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武蔵野大学ウェルビーイングコラム

IHRP

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<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第30回</strong></p>
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<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>株式会社Sinc 統合思考研究所 所長・首席研究員　</strong><strong>川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1225855_2675.html">前回(第29回)</a>は、日本企業が昭和的な雇用・人事慣行に基づく同質性集団から脱して、いかに多様性集団に転換するか、という問題意識の下、「人材ポートフォリオ」を考える雇用慣行3軸の1つである<strong>「人材属性(採用慣行)」</strong>を取り上げました。<br />今回は、2つ目の軸<strong>「キァリア形成(人事制度)」</strong>において、最近話題の「メンバーシップ型」と「ジョブ型」に着目し、日本企業の<strong>「ジョブ型人事」</strong>への転換の現状と課題を踏まえ、その方向性を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>大きく変容する日本企業の人事制度</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>日本企業の人事制度が大きく変わろうとしています。</strong>背景には人口減少に伴う質量両面の「人手不足」の深刻化があります。しかし、本当に同質性の強い組織集団に風穴を開け、日本企業の競争力強化と復権につながるのでしょうか。本当に社員のキャリア形成に実効性のある人事制度は実現するのでしょうか。<br />本稿では、<strong>「時代に合わなくなった日本企業の人事制度をどうするか」</strong>の問題意識のもと、メンバーシップ型とジョブ型に着目し(図表1)、それぞれの特徴を確認したうえで、<strong>「ジョブ型人事」</strong>の先進事例から現状と方向性を考えます。なお、キャリア形成のための社内転職、副業、リスキリングなどは、次回論じます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：「人材ポートフォリオ」を考える雇用慣行3軸</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/g1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>資料：筆者作成(本図は、本コラムシリーズ第28回の図表2に加筆のうえ再掲)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「入社年次」や「同期」は死語に？</strong><br />いま、日本企業がいかに日本的人事制度を壊すかに腐心しています。これまでの人事制度が日本企業の再浮上の足かせになっている、と気付いたからです。最近の動きをみると、<strong>新卒一括採用・終身雇用・年功序列の象徴であった、「入社年次」や「同期」という言葉が死語</strong>になりつつあるのです。</p>
<p><strong>■もはや、メガバンクでも新卒一括採用・年功序列は限界！</strong><br />2024年度のメガバンク3行の採用計画では、キャリア採用が5割に迫り、地銀でも2020年度の1割から3割に増えています。つまり、新卒一括採用でさまざまな部署を経験させて人材を育成してきた、<strong>OJT手法が転機</strong>を迎えているのです。三井住友銀行は、<strong>入行年次を給与に反映する「階層」を廃止</strong>しました。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換が始まった !？</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「ジョブ型の導入」は「メンバーシップ型の廃止」と認識しているか？</strong><br />2021年のパーソル総合研究所の調査によれば、ジョブ型人事制度について、既に2割以上の企業が導入し、約4割が導入予定であり、今後も大企業を中心に増加すると予想されています。しかし、<u>本当に欧米流ジョブ型人事への転換が進んだ場合、日本流メンバーシップ型人事はなくなることをほとんど認識されていません。</u></p>
<p><strong>メンバーシップ型人事</strong>は、多くの日本企業に浸透している<strong>「人材起点」による、「就社型」の人事制度</strong>です(解雇は困難)。これに対し<strong>ジョブ型人事</strong>は、欧米企業を中心に海外で広く普及しており、特定職務(ジョブ)をあらかじめ明示して社員を募集する<strong>「職務起点」による、「就職型」の人事制度</strong>です(解雇は容易)。</p>
<p><strong>■何のために、ジョブ型人事を導入するのか？</strong><br />ジョブ型の先進事例と言われる企業の共通点は、海外拠点が多いこと、中途採用者が多い、そして<strong>ジョブ・ディスクリプションに基づく世界共通の「ジョブ型人事制度」の制定と運用</strong>です。これらの企業は、何のためにジョブ型人事を導入したのでしょうか。ジョブ型人事への転換で、何を変えようとしているのでしょうか。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>日立とNTTは「ジョブ型人事」で何をめざすのか？</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■日立の大改造と連動する「ジョブ型人財マネジメント」</strong><br />日立製作所は10年以上にわたり、<strong>「ジョブ型人財マネジメント」</strong>の基盤造りを段階的に進めてきました。これは、歴代社長が進めてきた日立の大改造と期を一にするものです。その要点は、デジタル人財とキャリア人材の採用強化、新卒者とキャリア人材の同時採用、通年入社・通年採用、職種別採用の拡大です。根底にある人材戦略の基本は、<strong>「適所適財」</strong>と<strong>「組織目標と個人目標の同期化」</strong>です。</p>
<p><strong>■日立におけるジョブ型人事への転換の必然性</strong><br />日立製作所(売上高9兆円、社員27万人)のジョブ型人事制度への転換は、全体の制度設計が終わり、社内実装が始まった段階と言えますが、その背景は4点に整理できます。実はここに、<strong>日立のメンバーシップ型からジョブ型への転換の必然性(Why)がある</strong>と考えられます。</p>
<p>(1)<strong>売上高と社員数の国内・海外比率</strong>は逆転し、現在はいずれも海外が6割を占め、今後も増える。<br />(2)<strong>事業環境</strong>が、製品中心・国内中心からサービス中心・グローバル市場に変化した。<br />(3)<strong>顧客と社員</strong>も、日本人・男性中心から外国人・多様な人々へと広がり、価値観も多様化した。<br />(4)従来は、製品を同質性集団で開発・提供し、売上高(利益)は労働時間や生産量に比例していたため、<strong>時間管理</strong>が必要だった。しかし、今後は、多様で斬新な発想で事業モデルを拡張・転換し、売上高(利益)は労働時間とは直接比例しないため、<strong>職務の明確化と成果管理</strong>が求められる。</p>
<p><strong>■社長が主導するNTTのジョブ型人事(年次主義の廃止、管理職の格付)</strong><br />NTTグループでジョブ型人事を主導する社長の信念は、<strong>「年功序列のままでは、世界で戦えない」</strong>と<strong>「社員のキャリア自律を促す」</strong>です。同社は、民営化後にグローバル展開を積極的に行い、グループ全体で売上高13兆円(海外比率6割)・社員数34万人となり、<strong>事業ポートフォリオも大きく変わり</strong>ました。</p>
<p>ジョブ型人事で強調されるのが、<strong>世界で通用する人材戦略への変革</strong>です。外部からキャリア人材の採用拡大だけでなく、社内での若返り・抜てき人事<strong>(年次主義の廃止、管理職の格付)</strong>にも注力しています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>メンバーシップ型を残したままで、「ジョブ型」と言えるのか？</h2>
