脱炭素

Decarbonation

箕輪弥生

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/02/top800_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: shutterstock</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本のエネルギー政策の方向性を示す第7次エネルギー基本計画が年度内にも策定される。日本が世界と歩調を合わせ、再エネを主軸としたエネルギーシステムへの転換を行うラストチャンスとも言われ、気候変動への対応はもちろん、日本の経済や社会をも左右する非常に重要な計画だ。しかし、その大きな焦点である脱炭素電源について、経済産業省がこれまでに7回開催した有識者による会議の議論では、原発回帰、化石燃料の継続利用といった流れが濃厚になっている。これに対し、気候変動イニシアティブ、WWF、自然エネルギー財団など多くの企業団体や環境NGOは原発・化石燃料からの脱却、自然エネルギーの拡大を求める声を上げ、その裏付けとなるデータも示す。本計画の策定に向け、丁寧な議論は尽くされているのか――。現時点でのプロセスを検証した。(環境ライター 箕輪弥生)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>経産省分科会では原発や化石燃料の継続利用が主流に</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>経済産業省では、第7次計画策定に向けて、5月から経済産業省の有識者会議「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」(以下：分科会)による議論が始まり、8月30日までに7回開催された。</p>
<p>議論の焦点のひとつが、脱炭素電源に対する需要が高まる中で、それをどのように安定的に供給するかという点だ。斎藤健経済産業大臣が1回目の会議で発言したように、「脱炭素電源が国力を大きく左右する」からだ。</p>
<p>国際的には、パリ協定1.5度目標の遵守に向けて、COP28で、2030年までに世界の再生可能エネルギー設備容量を3倍、エネルギー効率の改善率を2倍にする目標が採択された。昨年のG7では石炭火力の段階的な全廃、2035年の電力システムの脱炭素化が合意された。日本もこれらの目標に賛同している。<br />しかし、分科会では、国際的な合意事項からは乖離(かいり)するとも思われる話し合いが続いている。</p>
<p>本記事ではまず、7月8日と23日に行われた分科会について、以下にその内容を詳報する。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>・7月8日の分科会では脱炭素電源について議論された。経産省は、AIやそれに伴うデータセンターの拡⼤などにより、脱炭素電源に対する需要の拡⼤が想定され、⼤規模な電源投資が必要だと分析し、そのための脱炭素電源をどう考えるかを委員らに問うた。</p>
<p>これに対してこの日意見を述べた14人の委員のうち、11人は再生可能エネルギーと共に原子力発電が重要だと述べ、3人が再エネを中心としたエネルギー政策を推奨した。11人のうち、4人は、「原子力の再稼働・新増設が必須」と積極的に原発を活用することを主張した。</p>
<p>一方で、再エネを中心としたエネルギー政策を主張する委員2人は、経産省が示した原発のコストや電力需要の予測についての精査を求め、原発の新増設・建て替えにおいて、多くの課題があることを指摘した。</p>
<p><sup>＝<a href="https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/058/058_008.pdf">7月8日分科会議事録</a>＝</sup></p>
<p>・7月23日の分科会では、脱炭素電源と共に大きな課題として、日本のエネルギー源の8割を占めている化石燃料について取り上げられた。会の中でも指摘されたが、日本の化石燃料の輸入金額は、2022年に34兆円にまで上昇している。</p>
<p>日本は火力の段階的な全廃について国際的に合意しているが、発言した14人の委員のうち11人が、火力発電など化石燃料による発電の必要性を訴え、3人が早期の全廃を主張した。</p>
<p>火力発電の必要性を唱える委員の中では、「老朽化した非効率な火力発電の削減は進め、トランジション期間においては、火力発電の残存を前提に脱炭素化を進める」「水素・アンモニア、CCSの取り組みを行い、火力電源の脱炭素化を進めるべき」など、対策を施した火力発電を活用しようという意見が多く見られた。</p>
<p>一方で早期の廃止を訴えたある委員は、国際的なルールでは、CO2排出を9割減らす対策を取った火力発電しか認められていないが、現状、日本で行われている対策はそれに達していないと指摘した。</p>
<p><sup>＝<a href="https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/059/059_007.pdf">7月23日分科会議事録</a>＝</sup></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記の議論を踏まえ、経産省は「再エネか原発かといった択一的な議論ではなく、再エネと原発がともに必要」(7月8日)や「化石燃料の安定供給確保は、エネルギー安全保障の観点から重要」「⽕⼒からのCO2排出削減を進める具体的な道筋を⽰す必要」(7月23日)といった意見を共通認識としてまとめた。</p>
<p>これまでの分科会では、電力需要の拡大予想を背景に、原発や化石燃料の継続利用といった主旨の流れが濃厚になっていることが明らかだ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>環境NGOらは「石炭火力・原発を廃止しても電力供給に問題がない」と分析</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>分科会では委員らの意見が原発、化石燃料の継続的利用へ傾く中、市民団体、エネルギー研究組織、国際環境NGOなどからは、これと異なる意見書が数多く出されている。</p>
<p>経産省が電力需要は拡大すると推測するのに対し、国際NGOのWWFは、人口減や省エネ技術の推進やエネルギー効率の拡大などによって、エネルギー需要は2050年には2021年比で約57%減少すると予測している。</p>
<p>さらに、現状の石炭火力を2030年までに廃止しても、電力供給に問題がないことを、1時間ごとの太陽光と風力の発電量のシミュレーションから導き出している。（<a href="https://www.wwf.or.jp/activities/data/20240531climate01.pdf">WWF「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ2024年版」</a>）</p>
<p>WWFジャパン 気候・エネルギーグループの吉川景喬氏は「2050年までに再エネ100%の社会を実現する道筋はある」と話す。</p>
<p>「ソーラーシェアリングなど農業系の太陽光や陸上・洋上風力などを含む国内の再エネのポテンシャルを最大限に活かせば、2030年までに再エネ3倍も可能」であり、「石炭火力は2030年、ガス火力は2050年までに廃止できる」と分析する。</p>
<p>さらに「この実現を左右するのは政府の高い目標と、カーボンプライシングなどの有効な政策だ」と吉川氏は政策の重要性に言及した。</p>
<p>自然エネルギー財団も、2035年に自然エネルギー80%で、原子力発電と石炭火力なしでも、電力の安定供給が可能であることをシミュレーションにより示した。太陽光発電、風力発電、蓄電池を大量に導入し、送電網整備の増強を前倒しすることによって実現できるとする。</p>
<p>同財団の石田雅也研究局長は、電力需要に関しても、<a href="https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20240712_2.php">「個人のインターネット利用率が急増し、データセンターと半導体の需要が大幅に増加した2000年から2005年にかけても、増加率は5％に過ぎなかった」と分析</a>し、経産省が主張する電力需要の拡大説に疑問を呈す。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業からも切実な声「生き残るためには化石燃料からの脱却が必要」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/02/03800.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: shutterstock</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業側からも切実な声があがる。気候変動イニシアティブ(JCI)に加盟するソニー、花王、パナソニック、イオンといった日本を代表する企業を含む216団体は、今年7月、<a href="https://japanclimate.org/news-topics/jci-message-2035ndc-release/">2035年までの石炭火力の廃止と、それを実現するためのエネルギー効率改善と再生可能エネルギー導入の最大化を求める声明</a>を出した。</p>
<p>JCIの加藤茂夫共同代表は「再エネ導入とエネルギー効率化を加速し、化石燃料から脱却することは、日本の産業界が国際競争力を発揮しながらバリューチェーンで生き残るために不可欠な道筋だ」と強調する。</p>
<p>加えて、「サプライチェーン全体でネットゼロが求められるうねりは、あらゆる業界で強まる。もはや大手企業だけではなく、中小企業にとっても乗り越えなければならない課題となっている。そのためには、全国で負荷なく再エネを選べ、調達できる制度や環境整備が必須だ」と企業側の要望を代弁した。</p>
<p>国際エネルギー機関(IEA)によると、昨年の世界の再エネの発電設備容量は、前年から50%増加し、来年には再エネが石炭を抜いて世界最大の発電源となる見込みだ。</p>
<p>世界は再エネを中心としたエネルギー転換に向けて加速しており、欧州では、電気だけでなく燃料や熱の脱炭素化や、再エネによる余剰電力の活用、安定性を確保するための柔軟性の導入といった、脱炭素電源を安定して無駄なく使い切るという次のフェーズに入っている。</p>
<p>本来であれば、日本も再エネ3倍、化石燃料の全廃、およびパリ協定という国際的な合意に向けて、バックキャスティング思考で、目標に向けたトランジション(移行期)をどうしていくか、今何をしなければいけないかを議論し、具体的な道筋を考えるのが分科会の役割のはずだ。</p>
<p>第7次エネルギー基本計画は、日本が世界と歩調を合わせ、再エネを主軸としたエネルギーシステムへの転換を行うラストチャンスとも言える。間違った道筋を描いてしまうと、ガラパゴス化して日本の産業界が取り残され、人々が高いエネルギー費用にあえぎ続けることになりかねない。</p>
<p>まずは、検討プロセスにおいて、提示されている多くの意見に真摯(しんし)に耳を傾け、検討することが必要ではないだろうか。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

