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【統合思考経営20】TCFD開示の国際比較から見えてきた日本企業の経営課題と解決方策（前編）～『TCFD開示の業種別・日米欧企業比較分析』より～

【統合思考経営19】2022年は新サステナビリティ情報開示基準元年！？　

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第18回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/06/09/kawamurasantop_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1208799_2675.html">前回(17)</a>では、統合思考経営の背景(前提)として、経営者が必ず把握しておかねばならない「メガトレンドの全体像」をお伝えしました。今回は、メガトレンド6領域の各論として、まず基本となる「人口・人口動態」について述べます。キーワードは、人口規模、人口ピラミッド、都市化の3点です。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><sup>(注)特に断らない場合は、将来人口は国連人口部「The 2019 Revision of World Population Prospects」(国連将来人口推計2019年版)の中位推計に基づく。なお、この国連推計は新型コロナの蔓延前のデータに基づくため、<strong>世界の人口減少は早まる</strong>との見方もある。<br />・<a href="https://population.un.org/wpp/">世界人口推計数表</a><br />・<a href="https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/social_development/population/">国連広報センター</a></sup></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>世界人口の2050年までのメガトレンド</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■世界人口は増加するも少子高齢化、「働き手」が増える国は限定的</strong></p>
<p>世界各国の人口、その総和である世界人口の量と質の変化は、国家には経済・産業や財政・社会保障・年金の面で、企業には人材確保や顧客動向の面で大きな影響を及ぼします。地球環境に対しては、エネルギー・資源消費とともに気候変動や生態系の面で影響します。</p>
<p>これらの影響はいずれも「持続可能な発展」を左右する要因であることから、世界人口の将来動向は最も基礎的なメガトレンドと言えます。決論を先に申し上げると、2050年までの人口推計に基づく、メガトレンドとしてみた「人口・人口動態」の要点は、以下のとおりです。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>〔人口・人口動態のメガトレンド〕</strong><br /><strong>① </strong><strong>世界人口は増加が続くも、人口増加の国は限られ、人口減少に転ずる国は少なくない。</strong><br /><strong>② </strong><strong>出生率の低下と平均寿命の延びにより、世界人口は高齢化する。</strong><br /><strong>③ </strong><strong>生産年齢人口(現役層)の増加する国は、限定的である。</strong><br /><strong>④ </strong><strong>高齢層に対する現役層の割合(扶養指数)は低下する。</strong><br /><strong>⑤ 都市部への人口集積(都市化)は拡大する。</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>このメガトレンドから直接導かれる経済や社会への影響は、次のようなことが考えられます。</p>
<p>・少なくなる「働き手」が、多くの高齢層を支える「人口オーナス」の国が増える。<br />・逆に、「働き手」の増加による「人口ボーナス」で、経済発展が期待される国もある。<br />・都市人口の急増で、持続可能な都市居住の課題が世界中で顕在化する。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人口が増える国、人口が減る国</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■世界人口は今後も増加し、2050年には100億人に</strong></p>
<p>世界人口は、1950年の25億人から急増して2020年に78億人となり、今後は2030年に85億人、さらに2050年には97億人に達すると予測されています。つまり、20世紀半ばから100年で4倍近くに増えることになります(図表1)。図示してはいませんが、増加率は減るものの、2100年の推計人口は109億人です。</p>
<p><sup>(注)この世界人口の急増は、18世紀の産業革命を経て約200年間続く「人口爆発」の流れにあるとのこと。ただし米国ワシントン大学のように、21世紀中葉には人類史上初の「人口減少の時代」を迎えるとの予測もある。</sup></p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：世界の人口推移(1950年～2050年)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/06/09/1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注)「中東」は国連人口推計では「北アフリカおよび西アジア」と区分されるが、本稿では便宜上この表記を使う。<br />(資料)国連「世界将来人口推計2019年版」を基に筆者作成</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■人口増加は9カ国に集中</strong></p>
<p>人口増加が続くのはアフリカが特に多く、次いでインド、そして東南アジア、中東、北米です。国別では人口増加の大半はインドを筆頭に、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、アメリカの9カ国に集中すると予測されています。アメリカの人口は、移民受け入れが続くことを前提にわずかに増加します。</p>