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<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■日本企業が導入した多くの「ジョブ型人事」への疑問</strong><br />・そもそも、<strong>ジョブ・ディスクリプションさえ作れば、</strong>「ジョブ型」と言えるのか？<br /><strong>・専門職を獲得したいだけ</strong>なら、メンバーシップ型でも可能ではないか？<br /><strong>・新しい賃金体系を導入したいだけ</strong>なら、メンバーシップ型でも可能ではないか？<br />・「ジョブ型」と言うが、<strong>メンバーシップ型を残したままなら、「名ばかりジョブ型」</strong>ではないか？<br />・無期労働契約では解雇が難しいので、<strong>終身雇用をすぐに廃止することは無理</strong>ではないか？<br />・職務限定の雇用契約なら、<strong>会社都合の配置転換はできない</strong>のではないか？</p>
<p>「ジョブ型」という言葉が安易に使われているように感じます。<u>メンバーシップ型雇用は日本の社会通念となっており、真逆の欧米流ジョブ型に一気に転換することはできない、と考えられます</u>。そこで、いくつかの論点です。</p>
<p><strong>■「就社型」とは、まず会社のメンバー(社員)になること</strong><br />メンバーシップ型は「就社型」という日本特有の雇用慣行で、<strong>「会社のメンバー(社員)になること」を優先する考え方で、職務は後付け</strong>です。戦後の高度成長期に、新卒一括採用・終身雇用・定年退職という<strong>“三位一体構造”</strong>が形成され、その運用の仕組みが年功序列・定期異動・内部昇進です。</p>
<p>これを<strong>「雇用の入口-出口の収支バランス」</strong>として表現したのが図表2です。この三位一体構造が、バブル崩壊後も維持され、現在に至っています。今になってさまざまな問題(ミスマッチ)が顕在化してきたのです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：メンバーシップ型雇用の“三位一体構造”</strong></p>
</div>
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<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
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<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/g2.png"/></div>
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</td>
</tr>
</tbody>
</table>
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<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■実態は、「ジョブ型導入」と称して、メンバーシップ型の部分修正</strong><br />このような雇用・人事問題を解決すべく、救世主(？)のように「ジョブ型人事」が導入されたのです。しかし、多くは「名ばかりジョブ型」で、<strong>メンバーシップ型の“三位一体構造”は保持したままで、各段階でジョブ型風の部分修正を行っているにすぎない</strong>のです。</p>
<p>もはやメンバーシップ型(就社型)は時代に合わず、あちこちで致命的な綻びが生じていることは間違いありません。<strong>その根本的解決には、その“三位一体構造”を崩すしかありません</strong>が、そうかと言って、すべての日本企業にとって欧米流ジョブ型への完全な転換が最善である、とは断言できません。</p>
<p><strong>■波紋を呼ぶ「最高裁の令和6年4月26日判決」：解雇か配置転換か？</strong><br />職務限定社員の配置転換は可能か。2024年4月の最高裁判決は、<strong>職務限定で働く従業員に対して、会社は本人同意のない職務変更を命じる権利はない(労働契約法違反)、</strong>と初判断を示しました。</p>
<p>波紋を呼んだ理由は、<strong>最高裁が企業と従業員の労働合意を最優先</strong>としたからです。店舗の統廃合が多い業種では、職務や勤務地を限定合意した場合、<strong>事業の拡大や縮小に際して、その合意条件を変更できるのか</strong>という問題が出てきたのです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
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<h2>「日本流ハイブリッド型雇用」の模索</h2>
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<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■メンバーシップ型とジョブ型の「折衷案」と「併存案」を試行する</strong><br />日本特有のメンバーシップ型雇用は、“時代の遺物”になりかけています。それでは、日本企業はどうしたら良いのでしょうか。結論から言えば、<u><strong>「日本流ハイブリッド型雇用」</strong>を模索しましょう</u>。<strong>メンバーシップ型とジョブ型の「折衷案」ならびに「併存案」</strong>の試行です。ただし、必ずしも特定の「〇〇型」を選ぶ訳ではありません。</p>
<p><strong>【日本流ハイブリッド型雇用(折衷案)】</strong><br /><strong>・国境を越えて人材マネジメントを戦略的に一元化したいグローバル企業</strong>を想定したもので、世界共通のジョブ・ディスクリプションと評価・賃金体系を核に、社内人材と社外人材の垣根を低くする。<br />・なお、国内事業中心の企業、欧米流ジョブ型に困難を感じる企業には、メンバーシップ型をベースにしつつも、ジョブ型の特徴を併せ持つ<strong>「ロール(役割)型」</strong>がある。</p>
<p><strong>【日本流ハイブリッド型雇用(併存案)】</strong><br />・ジョブ型人事では就業規則との整合性が課題である。そこでメンバーシップ型を残したまま、ジョブ型対応の新制度を追加して<strong>「1社2制度」</strong>とする。人材争奪戦のテクノロジー企業や金融機関に多い。</p>
<p><strong>■戦略変革には「社外の血」が必要、内部昇進者や新卒者だけではムリ</strong><br />日本流ハイブリッド型雇用の模索と言っても、人材戦略の構造改革の観点から、<strong>「雇用の入口-出口革命」</strong>と<strong>「人材戦略のインフラ整備」</strong>を心掛けるべきです。そのためには、自社とは異なる価値観や業務センスをもつ外部キャリア人材の採用による「社外の血」が必要です。</p>
<p><strong>・雇用の入口-出口革命：</strong>新卒一括採用の縮減、キャリア人材の通年採用の拡大、定年制の廃止<br /><strong>・人材戦略のインフラ整備：</strong>グループ内で共通の新しい職務等級体系、評価体系、賃金体系の構築</p>
<p>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br />今回は、日本企業の脱同質性に向けて、メンバーシップ型とジョブ型に焦点を当てた人事制度を考えてきました。日本では欧米と異なり、企業横断の労働市場は形成されていません。そこで、日本流の新しい雇用形態を企業だけが考えるのではなく、教育界や経済界をはじめ社会全体で議論することが必要です。</p>
<p>次回(第31回)は、今回の続きで、<strong>社員のキャリア形成に資する人事施策の現状と課題</strong>を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム30のフルレポートは、株式会社Sinc 統合思考研究所の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2025031101.html">https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2025031101.html</a></p>
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情報開示