ニュース

話題のキーワード

カーボンニュートラル/脱炭素

環境 environment

日本のエネルギー政策は第7次計画で転換できるのか――原発回帰、化石燃料継続の流れをNGOら懸念

北村和也

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/08/25/kanbatsu800_1.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Photo by <a href="https://unsplash.com/ja/@wolfalexs?utm_content=creditCopyText&amp;utm_medium=referral&amp;utm_source=unsplash">Oleksandr Sushko</a> on <a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/the-sun-is-shining-over-a-vast-expanse-of-land-dDy07Wmz0_U?utm_content=creditCopyText&amp;utm_medium=referral&amp;utm_source=unsplash">Unsplash</a></sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>連日の暑さに命の危険さえ感じる一方、熱波は私たちの「食」にも牙を向け始めている。8月下旬時点でスーパーなどからコメが一斉に消えたり、高値となった原因のひとつに、昨年夏の超高温がある。以前のコラムで<a href="https://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1222051_1534.html">日本の漁業の異変</a>を書いたが、世界ではコーヒー・カカオ豆から、ワイン、オリーブオイルと、気候変動で収穫量が落ちたことによる高騰が起きている。<br />
影響は食にとどまらない。銅や石油などの鉱物資源や、なんと脱炭素のために欠かせない再生可能エネルギーの電源にも及ぶ。温暖化がもたらす“複雑怪奇で危険”な連鎖についてお話しする。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>影響を受けやすい農作物、主食に迫る危機</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>温暖化によるコメへの影響は、現状では品質の低下が最も大きい。家庭で白く濁った精米を見た人は多いであろう。実際には一等米が減少した程度で、“不足騒ぎ”の主要因は、政府による減反政策やインバウンドの需要増の影響と考えられている。<br />
しかし、このまま温暖化が進めば、コメの収穫量は減少する可能性が高い。<br />
以下のグラフは、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)による、コメに対する温暖化の影響を予測したものである。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/08/25/01_2.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>気温上昇によるコメの収穫量の変化予測(1981~2000年の平均比、パーセント)、出典：農業・食品産業技術総合研究機構</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>気温が4度上昇した場合に、コメの収穫量が1981年から2000年の平均に比べてどう変わるかをプラスマイナスのパーセントで示している。関東地方から西の地域では、平均で5～15%も減ると予測されている。一方、北日本では暖かくなることで逆に増加の傾向が見られる。<br />
容易に想像がつく通り、農業は天候や気温に左右され、温暖化の影響を受けやすい。<br />
共同通信が2年前に、地球温暖化などの気候変動により、品質低下や収穫量減といった影響が出ている農作物について行った調査では、43の都道府県でコメが挙げられた。このほか、ブドウ(31)、ナシ(28）、ミカン(20)と果物が比較的多く、野菜では、トマト(20)、豆類(17)、ネギ(14)となっている。<br />
<sup>＊( )内は、影響のあった都道府県の数</sup></p>
<p>世界に目を向けると、すでに甚大な影響が見られている。海外での動きは、日本にいると価格の変化で感じることが多い。急に高値となったオリーブオイルやじわじわ値上がりし始めているコーヒーやチョコレートは、押しなべて気温上昇による収穫量の減少が背景にある。<br />
一部に、作物が育つ場所、魚が獲れる場所が移動するだけ、との意見も聞かれる。しかし、育て方や販売ルートの確保、保存や運搬方法の確立など、新たな場所での“適応”には莫大な手間とコストがかかることを忘れてはならない。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>異常気象による豪雨と渇水が及ぼす、連鎖的な負の影響とは</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>比較的分かりやすい農作物以外にも、温暖化の影響は確実に出始めている。<br />
意外なのが、鉱山など鉱業に対するものである。異常気象による豪雨が採掘などの活動に大きな影響を与えているという。例えば、鉄鉱石の生産で世界一位、二位のオーストラリアとブラジルで、記録的な大雨のため操業中止などが相次ぎ、生産が大幅に低下したという。</p>
<p>一方、逆に、温暖化がもたらす干ばつや渇水などの水不足の影響も報告されている。<br />
実は、鉱業での金属生産には大量の水が必要となる。オーストラリアでは全国の水の消費量の2%程度が工業生産に使われている。ところが、世界各地で発生する干ばつは、鉱業での生産に必要な地下水やダムの水不足をもたらしている。銅生産世界一のチリの近年の悩みは干ばつである。</p>
<p>負の連鎖は、温暖化の防ぎ手にまで及んでいる。<br />
下のグラフは、世界の水力発電の発電量の変化(2022年⇒2023年)をまとめたものである。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/08/25/02.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>世界の水力発電量の変化(2022-2023)、出典：IEA, CO2 Emissions in 2023</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>それによると、昨年2023年の世界の水力発電の総発電量は、前年に比べておよそ200TWh減少した。右のグラフに見るように、欧州では60TWh分増えているが、これは2022年にひどい干ばつに見舞われたものをやや取り戻したに過ぎない。そして、世界の減少分のおよそ3分の2を占めたのが、中国である(左グラフ)。<br />
中国では、南部で大洪水、中部で干ばつという、温暖化ならではの極端な気候に襲われ、水力発電が歴史的な大不振となった。最大の問題は、水力発電のカバーを石炭火力発電に頼ったことで、2023年の中国、そして世界のCO2排出量の増加を招くこととなった。</p>
<p>ついに、温暖化は重要な再生エネ電源にも負の影響を与え始めている。ちなみに、世界の2023年のCO2排出量増加の最大の原因は、水力発電の不振、2番目は、コロナ後の航空機の復活であった。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>命を守る闘いに備えるために</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>温暖化は、太平洋など島しょ国の海岸線での海面上昇による『住』の脅威を与えている。私たちの生命(いのち)をつなぐ『食』にも。そして、農業など一次産業にとどまらず、鉱工業の生産など『経済』への影響がさらに広がることは確実である。私たちは危機の中にいる。</p>
<p>一方で、ウクライナやガザの戦争(戦争は世界最悪の温室効果ガス増加の要因)や、レベルの低い政治がもたらす混乱と混とんが日本を含めて続いている。求められるのは、まず正しい危機の認識であろう。子どもたちなど、後を引き継ぐ人たちに地球を正しく残していくのは、危機を招いた大人たちの責務である。</p>
</div>
<p></p>
</div>
<p></p>