<p>ビジネス面から「最後のフロンティア」とも呼ばれるアフリカについては、人口増加が経済発展につながる期待がある反面、社会インフラ整備や産業育成が進まず失業の拡大も懸念されます。特にサブサハラ(サハラ砂漠以南の地域)では出生率が依然高く、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(特に<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E6%80%A7" title="女性">女性</a>の出産への意思と健康および権利)の問題も指摘されています。</p>
<p><strong>■中国は人口減少に転じ、欧州も人口減少が続く</strong></p>
<p>一方、2020年の国勢調査で14.1億人と公表した中国の人口は、国連推計では2026年に減少に転じると予測されています。その頃にはインドが中国を上回り、最多人口国になるようです。欧州でも人口が減少に転じる国は少なくありません。日本は先進国の中でも少子高齢社会の先頭に位置し、2008年に1.28億人でピークを迎え、現状のままでは人口減少が続きます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「壺型」に向かう人口ピラミッド</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■変容する人口ピラミッド(富士山型⇨⇨釣鐘型⇨⇨壺型)</strong></p>
<p>地域や国の人口の特徴を表すには、人口規模に加え人口ピラミッドが有用です。図表2は、人口ピラミッドの典型的な3パターンを示します。世界全体でみれば、人口ピラミッドは幼年層と若年層の多い「<strong>富士山型</strong>」から、現役層(働き手)が増える「<strong>釣鐘型</strong>」へと変容しており、今後は出生率の低下が続く中で平均寿命が延びる少子高齢の「<strong>壺型</strong>」へと次第に変わります。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：人口ピラミッドの典型的パターン</strong> </p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/06/09/2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注)縦軸は年齢区分を示す。横軸は人口数を示すが、実数とは無関係に外見上は同一に図示する。<br />(資料)国連「世界将来人口推計2019年版」(図版)を基に筆者作成<br /><a href="https://population.un.org/wpp/"><u>https://population.un.org/wpp/</u></a></sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■人口総数にも影響する人口ピラミッド</strong></p>
<p>地域や国ごとに将来の人口ピラミッド予測をみると、大きな違いがあります。そこで、人口ピラミッドのパターンと人口増減を組み合わせて、3つに類型化してみました(図表3)。なお、図中の「<strong>扶養指数</strong>」は、高齢者1人を何人の現役層が支えるかを意味します。</p>
<p>アフリカや中東に代表される「類型1」(富士山型✖人口増加)では、若年層が多く高齢層はあまり増えません。次にインド、東南アジア、アメリカなどの「類型2」(釣鐘型✖人口増加)では、釣鐘型に変容するものの「人口ボーナス」時代が続きます。「類型3」(壺型✖人口減少)では日本や中国が典型的で、欧州も人口が減少するなかで超少子高齢社会を迎えます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表3：人口ピラミッドと人口増減による類型化</strong> </p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/06/09/3.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)国連「世界将来人口推計2019年版」(図版)を基に筆者作成</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「人口サイクル」には逆らえない？</strong></p>
<p>人口ピラミッドの変容と関係する「<strong>多産多死⇨</strong><strong>⇨</strong><strong>多産少死⇨</strong><strong>⇨</strong><strong>少産少死⇨</strong><strong>⇨</strong><strong>少産多死</strong>」という人口サイクル理論があります。出生率と死亡率に着目し、マクロ視点でみれば、どの国もこのサイクルに従うというものです。国の産業や経済、食糧や医療、あるいは女性の社会進出などの水準を反映して、人口サイクルは先進国や高所得国から先に進みます。</p>
<p>日本でいえば、明治期から戦前までは「多産多死」時代、戦後は「多産少死」時代で若年層・現役層の増加、現在は「少産少死」時代で少子高齢社会となっています。今後は「少産多死」時代となり、人口減少が進むことが予想されます。つまり、日本は世界に先駆けて、人口サイクルの先頭を走っていることになります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>都市部に集積する人口(都市化)</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■“豊かさ”を求めて、都市部への人口流入は続く</strong></p>
<p>現在、世界人口の55％(約42億人)が都市部に居住しています(1950年は30％)。「国連都市人口予測(2018年改訂版)」によると、2007年に初めて都市人口が農村人口を上回り、さらに2050年までに68％(約70億人)が都市部に住むようになります。都市部の自然増に加え、“豊かさ”を求めて農村部からの流入が増えることで、<strong>都市部への人口集積(都市化)</strong>が加速します。都市人口の増加の大半は、アフリカや中東、アジアが占めると予測されています(図表4)。</p>
<p>このような都市化を裏付けるように、国別の「<strong>一人当たりGDPと都市人口比率</strong>」には正の相関関係がみられます(図表5)。国が“豊か”になるにつれて、人口増加は鈍化するものの、人々の所得や生活の水準が上がり、その結果、エネルギーや資源の消費水準も高まります。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><div><strong>図表4：大都市における都市人口の増加率(2018年⇨⇨2030年)</strong></div>