経営 management

人的資本経営

ガバナンス

【統合思考経営30】人材多様性と人材ポートフォリオ(その3) ～もはや、新卒一括採用・終身雇用・年功序列では戦えない！！～

【統合思考経営29】人材多様性と人材ポートフォリオ(その2) ～人材属性(採用慣行)の多様性は進んでいるか？～

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<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第28回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>株式会社Sinc 統合思考研究所 所長・首席研究員　</strong><strong>川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第27回)は、「失われた30年」の原因として、日本人男性中心の同質性集団(昭和のおじさんシステム)の特徴をあぶり出しました。それを制度として支えたのが、<strong>メンバーシップ型の雇用慣行(新卒一括採用・終身雇用・年功序列人事・定年退職)</strong>です。今、日本企業に問われているのは、新しい時代の価値創造のために、<strong>ここから脱却して、いかに人材多様性を確保した多様性集団に転換できるか</strong>です。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材多様性は、思ったほど簡単ではない！？</h2>
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</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記の問いを考えるために、人材多様性やDE&amp;I、働き方改革や人事制度・労働法制、非正規社員あるいはジョブ型やリスキリング、人的資本経営などの関連する領域を調べてみました。その過程で、<strong>筆者なりの発見(驚き・疑問・課題)</strong>がありましたので、それを提示したうえで、本論に入ります。</p>
<p><strong>(1)</strong><strong>　人材多様性は非効率で面倒くさい！？</strong><br /><strong>(2)</strong><strong>　個人属性の多様性を「人材多様性」と誤解している！？</strong><br /><strong>(3)</strong><strong>　若手社員にとって、終身雇用・年功序列は無意味である！？</strong><br /><strong>(4)</strong><strong>　ジョブディスクリプションを作れば、「ジョブ型雇用」である！？</strong><br /><strong>(5)</strong><strong>　人材多様性はダブル・マテリアリティで考えるべきである！？</strong></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「人材多様性」の意味すること</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「失われた30年」の出口で立ちはだかる、「人材多様性」という構造問題</strong><br />「失われた30年は終わった」との見方があるものの、<strong>日本企業の人手不足が深刻化</strong>しています。これは単に人口減少だけの影響ではありません。つまり、<strong>日本人男性中心の同質性集団が、バブル崩壊後も漫然と温存された結果、「人材多様化」が進まなかった</strong>ことの帰結です。</p>
<p>日本企業は現在、金融業を含め業種を問わず、<strong>質・量両面で人材多様性という新しい構造問題に直面している</strong>ことを認識しなければなりません。産業構造と働き方が大きく変化する中で、<strong>多様で優秀な人材を確保できるかが会社の将来を左右しかねない</strong>、と危機感を抱く日本企業が増えています。</p>
<p><strong>■</strong><strong>何のために、「人材多様性」を高めるのか？企業課題と社会課題として</strong><br />それでは、何のために人材多様性を高めるのでしょうか。ここでは企業と社会の両方のインパクトを考える、ダブル・マテリアリティの発想が必要です。つまり、<strong>企業目線では経営戦略と人材戦略を連動させるため、同時に社会目線ではDE&amp;I(多様性、公平性、包摂性)と「ビジネスと人権」を推進するため</strong>です。</p>
<p><strong>企業課題としての「人的資本経営」</strong>の狙いは、人材を管理対象としてではなく、人材への投資により人的価値を高めて、それによる企業価値を向上させることです。そのためには「人材ポートフォリオ」が必須です。他方、<strong>社会課題としての「社会のサステナビリティ」</strong>の狙いは、多様な人材が安心して働ける就業環境の整備、健康経営を含むウェルビーイングの向上、また人権デューデリジェンスによる人権尊重の確保です。</p>
<p><strong>■「人材多様性」には2つの型</strong><br />さて、一口に人材多様性と言っても、実は2つの型があります。まず、このことを確認しておきます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・デモグラフィー型：</strong>人種・国籍、性別、年齢など人口統計的な属性に基づく<strong>外面的な人材多様性</strong><br /><strong>・タスク型：</strong>個人の外見や属性にはよらない、知識・能力・経験・知見など<strong>内面的な人材多様性</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本ではデモグラフィー型をイメージすることが多いようですが、女性活躍やシニア雇用など企業には取り組みやすい反面、<strong>個人属性の多様化が目的になってしまっては本末転倒</strong>です。よく考えてみれば、人材とは外見や属性で決まるものではなく、当然、その人の“もっているもの”が問われます。したがい、<strong>「人材ポートフォリオ (human resources portfolio) 」の基本はタスク型の人材多様性</strong>、となります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材多様性を実現する「人材ポートフォリオ」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「事業ポートフォリオ」と連動する「人材ポートフォリオ」</strong><br />人的資本の情報開示が2023年3月期から有価証券報告への記載が義務化されましたが、<strong>人的資本経営(人材への投資)の可視化には、人材ポートフォリオが役に立ちます</strong>。「人材版伊藤レポート2.0」でも、事業ポートフォリオが変われば、人材ポートフォリオも動的に連動して変わる、とされています。</p>
<p><strong>人材ポートフォリオとは、人材要件による適材適所のツール</strong>です。つまり、自社事業に必要な人材像を明確にして、現在「どんな人材が」「どこに」「どれくらい」在籍するかを分析し、そこから見えてきた過不足を基に、人材の再配置や採用・育成を行うものです。</p>
<p>さらにバックキャストの発想で、<strong>長期視点から経営戦略や事業戦略の実現に不可欠な「人材タイプ」を特定する枠組</strong>でもあります。つまり、将来どのような人材が必須かを可視化するものです。なぜならば、人材戦略を経営戦略にどのように結び付けていくかが、経営課題の中核にあるからです。</p>
<p><strong>■</strong><strong>四象限図で類型化する</strong><strong>「人材ポートフォリオ」の</strong><strong>人材タイプ</strong><br />人材ポートフォリオを構成する「人材タイプ」には、いくつかの考え方があります。例えば、経営戦略に基づく<strong>事業ポートフォリオを念頭に、自社の企業特性に応じた縦軸と横軸で作られる四象限図で類型化する</strong>ことができます。図表1に、その典型的な人材タイプを示します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1　四象限図による「人材ポートフォリオ」の人材タイプ(例示)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)諸資料を基に筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>横軸は、人材の適性として<strong>「組織牽引力」と「個人自律力」のどちらの能力が秀でているか</strong>を示します。縦軸は、人材の個性として<strong>「創造力」と「運用力」のどちらの職種に向いているか</strong>を示します。この2軸の組み合わせにより、<strong>人材タイプ4種が類型化</strong>できます(ただし、人材の優劣を示すものではない)。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>①組織×創造：<strong>マネジメント人材：</strong>業務を効率的に管理し、組織の成果をめざす(<strong>経営層人材</strong>を含む)<br />②組織×運用：<strong>オペレーション人材：</strong>規定の業務を円滑かつ確実に進める<br />③個人×創造：<strong>クリエイティブ人材：</strong>新規の技術・商品・事業を考案する<br />④個人×運用：<strong>エキスパート人材：</strong>特定業務の熟達者として経験値を活かす(<strong>スペシャリスト人材</strong>を含む)</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■人材ポートフォリオの先進企業事例</strong><br />過去の成功体験にとらわれず、経営戦略と人材戦略を連動させて、<strong>人材ポートフォリオを再構築する企業</strong>が増えつつあります。上述の人材タイプとは必ずしも同じではありませんが、人材ポートフォリオの構築に取り組む先進事例を以下に示します。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・旭化成</strong>：経営戦略と連動した人材ポートフォリオを作成。毎年、全社全事業部で必要となる人材要件・人数を洗い出す。<br /><strong>・協和キリングループ：</strong>「人材はイノベーションの源泉」と認識。2017年に「人材マネジメント基本方針」を策定し、人材ポートフォリオの考え方を明確にした。<br /><strong>・KDDI：</strong>2030年に向けた「人財ファースト企業」を標榜。KDDIフィロソフィーを核にしたサステナブルな人財ポートフォリオを活用する。<br /><strong>・丸井グループ：</strong>2022年に人材ポートフォリオの構築などを任務とする「人材戦略委員会」(取締役会の諮問機関)を設置した。<br /><strong>・三井情報：</strong>2019年に「人材基本方針」と「人材像」を策定。各事業部の「人事企画」が3コースの人材ポートフォリオをもとに、個々人の教育を進める。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材戦略の覚醒と革新</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■人材ポートフォリオを実現するための雇用慣行の見直し</strong><br />人材戦略としての人材ポートフォリオの策定には3つのステップがあります。まずは<strong>人材戦略の基本方針を策定</strong>したうえで、自社の特性に応じた<strong>人材タイプ(適性と個性)を類型化</strong>し、それを基に<strong>人材要件を決定</strong>します。そして、目標と現状のギャップを確認して、社内外での人材獲得の段階に移ります。</p>
<p>人材ポートフォリオに基づく人材獲得で考えるべきは、<strong>「採用慣行」「人事慣行」「雇用形態」</strong>の3つの雇用慣行です。それぞれの内容は、<strong>「人材属性」「キャリア形成」「正規度」</strong>に対応しています。これらの組み合わせにより、実際の雇用慣行が形成されます。このことを模式的に表現すると、以下のようになります。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表2は、上記の雇用慣行を3軸図で表し、各軸にはそれぞれ日本企業が導入している新しい取り組みを記載しています。この3軸図で自社にふさわしい新しい採用・人事・雇用制度を考えることができます。なお、昭和的体質をもつ日本企業を上記の模式に当てはめると、次のようになります。<br /><strong>「昭和のおじさんシステム」の同質性集団における、典型的な雇用慣行</strong><br /><strong>＝〔日本人・男性・新卒者〕×〔メンバーシップ型人事〕×〔正社員〕</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2　「人材ポートフォリオ」を実現するための雇用慣行の3軸</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g3.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注1)各軸の要素は排他的ではない選択肢である。これら以外にも多様な要素が考えられ、それを「・」で示す。<br />(注2)3軸の要素の多様な組み合わせにより、さまざまな雇用慣行を形成する。<br />(注3)各軸の★は、「昭和のおじさんシステム」における雇用慣行の典型的な要素を示す。<br />(資料)筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br /><strong>「人は石垣、人は城、人は堀」</strong>は武田信玄の格言の一節です。また<strong>「企業は人なり」</strong>とも言います。日本企業が従業員とともに発展していくためには、人材多様性の本質を押さえて、昭和的な雇用慣行の抜本的な変革が不可欠です。次回からは雇用慣行の3軸について、変革方策の考え方や取り組み状況、課題を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム28のフルレポートは、株式会社Sinc 統合思考研究所の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://sri-sinc.jp/knowledge/2024091901.html">https://sri-sinc.jp/knowledge/2024091901.html</a></p>
</div></div>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営28】人材多様性と人材ポートフォリオ(その1) ～人材多様性はとても非効率で面倒くさい！？～