気候変動/気候危機

世界の食からエネルギーまで、温暖化が引き起こす危険な負の連鎖

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/28/top800_1.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Photo by <a href="https://unsplash.com/ja/@wouterdepraetere">Wouter De Praetere</a> on <a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E6%98%BC%E9%96%93%E3%81%AE%E9%81%93%E8%B7%AF%E3%82%92%E8%B5%B0%E3%82%8B%E7%99%BD%E3%81%84%E3%83%90%E3%83%B3-qEdL-YYmQMI?utm_content=creditCopyText&amp;utm_medium=referral&amp;utm_source=unsplash">Unsplash</a></sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>脱炭素に向けて再生可能エネルギーの導入が進む欧米で、電力のネガティブプライスが急拡大しているという。ネガティブプライスとは、訳せば「マイナス価格」、つまり、電気を使うとお金がもらえるという一見夢のような話である。<br />
最近、日本のマスメディアにも登場する回数が増えてきたネガティブプライス、一部では再生エネの生んだ“ひずみ”と書かれるが、一方で市場の正常な機能と評する声もある。<br />
今回のコラムでは、マイナス価格とその実態を考察する。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>欧米での実際と、1kWh使うと70円もらえたドイツの例</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ネガティブプライス＝マイナス価格とは、電力の供給が需要を大幅に上回ったときに起きる。買い手がなかなか現れず、発電側がお金を払ってでも電気を小売りや需要家に引き取ってもらうことの結果である。それならば、発電を止めればよいと思うかもしれないが、例えば、太陽光や風力などの再生エネ発電は基本的にコントロールが効かない。また、比較的、操作可能に見える火力発電でも止めたり、動かしたりする処理に数時間以上かかり、原発ではさらに大変な作業である。手間とコストを考えると、“マイナスでも引き取ってもらう方がまし”となる。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/28/jahr_1.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>ドイツで1年間に起きた「マイナス価格」の総時間数の推移(出典：Fraunhofer ISE)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>具体的な例を見てみよう。<br />
上のグラフは、ドイツで発生した年間のマイナス価格のトータル時間数の推移である。早くから再生エネ発電の導入が進んだドイツでは、マイナス価格がたびたび現出している。当初は、風力発電が原因となることが多かった。2020年あたりにいったんピークとなったのは、コロナ禍で需要が急に落ち込んだことも一因である。それが、再び拡大に転じ、2023年は過去最高の300時間超えとなった。これは、エネルギー費高騰への対応、特に太陽光発電の急拡大が背景にある。ちなみに、2023年のドイツの太陽光発電の導入容量は、年間13GWで日本の4倍近くとなった。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/28/konv.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>2023年7月2日、ドイツでマイナス価格500ユーロ/MWhを記録(出典：Agora Energiewende)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>マイナス価格でチェックしなければならないのは、発生する時間数と価格である。昨年の7月2日14時には、過去最高のマイナス価格を記録した。500ユーロ/MWh、kWhに換算すると50ユーロセントで、当時のレートで計算するとおよそ70円になる。つまり、『電気を1kWh使うと70円もらえる』という、消費者にとってみると驚くようなありがたい話である。この日は、朝8時から夜の7時までなんと11時間もマイナス価格が続いた(上のグラフでは、横軸の時間が日本時間に変換されている）。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>欧米全体に拡大するネガティブプライス、発生の仕組み</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>マイナス価格の発生は、ドイツに限らず欧州全体に広がり拡大している。<br />
以下のグラフは、欧州電力市場で起きたマイナス価格の合計時間を示している。2023年は前年に比して急増したが、今年は半年足らずで昨年の発生時間に達している。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/08/06/bnef.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>欧州電力市場のネガティブプライスの年初からの合計時間（2022-2024、出典：BNEF、EEX）</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>これは、ドイツと同様に太陽光発電の導入拡大が主たる原因と言ってよい。昼間の需要を超えるほどに太陽光発電(+風力発電など)が導入された結果、こういった現象を起こしている。一般住宅を含め今後も太陽光発電の導入が続くのは確実で、3年後の2027年には1000時間に達すると、世界的なシンクタンク、ブルームバークNEFは予測している。</p>
<p>太陽光発電の導入が顕著になってきている米国でも傾向は同じだ。特に、再生エネの導入の最先端であるカリフォルニア州は、すでに18GWの太陽光発電が設置されていて、天気の良い昼間でのマイナス価格はごく普通に見られる。今年前半のマイナス価格時間は1000時間を超えていて、全体の4分の1の時間がマイナス価格であった。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/28/enga.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>カリフォルニア州の7月24日の電源構成(出典：Engaging Data)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記のグラフは、カリフォルニア州の7月24日の電源構成を示している。縦軸が発電容量(GW)、横軸が24時間である。朝6時から夜の8時近くまで太陽光発電(黄色)が電気を生み出していて、発電能力は20GWに迫っている。太陽光発電を横切る黒い点線が需要なので、昼間は長い間に渡って供給が需要をオーバーしていることが分かる。ここでマイナス価格が発生している。ただし、この7月24日は決して特異な日ではなく、他の日もほぼ同様の構成である。</p>
<p>もう少し詳しくカリフォルニア州の電源構成を見てみよう。<br />
グラフをよく見ると縦軸のゼロより下があって、朝7時から夕方にかけて、青紫の領域が下に膨らんでいる。これは、蓄電池による充電を示している。需要を超えて余った電力を蓄電池に貯めていることが分かる。その電気がどうなるかというと、同じ青紫の領域が、17時以降から深夜近くまで縦軸の40GWあたりに大きく広がっている。こちらは、蓄電池からの放電である。</p>
<p>カリフォルニア州では、州政府の積極施策として蓄電池の導入が急速に行われていて、容量は10GWを超えている。その蓄電池が昼に余った電力を夜に融通する役割を果たしているのである。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>日本の最低価格0.01円はむしろ例外、マイナス価格の効用とは</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ポイントは、カリフォルニア州では余剰電力を蓄電池に貯める時は、その電気がマイナス価格ということである。つまり、充電するだけでお金がもらえるのである。蓄電池導入のモチベーションが飛躍的に高まる。<br />
日本では、蓄電池の普及がほとんど進んでいないため、供給が需要を上回ると「出力抑制」が実施される。九州地方が最も頻繁で、2023年度は、太陽光と風力発電の発電量のうち7%弱の抑制が想定されている。日本も蓄電池をどんどん導入すればよいと思うのが自然であるが、実は条件が違う。</p>
<p>日本には、マイナス価格が存在しない。いくら需要が足りなくても、市場価格は1kWh最低価格0.01円を下回れないことになっている。マイナス価格は、消費者にとってみると魅力的に映るが、発電事業者にとってみると、ある意味“悪夢”であろう。せっかく発電した電気を、お金を払って引き取ってもらうのであるから。</p>
<p>こうした立場を考慮してか、日本では、「ひずみ」と称して困り事とする報道も目立つ。しかし、本当にそうであろうか。<br />
まず、マイナス価格は、ある商品を市場に委ねた結果として生まれるものであり、自由経済の自然の結果である。その時、電気を使えばお金がもらえるので、本来、需要が薄いマイナス価格の時間に電気を使おうという動機が生まれる。例えば、蓄電池の導入検討である。他にも工場の稼働時間を昼に移動させたり、昼間の生産を増やしたり、という方法もあり得る。こうして、マイナス価格は自然に解消へと向かうことになる。多くの先進諸国でマイナス価格が採用されている理由もここにある。</p>
<p>こう考えると、日本の最低価格0.01円は人為的につくられたもので、こちらの方が不自然である。マイナス価格が解禁されると、原発など柔軟な運転ができない発電や化石燃料による発電施設は、市場の力で退出させられる可能性が増してくる。もちろん、再生エネ発電も同様の条件となる。</p>
<p>しかし、いつまでも政府の規制やコントロールばかりに頼るのではなく、“市場に委ね、シグナルに耳を傾け”、蓄電池の普及、送電線の拡充などの施策と併せて、脱炭素の実現を進めることが必要であると考える。</p>
</div>
<p></p>
</div>
<p></p>