</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/06/09/4.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)国連人口部「世界都市人口予測(2018年改訂版)」に筆者加筆</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><div><strong>図表5：都市人口比率と一人当たりGDPの相関関係</strong></div>
</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/06/09/5.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)Our World in Data「国連都市人口予測2018とマジソンプロジェクト・データベース2020準拠資料」に筆者加筆  <a href="https://ourworldindata.org"><u>https://ourworldindata.org</u></a>　(Demographic Change, Urbanization)</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■新たなメガシティが複数出現</strong></p>
<p>世界的な都市化により、<strong>人口1000万人を超すメガシティが新たに10都市出現する</strong>ようです。「国連都市人口予測(2018年改訂版)」によれば、現在は33のメガシティに世界の都市人口の半数以上が居住しますが、2030年には43都市に増えると見込まれます(図表6)。ただ、新たなメガシティのほとんどが新興国や途上国にあるため、都市居住のサステナビリティの観点からは、様々な課題が指摘されています。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表6：世界の都市人口比率とメガシティ(2030年)</strong> </p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/06/09/6.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)国連人口部「世界都市人口予測(2018年改訂版)」に筆者加筆</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■持続可能な都市化が要</strong></p>
<p>今後ますます大規模で人口密度の高い都市居住となり、先進国では革新的技術の普及を背景に、生活、仕事、遊び、あるいはコミュニケーションの方法が変わることが想定されます。エネルギー・資源や食料の消費パターンも変わることでしょう。さらに生産年齢人口(働き手)が次第に減る中で、AI/IoTやロボットが社会インフラ化して、新たな労働・雇用問題が出現する可能性もあります。</p>
<p>他方、世界の都市人口の2割以上がスラムに住んでいます(途上国に限りません)。「国連人間居住計画」の予測によれば、21世紀初頭の10億人から、2030年には倍増して20億人になるそうです。それゆえ世界の「持続可能な発展」は、一つには、急激な都市化が予想される低中所得国がいかに適切に対応できるかにかかっています。</p>
<p>このような都市の変貌により、業種によって様々ではありますが、企業の事業戦略やビジネスモデルも影響を受けることは間違いありません。都市部のみならず農村部も含めた生活改善(ウェルビーイング)に向けた、バランスの取れた国家政策が必要です。これは<strong>SDGs</strong><strong>の考え方そのもの</strong>であり、企業の取り組みも大いに期待されます。</p>
<p>次回は、メガトレンド各論の2回目として、「エネルギー・資源」について論じます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく) </p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>ESRS公開草案の主要論点</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■サステナビリティ情報報告の標準化・義務化</strong></p>
<p>EUにおける非財務情報の報告は、これまで2014年制定の「<strong>NFRD(非財務情報報告指令)</strong>」によって規制されてきました。2021年4月公表の「<strong>CSRD(企業サステナビリティ情報報告指令)案</strong>」は、NFRDをもう一段高めて、非財務情報(今後の呼称は、サステナビリティ情報)に関する報告の有用性、比較可能性、信頼性の向上をめざしています。</p>
<p><sup>(</sup><sup>注)NFRD：Non-Financial Reporting Directive、CSRD：Corporate Sustainability Reporting Directive</sup></p>
<p>そもそもCSRD案の大きな狙いは、<strong>財務情報とサステナビリティ情報を同等に扱うこと</strong>にあり、<strong>ダブル・マテリアリティ</strong>の浸透をめざしていることが分かります。CSDR案によるサステナビリティ情報報告の強化点は次の5点です(特に、<strong>無形資本</strong>と<strong>EUタクソノミー</strong>の明示に注目)。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営18】メガトレンドをどう捉えるか(その2：人口・人口動態) ――人口は増えるのか、減るのか

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第17回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/05/19/kawamurasantop_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1206503_2675.html">前回(第16回)</a>では、「統合思考経営」を報告する統合報告書のあり方を考察しました。少し時間が経ってしまいましたが、今回から、統合思考経営の背景(前提)として必ず把握しておかねばならない「メガトレンド」について考えます。まずは、メガトレンドとは何かを確認したうえで、その全体像をどのように捉えるかを述べます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>メガトレンドとは「外部環境の構造的変化」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>VRF/IIRC<strong><sup>(</sup></strong><strong><sup>※1)</sup></strong>の国際統合報告フレームワークでは、企業経営の事業環境である「外部環境」の重要性を強調しています。統合報告書が長期の戦略的視点に基づく「価値創造報告書」であることを考えると、「外部環境」は単に当面の事業環境ではなく、長期にわたる企業経営の外部環境の構造的変化を意味します。</p>
