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  • 公開日:2015.06.29
  • 最終更新日: 2025.03.21
41号 世界のソーシャル・ビジネス(スイス) 大地と一体化超省エネの丸い家
    • 岩澤 里美

    ペーター・フェッチ氏。「アースハウスに懐疑的な人もまだいますが、もっと広めていきたい」(写真=岩澤里美)

    スイスでも日本と同様に、快適な省エネ住居への関心が益々高まっている。屋根を土で覆い、大地と一体化したようなアースハウス(大地の家)も興味深い試みだ。傾斜や起伏のある土地を掘って家を作り、その土を屋根に被せる。土は家の断熱を向上させ、緑化すればCO2削減にも一役買う。アースハウスは、スイス人建築家、ペーター・フェッチ氏が考案した。スイスを中心にドイツなども含め、現在までに90軒以上建てられている。(チューリヒ=岩澤里美)

    アースハウスの主な建築材はコンクリートで、屋外の寒暑が屋内に伝わりにくく、すきま風もない高断熱・高気密の作り。室内は、夏は涼しく冬は暖かく保たれる。家電の省エネに関しては、スイスでは、とくに暖房費節約が重視される(スイスの家屋は通常、夏は快適で、冷房は不要)。

    「暖房費は通常の家だと年平均約23万円ですが、地熱システムを設置すれば約10万円、アースハウスで地熱を利用するとたった5万円ほどで済みます」とフェッチ氏は言う(1スイスフラン=130円計算)。

    2006年、チューリヒに建てた一軒家(4LDK)。周囲は四角い家ばかりで丸みが際立つ

    コンクリートは噴射式で、金属の骨組みに数回噴きかけて厚さ15-20センチメートルにする。噴射式コンクリートはトンネルなど土木分野で使われることが多いが、フェッチ氏はジュネーブでこの手法を使った家を見てひらめき、工夫を重ねた。屋根の部分は、固まったコンクリートの上に防水と根の生長防止のための薄い層を作ってから、断熱用にリサイクルガラスを20-30センチメートル敷く。最後にフリースのマットで覆って土を被せる。その他の壁は、コンクリートの厚さを調整して石膏で仕上げる。

    「決まりきったスタイルではない家をと思い、丸い形にしました。土で覆うには四角い家では難しいこともありましたので」と話すフェッチ氏は、1978年にアースハウス第1号(自宅)を建てた。

    丸い形は災害に強いことも利点だ。通常の四角い家に比べて暴風に強い。地震にも強い。室内も曲線を基本としていて、ぬくもりに満ちる。住人たちからの評判は上々だ。

    9世帯用アパート群の一室。室内も曲線が多い。壁に穴を空けて奥行き感を出すことも可能

    動機は第一次石油危機

    フェッチ氏がアースハウスを作ったきっかけは1973-74年の第1次石油危機だった。

    「非常にショックでした。資源は無限ではない。どんなによい素材や最新の技術を用いて家を作っても、長持ちしなければ意味がないと思いました」。

    同じくエコハウスである木の家や藁の塊で壁を作るストローベイルハウスについては「木は腐敗しますし、藁もその可能性はあります。アースハウスなら補修が簡単で、確実に長持ちします」と自信を見せる。建設費は通常の家より10%割高なだけ。私邸だけでなく公共施設も請け負っている。アースハウスの可能性は今後も広がる。

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    written by

    岩澤 里美(いわさわ・さとみ)

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