再生可能エネルギー

欧米で頻発する電力のマイナス価格とは何か？ 再生エネとの深い関係を考察

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/27/syanhai800_1.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Photo by <a href="https://unsplash.com/ja/@woomantsing?utm_content=creditCopyText&amp;utm_medium=referral&amp;utm_source=unsplash">Jimmy Woo</a> on <a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E9%AB%98%E5%B1%A4%E3%83%93%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%A4%9A%E3%81%84%E8%A1%97%E4%B8%A6%E3%81%BF-_nyEIyFFAXA?utm_content=creditCopyText&amp;utm_medium=referral&amp;utm_source=unsplash">Unsplash</a></sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>昨年2023年、世界の再生可能エネルギー発電施設の新規導入容量が過去最高の510GW(IEA資料)となるなど、脱炭素に向けての取り組みがさらに活発化している。追加分のうち、中でも太陽光発電施設が4分の3を占め急増している。<br />
導入の状況を国別で見ると、顕著な特徴が浮かび上がる。圧倒的な中国の存在感である。再生エネ発電施設の中国の導入容量は230GWで世界の半分に迫る。発電そのものだけでなく、この他、PVパネル、蓄電池や水素、EVなど脱炭素に関する技術や製品で中国のシェアは圧倒的になった。<br />
今回のコラムでは、中国の実力とその背景を解説する。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>中国とそれ以外で分かれる、再生エネ新規導入の統計</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>以下のグラフは、ロンドンのシンクタンクEmberによる、世界の再生エネ発電施設の2023年までの導入容量の推移を示している。ここでは、世界を3分割し、「中国」「G7」「その他の世界」でまとめている。<br />
真ん中のG7の合計や、右のその他の世界でも、再生エネの着実な拡大が分かるが、左の中国のデータ、特に2020年代に入ってからの増加の勢いはすさまじい。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/27/01.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>中国、G7、それ以外の地域での年ごとの再生エネ施設の新規導入容量(出典：Ember)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>特に太陽光発電では、2023年に他の地域を圧倒し、200GW以上が新規で入った。米国で30GW超、EU全体で50GW超なので、差は歴然としている。日本の導入量はこのところ毎年5GW程度でしかなく、比較する気さえ起きない。IEA(国際エネルギー機関)の統計などでも、中国だけを別項目として立てるものが少なくない。まさに別格である。<br />
IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の予測では、2025年以降、中国の再生エネ全体の新規導入量は毎年250GW程度で推移するとしており、今後は勢いを維持したまま世界のトップを走ることが確実視されている。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>あらゆる脱炭素分野で世界を凌駕(りょうが)する中国</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>もう少し統計を見てみよう。<br />
次のグラフは、脱炭素社会で最重要とされる製品の製造施設がどの国にあるかを、製造能力の数字から示している。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/27/02.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>クリーンエネルギーの決定的な技術での製造能力の国別シェア(出典：Bloomberg NEF)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上から、太陽光発電関連3つ「ソーラーパネル」「太陽電池」「多結晶シリコン」、蓄電池関連の3つ、そして、風力発電のナセル、水素製造のための水の電気分解装置となっている。いずれも脱炭素達成のために欠かせないものである。<br />
それぞれの製品の製造能力シェアが国別にどうなっているかは、色別に示されている。細かく言及する必要もなく、どの製品でも黄緑、つまり中国が圧倒している。太陽光発電と蓄電池関連ではほぼ9割、残りの風力発電、水素関連でもそれぞれ3分の2、4分の3のシェアを占める。</p>
<p>グラフを見ると、他の国の色わけも存在する。グレーの欧州は、風力発電のナセルなどで一定の割合を有している。また、黒は米国で、水素製造の電気分解装置で1割ほどのシェアが見える。日本は青色で分けられているものの、蓄電池関連でほんのわずか登場するに過ぎない。<br />
グラフを作成したBloomberg NEFは、「中国が緑のサプライチェーンを支配」とコメントを付している。</p>
<p>先に少し述べたが、この他、EV、各種の特許など多くの分野でも中国が圧勝していて、脱炭素に向けての技術では、他国との差がさらに開いてきてさえいる。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>なぜ中国はこれほど脱炭素技術に強いのか、研究論文から見る指標</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>背景にあるのが、中国の明確な施策である。強固な支配体制を基礎に、莫大な費用を投じて長年、研究と開発を進めてきた成果がここに結実している。<br />
初期の研究段階からの注力が大きな鍵と考えられ、最近のデータがそれを傍証している。<br />
先日の6月中旬に、世界の科学的な成果を追跡するデータベースである『Nature Index』が、「2024年の研究リーダー」という<a href="https://www.nature.com/nature-index/news/nature-index-research-leaders-chinese-institutions-dominate">まとめ記事をWebサイトに発表</a>した。そのタイトルと前文がすべてを語っている――「中国の教育研究機関が上位を独占　今年の上位10校のうち7校が中国を拠点とする大学であり、スタンフォード大学は初めて脱落した」。<br />
中国の7つの教育研究機関は、すべて昨年のポイントを上回って成長を続けており、逆にベスト10に残った欧米の3つは成長率を下げている。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ランキングは以下の通り。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>１．中国科学院<br />
２．ハーバード大学(米国)<br />
３．マックス・プランク協会(ドイツ)<br />
４．中国科学院大学<br />
５．中国科学技術大学<br />
６．北京大学<br />
７．フランス国立科学研究センター(フランス)<br />
８．南京大学<br />
９．浙江大学<br />
10．精華大学</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ランキングは2023年に発表された7万5000あまりの研究論文を基に作られている。もちろん、脱炭素以外の技術のものも多数含まれているが、ランキングはすべての技術に通じるベースの力を示していると考えることができる。<br />
ちなみに、筆者が中国関連の情報で最も信頼し、尊敬する中国問題グローバル研究所の遠藤誉所長は次のように解説している。<br />
躍進のスタートは、習近平政権が2014年に策定した新常態(ニューノーマル)という政策、すなわちGDPで「量より質を重んじる」政策にある、という。要約すると、将来の飛躍のために研究開発に全力を注ぎ、過程ではGDPが下がることもあるが、研究開発でため込んだエネルギーが大きなジャンプ力となって中国の真の成長をもたらす、というのである。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>真逆に動いた日本と、必然で招いた現在の厳しい状況</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>一方、日本はどうか。まず、今回のランキングでの日本の状況を知っておこう。<br />
最高位は東京大学で19位、ベスト100に入っているのは、47位の京都大学、69位の大阪大学の3校でしかない。しかも、東大も京大も成長率を下げている。<br />
中国がこの10年、大きく伸びてきたのに対し、日本では何が起きていたのだろうか。<br />
ちょうど安倍政権が長期間にわたり政策を決めていた時期に当たる。いわゆる大学の“改革”も行われたが、短期的な成果ばかりが求められ、基礎研究に投じるお金がどんどん削られていった過程でもあった。<br />
筆者も現在、ある国立大学法人の客員教授を務めるが、現場から聞こえて来るのは、厳しい財政と研究費の不足の悲しい声ばかりである。中国が進めてきたものと全くの反対を行った日本の結果は惨憺(さんたん)たるものである。</p>
<p>中国が享受する産業としての成果は、決して「ずる」や国家主導の安売りによるものが中心ではなく、日本が怠ってきた「地道な実践」によるものであることは認めなければならない。<br />
ここにきて、再生エネ拡大が中国の利益にしかならないとか、一部の団体の単純な事務的ミスを中国に利する反国家行為だとか唱える言説も聞こえてくる。しかし、これらはまったくレベルが低く、哀れな議論としか言いようがない。<br />
しかし、重要なことは、ここまで落ち込んだ日本の技術レベルをどう持ち直すかを真剣に検討し、実行することである。そのためには、中国が歩んだ、厳しく、すぐには成果が見えない道のりを、日本もたどる覚悟が必要であろう。どこにでも手本を求める柔軟な姿勢がなければ、日本の復活は永遠にない。</p>
</div>
<p></p>
</div>
<p></p>

世界の脱炭素技術を席巻する中国、その本当の実力と背景を探る

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/800topsashikae.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>米国人の野菜の消費量は日本より多い。NY市内のスーパー「Whole Foods」には、多品種の野菜が並ぶ(写真はいずれも2024年6月、筆者撮影)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ハンバーガーにステーキといったこれまでの米国の食のイメージは、ニューヨーク市(以下NY)では大きく変わりつつある。エリック・アダムス市長のリーダーシップのもと、NYは食品に関連する温室効果ガス(GHG)を 2030 年までに25%削減するために、プラントベース(植物由来)の食事を導入する政策「Plant-Powered Carbon Challenge」を推進している。この政策に参加するのは学校や病院などの公共施設に加え、フードサービス業者やケータリング業者、企業まで食環境を持つすべての組織が対象だ。すでに市内病院では2023年に85万食の植物性メニューを患者に提供し、公立学校は学校給食を毎週金曜日はヴィーガン食とする「Plant-Powered Fridays」を導入している。NYにとって建物35%、輸送21%に次いで大きなGHG排出源である食品からの排出削減をどのように進めているか、現地NYの食に関するマーケットの状況を含めレポートする。(環境ライター 箕輪弥生)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>公立学校も週2回はプラントベースの給食を導入</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/01.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>スーパーマーケットではプラントベースの総菜類も多い(Whole Foods)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>世界全体の3分の1を占める食の分野からの温室効果ガス排出は、多くの都市にとっても喫緊の課題だ。特にNYのようにレストランの数だけでも2万3000軒を超える街では、食品からのCO2排出は全体の20%を占めるため、カーボンニュートラルに向けて避けることができないテーマだ。</p>
<p>2023年から始まったNY市が推進する「Plant-Powered Carbon Challenge」では、「家庭での食品消費における温室効果ガス排出の主な原因は赤肉と乳製品である」とし、「ニューヨーカーは、野菜、果物、全粒穀物、豆類、ナッツ類などの低炭素のプラントベースの製品をもっと食べることで、市の排出量を大幅に削減することができる」と提言している。</p>
<p>プログラムでは、2030年までに食品由来のCO2排出量を25%削減することを目標とし、植物由来の調達や、食品由来のCO2排出量を測定し、その進捗状況を毎年、市長の食糧政策オフィスに報告することを求めている。</p>
<p>プログラムに先駆けて、2019年からNY市の公立学校の給食では毎週月曜日に肉食をしない「ミートレスマンデー」が始まり、これに加えて、2022年2月からは、卵や乳製品も提供しないヴィーガン(完全菜食主義)給食が始まった。市立の幼稚園から高校まで約1700校すべてで実施され、100万人近くの生徒に提供されている。</p>
<p>ヴィーガン食に替えたことで自らも糖尿病を克服した経験もあるアダムス市長は「学校給食におけるプラントベースの選択肢は、健康的な食事と生活をサポートし、生徒の生活の質を向上させることを意味します」とヴィーガン給食開始時の会見で話している。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/02.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>NY市長による食と持続可能性における2024年4月のスピーチ(<a href="https://sdgtransformationcenter.org/news/press-release-sustainable-development-report-2024">NYC Mayor&#8217;s Office　ホームページ</a>より)</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>給食メニューでは、タコス、ピザ、チーズなどを肉や乳製品を使わず大豆ミートなどの代替食品を用いて調理し、サラダなどが豊富に提供されている。</p>
<p>一方、大学のカフェテリアでもプラントベースのメニューが拡大しそうだ。2023年に最初にプログラムに公式参加したコロンビア大学では、プラントベースのメニューを従来からあるヴィーガンコーナーだけでなく、メインのコーナーでも週2〜3回提供する予定だ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>豊富な植物性食品の選択肢が揃うスーパー</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box col2">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/03_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>植物性のバーガー肉(Whole Foods)</sup></div>
</td>
<td class="separator"></td>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/04_1.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>代替品のベーコンやナゲット(Whole Foods)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_pik_box col2">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/05_1.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>米国を代表する植物肉の企業「ビヨンドミート」の植物性ソーセージ(Whole Foods)</sup></div>
</td>
<td class="separator"></td>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/06_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>バターなど乳製品にも代替品が(Whole Foods)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>NYのスーパーマーケットでも、プラントベースの商品や総菜は豊富に揃う。代替肉のソーセージやパテはもちろん、チーズやバターなども植物性のものがラインナップされている。レストランやテイクアウトショップでもベジタリアン向け、ヴィーガン向けのメニューは選択可能なところがほとんどだ。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/07.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>豆腐はすでにNY市民の日常食になりつつある(Trader Joe’s )</sup></p></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本の伝統的な食品である豆腐やみそもプラントベースの重要なたんぱく源として浸透している。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>グリーンマーケットやコミュニティガーデンも活発</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>都市農業についても、NYの持続可能性への取り組みにとって極めて重要だとして市は支援している。近隣の農作物を地元で消費することは輸送によるCO2を削減し、生物多様性をサポートするからだ。</p>
<p>グリーンマーケットやファームスタンドを運営する非営利組織のGrowNYCは、マンハッタンのユニオン スクエアやブルックリンのグランド アーミー プラザなど、各地でグリーンマーケットを毎週開催している。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/08.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>近隣のオーガニック農家が集まるユニオンスクエアのグリーンマーケットの様子</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_pik_box col2">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/09.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>新鮮な野菜やイチゴが色鮮やかだ</sup></div>
</td>
<td class="separator"></td>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/10.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>さらに、市内には住民らが野菜などを栽培するコミュニティガーデンが500以上もあり、緑を介在したコミュニティ活動が活発だ。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/11.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>黒人居住者の多いハーレムのビルの合間にあるコミュニティガーデン</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/23/solarcompost.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>生ごみ専用のスマートコンポスト。専用アプリでロックを解除していつでもごみを捨てられる</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>食からのCO2排出削減は、生ごみの処理まで考えられている。NYは、生ごみなどの有機ごみを分別回収するプログラムを段階的に導入し、2024年10月までに全市で展開する。</p>
<p>市内には茶色い生ごみ専用のごみ箱やスマートコンポストと呼ばれるソーラー付きのごみ箱が設置され、堆肥化施設や下水処理施設に送られ、肥料やバイオガスとして発電や天然ガスとして使われる。</p>
<p>NYが大きく舵を切ったプラントベース政策は、食品に関わるマーケットを変えつつある。生産から生ごみ処理に至るまで食に関わる温室効果ガスを削減し、人々の健康に寄与する政策として、米国の他の州にも影響を与えていきそうだ。</p>
</div>
</div>
</div>
<p></div>
<p></p>