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～</strong><br /><strong>第27回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第23-26回)は、ISSBとCSRDについてマテリアリティの観点から考察しました。今回は、<strong>「日本企業のかたち」である男性中心の同質性集団</strong>を取り上げます。日本企業の風土や体質には以前から違和感があったのですが、2冊の本<sup>※1、2</sup>(いずれも著者は女性)を読んだことで、自分なりの論点整理ができたからです。具体的には以下の3点です。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/zu01.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sup>(※1)<strong>ルディー和子著『男子系企業の失敗』</strong>：日経BP、日本経済新聞出版、日経プレミアシリーズ、2023年11月刊<br />男子系企業の同質性と経営者資質に焦点。帯は、<strong>「役員には選ばれた。しかし、経営はできない」</strong><br />(※2)<strong>浜田敬子著『男性中心企業の終焉』</strong>：文芸春秋、文春新書、2022年10月刊<br />ジェンダー格差、働き方、組織に焦点。帯は、<strong>「経済停滞にあえぐジェンダー後進国からの脱却」</strong></sup></p>
<p>それにしても、<strong>「失われた30年」</strong>あるいは<strong>「停滞の30年」<sup>※3</sup></strong>を経た現在でも、その真因である<strong>「昭和のおじさんシステム」</strong>に依存している(ことに気づかない)日本企業の多さに驚きます。一方で、そこから脱却し、人材多様性を重んじる仕組みを構築し、新しい戦略を展開する企業が登場してきたことも事実です。</p>
<p><sup>(※3)バブル経済崩壊後の1990年代初頭から2020年代初頭までの30年間をさす。</sup></p>
<p>実は、<strong>筆者はどっぷり「昭和のおじさん」</strong>です。昭和51年(1976年)に修士修了、同時に就職し、「失われた30年」も体験しました。またエンジニアリング会社からシンクタンクに転職したことで、会社によって企業風土や価値観が異なることを実感しています。本稿は筆者自らの感覚もたどりながら筆を進めます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>見えてきた「日本企業のかたち」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■「男子系企業の失敗」とは、どういうことか？</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>『男子系企業の失敗』(以下、同書)は、行動経済学や社会心理学あるいは脳科学の知見を踏まえた、日本企業の体質や経営者の資質に関する示唆に富む批判の書です。<strong>「失われた30年」をもたらした真因は同質性の男子系企業にある</strong>、悪いことに<strong>メンバーの多くはそれに気づいていない</strong>、と明言しています。</p>
<p>同書の言う<strong>「男子系企業」とは、経歴や考え方が似通った同質性の高い中高年男性が経営の主導権を握る企業</strong>のことです。それでは、日本企業における「男子系企業の失敗」とは、具体的にはどのようなことでしょうか。筆者の理解では、以下の連鎖する4事象です。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/zu02.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■同質性の高い男性中心の日本企業の特徴</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>同質性の高い男性中心の日本企業の典型的な特徴は、<strong>「内向きの集団思考」</strong>です。それゆえ、自己集団の属性や暗黙知に属さない<strong>「はずれ者」を意図的に排除する傾向</strong>があります。図表1は、筆者の経験も踏まえて、日本企業の特徴を〔思考パターン〕と〔行動パターン〕に分けて模式的に示したものです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：日本企業に特徴的な男性中心の同質性集団の思考と行動</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/zu03.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注)各事象は必ずしも意図的なものではなく、<strong>「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」</strong>のことが多い。<br />(資料)『男子系企業の失敗』と『男性中心企業の終焉』に触発されて筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>〔同質性集団の思考パターン〕</strong><br /><strong>・現状維持志向</strong>：変化や未知なるものへの抵抗感から、現在の事業や慣行に固執する心理的傾向<br /><strong>・前例主義</strong>：現状変更や説明責任を避けるために、合理的な検証をせずに前例を踏襲する考え方<br /><strong>・減点主義</strong>：失敗すると評価が下がるため、いかに失敗をしないかを重視して挑戦を避ける考え方<br /><strong>・リスク回避主義</strong>：将来の不確実性回避を優先し、機会を犠牲にしてでもリスクを選択しない考え方</p>
<p><strong>〔同質性集団の行動パターン〕</strong><br /><strong>・同質性競争(横並び)</strong>：同業他社は広義の「内者」であり、互いに他社の動きに同調することを是とする<br /><strong>・「戦略」でなく「反応」</strong>：近視眼的な他社模倣は「戦略」ではなく、リスク回避の安易な「反応」にすぎない<br /><strong>・「改革」でなく「改善」</strong>：現状維持志向の強さゆえ、「構造改革」と称して単なる「改善型経営」に徹する<br /><strong>・説明無責任の連鎖</strong>：同質性集団で内部昇格した歴代経営者は、「前例と同調」以外の説明をしない</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■この30年、日本企業は何もしなかった訳ではないが・・・・・・</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本企業は改善型経営に徹しましたが、バブル崩壊後30年間に何もしなかった訳ではありません。バブル崩壊直後の対処は間違っていませんでした。3つの過剰(債務・設備・雇用)が喫緊の課題であり、<strong>研究開発を含む設備投資や人件費の削減は急務</strong>だったのです。<strong>問題は、それを長く続け過ぎたこと</strong>です。</p>
<p>財務省「法人企業統計調査」から過去30年間を概観すると、売上高が微増する中で経常利益は2倍弱となり、内部留保(利益剰余金)は増え続けて4倍を超えました。これは、<strong>日本企業が長期にわたりコスト削減のみを是として、未来のための投資もせず社員の賃金も上げずに、儲けをため込んだことの証左</strong>です。</p>
<p>実態は、<strong>新入社員から内部昇進で上り詰めた同質性の高い男性の社長や経営者には、革新的な製品・サービスの開発や新しいビジネスモデルへの挑戦は考えるべくもなかった、</strong>ということになります。その意味で、最近の株価上昇は、株主還元(高配当と自社株買い)を増やした結果にすぎないという指摘があります。</p>
<p><sup>(参考資料)伊丹敬之「人件費と設備投資 増やす時」日本経済新聞、経済教室、2024年4月1日</sup></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「昭和のおじさんシステム」は、いかに形成されたのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■いまなお根強く残る「昭和のおじさんシステム」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>本稿では、<strong>「失われた30年」の原因となった「日本企業のかたち」の実相を「昭和のおじさんシステム」</strong>と呼ぶことにします。実際、それはどのようなもので、いつ、どのように形成されたのでしょうか。図表2は、高度成長期に定着した<strong>雇用・人事制度</strong>を土台にして、<strong>事業現場の常識</strong>、さらに<strong>監督と執行の曖昧さ</strong>の3階層に分けて表現したものです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：いまなお日本企業に残る「昭和のおじさんシステム」</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/zu04.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)『男子系企業の失敗』と『男性中心企業の終焉』に触発されて筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■雇用・人事制度が作った男性中心の同質性集団</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>同書では日本企業の同質性は、戦後に始まった<strong>終身雇用制</strong>と高度成長期に本格化した男子学生の<strong>新卒大量一括採用制</strong>が組み合わさって強固になったとしています。そして、<strong>年功序列の人事制度</strong>が定着し、1970年代後半には<strong>「男性＝総合職＋世帯主」</strong>を前提に、男性中心の同質性集団が形成されたようです。</p>
<p>事業現場では<strong>「男は仕事、女は家庭」</strong>を是とする諸制度ができ上がりました。転職は一般的でなく、<strong>男性社員(多くは総合職)</strong>は「家族を守る」ために、満足できない職場であっても辞めることができず、長時間を厭わず働きました。社員教育はOJTが基本で、<strong>中間管理職</strong>は現場オペレーション上がりの男性社員から選ばれました。</p>
<p><strong>女性社員の多くは一般職</strong>(総合職の補助で、管理職候補にあらず)として採用され、数年以内の<strong>「寿退社</strong>(結婚を機に退職)<strong>」</strong>が当たり前でした。1985年に男女雇用機会均等法が成立したものの、日本企業には女性社員の能力開発やキャリア向上に努める意欲は乏しかったようです。詳しくは、『男性中心企業の終焉』に書かれています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「素人の経営者」は、いかに生み出されたのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■男性のサラリーマン社長と社内取締役</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本企業の経営トップは、今でも多くが<strong>内部昇進の男性サラリーマン社長</strong>です。「彼」を支えるのは、同世代で考え方が似通った、<strong>現場オペレーションで成功した男性執行役(員)から成る経営会議</strong>です。この同質で視野の狭い経営態勢では、大胆な戦略目標を掲げて事業変革を断行するなど考えたこともなかったと思います。</p>
<p>一方、<strong>執行を監督すべき取締役会も、その大半を内向き思考の男性社内取締役</strong>が占めてきました。それゆえ、上程案件の形式的承認に主眼があり、企業価値に関する議論は皆無に近いものでした。つまり、長期戦略とリスクマネジメントを含めて、長らく日本企業のコーポレート・ガバナンスは機能してきませんでした。</p>
<p>このように考えると、<strong>「素人の経営者」を生み出したのは「昭和のおじさんシステム」そのもの</strong>です。ここで密接に関連する、日本企業特有の経営上の慣習(ガラパゴス化現象)を2つ取り上げます。どちらも筆者がサステナビリティと統合報告書の国際比較をしていた時に気づいたことです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■中期経営計画(中計)は日本企業だけ</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>海外企業に「中計」はありません。</strong>任意ながら、日本企業の多くは3年程度の中計を誇らしげに開示しますが、当面の施策と売上高などの達成目標の説明にすぎません。味の素は2023年に社長主導で、<strong>数値目標のみを追う「中計病」から脱却すべく中計を廃止</strong>し、「中期ASV経営2030ロードマップ」を公表しました。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ミドルアップ型経営は「待ちの経営」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>トップダウン型の欧米企業とは異なり、日本企業では業界横並びで既存路線を踏襲することが多く、新企画には<strong>中間層が提案し判断を仰ぐ「ミドルアップ型経営」</strong>が定着しています。社長から承諾を得る時の決めセリフは、<strong>「A社もやってます」</strong>です。これではVUCA時代に戦略的に適応することはできません。</p>
<p><strong>日本企業の「常識」ともいえる「昭和のおじさんシステム」は、1970年代後半には完成</strong>したとみられます。高度成長が終焉した1980年代、1990年代初頭のバブル崩壊を経てもなお、それが温存された結果、<strong>「変えられないサラリーマン社長」と「監督できない社内取締役」の再生産が30年も続く</strong>ことになったのです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>「JTC(Japanese Traditional Company：伝統的日本企業)」</strong>という言葉があります。これは、「昭和のおじさんシステム」を抱え込んだままの日本企業そのものゆえ、今まさに問われているのは変革への本気度です。次回は<strong>「人材多様性と人材ポートフォリオ(その1)～人材多様性はとても非効率で面倒くさい!？～」</strong>として<strong>人材多様性の意味</strong>を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム27</strong><strong>(</strong><strong>前編</strong><strong>)</strong><strong>のフルレポートは、サンメッセ総合研究所</strong><strong>(</strong><strong>Sinc</strong><strong>)</strong><strong>の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2024052701.html">https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2024052701.html</a></p>
</div></div>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営27】「失われた30年」と「昭和のおじさんシステム」～日本企業は同質性集団が最大の経営リスク！！～

