their collaboration.</p>
<p>In Thailand, Kao’s collaborative initiatives with the Ministry of Public Health and <strong>Mahidol University</strong> have earned them the trust and collaboration from numerous companies. One company purchased the product for employees at its factory in Thailand and to donate to local elementary schools.</p>
<p>&#8220;The Japanese Embassy in Thailand also related to the idea of solving the social issues of ASEAN with Japanese technology and helped us in many ways. Many people are relating to and joining our initiative,&#8221; Kamiya says.</p>
<p>After launching in Thailand, Kao plans to expand the Guard Our Future project to other countries with a large number of infection cases, especially in ASEAN.</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>A business model that balances business and solutions to social issues</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>Kamiya hopes to establish a self-sustaining model for sustainability to fund support for areas with a high number of dengue fever cases lacking effective countermeasures by widely distributing Bioré Guard Mos Block Serum.</p>
<p>&#8220;Sustainability initiatives are often scaled back or canceled if the core business is not performing well. We need a system that can properly run on its own so that we won&#8217;t ever have to put a stop to this initiative,&#8221; he says.</p>
<p>Two years into the initiative, he says Kao still has a long way to go — as they have implemented the initiatives only in Thailand and have yet to progress enough to reduce the number of dengue fever cases and transform people’s mindsets. Not yet satisfied with the progress, Kamiya says, &#8220;I feel that there are more people we could have saved. I want to further increase sales to obtain the capital for sustainability initiatives as soon as possible.&#8221;</p>
<p>The immediate goal is to expand the initiatives to other Asian countries as quickly as possible; Kamiya says they are discussing plans to further promote our initiatives by utilizing Japanese companies&#8217; technologies with their partner, Takeda Pharmaceuticals. At the same time, it is also important to make the Guard Our Future project known in Japan.</p>
<p>Indeed, a system that expands the community of project participants is a society that circulates while developing, which Hasebe aims to achieve.</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>本記事は<a href="https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1217701_2557.html">「蚊による感染症から未来のいのちを守る『GUARD OUR FUTURE』――花王が描く事業と社会課題解決の両立モデルとは」</a>をもとに英訳しました。</p>
</div></div>
</div>
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<p></p>

‘Guard Our Future:’ Kao’s Vision to Balance Business with Solutions to Social Issues