ニューヨーク市の食革命、「プラントベース」政策で温室効果ガスを削減

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/23/kaisou800_1.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Photo by <a href="https://unsplash.com/ja/@boardshortsben">Benjamin L. Jones</a> on <a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E6%98%BC%E9%96%93%E3%81%AE%E9%9D%92%E7%A9%BA%E3%81%AB%E7%B7%91%E3%81%A8%E8%8C%B6%E8%89%B2%E3%81%AE%E8%8D%89-I4aJx04A_rY?utm_content=creditCopyText&amp;utm_medium=referral&amp;utm_source=unsplash">Unsplash</a></sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>止まらない温暖化の被害は、災害の増加にとどまらない。<br />
最近とみに、農産物や漁業への影響が取り沙汰されている。天候の異常でキャベツ1個が1000円の値をつけ、イセエビが東北の海で獲れたと聞いて驚く。<br />
一方で、カーボン・クレジットを創り出す事業が各地で活発化している。おなじみの森林クレジットの拡大だけでなく、農業系やブルーカーボンなどの海産物に関するものも話題となっている。<br />
今回のコラムは、注目の“農林水産系のクレジット”を取り上げ、解説する。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サンマからキャベツ、コーヒーまで農水産物に大きな影響を与える地球温暖化の脅威</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>高騰する野菜の種類が目まぐるしく変わる。2024年5月現在はキャベツ、ブロッコリーがひどい。ちょっと前の3月はトマト、キュウリで、そういえば、昨年は玉ねぎが1個200円ということもあった。旬の時期に天候不順で収穫が激減することで、値段が跳ね上がる構図である。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/23/zu01.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>秋冬の味覚に危機？地球温暖化の影響 (出典：<a href="https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/weather/article03.html">環境省「デコ活」WEBサイト</a>より)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>海産物への影響も大きい。この何年かサンマ不漁の話はすっかり定着してしまった。上のグラフでは、漁獲量の激減に反比例し価格が跳ね上がっている。サンマはすでに大衆魚ではない。筆者は東北の太平洋側によく行くが、サケやイカが全く駄目と嘆かれる。一方、南の魚の北上も頻繁で、この間九州玄界灘の呼子で獲れる種類のイカが岩手であがったと聞いた。<br />
世界では、直近で産地ベトナムやブラジルでの不作によるコーヒー豆に加え、カカオ豆の値上がりも連日報道されている。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>意外に厄介な、農林水産業の温暖化ガスの発生理由</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ここに来て悪影響を受ける産品を扱う企業自らが、脱炭素を積極的に進めようとし始めている。例えば、UCC上島珈琲は豆の焙煎に使う燃料にグリーン水素を使うことを進めている。温暖化で原料の豆が取れなくなっては事業が成り立たないという危機感が背景にある。<br />
ややこしいのは、影響を受ける農林水産業自体が温暖化ガスの大きな排出源となっている実態である。このあたりが、温暖化と自然を相手にする産業の複雑な関係になる。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/23/zu02.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>日本の農林水産分野の温室効果ガス排出量(出典：<a href="https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/jcredit/attach/pdf/240417_3-1.pdf">農林水産省「農業分野のカーボン・クレジットの取組推進に係る最終調査結果」</a>より)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上のグラフにあるように、農水省のまとめによると、2021年度の調査で、農林水産分野での温暖化ガスの排出量はおよそ5000万トンと全体の4.2%である。温暖化の係数が非常に高いメタンがその半分近い44.9%を占めていることが特徴だ。具体的な内訳は、「稲作」、「家畜の消化管内発酵」が大半となっている。少し説明すると、稲作は、田んぼの水張りでメタンが発生するため、後者は、牛のげっぷそのものである。困ったことに、化石燃料などのエネルギー起因ではないので、代替する方法は取れない。そこで、対策として、水を張る期間を短くしたり(＝中干し)、げっぷの出にくい飼料を開発したり、などが工夫されてきた。</p>
<p>ここに来て、その温暖化ガスの削減分をクレジット化して取引する動きが出てきた。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>注目を浴びる農業系カーボン・クレジット</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>クレジットは実際に値段がついて取引される。例えば、創出されたクレジットを企業などが脱炭素のために買えば、中干しを行った農家の収入となる。農林水産業従事者の困り事を逆手にしてビジネスにつなげる動きとも言える。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/23/nakaboshi.jpeg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>フェイガーによる水田の中干しの現場 (出典：<a href="https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:ap:a3c62d27-4133-411f-a5ff-a81fa33cb702">フェイガーのパンフレット</a>より)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記の写真は、農業系カーボン・クレジットをビジネスとする<a href="https://faeger.company/">フェイガー</a>(東京・港)からの引用である。同社は、中干しの期間を延ばしてメタンを抑える取り組みを、2024年度では33道府県、1300戸の農家と行う予定である。対象の水田の広さ2万ヘクタール、クレジットの生成見込みはCO2換算7万トンと見込んでいる。</p>
<p>牛のげっぷ対策では、味の素がげっぷの元となる物質を結果として減らせる飼料を開発し、飼育する牛の多い鹿児島県と連携協定を結んで温暖化ガスの削減を目指す、というニュースが話題となった。</p>
<p>これらの「中干し」と「飼料」は、政府が主導するカーボン・クレジットであるJ-クレジット制度に、2023年度に相次いで新しい方法論として追加され、国の公認となった。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>政府が期待するブルーカーボン、藻による脱炭素</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>4月に環境省が発表した2022年の温暖化ガス排出量のデータ発表で、力が入っていたのがブルーカーボンの取り組みである。<a href="https://www.env.go.jp/press/press_03046.html">環境省のWEBサイト</a>にも「世界で初めて、ブルーカーボン生態系の一つである海草藻場及び海藻藻場における吸収量を合わせて算定した」とある。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/23/blue.jpeg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>ブルーカーボン生態系の新規算定 (出典：<a href="https://www.env.go.jp/content/000216325.pdf">環境省「2022年度の温室効果ガス排出・吸収量（概要）」</a>より)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記のように概要版(全9ページ)でも、堂々1ページで説明している。<br />
ブルーカーボンとは、海藻や海草で固定されるCO2をカウントするカーボン・クレジットで、今回、温暖化ガスの国連への報告で、世界で初めて算定した数字を提出したということである。量はわずか35万トン、まだ、民間によるボランタリークレジットであるが、今後の政府の期待は大きいとみられる。<br />
すでに、海岸のある日本各地で、自治体、大学などの研究機関なども協力してブルーカーボンを手掛ける動きが活発化している。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>クレジットの地産地消という新しい“希望”</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>温暖化が及ぼす悪影響からどう逃れるか、脱炭素への取り組みの前には経済性などの困難さの壁が立ちはだかり、どうしても苦しさ、大変さが先に立つ。<br />
しかし、脱炭素ビジネスのように「脱炭素の必要性」が、前述の農業系カーボン・クレジットのベンチャーなどを生んでいるのも事実である。また、再生可能エネルギーを地域全体で回していくエネルギーの地産地消など、地元の未来につながる明るい要素も見えてきた。<br />
メタンの発生源として温暖化の元となる負の要素を利益に換えるクレジット。こうした地産地消の仕組みが、新しいツールとして地域に根付くことを期待したい。</p>
</div>
<p></p>
</div>
<p></p>