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第26回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/05/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第25回)は後編1として、シングル・マテリアリティとダブル・マテリアリティの背景にある、「株主至上資本主義」と「ステークホルダー資本主義」の関係について考察しました。今回(後編2)では、ステークホルダー資本主義の実践として、ブラックロックの「<strong>ダブル・ボトムライン</strong>」を取り上げ、最後に最近の新しい動きを紹介します。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「ダブル・ボトムライン」を実践するブラックロック</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ステークホルダー資本主義を実践する「ダブル・ボトムライン」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ラリー・フィンクの2022年1月レターに続いて、同年3月にブラックロックは『<strong>ステークホルダー資本主義：企業価値のサステナビリティ</strong>』を公開しました。主要論点は、ステークホルダー資本主義の普及・実現のために、同社が取り組む「<strong>ダブル・ボトムライン(Double Bottom Line)</strong>」の考え方と実践です。</p>
<p><sup>(資料)ブラックロック『<strong>ステークホルダー資本主義：企業価値のサステナビリティ</strong>』 全文<br /><a href="https://www.blackrock.com/us/individual/insights/stakeholder-capitalism-investing"><u>https://www.blackrock.com/us/individual/insights/stakeholder-capitalism-investing</u></a>(英語版)</sup></p>
<p>ダブル・ボトムラインとは、直訳すれば「二重の最終収益」ですが、意味するところは<strong>「</strong><strong>企業が利益追求と社会的責任<sup>※1</sup>を両立させること</strong>」です。利益の一時的な減少はありうるが、長期的にはステークホルダーに利益をもたらし、その評価が企業の繁栄につながる、という考え方です。つまり、<strong>短絡的な二者択一ではなく、長期的な両者の統合の追求</strong>と理解できます。</p>
<p><sup>※1：ISO26000(社会的責任の指針)の定義によれば、「企業の社会的責任」とは、<strong>企業の意思決定と事業活動が環境・社会・人々に及ぼす影響(インパクト)に対する責任</strong>である。コンプライアンスや単なる社会貢献活動に置き換わるものではない。</sup></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ダブル・ボトムラインによる長期的価値創造の検証</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ブラックロックは、企業が長期的な成功を追求する中で、株主とともにステークホルダーとの持続的な関係を育むことを重視します。「このダイナミクスは、<strong>投資の将来や従来の財務指標を超えた企業業績の指標にとって何を意味するのか？</strong>」と自問しています。</p>
<p>それゆえ、ダブル・ボトムラインは、企業の財務的損益だけでなく、同時に社会的影響(インパクト)を測定するフレームワークとも位置づけられます。実際、ブラックロックは<strong>サステナブル投資の体系的分析(ビックデータによる定量的実証分析)</strong>により、どのようにしたら株主とステークホルダーの双方に利益をもたらすことができるかを研究しています。いくつかの結果を公表しています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「インベストメント・チェーン」から「インベストメント・ループ」へ</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■「年金加入者＝真の株主＝ステークホルダー」という構図</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>フィンクが強調するように、年金基金であれば、インベストメント・チェーンの中では最終的に投資先企業の利益は、運用益という形で「資金の出し手」である年金加入者に還元され、退職後の資産となります。この意味で、<strong>年金加入者は「最終受益者」として投資先企業の「真の株主」</strong>です。</p>
<p>同時に、年金加入者は年金基金の母体企業・団体の従業員・職員であり、一方で投資先企業の顧客・消費者や地域住民でもあるため、<strong>広義には投資先企業のバリューチェーンにおけるステークホルダー</strong>と言うことができます。ここから<strong>「年金加入者＝真の株主＝ステークホルダー」という新たな構図</strong>が浮かび上がります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ステークホルダーを組み込んだ「インベストメント・ループ」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>この新しい構図で、年金加入者から投資先企業のステークホルダーまで考えると、投資資金の流れは、運用益に着目する<strong>「インベストメント・チェーン(投資の連鎖)」</strong>よりも、サステナビリティに着目する<strong>「インベストメント・ループ(投資の連環)<sup>※2</sup>」</strong>と称した方がふさわしいように思います。</p>
<p><sup>※2:筆者の造語</sup></p>
<p>インベストメント・ループは、ブラックロックのステークホルダー資本主義のダブル・ボトムラインに着想を得たものですが、機関投資家と企業の双方にとって、<strong>ステークホルダー利益(経済的・身体的・精神的・社会的ウェルビーイング)の向上に努めることが共通の責務</strong>となります(図表1)。</p>
<p>この共通の責務を果たすためには、機関投資家と企業がこれまでの発想を変えて、株主と経営者の「利害の不一致」を当然の前提とせずに、逆に<strong>長期のサステナビリティ視点から「利害の一致」を追求することが肝要</strong>です。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：ステークホルダーを視野に入れた「インベストメント・ループ」</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/05/g1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注)ブラックロックの立場はアセットマネージャーである。その顧客がアセットオーナーたる年金基金などである。アセットオーナーが自家運用した場合には「株主」となる。個人投資家は割愛した。<br />(資料)筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>最後に本題であるISSBに戻れば、これまでの論考から、次のようにまとめることができます。すなわち、<strong>企業の情報開示においても投資家の意思決定においても、真のサステナブルな社会の実現のためには、投資家目線のシングル・マテリアリティでは不十分であり、ステークホルダー目線を加えたダブル・マテリアリティが必然である</strong>ことは明らかです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナブル投資に係る新たな動き</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「後編1」で「生煮えのステークホルダー資本主義」について述べましたが、最近になってサステナブル投資ないしESG投資の推進に関わる新たな動きがあります。ここでは<strong>WBCSD<sup>※3</sup>の「気候関連企業パフォーマンスと説明責任システム(CPAS)」</strong>と<strong>The</strong><strong> PRIの「プログレッション・パスウェイ」</strong>を簡単に紹介します。</p>
<p><sup>※3：「持続可能な開発のための世界経済人会議」：持続可能な開発をめざす企業200社超(日本企業は約20社)のCEO連合体。本部はスイスのジュネーブ。</sup></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■WBCSDによる指針提案：企業の気候パフォーマンスと資本市場との連携</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2023年12月、気候変動のCOP28で、<strong>WBCSDは企業CEO向けに、脱炭素パフォーマンスと資本市場をリンクさせる指針「CPAS：Climate-related Corporate Performance and Accountability System)</strong>を公表しました。そこでは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の本質的な理解に基づき、<strong>投資家の意思決定(評価と資本配分)に有用な形での情報開示が肝要</strong>と主張しています(図表2)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：気候関連情報の統合で、金融市場と企業の気候行動を同調させる</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/05/g2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)WBCSD「CPAS」(12ページ)2023年12月</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>翌2024年1月には、ステークホルダー資本主義を象徴する場とも言えるダボス会議でも講演を行いました。なおWBCSDは2023年6月に、ISSBのIFRS S1(全般的要求事項)とIFRS S2(気候変動)の公表を受け、その実務を支援する<strong>「サステナビリティ開示のための作成者フォーラム」</strong>を設立しています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■PRIの問題提起：同じESG投資でも目指すものが違う</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2023年10月に<strong>The</strong> <strong>PRI</strong><strong><sup>※4</sup>は、「プログレッション・パスウェイ(Progression Pathway)」と題する、「投資家の目的」と「ESG課題へのアプローチ」の関係</strong>について興味深い提案を公表しました。それは、<strong>ESG投資における「</strong><strong>投資家の目的」別にみたサステナビリティ・アウトカムに至る「パスウェイ(経路)」の違いであり、3パターン</strong>を想定しています(図表3)。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>図表3：「投資家の目的」別にみたESG投資におけるパスウェイの3パターン</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/05/g3.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup><strong>(</strong><strong>資料)PRI「Progression Pathway：PRI署名機関に向けた責任投資プラクティスの推進」2023年10月(筆者仮訳)</strong><br /><a href="https://www.unpri.org/download?ac=19440"><u>https://www.unpri.org/download?ac=19440</u></a>(英語版)<br /><a href="https://www.unpri.org/download?ac=19931"><u>https://www.unpri.org/download?ac=19931</u></a>(日本語版)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>「投資判断にESGを組み入れる」と言う時・言われた時、その意味する内容は人によって異なります。</strong>機関投資家にとっては、自組織の目指すものが過小あるいは過大に評価され、他組織との差異化が阻害される恐れがあります。例えば、ESG要素の組み入れを単に財務的リスク管理として行っているにも関わらず、特定の目的があるかのように拡大解釈され批判されることです(米国でのESG投資の政治問題化？)。</p>
<p>実は、PRIが提起した<strong>「投資家の目的」に基づく責任投資(ESG投資)の概念整理は、用語のあいまいさや混乱の解決に役立つ</strong>ことが期待されます。また<strong>投資家のグリーンウオッシュ(ESGウオッシュ)の抑制</strong>にもつながります。それゆえ、投資家が自らの基本姿勢を明らかにし、<strong>「投資家の目的」に基づくパスウェイの確立と、ステークホルダーに対する明確な説明は、ESG投資(サステナブル投資)の確実な進展に大いに寄与する</strong>と考えられます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次回から、<a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1208799_2675.html">第17回</a>と<a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1209251_2675.html">第18回</a>で中断していた「<strong>メガトレンド</strong>」を再開します。第3弾として、まずはテクノロジーを取り上げます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム(後編2)のフルレポートは、サンメッセ総合研究所(Sinc)の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2024020902.html">https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2024020902.html</a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>【統合思考経営25】ISSBはシングル・マテリアリティ(後編1)～株主資本主義とステークホルダー資本主義の間で～</strong><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1220104_2675.html">https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1220104_2675.html</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営26】ISSBはシングル・マテリアリティ(後編2)～株主資本主義とステークホルダー資本主義の間で～