<p>筆者は、この「外部環境の構造的変化」を「メガトレンド」と定義します。大きな時代の変化をどう認識するかが、将来に向けた企業経営の大前提となるからです。VUCA(視界不良)の時代と言われますが、<strong>不透明さの中に隠れたメガトレンドをどう認識するか</strong>、これが企業経営者に問われています。</p>
<p>なお、予めお断りしておきますが、メガトレンドの把握は価値創造プロセスにおける必要条件であり、決して十分条件ではありません。つまり、より大事なことは、メガトレンドの認識に基づき経営者がどのように判断し対応するかです。VRF/IIRCは、これを「<strong>価値創造能力</strong>」と表現しています。</p>
<p><sup>(※1)IIRC(国際統合報告評議会)はSASB(サステナビリティ会計基準審議会)と合併し、Value Reporting Foundation(VRF)となり、2021年1月に「国際統合報告フレームワーク2021」(改訂版)を公表した。また、2022年6月にはIFRS財団が新設したISSB(国際サステナビリティ基準審議会)と合流する予定である。</sup></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業はどのような「外部環境」で事業を営むのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■見過ごされやすい「オクトパスモデル」の「外部環境」</strong></p>
<p>VRF/IIRCの国際統合報告フレームワーク(2021年改訂版)の「価値の創造・保全・変容プロセス」(いわゆるオクトパスモデル)でも、「外部環境」(EXTERNAL ENVIRONMENT)は目立ちません(図表1)。</p>
<p>そのせいか、多くの日本企業は今でもあまり注目していないように感じます。</p>
<p>しかし、注意して見ると、2013年初版では最下部にあった「外部環境」が、改訂版では図の中央最上部に記載されています。これは、外部環境が統合思考や統合報告の基盤となることを伝えようとする、VRF/IIRCからのメッセージだと言えます(<a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1206503_2675.html">本コラムシリーズ第16回</a>を参照されたい)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：「価値の創造・保全・変容プロセス」(改訂オクトパスモデル)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/05/19/kawamurasan1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)VRF/IIRC「国際統合報告フレームワーク2021」に筆者加筆(本コラムシリーズ第16回の図表4再掲)<br /><a href="https://www.integratedreporting.org/wp-content/uploads/2021/01/InternationalIntegratedReportingFramework.pdf"><u>https://www.integratedreporting.org/wp-content/uploads/2021/01/InternationalIntegratedReportingFramework.pdf</u></a>(英語)<br /><a href="https://www.integratedreporting.org/wp-content/uploads/2021/09/IR-Framework-2021_Japanese-translation.pdf"><u>https://www.integratedreporting.org/wp-content/uploads/2021/09/IR-Framework-2021_Japanese-translation.pdf</u></a>(日本語)</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■価値創造プロセスにおける「外部環境」の重要性</strong></p>
<p>国際統合報告フレームワークの「4章.内容要素」では、報告すべき8つの内容要素を明示しています。その筆頭にあるのが「4A.企業概観と外部環境」であり、その中で4.4項の「外部環境」に関する問いかけは、以下のとおり単純明快です。言ってみれば、「そもそも論」ですね。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>4A.</strong><strong>組織概観と外部環境</strong><br /><strong>4.4 </strong><strong>統合報告書では、次の問に答えるべきである。</strong><br /><strong>企業はどのような事業を行うのか、<u>その外部環境はどのようなものか？</u></strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>続く4.5項では、統合報告書はパーパス、ミッション、ビジョンを明確にしたうえで、価値創造の文脈を提供するために、3つの事項を特定すべきとしています。その1つが「外部環境」です。正確には「<strong>外部環境、および、それに対する企業の対応力に影響を与える重大な要因</strong>」と説明しています。4.6項はもう少し詳しく、<strong>「外部環境」は、企業の短・中・長期の価値創造能力に直接・間接に影響を与える法的、商業的、社会的、環境的、政治的な背景</strong>としています。</p>