脱炭素で焦点が当たる「農・林・水産」、注目の新しいカーボン・クレジットビジネスとは何か

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/14/aqua800_1.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>空間を有効活用する縦型のアクアポニックス水耕栽培を設置したアクポニの農場(神奈川県藤沢市)</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>野菜などの水耕栽培と魚の養殖を組み合わせて、同時に生育する「アクアポニックス」農法がじわり広がりを見せている。魚の排泄物が野菜の栄養となり、植物が栄養を吸収することで水が浄化され、化学肥料や農薬も使わないオーガニックな循環型農法だ。米国ではすでに大規模に展開されているが、工場などの未利用資源やエネルギーを活用しやすいこともあり、国内でもIHIや荏原製作所などが新規事業として取り組むなど異業種からの参入が増えてきた。国内に最初にアクアポニックスを紹介し、事業支援や教育などを行う「アクポニ」(横浜市)の濱田健吾代表に、その仕組みや事業の可能性について聞いた。(環境ライター 箕輪弥生)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>魚の排泄物が野菜の肥料に、CO2削減にも有効</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>アクアポニックスは、アクアカルチャー(水産養殖)とハイドロポニックス(水耕栽培)を掛け合わせた造語だ。この言葉からも分かるように、野菜と魚を同時に生育する農法だ。魚の餌や排泄物を含んだ養殖水を微生物の力で分解し、窒素など肥料を含む水から植物が栄養を吸収することで水が浄化され、それが再び水槽に戻る。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/14/01zu.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>農薬や化学肥料を使用することなく、生態系の循環を利用して、効率的に食料を生産できる</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>自然界では、魚が棲(す)む川や湖の有機物を植物が浄化し、水は循環していく。アクアポニックスもこういった自然の水の循環をシステム化した技術で、米国で開発された。</p>
<p>同じ施設内で魚と野菜を同時に育てながら、エネルギーや水を循環させるので、使用する水やエネルギーは約半分で済み、魚の排泄物を分解し肥料にすることから、肥料もほぼ不要となる。<a href="https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0218368">ドイツの淡水研究国際センターの研究</a>では養液を使う従来の水耕栽培と比較して、温室効果ガスを約7割削減できるとされている。　　</p>
<p>アクアポニックスを普及させているアクポニの濱田健吾代表は、「従来の養殖では、魚の餌の窒素分の12%程度しか魚の成長には寄与せず、88%は捨てられている」と説明する。「捨てられていた88%の窒素分で野菜を育てることで、資源循環、窒素循環が生まれる」。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/14/02.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>淡水魚の中でも育てやすく、キャビアもとれるチョウザメはアクアポニックスに適している</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>取材したアクポニの藤沢市にある試験農場では、床下の水槽でティラピアやチョウザメ、錦鯉が泳ぎ、地上ではレタス、春菊、ケール、ハーブ類などの葉物が青々と育っていた。葉物はえぐみの原因となる「硝酸態窒素」の量が少なく、食べやすいという。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box left">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/15/0515test.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>日本に合う形でアクアポニックスの技術を広めていきたいと話すアクポニの濱田健吾代表</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>同社は人材教育からアクアポニックス導入計画の作成などのコンサルテーション、農園の設計、施工・運用までを手掛け、これまで43社を支援してきた。生産支援はITを活用し、カメラ、アプリ、センサーを使ってデータ化し、リモートでアドバイスする。これにより、改善点などが明らかになり、新規就農も容易になる。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>工場併設、農福・地域連携、アクアポニックスで広がるループの輪</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/15/04.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>メガソーラーの余剰電力も活用するIHIのアクアポニックス農園(福島県相馬市)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>アクアポニックスの発祥地、米国ではこの技術を使った農園が拡大し、中には年間40億円以上を売り上げる農園もあるという。世界でのアクアポニックスの市場規模は、リサーチ会社Business Research insightsによると、2021年に5億268万米ドルと評価され、2027年までに7億6084万米ドル(約1176億円)に達すると予想されている。</p>
<p>米国のいくつかの農園で働いた経験もある濱田代表は「有機農業を大規模に展開しようとすると、施設園芸になる」と話す。一般的な有機農法ではどうしても手間がかかることから小規模にとどまるからだ。米国では、ホールフーズなどオーガニックフーズを扱う店舗が多く、マーケットが確立しているのも強みだという。</p>
<p>一方、国内ではどのような市場が有望なのだろうか。アクポニでは、アクアポニックスを普及させるため「アクアポニックス・アカデミー」を2016年から開講している。</p>
<p>受講者の傾向から、企業が工場の資源やエネルギーを有効活用したいとアクアポニックスを導入するケース、障がい者の就農を促す農福連携、地域連携などの需要が多いことが見えてきた。</p>
<p>その一つの事例が水素工場に併設されたアクアポニックスだ。IHIは、福島県相馬市の「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」にある水素研究棟で、水素を作る際に発生する酸素と余剰電力を使って2021年からアクアポニックスによる野菜と魚の養殖を行う。</p>
<p>水素を作る際に発生した酸素を魚に与えると水槽中の酸素濃度が高まり、生産量も増える。さらに、隣接するメガソーラーの余剰電力を、デマンドレスポンスとして施設内のエアコンの電力などに利用している。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box col2">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/14/05.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
<td class="separator"></td>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/14/06.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>副産物が生まれることで水素生産の採算が取りやすくなる(IHI)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>一方、荏原製作所は、自社が持つポンプ事業や水処理技術を生かせる事業のひとつとしてアクアポニックスを導入、障がい者が実務を担当し、できた野菜などは社員食堂などで消費している。</p>
<p>青森県藤崎町では、廃校を利用してアクアポニックスを展開し、そこで生産したものを併設のレストランで提供し、その作業を通じて障がい者の就労支援を行い、観光にも結び付けるなど、循環型ビジネスを計画中だ。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/05/14/07.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>アクポニで販売する小規模のアクアポニックスは、飲食店、家庭や学校でも需要がある</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>濱田代表によると、工場の排熱やCO₂などの排ガスなどの未利用エネルギーを活用することで、循環のループが大きくなり、その分資源効率が高まり、環境負荷を減らせるという。</p>
<p>同社は施設内の気流をサーキュレーターで最適化することで、施設内に設置したエアコンの電力使用量を大きく下げるなどの省エネ化の研究も始めている。</p>
<p>新しい食糧生産の形、アクアポニックスはさまざまな未利用資源やエネルギーを活用することでさらに大きな循環を作り出す可能性を秘めている。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