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第25回</strong> </p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/02/14/kawamurasantop_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第24回)は「中編」として、ISSBのIFRS S1基準の狙いを踏まえて、資本と価値、ダブル・マテリアリティとシングル・マテリアリティの関係を考察しました。今回は「後編1」として、<strong>持続的な</strong><strong>価値創造の観点から、「株主資本主義」と「ステークホルダー資本主義」の関係</strong>について考えます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>生煮えの「ステークホルダー資本主義」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■「ステークホルダー資本主義」の登場と頓挫</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2019年8月、米国の経営者団体<strong>ビジネス・ラウンドテーブルが、「株主至上主義」を脱して「ステークホルダー資本主義」への転換</strong>を宣言しました。短期的な利益追求による格差拡大などを背景に、<strong>『企業の目的に関する声明』</strong>で、株主だけでなく顧客や従業員、取引先、地域社会などのステークホルダーの利益を尊重した事業運営に取り組む、と明言したのです。</p>
<p>翌年1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会(<strong>ダボス会議)</strong>のテーマは、「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」であり、会長のクラウス・シュワブは<strong>「ステークホルダー資本主義の概念に具体的な意味を持たせたい」</strong>と語っています。改訂された『ダボス・マニフェスト2020』では、企業は、顧客、従業員、地域社会、さらに地球環境や将来世代、そして株主など、「あらゆるステークホルダーの役に立つべきであること」が強調されました。</p>
<p>しかし、このようにステークホルダー資本主義の機運が高まっていた矢先、2020年2月頃から全世界がコロナ禍に見舞われ、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まりました。さらに悪いことに、2023年10月には中東でハマスとイスラエルの戦闘が始まりました。</p>
<p>これは何を意味するのか。2015年のSDGsの採択とパリ協定の締結によって、世界は<strong>21世紀の“ありたい姿”</strong>を確認したにもかかわらず、現実は真逆の状態に陥り、足元の問題を優先せざるを得なくなったのです。その結果、サステナブルな地球社会の実現をめざす<strong>「ステークホルダー資本主義」の議論と実践は頓挫し生煮えになった</strong>、と言わざるを得ません。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■「株主至上資本主義」と「ステークホルダー資本主義」は対立概念か？</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ステークホルダー資本主義は生煮えとはいえ、その概念は<strong>「企業は株主のためだけにあるのではなく、さまざまなステークホルダーの利益にも配慮しなければならない」</strong>と明快です。一方、株主資本主義は<strong>「企業は株主利益の最大化だけに専念すべきである」</strong>と主張しています。ただ、ステークホルダー資本主義でも株主は歴然と存在しますので、ここでは<strong>「株主至上資本主義」</strong>と呼ぶことにします。</p>
<p>一見、株主至上資本主義とステークホルダー資本主義は対立しているように見えますが、<strong>株主価値に着目して株式会社の最終目標を冷静に見極めると、実は「両者は対立概念ではない」</strong>という考え方があります。いかがでしょうか。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ステークホルダー資本主義は「情けは他人の為ならず」？</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ここで有名な2人を取り上げます。1人は、ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者ミルトン・フリードマン。彼は1970年にニューヨーク・タイムスへの寄稿で、株主至上資本主義の立場から「企業の社会的責任は、利益を拡大し納税すること。……<strong>企業は、株主の利益を最大化すること以外に何ら責任を有していない。</strong>政府は税金を適切に使えばよい」と述べています。</p>
<p>これに対比されるのが、ヒューレット・パッカードのCEOであったカーリー・フィオリーナ。彼女は2003年に行ったBSR(社会的責任のためのビジネス)の年次総会における講演で、「私たちはフリードマンを超えようとしている。……<strong>企業が事業を行う社会に対して、何ら責任を有しないという考え方は近視眼的である。長期的に見れば、決して持続可能なビジネスとは言えない</strong>」と訴えました。</p>
<p>この2人の考え方には短期か長期かの違いはあるものの、<strong>「株主利益の最大化」という目標からは逸脱していない、</strong>と言うこともできます。その意味では、株主至上資本主義とステークホルダー資本主義は対立概念ではなく、<strong>“単にアプローチの違い”</strong>ということになりかねません。しかし、果たしてそうでしょうか？</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ステークホルダー価値に依存する企業価値と株主価値</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>両者の最大の違いは、企業の事業遂行においてステークホルダーを通じたサステナビリティ課題を実感し、それを自らの価値創造のために経営課題として取り込むかどうかです。</strong>長期の経営戦略的な表現をすれば、バリューチェーンにおける気候変動やエネルギー・資源問題、生態系の劣化・喪失、あるいは人権問題や人的資本など経営環境の構造変化に対して、<strong>“経営能力”の向上</strong>を担保できるかどうかです。</p>
<p>このように考えると、やはり、<strong>持続的な企業価値(その結果として株主価値)はステークホルダー価値に依存する</strong>、と明確に理解できます。このことは、シングル・マテリアリティとダブル・マテリアリティの関係と同じです。つまり、資本市場において<strong>「企業が環境・社会から“受ける”インパクト」</strong>と<strong>「企業が環境・社会に“与える”インパクト」の密接不可分性</strong>と同じです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>株主の背後にいるのは誰か？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ステークホルダー資本主義を唱導するラリー・フィンク</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前項でステークホルダー資本主義の展開に影響を与えた人物として、フリードマンとフィオリーナを取り上げましたが、もう1人、外してはならない金融界の現役経営者がいます。それは、世界最大の投資運用会社である米国ブラックロック(運用残高1500兆円)の会長兼CEOのラリー・フィンクです。</p>
<p>フィンクは日本では必ずしもそのように理解されていませんが、<strong>資本市場でステークホルダー資本主義を信念をもって唱導・実践している人物</strong>です。筆者の認識する人物像は、以下のとおりです。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>・「資本主義の力」を信じる<strong>資本主義者</strong>である。ただし、株主・投資家のためだけではなく、<strong>投資先企業にかかわる人々(従業員や生活者など)の支援</strong>も考える。<br />・ステークホルダーを視野に入れた<strong>サステナビリティの唱導者</strong>である。世界的課題の解決をめざす<strong>長期視点のサステナブル投資家</strong>であり、企業の長期的な成功につなげる。<br />・サステナビリティに重点を置くのは、環境主義者や社会運動家の立場ではなく、<strong>年金基金の運用受託者</strong>ゆえある。その背後にいる<strong>年金加入者(長期資金の出し手＝真の株主)</strong>を見ている。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>(参考)フィンクが<strong>資本市場関係者や左右両派からさまざまな批判</strong>を受けてきたのも事実である。米国では近年ESG投資が“政治問題化”したことから、昨年6月には<strong>「もはやESGという言葉は使わない」</strong>と述べている。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ラリー・フィンクの「ステークホルダー資本主義」の考え方</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>フィンクが2022年1月に<strong>投資先企業のCEOに宛てた公開書簡『資本主義の力』</strong>から、筆者の理解に基づき、ステークホルダー資本主義に関する彼の考え方を紹介します。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ラリー・フィンク『2022年 CEOsへの手紙：</strong><strong>資本主義の力</strong><strong>』</strong><strong> 全文</strong><br /><a href="https://www.blackrock.com/corporate/investor-relations/larry-fink-ceo-letter">https://www.blackrock.com/corporate/investor-relations/larry-fink-ceo-letter </a>（英語版）<br /><a href="https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/ceo-letter/archives/2022">https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/ceo-letter/archives/2022</a> （日本語版）</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>(1)ステークホルダー資本主義の考え方</strong><br />・多くの企業経営者から学んだことは、明確なパーパスと確固たる価値観の大切さ。より重要なことは、<strong>経営者が主要ステークホルダーのため重責を認識</strong>していること。これが<strong>ステークホルダー資本主義の基盤</strong>である。<br />・ステークホルダー資本主義は政治でもなく、イデオロギー的なWoke（社会的に目覚めている）でもない。<strong>企業が依存するステークホルダーに利益をもたらす関係構築で実現する資本主義</strong>である。<br />・グローバルにつながる現代では、<strong>株主に長期価値をもたらすには、企業はステークホルダー価値を創造し、評</strong>価<strong>されねばならない。</strong>これにより資本の効率的配分と企業の持続的収益力が達成される。</p>
<p><strong>(2)資本主義の力</strong><br />・<strong>資本主義には、社会を形づくり、変化の強力な「触媒」となる力がある。</strong>直面する厄介な世界的課題のいくつかを解決できる能力があると信じる。<br />・「触媒」となるには、変革によって負の影響を受ける地域社会の支援、新興国への資本投下の促進、そして<strong>世界経済のサステナビリティに不可欠なイノベーションとテクノロジーへの投資が必要</strong>である。</p>
<p><strong>(3)資本主義とサステナビリティ(ゼロネット社会への移行)</strong><br />・<strong>気候リスクは投資リスク</strong>である。脱炭素化に向けた意欲的な目標設定と移行計画は始まったばかりだが、サステナブル投資の地殻変動的な資本の再配分は加速している。<br />・ネットゼロ社会への移行<strong>(特に、エネルギー・トランジション)は、これまでにない投資機会となり、長期にわたる膨大な雇用機会を創出する。</strong>適応できない企業は取り残される。</p>
<p><strong>(4)受託者としてサスティナビリティ(移行計画)を重視</strong><br />・サステナビリティ重視のアプローチとして、投資先企業には<strong>脱炭素化の「移行計画」</strong>を求める。「<strong>将来への適応力</strong>」を把握するには不可欠であり、そのためにも<strong>TCFD準拠の情報開示</strong>を要請する。<br />・ダイベストメント(特定セクターからの資本引き上げ、炭素集約度の高い資産を上場企業から排除)だけでは、ネットゼロ社会は実現できない。よって、<strong>ダイベストメント方針はとらない。</strong></p>
<p><strong>(5)ESGの議決権行使で、株主に力を与える</strong><br />・運用受託者として企業に求めるのは、<strong>長期的な「株主に対する責任」</strong>として、どのようなESG(サステナビリティ)方針を定め、どのように事業展開するかを明示することである。<br />・その適否判断に基づき、株主は議決権を行使する。個人投資家を含む<strong>あらゆる投資家が、議決権行使のプロセスに参加する選択肢を持つこと</strong>をめざす。</p>
<p>(注)ブラックロックは、2021年のエクソンモービルの株主総会で、他の主要機関投資家とともに、小規模ファンドの推薦する<strong>環境派取締役3人の就任に賛成票を投じた。</strong>その結果、過半数の得票で可決した。画期的であった。</p>
<p><strong>(6)ステークホルダー資本主義センター」の設立</strong><br />・企業が社会における自身の役割について熟考し、従業員、顧客、サプライヤー、地域社会、そして株主の利益に資するように行動することで、企業の持続的な成功につながると確信する。<br />・企業とステークホルダーとの関係が、長期的な企業業績と株主価値にどのような影響を及ぼすのか、なお研究すべき点がある。<strong>共有の場として、「ステークホルダー資本主義センター」</strong>を設立した。</p>
<p><strong>(7)パーパスは羅針盤</strong><br />・パーパス(企業の存在目的)とは、激動する経営環境の“大海”における「羅針盤」である。それを<strong>ステークホルダーとの関係の基盤と位置付ける</strong>ことが、企業の長期的な成功の鍵となる。<br />・企業がパーパスに真摯(しんし)に向き合い、長期視点から激動する世界に適応できれば、<strong>その成功を通じて株主に持続的なリターンを届け、ステークホルダーに「資本主義の力」をもたらす</strong>ことができる。</p>
<p>次回は後編2として、ブラックロックの提唱する「ダブル・ボトムライン」を踏まえつつ、「インベストメント・ループ」について考察します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラムのフルレポートは、サンメッセ総合研究所(Sinc)の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2024020901.html"><u>https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2024020901.html</u></a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1217451_2675.html">【統合思考経営23】ISSBはシングル・マテリアリティ(前編)～株主資本主義とステークホルダー資本主義の間で～</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1218500_2675.html">【統合思考経営24】ISSBはシングル・マテリアリティ(中編)～株主資本主義とステークホルダー資本主義の間で～</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営25】ISSBはシングル・マテリアリティ(後編1)～株主資本主義とステークホルダー資本主義の間で～