<p>そのうえで4.7項では、外部環境による影響は、業種や操業地域など企業固有の事業特性に規定されるものの、視野を広げると<strong>社会的・地球的レベルの文脈</strong>において生じると指摘しています。そして具体的な外部環境として、以下のような事象を例示しています。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>　・</strong>ステークホルダーの動向：主要な利害関係者の正当なニーズと関心や行動<br /><strong>　・</strong>経済状況：マクロとミクロの経済的安定性、グローバル化、業界動向など<br />　<strong>・</strong>市場動向：自社のポジション、競合他社の強み・弱みや顧客ニーズなど<br /><strong>　・</strong>技術動向：先端技術の登場と技術変化のスピードや影響など<br /><strong>　・</strong>社会課題：人口と人口動態、人権、健康、貧困、共有された価値、教育など<br /><strong>　・</strong>環境課題：気候変動、生態系の劣化、地球資源の制約に伴う資源不足など<br /><strong>　・</strong>規制強化：企業が事業を営む地域における法規制の変更や強化<br /><strong>　・</strong>政治状況：企業の戦略実行に影響を与える、操業する国や地域の政治状況や変化</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>メガトレンドの全体像をどう捉えるか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■メガトレンドの6領域</strong></p>
<p>上記のVRF/IIRCのフレームワークによる外部環境の例示をヒントに、もう少し“時間軸上の変化”を意識して、時代状況の大きな構造的変化を考えてみました。その結果、6領域に整理することができました。これが、筆者の考えるメガトレンドの全体像です(図表2)。</p>
<p>メガトレンドの6領域は次に示す通りです。最初の3つは社会・環境の状態、残り3つは人為的な仕組みとなっていますが、特に順番がある訳ではありません。敢えて言えば、先に挙げた方がより確実性が高いと感じています。このメガトレンドは地球社会・環境の全体を対象とし、2020年代を想定していますので、「2030年の世界観」にもつながると思います。なお、その後の2030年代を視野に入れた考察についても後日行います。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/05/19/kawamurasan.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：統合思考経営の背景となるメガトレンドの6領域</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/05/19/kawamurasan2_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)筆者作成</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■相互に影響し重層化するメガトレンド</strong></p>
<p>実は、上記の図表2を描いた後、少し違和感を感じました。平面的・静的で現実のダイナミックな感覚を表現できていないからです。短期的な外部環境ならば、このまま並列の理解で問題ないでしょう。しかし10年の時間軸で考えると、メガトレンドの各領域が相互に影響しあって重層化してくると考えられます。</p>
<p>つまり、メガトレンドのある事象を見る時は、その前後左右上下の事象との影響・因果関係まで視野に入れる必要があるということです(このことが視界不良の一因かも知れません)。森羅万象を1枚の図で伝えることはできませんが、ダイナミックで重層化するメガトレンドのイメージを、統合思考経営の「外部環境の構造的変化」として表現したのが図表3です。いかがでしょうか？</p>
<p>それから、詳しくは触れませんが、メガトレンド事象間のつながりが新しいメガトレンドを生む状況も散見されます。例えば、次のようなことです。</p>
<p><strong>　・</strong>気候変動 ✖ 規制・技術⇨⇨⇨革新的な低・脱炭素技術、モビリティ技術、TCFD<br /><strong>　・</strong>資源不足 ✖ 規制・市場⇨⇨⇨サーキュラー・エコノミー、環境配慮型PaaS<br /><strong>　・</strong>生物多様性 ✖ 規制・市場⇨⇨⇨次の情報開示TNFD、ネイチャー・ポジティブ・ビジネス<br /><strong>　・</strong>労働・人権 ✖ 価値観・技術⇨⇨⇨ブロックチェーンによるサプライチェーンの人権監視</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表3：重層化しダイナミックに変容するメガトレンドと「統合思考経営」</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/05/19/kawamurasan3_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注)このメガトレンドは、現在見えている事象を基にして、2020年代をマクロ的に想定したものである。なお、その影響度は、企業の業種・事業特性によって異なる。<br />(資料)筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>なぜ「メガトレンド」が必要なのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ここで、なぜ統合思考経営ではメガトレンドを考える必要があるのか、改めて確認しておきます。時代が大きく変わる時、将来に向けた価値創造には従来型の「外部環境」の認識は通用しないからです。この問いは、財務と非財務の要素を結合する統合思考における、企業の自らへの根本的な問かけであり、同時に投資家をはじめとするステークホルダーからの問いかけでもあります。</p>
<p>この問いかけは、TCFD提言やISSB基準案の4本の柱(ガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標)と通底するものであり、実際的な表現をすると以下のようになります。</p>
<p><strong>　・</strong>長期にわたる価値創造において、メガトレンドは戦略にどのように影響するのか？<br /><strong>　・</strong>その影響(リスク・機会)をどのように判断し、どのように対応するのか？<br /><strong>　・</strong>投入する6つの「資本」に構造的な変化はないのか？　現状の認識で良いのか？<br /><strong>　・</strong>現在のビジネスモデルや事業ポートフォリオは、将来もなお有効なのか？</p>
<p>「ウクライナ戦争」で世界の勢力地図が変わるかも知れませんが、メガトレンドの全体像(業種横断のマクロ編)の感覚は、伝わりましたでしょうか？　次回から、メガトレンドの6領域について、それぞれの要点を述べます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営17】メガトレンドをどう捉えるか(その1：全体像) ――メガトレンド対応力が問われる統合思考経営