エコシステム

異業種の参入も増加、水耕＋魚養殖の循環型農法「アクアポニックス」で未利用資源を活用

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/22/chance800_1.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Photo by <a href="https://unsplash.com/ja/@nullplus">Razvan Chisu</a> on <a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E5%BB%BA%E7%89%A9%E3%81%AE%E7%9C%9F%E3%82%93%E4%B8%AD%E3%81%AB%E3%81%84%E3%82%8B%E7%94%B7%E3%81%AE%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E5%86%99%E7%9C%9F-Ua-agENjmI4?utm_content=creditCopyText&amp;utm_medium=referral&amp;utm_source=unsplash">Unsplash</a></sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>温暖化防止に向け脱炭素を推進するには、CO2排出側である政府や企業・団体、個人の削減努力と、技術などを開発し事業化する研究機関や民間企業の取り組みの相互作用が絶対的に必要である。後者は特にビジネス化で新しい価値を創出し、相乗効果を生む。実際には、削減側と事業側の両場面でカーボンニュートラルに取り組んでいる民間企業も珍しくない。</p>
<p>ところがここにきて、再エネ発電など特別な技術を保有しなくても脱炭素関連事業に参入できるモデルが登場し始めている。そのアイデアは脱炭素社会のニーズにも合致し、まさにカーボンニュートラル社会での有望ビジネスに映る。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>なるほど、と思わせる、「脱炭素ツールのポータルサイト」運営</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>新しい脱炭素ビジネスと言えば、成熟しつつある太陽光発電でのコーポレートPPAや急拡大する洋上風力発電、将来有望とされる水素関連など、最新の技術を前面に出すパターンがすぐに思い浮かぶ。<br />
しかし、最近、筆者が「おお、それはありかも」と納得した新規ビジネスは、方向が少し異なっている。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/22/asuene.jpg" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>CO2削減のマーケットプレイス「アスエネストア」(出典：<a href="https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000333.000058538.html">アスエネのプレスリリース</a>)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>今年3月、企業や自治体などエネルギーの需要家にCO2排出量見える化などのツールを提供するスタートアップのアスエネ(本社東京)が、「アスエネストア」という仕組みを発表した。各種のCO2排出量削減のためのソリューションをWEB上において、ワンストップで検索や比較、検討ができるというもので、同社によれば日本初だという。</p>
<p>アスエネストアの内容は、<br />
・CO2排出量削減ソリューション<br />
・CO2排出量削減機器<br />
・環境マネジメントシステム<br />
・脱炭素商材<br />
などで、各種の脱炭素の解決方法からアドバイスなどのコンサルティング、削減につなげるための機器などと幅広い。脱炭素を進める企業や自治体などにとってみれば、各種の解決策を一カ所で選ぶことができる利点がある。「脱炭素に特化した、アマゾンや楽天型のサイト」のような一面もあり、同社では“CO2削減のマーケットプレイス”と銘打っている。</p>
<p>ストアは、実際には同社の脱炭素関連のサービスをすでに導入している企業向けに限ったもので広く誰でも店をのぞけるわけではない。どちらかというと、顧客の囲い込みを狙ったクローズドな戦略ではある。</p>
<p>しかし、このコンセプトは普遍的なビジネスになり得る。<br />
すでに社内外から脱炭素を迫られているケースや、取り組みたくても何から始めてよいか分からないという企業や自治体などはかなり多い。今後ニーズは大きく広がる可能性がある。つまり、類似かつオープンなポータルサイトが、今後必ずいくつも立ち上がるであろう。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>出張時に新幹線を脱炭素で利用できるサービスとは</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>もう一つ、需要家からの強い求めで生まれた脱炭素サービスを紹介しておきたい。<br />
東海道新幹線、山陽新幹線を運営するJR東海とJR西日本と製薬会社のアストラゼネカが共同発表し、この4月から始まったサービスがそれだ。JR東海とJR西日本の予約システム「エクスプレス予約」の法人会員であれば、新幹線を実質CO2フリーの電気を使って乗ったことにできるのというものである。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/22/zeneka.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>東海道・山陽新幹線におけるCO2排出量実質ゼロ化のスキーム(出典：<a href="https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000461.000024308.html">アストラゼネカのプレスリリース</a>)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>スキームは上図のとおりである。<br />
JR東海とJR西日本が電力会社と契約し、太陽光発電などによる実質再エネ電気の供給を受ける(①、②)。これを新幹線の運行の電力に充てる(③)。一方で利用企業は、エクスプレス予約会員(無料)となり、実際の出張時に追加料金を払ってこのサービスを利用する(④)。それに対して、JR側が企業に「CO2削減効果の証書」を発行する(⑤) ――という流れである。</p>
<p>なぜ、これに製薬会社のアストラゼネカが強く関わったのであろうか。<br />
同社は脱炭素を積極的に推進しており、2022年末までに国内全拠点の実質再エネ電力への切り替えをすでに完了している(Scope2)。社員の出張によるCO2排出はいわゆるScope3に当たり、まだ達成できていないこの部分の排出削減を進めるために、JRと協力を行ったのである。JR東海とJR西日本の発行する証書によって、社員の出張によるCO2排出分を実質的にゼロにできることになる。<br />
ちょっと気になるのが追加料金であるが、東京と新大阪間の新幹線片道で1人当たり数十円程度とされている。決して高くはないであろう。</p>
<p>直接自社が排出するCO2は自助努力でなんとかできるが、サプライチェーン上の他社が排出する分(Scope3)は、その会社の脱炭素化を要求することはもちろん、排出量の計算のお願いでさえも簡単ではない。一方で、金融機関や政府からは、各企業への排出量開示などの要求は強まるばかりである。ここで取り上げたScope3は、特に企業にとって頭の痛い脱炭素の課題の一つなのである。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業の脱炭素ニーズをつかんで広がるビジネスチャンス</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>最初に挙げた脱炭素の進め方など全体のサポート、そして、後者のScope3問題と、企業の脱炭素経営における“困り事”は今後さらに増える一方となる。</p>
<p>しかし客観的に見れば、需要サイドの大きなニーズは、そのまま大きな事業チャンスにつながる。そして、最初から示しているように、今回の事例では開発に時間や多額の費用が生じるような特別な技術が必要なわけではない。ニーズへの気付きとアイデア、工夫があれば、事業へと一歩踏み出せる可能性が高い。</p>
<p>繰り返すが、温暖化防止は政府から個人までのすべての参加者が取り組まなければ達成できない。しかし、強制や義務、コスト増ばかりでは多くのプレーヤーが後ろ向きになりかねない。<br />
需要が多ければビジネスとなり、技術要素のハードルが低ければ参入者が増える。これらのプレーヤーが複合的かつ自主的に取り組むことで、初めて2050年のゴールが見えてくると考える。新しいビジネスの芽吹きが、脱炭素社会への道をさらに新しい段階に引き上げることを期待したい。</p>
</div>
<p></p>
</div>
<p></p>

アイデアと工夫で広がる「脱炭素サービス」は、新しいビジネスの大きなチャンスだ

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/15/top800_1.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>生ごみから1000戸分の電力を作り出す「さがみはらバイオガスパワー」</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本はごみを焼却して処理する割合が世界でも突出して高く、その処理費用は年間2兆円を超え、多くが税金で賄われている。そのごみの約4割は食品であることもあまり知られていない。そのため、食品廃棄物を燃やさずに、発酵によりバイオガスを作り出し利用しようという試みが広がりつつある。</p>
<p>食品廃棄物から液体状の飼料を製造する日本フードエコロジーセンター(相模原市)は、系列のバイオガスパワー(同)において、昨年11月から飼料に向かない廃棄物をメタン発酵によりバイオガスを作って発電し、残渣(ざんさ)を肥料化している。JR東日本グループも今年4月から駅ビルなどから排出される食品廃棄物を燃やさずにバイオガス化し、生み出された再生可能エネルギーや排熱をグループ内施設で利用する取り組みを始めた。</p>
<p>どちらもごみ処理に関わるCO2を大幅に削減し、食品廃棄物を資源として捉えてエネルギーや飼料、肥料などに活用するサーキュラーエコノミーを推進すると共に、焼却に伴う税金支出の低減、生産者の飼料、肥料の費用削減などさまざまなメリットを生んでいる。(環境ライター 箕輪弥生)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>欧州では「有機廃棄物はバイオガスに」が主流に</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本の食品ロスは減少傾向にあるものの、今なお毎年500トン以上が排出され、全国にある焼却場でその約8割は燃やされている。水分の多い食品廃棄物は、焼却する際に多くのエネルギーを使い、CO2も排出する。</p>
<p>一方、隣国の韓国では、食品廃棄物のリサイクル率は95%まで高まり、主に肥料や飼料にリサイクルされている。欧州では有機廃棄物のバイオガスへの変換が進む。European Biogas Associationによれば、現在30億立方メートルのバイオガスが生産され、これを350億立方メートルに拡大するために、約800億ユーロの投資を行い、新規のバイオメタンプラントを5000カ所建設する計画だ。これらの原料には家畜のふん尿や農業残渣、産業排水なども含まれるが、食品廃棄物も6%を占める。</p>
<p>食品廃棄物を処理する際に廃棄物やCO2排出を抑制するためには、食品ロスを減らすことはもちろん、燃やさずに活用することが国内外で重要になってきている。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>複数の課題を解決するビジネスモデルを構築――さがみはらバイオガスパワー</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/15/foodloss.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>事業者から回収した食品廃棄物はバーコードによって情報を管理している(日本フードエコロジーセンター)</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>食品廃棄物からバイオガス化、飼料化、肥料化をワンストップで実現したのが、「さがみはらバイオガスパワー」だ。</p>
<p>ここではまず隣接した「日本フードエコロジーセンター」(以下J.FEC)で、毎日約40トンの食品廃棄物を受け入れ、粉砕、殺菌処理をして乳酸発酵を行い飼料化する。特徴は、リキッド状の発酵飼料としている点で、牛乳やヨーグルトなどの液状の廃棄物をそのまま利用できることによりエネルギーコストを下げ、飼料価格も一般の輸入配合飼料の半分程度の価格にできる。</p>
<p>「日本の場合は発酵という技術があるので、それを使ってPH4以下に下げることで保存性を高め、液状でも腐敗しにくいようにリキッド発酵飼料を開発した」とJ.FECとさがみはらバイオガスパワーの社長を務める高橋巧一氏は説明する。</p>
<p>J.FECは主に大手の食品企業などからの食品残渣を受け入れ、そこから生まれた飼料を契約養豚農家に販売する。円安で輸入飼料の高騰に悩む養豚農家にとって、価格が安く、品質が高い飼料はメリットが大きい。事業を行う同社にとっても、「食品関連事業者と畜産農家の双方から収入があり、エネルギーの売電収入も得られるため、継続性の高いビジネスモデルとなる」(高橋社長)。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>畜産・農業を持続可能にする食品廃棄物の活用</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/15/syatyou.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>処理の難しい消化液から肥料を作る工程を説明する高橋社長</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次に道を挟んで隣接する「さがみはらバイオガスパワー」では、これまで飼料に加工しにくかった油や塩分の多い廃棄物を発酵させてメタンガスをつくり、一般家庭約1000戸分に相当する出力528キロワットのバイオガス発電を行う。電力はFITで販売するが、FIT非化石証書を通じてすべての電力は小田急電鉄の本社が購入している。</p>
<p>さらに、発酵後の消化液を活用するため、残った固形部分はバイオガス発電の廃熱で乾燥し、肥料の原料を製造し、食品廃棄物が全く無駄にならずにカスケード利用<sup>※</sup>されている。また、ここで発電された電力および井戸水は災害時に地域住民に提供し、防災拠点とすることで相模原市と協定を結んでいる。</p>
<p>農水省などの委員会に参加する高橋社長は「この2つの工場をモデルとして、地域の特性に合った形で技術やノウハウを導入すれば、エネルギーや飼料、肥料コストも抑えられ、持続可能な農業が可能になるのでは」と考えている。同社では技術やノウハウに特許などは取らず、オープンイノベーションとしている。</p>
<p><sup>※資源やエネルギーを1回だけの使い切りでなく、他段階に活用すること</sup></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>グループ企業連携でバイオガス化を実現――JR東日本グループ</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/15/jr01.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>焼却処分によらない微生物の働きによってバイオガスを作る「Ｊバイオフードリサイクル」</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>JR東日本グループはこれまで駅ビルやホテルから排出される食品廃棄物の処理について、飼料、肥料化は行ってきたが、脂分や塩分が多かったり、混入物があるなど、飼料化や肥料化による再生利用には向いていない形状の食品ロスの処理が課題となっていた。</p>
<p>この課題を解決したのがグループ企業のJバイオフードリサイクル(横浜市)および東北バイオフードリサイクル(仙台市)だ。ここでは、これまで焼却処分されていたプラスチックや割り箸などが混入している食品廃棄物を受け入れ、機械的に有機物のみを分別し、メタン発酵によってバイオガスを生成し、発電する「電力リサイクルループ」を4月から始めている。</p>
<p>JR東日本グループのコーポレート・コミュニケーション部門の担当者によると、1日約20～30トンの食品廃棄物を受け入れ、Jバイオフードリサイクルは年間約1700万キロワット時、東北バイオフードリサイクルは年間約650万キロワット時の発電量を計画している。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/15/zu.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>分別・収集・運搬・バイオガス化・再生可能エネルギーの活用に至る役割をＪＲ東日本グループが連携して担う</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>また、この発電量と排熱の一部をルミネ横浜、JR東日本ホテルメッツ横浜桜木町などJR東日本グループの7つの施設に供給し、施設使用電力量の2～3割を補えると見込む。</p>
<p>「取り組みの構想は数年前からあったが、グループ企業の連携の完成までに時間がかかった」と同社の担当者は話す。しかし「課題解決のためグループ内に既にある廃棄物の収集運搬や商社機能に着目し、食品廃棄物等の収集、運搬や電力供給までグループ関連会社 21 社が連携して役割を担うことにより、実現した」という。その上で、「JR東日本グループが連携することで“四方よし”にも“五方よし”にもなる取り組みが実現し、それがさらにサーキュラーエコノミー推進につながる」と期待する。</p>
<p>日本は現在、電力、飼料、肥料の多くを輸入に頼っているが、そのビジネスモデルは円安や原料のコスト高などにより厳しい状況に追い込まれている。これまでやっかいものとして廃棄されていた生ごみを有効活用する事例は、脱炭素やサーキュラーエコノミーの視点からも課題解決のひとつの解を示している。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

