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  • 公開日:2025.03.19
  • 最終更新日: 2025.03.31
ビジネスと社会の再生に向け、さらなる革新を――サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内1日目

発酵と再生をテーマに和やかなトークが繰り広げられたセッション

第9回サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内が3月18日、2日間の日程で始まった。今年のテーマは、ビジネスと社会の再生に向け、さらなる革新を目指す、「Breakthrough in REGENERATION (ブレイクスルー イン リジェネレーション)」だ。サステナブル・ブランドが、持続可能な社会の先にある「リジェネレーション(再生)」をグローバルのテーマに掲げて5年。気候変動や地政学的リスクはますます深刻化し、さまざまな社会課題が待ったなしの状況にある中、企業やブランドは今、この局面を、どのような革新的手法で突破していくべきなのか――。ここではまず、初日のプレナリー(基調講演)で語られたことを速報する。 (サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

困難な状況の今こそ、全ての人が居場所を見つけられるストーリーを

初日のプレナリーは当初の予定を変更し、米国から来日したサステナブル・ブランド創設者のコーアン・スカジニア氏のスピーチから始まった。同氏は冒頭、米国でサステナビリティに取り組む人々が直面している困難な状況について触れ、「身の引き締まる思いだ」と述べた。企業の中には、サステナビリティに関するコミュニケーションを控える動きはあるものの「長期的なゴールやコミットメントは全く変わっていない」という。

米国の現状は、権力を持った個人が、社会の変化に取り残されることに対する人々の恐怖心をあおることで、一部の支持を得た結果だとスカジニア氏はみる。ここから学ぶべきこととしては「敵」と「味方」を分けるようなコミュニケーションは避け、「全ての人が新しい社会に自分の居場所を見つけられるようにすることが重要」だと強調。米国のサステナブル・ブランドの中では、そのために、誰もが理解できる言葉を選び、相手に合わせて言葉遣いを変える取り組みも進んでいるという。

スカジニア氏は「今こそ、さらなるイノベーションを起こし、あらゆる人を包摂するストーリーを伝えるという目標に集中する時。現在の仕組みを脱し、将来にわたって私たち皆に恵みをもたらす地球の力を回復する、再生型のシステムを構築すべき時なのです」と力を込めた。

続けてスクリーン上には、昨年スカジニア氏からCEOを引き継いだマイク・デュピー氏のビデオメッセージが映し出された。同氏は、SBがグローバルのテーマとして一貫して掲げる「リジェネレーション」が持つ可能性と、実際にこの20年で見られた進展を、数値や事例を用いて説明し、再生型農業だけでなく、プラスチックを分子レベルでリサイクルする技術や、日本企業がリードする水素燃料電池も資源を循環・再生させる取り組みとして大きな可能性を秘めていることを語った。

「未来は現状を単に維持するのではなく、事業のやり方を積極的に修復・補足・再考できる人にかかっています。それがリジェネレーションの力なのです」(デュピー氏)

海の未来は地球の未来そのもの

次に登壇したのは、海の観測システムの開発を手掛ける、MizLinx代表取締役CEOの野城菜帆氏だ。まるで研究室から飛び出してきたかのような、紺色の作業着姿の野城氏は「海の課題を人と技術の力で解決すること」とする同社のミッションを紹介。大学院時代に開発した初期の観測システムを写真で説明しながら、漁獲量の減少や養殖魚の大量死、磯焼けといった山積する水産業の問題に衝撃を受けたことが、「事業にのめり込むきっかけになった」と振り返った。

「まず海を正しく把握することが大事」と開発した海洋モニタリングシステムは、水中にカメラやセンサーを設置することで、水中の映像や水温、塩分といった環境情報の取得が可能となる。これらの情報を利用して、環境負荷や高コストなどが指摘されている養殖でのエサの問題についても、最適化を目指しているという。

その視線はフィリピンやインドネシアなど東南アジアにも向かっている。野城氏は、「海の課題解決には自分たちだけではできないことがたくさんある。海の未来は地球の未来そのもの。皆さまと一緒につくりあげていきたい」と会場に共創を呼びかけ、セッションを終えた。

サステナビリティは「世界を感動で満たす」パーパスの柱――ソニー

グローバル企業から登壇したのは、迫りくる2050年に向けて独自の技術で革新を進め、共創の輪を広げるソニーとホンダだ。

ソニーは2010年に環境計画「Road to Zero」を定め、2050年の環境負荷ゼロ達成を宣言。これに向け、テレビやカメラ、スマートフォンなどの製品本体に、ペットボトルや廃ディスクなどの廃材を再生したプラスチックを使用する技術を展開し、パッケージにも竹やサトウキビなどから再生した紙素材を活用するなど、化石燃料から作られる「バージンプラスチック」の使用低減を進めている。

そうしたサステナビリティの取り組みを、登壇した同社執行役員副社長の木井一生氏は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」とするパーパスの「大きな柱だ」と強調。講演では「環境」と「アクセシビリティ」の分野での取り組みを中心に説明し、中でも、テレビでの音声読み上げや色反転、さらに人間の声だけをAI抽出して音量を上げるボイスズームの機能など、製品のアクセシビリティについて、「健常者と呼ばれる人でも、けがや老化などで誰しもバリアを抱える。そういった時に安心して使っていただくことが目的だ」とその背景にある思いを語った。