【統合思考経営16】再考：統合報告書で何を報告するのか？ーー先進企業の統合報告書から「統合思考」を検証・採点する

【統合思考経営15】改めて問う。マテリアリティとは何か？(その2)

【統合思考経営14】改めて問う。マテリアリティとは何か？(その1)

【統合思考経営13】その後の「タクソノミー3兄弟」(その3)

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第12回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking<br />サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/top_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1202350_2675.html">前回(11)</a>はタクソノミー3兄弟の全体像と長兄たるタクソノミー規則(TR)の最新状況、そして運用機関と大企業への影響を解説しました。今回は3兄弟の一つ、<strong>「資産運用事業者等のサステナビリティ情報開示に関する規則」(SFDR)</strong>による新しい開示規制とその影響を解説します。</p>
<p>特にグローバル展開する日本の運用機関にとって、<strong>SFDRへの対応にはかなり負担感がある</strong>との声があります。なぜならば、これまで投融資判断においてあまり考慮・開示してこなかった<strong>サステナビリティ・リスク</strong>が根幹にあるからです。それは自ずと日本企業にも跳ね返ってきます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>SFDR(サステナビリティ情報開示規則)は、誰に何を求めているのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>SFDRは、<strong>運用機関</strong>に対して<strong>サステナブル投資(ESG投資)に関する情報開示</strong>を求めています。</p>
<p>・投資判断における<strong>サステナビリティ・リスクの統合方針</strong><br />・投資判断と投資商品における<strong>サステナビリティ(環境と社会)への悪影響の考慮</strong><br />・サステナビリティ・リスクと<strong>事業報酬</strong>の連動<br />・投資商品の<strong>目論見書と定期報告</strong>で環境性・社会性の開示</p>
<p>⇒SFDRのキモは、運用機関による<strong>投資商品のサステナビリティ・リスクの情報開示</strong>を通じて、<strong>投資先企業の気候・環境・社会課題に対する考慮</strong>を徹底することです。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■SFDRの狙いと全体像</strong></p>
<p><strong>●SFDRの目的と要点</strong></p>
<p>SFDRは、運用機関のサステナブル投資(ESG投資)の方針と、取り扱う投資商品・サービスのサステナビリティの情報開示に関する規則です。SFDRはTRの「グリーン・タクソノミー概念」に基づくもので、その目的はサステナブル投資の透明性向上にあります。具体的には二つです。</p>
<p><strong>①最終投資家が判断しやすい環境を整備すること、②投資商品のグリーンウォッシュを防止すること</strong></p>
<p>そのためにSFDRは運用機関に対して、以下の二点を新たな開示内容として求めています。</p>
<p>・投資の意思決定において、<strong>サステナビリティ要素(環境と社会)をリスク・マネジメントに組み込む</strong>方針と方法、および結果の開示<br />・運用機関自身と投資商品・サービスにおける、<strong>サステナビリティへの主な悪影響</strong><sup>※1</sup>の考慮</p>
<p><sub>(※1) Principal Adverse Impacts on sustainability factors(略称PAI)：投資の意思決定に伴う、気候・環境・社会要素への重要なネガティブ効果(範囲、深刻さ、発生の可能性と規模)。あるいは、投資商品のポートフォリオの構成銘柄(投資先企業群)がサステナビリティ要素にもたらす主な悪影響。詳細は後述。</sub></p>
<p><strong>●SFDRの適用対象者</strong></p>
<p>SFDRの適用対象者は運用機関全般ではなく、正確には<strong>資産運用事業者</strong>と<strong>投資助言事業者</strong>です。</p>
<p><strong>・資産運用事業者(financial market participants)<br />機関投資家などに資産運用商品・サービスを提供する運用機関。</strong>投資商品を扱う銀行・証券・保険会社、投資運用会社(ポートフォリオ・マネジメント)、企業年金基金、年金商品提供者、オルタナティブ投資運用会社、個人年金商品提供者などを含む。</p>
<p><strong>・投資助言事業者(financial advisers)</strong><br /><strong>機関投資家などに投資助言を行う運用機関。</strong>投資商品を扱う保険会社・保険仲介業者を含む。●SFDRの開示項目と開示媒体</p>
<p><strong>●SFDRの開示項目と開示媒体</strong></p>
<p>SFDRの開示項目は、<strong>事業者レベルと商品レベル</strong>に大別されます(図表29、30)。いずれのレベルでも、投資の意思決定における「<strong>サステナビリティ・リスク統合の方針</strong>」(第3条、第6条)と「<strong>サステナビリティへの主な悪影響</strong>」(第4条、第7条)の開示が求められます。</p>
<p>さらに事業体レベルでは「<strong>サステナビリティ・リスクと事業報酬の整合性</strong>」(第5条)。商品レベルではグリーンウォッシュを防止すべく「<strong>契約前開示(目論見書の交付)</strong>」(第6条～第9条)や10年分のデータ比較を含む「<strong>定期報告(年次報告)</strong>」(第11条)が求められます。開示媒体については、事業者レベルではウェブサイト、商品レベルでは開示項目に応じて異なります。</p>