フードロス

バイオマス

食品廃棄物はもう燃やさない――食品ロスを発酵させバイオガスや飼料、肥料に

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/24/kisyo.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph"><sup>世界気象の日のテーマ「気候行動の最前線で」(出典：国際連合広報センタープレスリリース)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>3月23日は「世界気象の日」であった。<br />
国連のグテーレス事務総長は、この日に寄せて強いメッセージを発信した。気候は崩壊しつつあり、世界中で火災、洪水、干ばつが発生し、異常事態がニューノーマルとなっている、との現状認識をまず示した。そして、私たち全員が気候行動の最前線で団結しなければならないと呼びかけたのである。<br />
実際にあらゆるデータと現実は、温暖化の急速な進行を示している。<br />
今回の記事では、いくつかの数字と目の前にある現象を示すとともに、企業や政府の責任を再確認していく。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>WMOのデータなどが示す地球の危機</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>グテーレス事務総長のメッセージでも引用された世界気象機関(WMO)の報告書「地球の気候の現状2023」が発表されたのは、国連によるリリースのわずか4日前であった。<br />
報告書の内容は、まさに衝撃的であった。</p>
<p>・2023年の平均気温が174年の観測史上、過去最高を記録<br />
・平均気温が産業革命前の基準値の＋1.45度<br />
・各種記録を軒並み更新：温室効果ガスの濃度、地表温度、海洋熱、海面上昇、南極の海氷面積の減少、氷河の後退など。特に、海洋の温度上昇、南極の海氷の減少、氷河の後退は懸念すべき</p>
<p>WMOのサウロ事務局長は、数々の負の記録更新を受けて「WMOは世界に向けて、レッドアラート(非常警報)を鳴らす」と最大限の警戒を促した。</p>
<p>国連のグテーレス事務総長は、2年前の2022年の世界気象の日にもメッセージを出していた。そこでは「人為起源の気候崩壊が今、あらゆる地域に被害を及ぼしています」としている。しかし、「地球温暖化が進むたびに、異常気象は頻発化、激甚化します」と未来形で語って早期警報と早期行動を呼びかけており、危機感のレベルがこれまでとはやや違う。実際の温暖化は、このわずか2年で、事務総長の想像さえもはるかに越え、非常警報まで進んだことが分かる。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>海面温度の上昇と私たちに及ぶ大きな影響</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>WMOでも大きな懸念を示したデータの一つが、海の温度の変化である。<br />
下のグラフは、Climate Reanalyzerがまとめる海面温度の世界平均値である。米国の海洋大気庁(NOAA)のデータなどを基に日々更新されている。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/story/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/24/kisyozu.png" alt="" /></div>
<div class="m_paragraph">毎日の世界の海面温度の変化(1981⁻2024)＊黒：2024年、オレンジ：2023年 (出典：Climate Reanalyzer)</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>縦軸は実際の温度、横軸は1月から12月の1年間を表し、1981年後半からの観測値を折れ線グラフで示している。<br />
オレンジ色の折れ線が2023年のもので、昨年3月の後半から一貫して過去の数値を上回っていることが分かる。2023年の世界の海水温は、平均で観測史上最高となった。<br />
ところが、今年(太い黒線)はそれをさらに超えて始まっている。2月末から3月初旬までは初めての21.2度台を記録した。</p>
<p>具体的な温度上昇で取り上げられるのは大西洋の北部が多いが、実は日本近海での上がり方も激しい。特に東北や北海道の太平洋側では、平年を2度から6度高い温度が観測されている。その直接的な影響は、水産業、魚種へのものが最も分かりやすい。<br />
筆者は、岩手や青森などを訪れることが多いが、地元で決まって聞こえて来るのが、魚が取れなくなったという指摘である。特に、イカやサケ、サンマなどの特産の漁獲量が激減している。冷たい水を好む魚が暖かい沿岸付近に近寄らなかったり、北上したりしていて、サケは川を上がってこないという。<br />
青森湾の養殖ホタテは、夏の猛暑で海水温が上がって稚貝が大量死してしまい、来年の養殖のめどが立たない。一時、原発の処理水の放流で中国の輸入が途絶えるとのニュースが駆け巡ったが、それどころか温暖化は養殖継続の根本を揺るがしている。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>危機感を共有する気候行動のメリット</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>災害を引き起こす温暖化はもちろん脅威であるが、生活基盤を襲う影響はじわじわとすべての人を蝕(むしば)んでいくことになる。</p>
<p>振り返って、WMOの今年のテーマは「AT THE FRONT OF CLIMATE ACTION：気候行動の最前線で」であった。国連のグテーレス事務総長はメッセージで「私たち全員が気候行動の最前線で団結し、より良い未来のために闘わなければなりません」と呼びかけている。<br />
特に企業に対しては、再生可能エネルギーへの移行や排出量を1.5度の上限に沿って削減することを求め、一方で、世界中の市民に、政府や企業に対して行動を起こすよう圧力をかける必要があるとまで言い切っている。最後は、「私たちの命をかけた闘いです」と最も強い口調で訴えた。</p>
<p>大前提として、政府や企業は温暖化の進行の実態を認識した上で、国連やWMOと危機感を共有しなければならない。そして、国際的、社会的責任を果たすべく、まさに気候行動(Climate Action)を実行に移さなければならない。</p>
<p>ここにきて、日本企業にも脱炭素や温暖化防止を意識した企業活動が目立ってきている。<br />
二酸化炭素排出削減の目標設定や実施スケジュールの公表、Scope1、2、3のカウントも進む。国境炭素税などを見据えたICP(インターナルカーボンプライシング)の導入も始まっている。これまで料金プランで済ませていたCO2フリー電力の利用から、自家消費やPPAによる追加性のある電力利用も珍しくなくなってきた。</p>
<p>注目すべきなのは、これらの活動は企業価値を向上させる効果も生み始めていることである。ブランド戦略に則った個別製品の脱炭素化はその一例であろう。<br />
一方で、中途半端やいい加減な脱炭素に向けての行動は、市民などからグリーンウォッシュという厳しい非難を浴びることも分かってきている。グテーレス事務総長が世界の市民に呼び掛ける「企業への圧力」は決して大げさではない。</p>
<p>この点では、特に日本政府は心してかからなければならないであろう。例えば、“移行”に名を借りたアンモニア混焼発電への肩入れなどは、すでにG7を含めた国々から化石燃料利用の延命との批判を受けている。アンモニア発電は2050年の段階で水素発電と合わせても全体の1%に届かないという予測が京都大学の研究グループから発表された。これでは“移行”への投資や開発の意味がない。</p>
<p>データが示す温暖化の急速進行と頻発化する災害などに対する説得力を持った気候行動だけが、政府の取るべき道である。</p>
</div>
<p></p>
</div>
<p></p>