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  • 公開日:2024.12.25
  • 最終更新日: 2025.03.27
反ESGは一時的 持続可能性と人権尊重を目指す姿勢は変わらず――国連ビジネスと人権フォーラム2024閉幕

    Image credit:August de Richelieu

    国連ビジネスと人権フォーラム2024の最終日で焦点になったのは「反ESG」だった。登壇者からは、投資家に動揺は見られず一時的な流れに過ぎないという意見が多く上がり、ESGに関する今後の見方については楽観視されていることが明らかになった。企業による人権への取り組み改善に向けたデータ活用や投資家エンゲージメント、投資家の判断を助けるツールなどが議論され、人権侵害の撲滅と官民団結を再確認して会期を終えた。(翻訳・編集=遠藤康子)

    ESG(環境、社会、企業統治)投資の規模拡大と持続可能な金融システムへの移行はこのまま続いていくと思われていたが、ここに来て明らかに減速している。こうした状況はビジネスと人権にとってどのような意味を持つのだろうか。

    米国の政界を中心に、このところは欧州の政界でも強まっているのがいわゆる「反ESG(ESG backlash)」の気運だ。こうしたESG投資への反発に伴い、リターンと資金の流れがともに反転するケースが見られ、ESG投資商品を廃止したり、ESG専門人材を削減したりする資産運用会社も現れている。

    しかし、国連ビジネスと人権フォーラム2024の最終日となる3日目セッションでは、登壇したESGファンドと主流ファンドの代表者はいずれも強気の姿勢を崩さず、ESG投資の見通しについても、持続可能性の実践を後押しする推進力についても楽観的な見方を示した。

    スウェーデンの公的年金基金AP2の持続可能性アナリスト、ペッター・フォルスランド氏は反ESGについて、「危惧していない」とし、現在の傾向を政治的ではなく経済的な観点から捉えていると述べた。

    「ここ2年で金利が上昇し、負債が増加しています。そして、ESG投資は負債の割合が大きいのが一般的です」とフォルスランド氏は述べた。「資産運用会社はマイナスリターンの軽減を迫られています。しかし、結局は世界的な流れ、変動に過ぎず、長期的なトレンドになることは絶対にありません」

    反ESGの機運に投資家は動じていない

    カナダの投資運用会社マニュライフ・インベストメント・マネジメントのソーシャルインパクト投資部門ディレクター、イラズ・ソヤルプ氏もフォルスランド氏の意見に同調し、「反ESGについては議論を多く重ねてきましたが、大きな変化は起きないだろうという結論に達しています」と述べた。

    「先頃開催された気候インパクト投資に関する投資家サミットでは、アセットマネージャーは一様に、反ESGの動きは単なる雑音に過ぎないと話していました」とソヤルプ氏は述べた。「当社は、サステナビリティ投資に何の変更も加えていませんし、クライアントへのアプローチも変えていません。持続可能性は常に商品の選択肢に入っています」

    さらに、ESGは単にリスクを管理する受託者責任の一部と見なされるべきであるとし、顧客へのアドバイスが責任の大部分を占め、どのような場合でもクライアントの要求と期待に応じていると、ソヤルプ氏はアピールした。

    英ロンドンを拠点とする資産運用会社レッドホイールでソーシャルリサーチ部門を統括するジェシカ・ワン氏は、最も効果的な反ESG対策は至って単純なのではないかと述べた。「もしかしたら、ESGという言い方をやめて新しい略語を考案するだけでいいのかもしれません」

    実は、筆者が会場の片隅で言葉を交わした国連職員も、「ESG」を止め、シンプルに「持続可能性」と言い換えるようにしたところ、自分たちの取り組みに向けられる批判がかなり和らいだと漏らしていた。

    レッドホイールのワン氏はさらに、ESG投資商品の縮小という現在の流れは一時的で、大きな長期的成長に寄与するものと考えていいのではないか、と主張している。「こうした全体的な流れによって、真剣さに欠ける投資家がふるいにかけられています」とワン氏は述べた。「短期的に見れば厳しい状況ですが、現実的に考えれば、ESGをそもそも活用しなかった機関投資家や資産運用会社が排除されているのです」

    求められるデータの質向上

    企業による人権への取り組み改善を促すためには投資家からのさらなる支援が必要だが、何がその呼び水になるだろうか。

    それは常々言われているように、データの質向上に注力することだろう。

    「大多数の資産運用会社は意思決定に当たってデータプロバイダーを頼りにしていますが、人権に関するデータの入手は困難を極めています」。仏資産運用会社カンドリアム・インベスターズ・グループのESG担当シニアアナリスト、ベン・シェクルン氏はそう明言する。同社はデータプロバイダーに対し、より優れたESG情報の提供を目指して「競い合う」よう強く働きかけているという。「データプロバイダーはより踏み込んでデータを調べなくてはならない。企業は人権問題の具体的な事例や警告、改善策、人権影響評価についてきちんと報告しているのか、と疑問を持つ必要があります」