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第24回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html">サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</a></strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/11/16/kawamurasantop_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第23回)は、ISSBの「IFRS S1：サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項」の目的を確認したうえで、「2つのマテリアリティ」を考察しました。今回は中編として、<strong>運用機関によるマテリアリティの違い</strong>、<strong>制度開示と任意開示</strong>、そして<strong>資本主義の「資本」</strong>について考えてみます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>マテリアリティ論争(シングルかダブルか)</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■欧米の投資運用機関でも見解の異なるマテリアリティ</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>マテリアリティはシングルかダブルか。モーニングスター(米国の投資信託評価機関)の調査によれば、ISSB公開草案に意見を提出した欧米の主要投資運用機関20社のマテリアリティに対する考え方は大きく分かれたとのことです。<strong>欧州系はEUのサステナブル情報開示規制を背景に、概ねダブル・マテリアリティ支持です。米国系はシングル・マテリアリティ支持と各国基準での柔軟適用派</strong>に割れています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ISSBはダブル・マテリアリティを容認し、ダイナミック・マテリアリティを推奨か！？</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ISSBは公開草案についてEU機関などと協議を重ねましたが、昨年秋にシングル・マテリアリティで決着したと言われています。ただし、ISSBは2つのマテリアリティを区別しつつも、互いに補完すると述べており、実は<strong>ダブル・マテリアリティを容認しているように感じます</strong>。</p>
<p>また、<strong>毎年の報告に当たってはマテリアリティを見直すこと</strong>を求めています。その理由として、内外状況や前提の変化、投資家等の評価基準の進展によりマテリアリティが変化することを挙げています。つまり、<strong>ISSBはダイナミック・マテリアリティを推奨している</strong>、と言えそうです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナビリティは制度開示と任意開示の両にらみ</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■株主・投資家とステークホルダーを意識した「サステナビリティ報告」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ISSBの考え方を端的にいえば、(投資家等向けの)<strong>サステナビリティ関連財務情報には、</strong>(ステークホルダー向けの)<strong>サステナビリティ情報は有用だが、開示する必要はない</strong>、となります。そこで筆者はあるISSB関係者に、「サステナビリティ情報の開示は直接的には要求されないが、企業はどうするべきか？」と質問してみました。</p>
<p>その回答は、「サステナビリティ関連財務情報は有価証券報告書のような制度開示で、サステナビリティ情報は統合報告書やサステナビリティ報告書のような任意開示で」でした。そうであるとすれば、<strong>企業はサステナビリティ報告について、“制度開示と任意開示の両にらみ”が必要</strong>となります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>資本とは何か？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■旧IIRCの提唱する6資本</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>そもそも資本主義の「資本」とは何でしょうか。ごく単純に言えば、企業経営に必要な資金です。しかし近年、<strong>財務諸表の数値だけでは企業価値を十分に説明できない</strong>、と言われます。これは、企業が生み出す価値の源泉は資金だけではないことを意味します。</p>
<p>旧IIRC(現IFRS財団・VRF)が2021年に改訂した「国際統合報告フレームワーク」(以下、IIRCフレームワーク)の<strong>価値の創造・保全・毀損(きそん)プロセス</strong>では、「資本」として財務に加え、製造、知的、人的、社会・関係、自然の6種類に分類しています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■資本概念の広がりと「非財務資本」の重要性</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「非財務資本」は財務諸表には記載されない資本群です。しかしながら、企業が長期にわたる価値創造を考える際にカギを握るのは、<strong>伝統的な財務資本から非財務資本への「資本概念の広がり」</strong>です。この背景には、<strong>企業価値の決定要因が有形資産から無形資産へと転換</strong>していることがあります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■財務資本の依存構造と多様なステークホルダー</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>資本主義は財務資本だけで回っている訳ではありません。資本概念を広げることで、財務資本の非財務資本群への依存構造とともに、<strong>各資本にかかわるステークホルダーも明らか</strong>になります。図表1は、<strong>最上段にある財務資本が多層の非財務資本と多様なステークホルダーに支えられている</strong>ことを示しています。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1 財務資本の依存構造(6資本に対応するステークホルダー)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/11/16/g01.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>資本と価値の関係</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■企業が創造する「2つの価値」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>IIRCフレームワークは、<strong>企業が長期にわたり生み出す価値には相互に関係しあう2つの側面がある</strong>、と明言しています(図表2)。本稿では、「<strong>企業価値</strong>」と「<strong>ステークホルダー価値</strong>」と呼ぶことにします。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2 企業が創造する「2つの価値」</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/11/16/g02.png"/></div>
<div class="m_paragraph">IIRC「国際統合報告フレームワーク(2021年1月)」を基に筆者作成</div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ステークホルダー価値にかかわる「外部化」の問題</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業価値とステークホルダー価値の関係において問題となるのは、企業がステークホルダーに対して発生させたコストや影響が「外部化」された場合です。<strong>外部化とは、“本来”企業が払うべき対価が「市場」の内部で払われない状態</strong>を指します。外部化には正と負があり、負ならば「<strong>外部不経済」</strong>と呼ばれます。</p>
<p>企業価値はステークホルダー価値に支えられて創造されるため、外部不経済を放置したままで、<strong>非財務資本を軽視・無視して財務資本の最大化を継続することは困難</strong>です。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ダブル・マテリアリティなくして、シングル・マテリアリティなし！！</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>以上の考察から、<strong>ステークホルダーにとって重要な経済・環境・社会課題は、同時に企業自身の長期的な価値創造能力に影響を与える重要な事象である</strong>、ことは明らかです。これは時間軸をもつダイナミック・マテリアリティそのものであり、「<strong>ダブル・マテリアリティなくして、シングル・マテリアリティなし</strong>」と言えます。</p>
<p>ただし、ここで誤解してはならないことがあります。<strong>ダブル・マテリアリティはシングル・マテリアリティのためにあるのではない</strong>、ということです。シングル・マテリアリティとは、詰まるところ、サステナビリティ課題のインパクトを財務指標化(非財務情報⇒未財務情報⇒財務情報)することで業績見通しを推測し、投融資判断のために企業間比較を行おうとするものです。</p>
<p>このような<strong>サステナビリティ課題の財務指標化に評価上の合理性はあるものの、サステナビリティ課題そのものを解決しようというベクトルは働きにくく、そこには自ずと限界</strong>があります。この認識は、情報を利用する株主・投資家だけでなく、情報開示を行う企業経営者にとっても大事なことです。</p>
<p>次回は後編として、サステナブル金融を背景に「株主資本主義」と「ステークホルダー資本主義」について考察します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラムのフルレポートは、サンメッセ総合研究所(Sinc)の下記サイトをご参照ください。</strong><br /><a href="https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2023110801.html">https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2023110801.html</a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1217451_2675.html">【統合思考経営23】ISSBはシングル・マテリアリティ(前編)～株主資本主義とステークホルダー資本主義の間で～</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営24】ISSBはシングル・マテリアリティ(中編)～株主資本主義とステークホルダー資本主義の間で～