燃料電池車の開発にとどまらず、水素の多用途展開に挑戦――ホンダ

一方、カーボンニュートラル社会の実現に向け、水素の活用に力を入れるホンダからは水素事業開発部部長の長谷部哲也氏が登壇し、同社が1980年代から続ける燃料電池技術を軸に、自社はもちろん、業界の変革も見据えて挑戦していることが語られた。

同社では水素のエネルギーキャリアとしてのポテンシャルを「再生可能エネルギーで発電した電気をコンパクトに貯蔵でき、長距離輸送も可能」と見定め、自社ブランドの燃料電池車(FCEV)の開発にとどまらず、燃料電池モジュールの外販も事業の中心に据える。そのエネルギー効率の高さを生かし、長距離を走行する商用トラックや、データセンターなどの発電機として設置される定置型電源、またはディーゼルエンジンで駆動する建設機械など、大出力の用途にモジュールを展開していく方針だ。

講演で長谷部氏は、コストや耐久性を改善しつつコンパクト化も図る最新型の次世代モジュールの概要や、モジュールの量産工場を栃木県内に立ち上げ、2027年の稼働を目指す計画も披露。「水素を『つかう』領域で社会のカーボンニュートラル化を促進し、水素需要の喚起に貢献していきたい」とする強い決意を表明した。

目に見えない微生物から社会の再生を考える

初日プレナリーの注目の一つは、「発酵と再生:小さな微生物の大きな力」と題したパネルディスカッションだ。SBサステナビリティ・プロデューサーでファシリテーターの足立直樹氏が冒頭、「発酵、あるいは微生物が、これからの社会で非常に大きなキーワードになる」と提起し、微生物を切り口に議論をスタートさせた。

発酵デザインラボ代表の小倉ヒラク氏は、デザインやアートの力で微生物の働きを見えるようにする活動に取り組み、東京・下北沢で500点以上の発酵食品を揃える専門店を営む。セッションでは産業構造の変化に着目し、21世紀は、これまでに作り過ぎたものを「分解しないとバランスが取れない時代」と指摘。その分解を「いかに創造的にしていくかに、微生物や発酵が大きく関わっている」と表現し、社会の再生に向けて独自の視点を投げかけた。

天籟(てんらい)代表取締役の桐村里紗氏は、元々、腸内フローラを専門とする医師だ。土壌微生物の豊かな農作物を食べることで人間の腸内細菌が豊かになることから、農食歯医連携(Agri-Dent-Medicine)を提唱し、全国で人口が最も少ない鳥取県から地方創生に取り組む。セッションでは健康やウェルビーイングに関連して「人が当たり前に生きるだけで、健康で幸せになっていくような社会構造をつくることが重要だ」と強調し、発想の転換を訴えた。

北海道に本店を置くスタートアップkomhamは、生ごみを高速分解する微生物群「コムハム」などを販売している。代表取締役の西山すの氏は、スピード感を求める投資家や株主の声を念頭に、「微生物の代謝や変遷は人間が求めているものに対しては遅いという解釈になりがちだが、長い視点で見た時には最も効率的に構築されていることが多い。人間がどういう寄り添い方をしていくのがベストなのか」と壇上の3人と会場に問いかけ、終始、和やかな雰囲気のセッションを通じて、生物多様性を維持しながらキャピタルゲインを得ていくことへの覚悟を示した。

38億年の生命の叡智から学ぶバイオミミクリーとは

生物多様性と経済合理性を両立していく上では、生物のやり方に従った方がうまくいくのではないか、という方向で話が弾んだ発酵セッションの後には、「バイオミミクリー:自然の叡智から生み出すイノベーションの世界」と題して、今回の国際会議の重要な個別テーマの一つであるバイオミミクリーをテーマにしたセッションが続いた。

登壇したのは、デンソーの酒井雅晴氏と、タイのバイオミミクリー専門コンサルティング会社サピエンスのシリカナイテ・サクルヨン氏。ファシリテーターは一般社団法人バイオミミクリー・ジャパンの東嗣了氏が務めた。

世界でも保有者がまだ少ない「バイオミミクリー・プロフェッショナル」の資格を持つサクルヨン氏は、バイオミミクリーの概念について、「生命の叡智を意識的に模倣するという意味だ」と説明。そこには、単なる「模倣」ではなく、人間が自然の中で果たすべき役割があるという「倫理」、人間と自然とが本来持っている「つながり」という視点が含まれているという。

自動車部品メーカーであるデンソーでカーエアコンなどの技術開発に従事する酒井氏は、バイオミミクリーによる同社のイノベーション事例を紹介。フクロウの翼の構造を模倣し、自動車の冷却モジュールをより薄く、より静かにすることに成功したことが、具体的な仕組みを通して語られた。

東氏の「どうすればバイオミミクリーの活用が広がるか」という問いかけに対し、サクルヨン氏は「バイオミミクリーはあらゆる分野に応用できる」と応じた。人間が直面する課題の多くは、すでに生物が何らかの形で直面しており、そこから学ぶことができるからだ。酒井氏は「(技術研究を)深く掘り下げる技術者と、それを横につなげて広げていく人が協力し合う姿勢が重要だ」と強調した。

9回目となる今年の国際会議も丸の内エリアでは特別企画無料のオープンセミナーが開かれ、業種や世代や超えてリジェネレーションについて語り合う輪が広がっている。

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