    ビジネスの評価だけではなく、企業に対する投資家エンゲージメントが報告されているかどうかも問題だ。

    シェクルン氏によれば、カンドリアムは国際NGOワールド・ベンチマーキング・アライアンス(WBA)のデータを用いてさまざまな分野のベストプラクティスを確認している。「当社は企業に対し、同業他社のガバナンス制度や人権デューデリジェンスについて検討し、それと同じように取り組まないのはなぜか、と働きかけています」。また、既存の人権データを評価に取り込み、年次株主総会で議決権を行使する際にはその結果をもとに判断しているという。

    WBA代表者によれば、投資家と協力して人権関連スコアに取り組んでいる企業は、WBAが評価したソーシャル・ベンチマークのスコアが15%高い。

    ステークホルダーエンゲージメント

    投資家は、企業による人権への取り組みについて理解を深めて促進していく上で、ステークホルダーとどこまで深く関わることができるのか。

    国連イニシアチブ「責任投資原則(PRI)」スチュワードシップ・社会問題・人権部門責任者のナビラ・アボ・デマン氏は、影響を受けるライツホルダー(権利保持者)と投資家が直接対話できる場をこれまで20回設け、その重要な学びの体験で得た洞察を共有した。

    またワン氏は、「ヘッドライン・リスク(報道や情報公開によって企業や投資家に影響が及ぶリスク)があれば投資家は耳を傾ける」と述べた。そして、市民社会組織に対しては、積極的に関与し、企業が取るべき行動について実践的な勧告を報告書に盛り込むよう訴えた。

    フォーラムでは、投資家が評価を行ったり、企業による人権への取り組みに関する情報を集約したりする上で役立つ新たなツールの開発状況も報告された。

    国連グローバル・コンパクト・ネットワークUK副理事長のビー・デルガド氏は、同ネットワークが新しく考案した投資家向け「高速フレームワーク」を紹介した。企業が児童労働撲滅に取り組む際の意思決定に、不可欠なデータを投資家が素早く特定できるツールだ。

    ESG評価機関「アイリス財団」の事務局長ピーター・ウェブスター氏は、独自開発した方法論「Social LobbyMap」を公開した。投資家がこれを活用すれば、企業が行うロビー活動などの政治関与が、社会的基準ならびに人権を巡る基準とどのくらい整合しているのかを評価できる。

    国連環境計画(UNEP)・金融イニシアティブの社会問題部門を率いるジョアナ・ペドロ氏が公開したのは、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の各原則に基づいて行動できるよう投資家を手助けするインタラクティブなウェブツールで、完成は年内の予定だ。

    主体はデータでなく、あくまでも「人間」

    一方、投資家はデータばかりを注視してはならないという、戒めの声もフォーラムでは上がった。

    「人権への取り組みは、データ中心であると同時に、人間中心でなければなりません」。スウェーデン公的年金基金AP2のフォルスランド氏はそう力説した。「AP2には農業、フットウェア、政府部門に適用する独自の方法論があります。ところが、それをグローバル・サウスのサプライヤーに適用したところ、スコアはほぼゼロになりました」

    投資家は人間への影響を重視すべきだという訴えをさらに強調したのは、ビジネスと人権リソースセンター事務局長フィル・ブルーマー氏だ。「私たちは今なお、ダブルマテリアリティ(財務マテリアリティと環境・社会マテリアリティの両面を重視すること)どころか、シングルマテリアリティ(財務マテリアリティ)で行き詰ったままです」と訴え、投資家がビジネスのみならず人へのリスクにも対処しなければならないと述べた。

    ブルーマー氏は、フォーラムの直前に開催された第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)で、気候資金の拠出額に民間投資分も算入することが認められた点に言及した。そして、この決定は、民間投資に脱炭素社会への移行責任を負わせ、民間投資のリスク回避を助ける公的支援を制限するものであるため、投資家が保有ポートフォリオについて人権デューデリジェンスを最大限に実施する必要性が一層大きくなったと述べた。加えて、この決定により、欧州連合(EU)の「企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)」の来るべき見直し時に金融セクターをその範囲に含める論拠が補強されたと続けた。

    「スマート・ミックス」の意義を確認

    国連ビジネスと人権フォーラム2024の最終日は初日と同じように、企業による人権への取り組みを後押しする「スマート・ミックス」には法律による強制的措置が欠かせないという点で一致を見た。サステナブル投資を通じた市場ベースの解決策も同じように高度な使命を果たすことになるだろう。企業の自発的取り組みか、法律による強制的措置か、という二者択一ではないというのが総意だ。

    今フォーラムで唯一否定的な口調で語られていたのが人権侵害だ。そして、その撲滅には国家、企業、市民社会が一丸となって取り組むことが不可欠だという連帯感に包まれ、国連ビジネスと人権フォーラム2024は閉幕した。

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