<p><strong>商品はサステナビリティ考慮の程度で3分類</strong>され、「環境性・社会性を促進する投資商品(8条ファンド)」と「サステナブル投資が目的の投資商品(9条ファンド)」だけでなく、ESGを反映しない伝統的な投資商品(6条ファンド)も開示の対象となっています(稿末の【補足1】参照)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表29：「資産運用事業者等のサステナビリティ情報開示規則(SFDR)」の全体構成</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/29_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(注)SFDRの正式名称：Regulation(EU)2019/2088 on Sustainability-related Disclosures in the Financial services sector<br />(資料)EU官報「SFDR」を基に筆者作成<br /><a href="https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32019R2088&amp;from=EN">https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32019R2088&amp;from=EN</a><br />※リンク先は、外部サイトとなります</sub></p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表30：SFDRによる事業体・商品レベルの開示内容</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/30_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(資料)EU官報「SFDR」を基に筆者作成</sub></p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■SFDRによるサステナブル投資(ESG投資)の定義</strong></p>
<p>くどいようですが、大事なのでここでサステナビリティに関するSFDRの定義を確認しておきます。要は、<strong>環境と社会の考慮</strong>ですが、SFDRの狙いは投資商品のグリーンウォッシュを排除することにありますので、かなり厳密に定義されています(稿末の【補足2】参照)。</p>
<p><strong>●「サステナブル投資」の定義(第2条(17))</strong></p>
<p><strong>・環境課題の解決に貢献する経済活動への投資：</strong><br />エネルギー、再生可能エネルギー、原材料、水と土地の使用、また生産時の廃棄物発生や温室効果ガス排出などに好影響を及ぼす資源効率指標で計測できる経済活動に対する投資、あるいは生物多様性やサーキュラー・エコノミーに好影響を及ぼす経済活動に対する投資。</p>
<p><strong>・社会課題の解決に貢献する経済活動への投資：</strong><br />格差の解消に寄与し、社会的結束と労働関係を促進する投資、あるいは人的資本や経済的・社会的に恵まれない地域社会を改善する投資。ただし、①他の社会目的に大きな損害を与えないこと(DNSH基準)、②投資先企業が、健全な経営構造、従業員関係、従業員報酬、納税に関して優れたガバナンス慣行を実践していること。</p>
<p>⇒TRのミニマム・セーフガード</p>
<p><strong>●「サステナビリィ・リスク」の定義(第2条(22))</strong></p>
<p>それが顕在化した場合に、<strong>投資価値に対して実際のまたは潜在的な重大なマイナスの影響</strong>を引き起こす可能性がある、<strong>環境・社会・ガバナンスの事象または状況</strong></p>
<p>⇒投資のESGリスク</p>
<p><strong>●「サステナビリィ要素」の定義(第2条(24))</strong></p>
<p>気候・環境、社会、および従業員、また人権尊重、腐敗・贈収賄防止にかかわる事象</p>
<p>⇒環境と社会のサステナビリティ</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>SFDRで開示すべきサステナビリティ情報はどのようなものか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■SFDRの細則(RTS)による開示すべきサステナビリティ情報</strong></p>
<p>SFDRに基づき、2020年4月に<strong>ESAs(銀行、証券、保険・年金の金融監督当局)</strong>※2の合同委員会が、サステナビリティ情報開示の内容、方法論、表示に関する細則である「<strong>技術規制標準(Regulatory Technical Standards：RTS)</strong>」のハブコメ用法案※3を公表しました。その後、RTS最終案を2020年12月に公表予定でしたが、実際には2021年2月となり、この5月には欧州委員会による採択の予定です(本稿執筆時点では確認されず)。RTSの適用開始は2022年1月と見込まれます(<strong>事業体レベルの最初のウェブ開示※4は2023年6月</strong>)。</p>
<p><sub>(※2)ESAs：the European Supervisory Authorities(欧州金融監督当局)＝銀行局、証券局、保険・年金局<br />(※3)ESAs「Joint Consultation Paper：ESG disclosures～Regulatory technical standards」2020年4月<br />(※4)欧州に拠点のある日本の運用機関にとっては、「SFDR対応の負担が大きい」との声もある。</sub></p>