【統合思考経営23】ISSBはシングル・マテリアリティ(前編)～株主資本主義とステークホルダー資本主義の間で～

【統合思考経営22】TCFD開示の国際比較から見えてきた日本企業の経営課題と解決方策(後編)～『TCFD開示の業種別・日米欧企業比較分析』より～

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第21回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/14/kawamurasantop_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第20回)は、「TCFD開示の国際比較分析」の『前編』として、分析結果の全体感を述べました。今回は『中編』です。まず、国際比較分析から判明した日本企業のTCFD開示の現状を確認します。そのうえで気候関連のリスクと機会に関する、日本企業の構造的な経営課題として3点を指摘します。問題提起です。</p>
<p>(注)前回の稿末に、次は『後編』と書きましたが、少し編集して『中編』と『後編』に分けます。</p>
<p>なお『後編』の最後でも述べますが、<strong>TCFDの気候関連財務情報開示の「気候」を「サステナビリティ」に置き換えると、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の</strong><strong>「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項(IFRS S1号)</strong>」になります。日本企業がTCFD開示で判明した経営課題を抱えたままISSBに臨むと、「<strong>大変なことになる</strong>」予感があります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>日本企業のTCFD開示で、評価が低いのは何か？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ガバナンスとリスクマネジメントで評価が低い日本企業</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>改めて国・地域別にTCFD開示の推奨開示項目のスコアを見ると、日本企業は全体に評価が低いことがわかります(図表1)。中でもスコアが低かったのは以下の3点です。<strong>①「ガバナンスa)」の取締役会の監督、②「戦略b)」の気候リスク・機会の影響、③「リスクマネジメントb)c)」のリスクマネジメント・プロセスとERM</strong><strong>(Enterprise Risk Management</strong><strong>：全社統合型リスクマネジメント)</strong><strong>への統合</strong>。つまり、ガバナンスとリスクマネジメントが、日本企業にとって改善を要する分野だということになります。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1 TCFD開示の推奨開示項目スコア(国・地域別)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0101.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>　　　(注)スコアの下線は各推奨開示項目での最低値を示し、楕円は特に日本企業の低評価を示す。<br />　　　<a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1215298_2675.html">「前編」の図表6参照</a>。<br />　　　(資料)筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>そこで、TCFD開示におけるガバナンスとリスクマネジメントについて、評価の高い企業の特徴を見てみます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■評価の高いガバナンス態勢：「監督」と「執行」の分離、取締役会に気候の専任委員会</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表2にガバナンス評価の上位9社を示します。1位はTSMCとBPで、8位までを欧州と米国の企業が占めました。これらの企業はいずれも、<strong>取締役会の「監督」と経営陣の「執行」の機能分離が明確であり、取締役会とその専任委員会が、気候変動問題の方針決定に高次のリーダーシップを発揮している</strong>ことが読み取れます。</p>
<p>9位のリコーGはマネジメント・ボード型態勢です。<strong>マネジメント・ボード</strong>とは、日本企業に多いガバナンス形態で、取締役会が監督と執行の両機能をもち、業務執行の意思決定を重視する取締役会モデルです。これに対比されるのが<strong>モニタリング・ボード</strong>で、経営陣の業務執行に対する監督に専念するため、取締役会の構成は社外取締役が中心となります。<strong>欧米では多くの上場企業が後者を採用しており、TCFDもこちらを前提としています</strong>。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2 TCFD開示における「ガバナンス」評価の上位9社と特徴</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0202.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>　　　　　　　　　　(資料)各社のTCFD開示資料を基に筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■評価の高いリスクマネジメント態勢：気候リスクの財務インパクトの検証とERMへの統合</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次に、リスクマネジメント評価の上位10社を図表3に示します。TSMC、マイクロソフト、リコーGが同率1位ですが、半数を欧州企業が占めました。これらの企業は、<strong>気候関連リスク・機会による事業・戦略インパクト、さらに財務インパクトを検証し、ERMに統合している</strong>ことがわかります。ちなみに今回分析した日本企業の中には、ERMを明示的に表記するところはありませんでした。</p>
<p>ここでERMを簡単に説明します。ERMとは、企業目的を明確にして、あらゆる経営リスクを全社的視野で統合的・包括的に把握・評価し、ポートフォリオ効果によるリスク分散を狙うリスクマネジメント手法です。一般にはリスク・マトリックス(リスクの発生頻度と経営影響度)を基に、リスク・ポートフォリオを作成します。<strong>今回多かったERMの要素は、戦略・財務・オペレーション・ハザードのリスク側面でした。</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表3 TCFD開示における「リスクマネジメント」評価の上位10社と特徴</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0303.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>　　　　　　　　　　(資料)各社のTCFD開示資料を基に筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>TCFD開示から見えてきた、日本企業の気候変動対応の現状と経営課題</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■TCFD開示の国際比較からわかる、日本企業の気候変動対応の現状</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>TCFD開示の国際比較分析の結果を総合すると、<strong>日本企業に共通する気候関連リスク・機会に関する態勢や取組の現状(現在の到達点)</strong>は、以下の4点です。ただし、“開示なきは実践なし”を前提としています。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0404.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>既にお気づきのことと思いますが、<strong>このような日本企業の気候変動対応の現状は、もはや開示の巧拙の問題ではなく、そのまま経営課題である</strong>と言うことができます。そこで次に、評価の高い企業の態勢や取組を参考にして、経営課題とその解決方策を考えてみます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■日本企業にはTCFD開示以前の三つの経営課題</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記のTCFD開示から見えてきた日本企業の現状を踏まえると、<strong>日本企業の気候関連リスク・機会に関する経営課題は、TCFD開示以前の問題として、以下の3点に集約できます</strong>。これらは、いずれも構造的な経営態勢の問題です。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/0505.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>以下では、各課題について現状と解決方策を説明します。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>課題1：気候リスク・機会について取締役会による監督の関与が不十分である。</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>➡解決方策：気候問題に対するガバナンス(監督)態勢の強化</strong><br /><strong>➡➡具体策：取締役会内に意思決定を委任された気候戦略・リスクの専任委員会の設置</strong></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■大事なことは、取締役会内に気候専任委員会の設置</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>評価の高い海外企業では、「監督」と「執行」の双方において、それぞれ気候関連リスク・機会に対応する態勢とプロセスを詳細具体に記述しています。これに対して、<strong>日本企業では執行側の仕組の説明が中心で、監督側の記述は限られています</strong>。この背景には取締役と執行役(員)が重なるマネジメント・ボード構造があり、「取締役会の実効性評価」にも関わるものと考えられます。</p>
<p>取締役会は執行側から上程された提案や報告を審議するだけでなく、時代の潮流を踏まえて、モニタリング・ボードとしての機能を発揮することが求められています。<strong>その機能を担うのは、意思決定を委任された専任委員会</strong>です(図表2参照)。実際、国際的な主要株価指数である米国のS&amp;P100や英国のFTSE100の構成銘柄(企業)では少なからず設置されています。ある米国企業では、取締役会内の専任委員会は独自の見識と人脈をもち、執行側とは一種の緊張関係にあると言われています。</p>
<p>今回の分析における日本企業で、気候に関する専任委員会を取締役会内に設置している企業はありませんでした。今後、気候関連リスク・機会とその財務インパクトについては、これまで以上に高次の経営判断が求められます。それゆえ、<strong>日本企業は取締役会の監督態勢強化のために、取締役会内に気候戦略・リスクについて独自の視点から意思決定のできる専任委員会を設置すべき時が来た</strong>、と言うことができます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■日本企業で散見される取締役会内の「諮問機関」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>気候専任委員会とは異なりますが、日本企業では<strong>取締役会への答申や提言を任務とする任意の諮問機関を取締役会内に設置</strong>する事例が散見されます。指名委員会等設置会社では指名・報酬・監査の3委員会とは別に、ブリヂストンの「ガバナンス委員会」(全委員が社外取締役)、味の素の「サステナビリティ諮問会議」(議長は社外有識者)の例があります。監査役設置会社では、リクルートの「サステナビリティ委員会」(委員長はサステナビリティ担当取締役)、丸井グループの「サステナビリティ委員会」(委員長は社外有識者)があります。</p>
<p>また、トヨタ自動車(監査役設置会社)には取締役会とは別に、<strong>社外取締役・社外監査役も参加する「サステナビリティ会議」</strong>(議長は取締役会議長)があり、企業の持続的成長に向けて社会目線で監督するとともに、ガバナンス体制について審議しています(同社のコーポレート・ガバナンス報告書：2023年4月10日更新より)。</p>
<p>このような<strong>日本企業の独自の取組が、上記の(気候に限らない)専任委員会と同等の監督機能を果たしうるのかどうか</strong>、情報開示の工夫も必要ですが、投融資家などとのエンゲージメントの際に、その実効性が問われることになると思います。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■TSMCの気候ガバナンス態勢：監督と執行の双方に複数の気候関連委員会</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本進出で話題となった世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)である台湾のTSMCは、TCFD開示でガバナンスとリスクマネジメントの両方で最も高いスコアを獲得しました(総合評価も最高位)。そこで気候ガバナンス態勢の先進事例として、同社の気候変動に関する「監督」と「執行」が連携した枠組をみてみます。</p>
<p>その特徴を端的に言えば、以下のようになります。<strong>TSMCは、役割と責任を明確にして意思決定を委任された委員会を取締役会(監督側)と経営陣(執行側)に多層的に配置し、双方が連携して気候変動対策にリーダーシップを発揮できる実効的なガバナンス態勢を整えています</strong>(図表4)。この枠組はマネジメント・ボードとモニタリング・ボードの折衷的な態勢ですので、日本企業には参考となるのではないかと思います。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表4 TSMCの気候変動に関するガバナンスとマネジメントの枠組</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2023/06/22/06n.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)TSMC「2021 TCFD Report」(p6-p11)を基に筆者作成<br /><a href="https://esg.tsmc.com/download/file/TSMC_TCFD_Report_E.pdf">https://esg.tsmc.com/download/file/TSMC_TCFD_Report_E.pdf</a></sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■TSMCの気候対策を監督する2つの専任委員会、さらに監査委員会と報酬委員会も</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>TSMCは<strong>取締役会の中に、気候変動対策を監督し意思決定する2つの委員会を設置</strong>しています。</p>
<p><strong>・ESG</strong><strong>運営委員会</strong>：気候変動対策の最高意思決定機関と位置付けられ、会長が議長を務める。<br />・<strong>リスクマネジメント運営委員会</strong>：全社的なリスク管理を監督し、気候変動に関するリスクマネジメントの審査と承認を担う。<br />さらに、取締役会直下の「監査委員会」と「報酬委員会」も気候問題に関わっています。</p>
<p><strong>・監査委員会</strong>：オペレーショナル・リスク全般を統括し、水不足・電力不足・自然災害などの気候関連リスクの優先順位を見直す。特に<strong>サプライヤーのリスクレベル別・材料別の洪水リスクマップ</strong>は他に例をみない。<br /><strong>・報酬委員会</strong>：気候変動を含むESG成果に応じた経営陣の業績連動型報酬の評価に責任をもつ。<br />他方、執行側にも監督側の委員会と密接に連携する気候関連の委員会が三つあります。</p>
<p><strong>・省エネ・炭素排出削減委員会</strong>：グループ全体の排出削減進捗を管理する。<br /><strong>・ESG</strong><strong>委員会</strong>：気候施策の部門間プラットフォームとして機能し、気候リスクの識別と管理を担当する。<br />・<strong>リスクマネジメント執行審議会</strong>：短中長期の時間軸による「気候リスク・機会マトリックス」を作成する。</p>
<p>『中編』はここで終わります。次回の『後編』では日本企業の「課題2」と「課題3」について、それぞれの現状と解決方策を説明します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1215298_2675.html">【統合思考経営20】TCFD開示の国際比較から見えてきた日本企業の経営課題と解決方策(前編)～『TCFD開示の業種別・日米欧企業比較分析』より～</a></p>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営21】TCFD開示の国際比較から見えてきた日本企業の経営課題と解決方策(中編)～『TCFD開示の業種別・日米欧企業比較分析』より～

川村 雅彦

川村雅彦