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/12/22/20231223_800x350.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>深刻化する環境・社会課題を背景に、企業のパーパス(Purpose)が問い直されています。パーパスとは、直訳すると、「目的」ですが、一般的に、企業のパーパスとは、企業が「何のために存在するのか？」という存在意義を問うものとして捉えられています。</p>
<p>この世界的なパーパスブームの火付け役の一人は、世界最大の機関投資家、米国に本社を置くブラックロック社のCEOラリー・フィンク氏です。</p>
<p>フィンク氏は、2018年に世界の大企業のCEO宛に「A Sense of Purpose」と題した書簡を送りました。この書簡で「企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません」と訴えかけたのです。</p>
<p>その翌年、もう一つの大きな出来事がありました。米国の主要企業181社の経営者をメンバーとするビジネスラウンドテーブル(Business Roundtable：BRT)が「Statement on the Purpose of a Corporation(企業の目的に関する声明)」を発信し、この声明の中で、「企業はすべてのステークホルダーに対するコミットメントを行うこと」が明言されたのです。BRTは1997年に発行した声明で「企業のパーパスは株主利益の最大化である」としていたことから、2019年の声明は「株主至上主義」から「ステークホルダー資本主義」に潮目が変わったと、米国内のみならず日本を含む世界各国で大きく報道されました。</p>
<p>これらの出来事がニュースになったのを覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。この一連の動きについて、皆さまはどのように感じられましたか？<br />
中には、「日本企業にとって、従業員や地域社会に貢献することは『当たり前』のことじゃないの？何を今さら」と考えられた方もいるのではないでしょうか？</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>日本企業にとって、パーパスはどんな意味をもつのか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>それもそのはず、 日本には、古くは近江商人の「三方良し」の考え方がありますし、パナソニックの創業者である松下幸之助氏も「企業は社会の公器」という言葉を遺(のこ)しています。社是や企業理念で社会への貢献を謳(うた)っている企業は枚挙にいとまがありません。「パーパス」は、これまでの日本企業がやってきたことと一体何が違うのでしょうか？日本企業は今までの行動から何も変えなくて良いのでしょうか？</p>
<p>このような疑問は、実は20年前に欧州から「CSR(Corporate Social Responsibility：企業の社会的責任)」の概念が輸入されたとき、そして昨今のSDGs(Sustainable Development Goals：国連 持続可能な開発目標)ブームに対する反応とも似ています。共通しているのは、CSRやSDGs、そして今回の「パーパス」に関しても、「(株主至上主義を掲げてきた英米とは違って)日本企業は昔から社会に貢献してきたし、そのことは社是や企業理念に書かれている。だから何も新しいことはない、今までやってきたことをそのまま胸を張って続ければ良いのだ、むしろ足りていないのは発信力だ」、という主張です。</p>
<p>こうした主張に対して、私は若干の違和感を持ちました。ご紹介したラリー・フィンク氏のレターやBRTの声明の背景には、世界規模での社会・環境課題の深刻化と顕在化、そしてグローバル化による企業の影響力の拡大(政府の影響力の相対的な弱化)があります。私たちが住むこの地球上には、気候変動や格差などの課題がますます目に見える形で表れてきています。</p>
<p>日本企業が社会的な企業理念を何十年も、場合によっては100年以上も持ち続け、その理念に基づいた事業活動を行っているなら、最近「パーパス」に気づき始めた欧米よりも、環境や社会の面でずっと優れた結果を残していないと話が通じません。しかし、実際にはどうでしょう？例えばSDGsの達成度ランキング(2023年版)で日本は21位、上位20位には欧州各国がランクインしています。2023年のジェンダーギャップ指数では146ヵ国中125位、下から数えた方が早いです。高度経済成長期には日本各地で企業による環境汚染、公害が大きな社会問題になり、今でも完全に解決されてはいません。</p>
<p>日本企業が昔から社会的な企業理念を持ち続けているという理由だけで、現在の「パーパス」の議論を気にしないようにも見えるのは、一種の思考停止状態に陥っている可能性もあります。それでは一体、企業理念とパーパスは同じなのでしょうか？企業自身はパーパスをどう捉えているのでしょう？それは企業の社会・環境活動を変えるものなのでしょうか？日本企業が掲げている企業理念は、現在の社会課題の解決に対してどんな意味を持つのでしょうか？</p>
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<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/12/22/daigaku600.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>筆者が通った豪モナシュ大学大学院研究棟</sup></div>
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<p>2018年から2019年当時にパーパスの議論が注目されたとき、私は、東京に本社を置き150ヵ国以上で事業展開する 企業のサステナビリティ部門のマネージャーを務めており、 企業理念をベースとしたグローバルCSR体系の社内浸透に奮闘していました。社会的なミッションを言語化した企業理念は、世界各国で働く10万人以上の従業員にすでに十分認知されていました。私は会社が半世紀以上前から掲げる企業理念の時間軸を未来まで延ばし、世界各国で働く10万人以上の従業員一人ひとりの仕事に反映することで、巨大な組織体を持続可能な社会の実現に向けて動かしていけるのではないか、と考えていたのです。これを進めていく上で、上記のような疑問を解き明かしたいと強く思うようになりました。</p>
<p>そして2020年1月〜2023年3月まで、会社を休職して、豪州メルボルンにあるモナシュ大学の社会科学研究科の博士課程でパーパスとサステナビリティの関係について研究しました。<br />
この連載では、次回から、日本企業がサステナビリティ経営を推進する上で、パーパスはどんな役割を果たすのか、豪州の大学で学んだことを中心にお伝えしていきます。</p>
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【佐々木恭子コラム】　第1回：パーパスは企業理念と同じ？

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