<p>図表31は、RTS最終案による<strong>資産運用事業者が開示すべき「サステナビリティへの悪影響」</strong>の全体像です。例えば、サステナビリティ・リスクに関するデューデリジェンス方針などの「声明」のウェブ公開(第4条)、投資先企業を検討する際の気候・環境・社会の具体的な指標(第6条)やエンゲージメント(第8条)が明記されています。なお、タクソノミー関連では珍しく、<strong>詳細なフォーマットが用意</strong>されています。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表31：資産運用事業者が開示すべき「サステナビリティへの悪影響」の全体像</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/31_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(注)具体的な開示指標のテンプレートである【表1】【表2】【表3】の詳細は図表32参照<br />(資料)欧州委員会、ESAs合同委員会「RTS最終報告案」(2021年2月)を基に筆者作成<br /><a href="https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/jc_2021_03_joint_esas_final_report_on_rts_under_sfdr.pdf">jc_2021_03_joint_esas_final_report_on_rts_under_sfdr.pdf (europa.eu)</a><br />※リンク先は、外部サイトとなります</sub></p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表32に示す【表1】の基礎指標(義務)と【表2】【表3】の追加指標(任意)を見ると、これまで<strong>日本の運用機関がほとんど開示していないネガティブ情報が多い</strong>ことがわかります。例えば、気候・環境面では「化石燃料関連企業」や「パリ協定の目標と整合的でない企業」への投資比率、社会面では「UNGC原則やOECD行動規範の違反企業」への投資比率、「人権デューデリジェンス方針の欠如」です。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表32：資産運用事業者が「サステナビリティに対する悪影響」として考慮すべき指標</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/32_1_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/05/26/32_2_600.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(注1)表中の朱書は、<strong>ネガティブ情報として日本の運用機関には馴染みのない開示項目</strong>である。<br />(注2)国債と不動産の開示指標は割愛した。<br />(資料)欧州委員会、ESAs合同委員会「RTS最終報告案」(2021年2月)ANNEXⅠを基に筆者作成</sub></p>
</div>
<p><a name="【補足1】" id="【補足1】"></a></p>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>【補足1】商品化を急ぐ欧州の運用機関(SFDRファンド3分類)</strong></p>
<p>ESG投資の老舗として知られるオランダの資産運用会社ロベコ(日本のオリックス傘下)は、SFDRに対応するべく全社横断的な専任チームを結成して、1年以上前から準備してきたとのことです。既にウェブサイトで情報開示を始めており、SFDRの開示要件に従って、投資ファンドを3分類しています。大半が8条ファンドで、インパクト投資やグリーン・気候ボンドなどの9条ファンドと合わせて95％を占めます。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・6条ファンド：<br />   サステナビリティ・リスクを投資の意思決定に統合せず、かつサステナビリティを促進しない伝統的な主流ファンド(ブラウン？)</p>
<p>・8条ファンド：<br />   他の特性に加え、環境特性や社会特性を促進し、かつ投資先企業が適切なガバナンス慣行に従っている投資商品(ライト・グリーン)</p>
<p>・9条ファンド：<br />   サステナブル投資を目的とする投資商品で、ベンチマークとしてインデックスが指定されたもの(ダーク・グリーン)</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sub>(資料)ロベコのホームページを基に筆者作成<br /><a href="https://www.robeco.com/jp/sustainability/sustainable-finance-action-plan/">Sustainable Finance Action Plan (robeco.com)</a><br /><a href="https://www.robeco.com/jp/key-strengths/sustainable-investing/glossary/article-6-8-and-9-funds.html">Article 6, 8 and 9 funds &#8211; Sustainable investing (robeco.com)</a><br />※リンク先は、外部サイトとなります</sub></p>
</div>
<p><a name="【補足2】" id="【補足2】"></a></p>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>【補足2】「ベスト・イン・クラス」はグリーンウォッシュか？</strong></p>
<p>実は、RTSのハブコメ草案ではかなりの紙面を割いて投資商品のグリーンウォッシュに対する問題意識が述べられていたのですが、最終案ではすべて削除されました。意図的なアドバルーンだったのかも知れません。ここでは、かつて日本のSRI(社会的責任投資)ファンドで多用された、ポジティブ・スクリーニング型の銘柄選択手法である「ベスト・イン・クラス」に対するESAsの見解を紹介します。要約すると、以下の通りです。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ベスト・イン・クラス(ESG取組で同業他社の中では優れている業界内上位の投資銘柄選択)は、業種自体が持続不可能を意味する「ブラウン・タクソノミー」と最終投資家から理解される可能性もあることから、SFDRに基づく開示では、その方法論と根拠データを開示する必要がある。</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><div><sub>（資料）ESAs「RTSパブコメ草案」（RTS草案の10-11頁）を基に筆者作成</sub></div>
</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次回(13回)は、「タクソノミー3兄弟」の最後のLCBR(ベンチマーク規則)、そしてEUタクソノミーの日本企業への影響について解説します。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営12】その後の「タクソノミー3兄弟」(その2)

【統合思考経営11】その後の「タクソノミー3兄弟」(その1)

川村 雅彦

川村雅彦