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  • 公開日:2024.11.21
  • 最終更新日: 2025.03.27
より野心的で法的拘束力の高い国際プラスチック条約を――最終の政府間交渉前に環境NGOら要望強める

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

Image credit: shutterstock

プラスチック汚染の根絶に向け、より野心的で法的拘束力の強い国際条約の策定を――。国際環境NGOやサーキュラーエコノミーを進めるグローバル企業などが、11月25日から12月1日まで韓国・釜山で開かれる、国際プラスチック条約のINC-5(第5回政府間交渉委員会)を目の前に、各国政府への要望を強めている。同条約は、2022年3月の国連環境総会で2025年までに締結する決議がなされており、INC-5はその文書の内容などを巡って各国が詰めの議論を行う、最終交渉の場であるからだ。(廣末智子)

国際プラスチック条約は、2000年以降、各国がプラスチックに対する規制を強めているにもかかわらず、海洋流出が増え続けていることなどを背景に、175カ国が策定に合意。各国がこれまで4回のINC(Intergovernmental Negotiating Committee on Plastic Pollution)や閣僚級会合、専門家グループの会合などを通じて、内容を協議してきた。

当初の決議案は、プラスチックに関する原料の採掘から廃棄までにおける全ライフサイクルを対象とし、2023年のG7広島サミットでは「2040年までにプラスチック汚染をゼロにする」マイルストーンも示された。しかしながら、同条約に関するこれまでの協議では、既に合意されたプロセスに意義を唱える国も多く、最終的にすべての国に等しく適用される国際ルールとなるかどうかはINC-5を直前にした現時点でも不透明だ。WWF(世界自然保護基金)やグリーンピースなどの国際環境NGOによると、とりわけ、プラスチックの原料となる一次ポリマーの生産規制や、懸念される化学物質などを含有する“問題のあるプラスチック”の一律の削減などを巡って、各国が自由に決めることのできるアプローチが取られることが懸念されている。

そうした中、日本政府は2023年に「持続可能な水準のプラスチックの生産・消費、資源循環の促進、プラスチックごみの適正管理などを追求する国家グループ」である高野心連合(HAC:High Ambition Coalition to end plastic pollution)に加盟。「問題のあるプラスチックの禁止を含む義務的拘束力のある条約」を目指すことについて、HACの加盟国としては合意しているものの、日本としては明確に支持を表明していない立場を取っている。

必要な変革を必要な規模で実行するために、日本政府は尽力を――日本の企業連合が声明

これを受け、WWFジャパンが事務局を務める「国際プラスチック条約 企業連合(日本)」は、日本政府に対し、同条約を世界共通の法的拘束力のあるルールに基づきプラスチックのライフサイクル全体に取り組む野心的なものとして策定することに尽力するよう求める声明を、INC-5直前の20日に発表した。

政府の条約交渉担当者に声明を提出する国際プラスチック条約 企業連合のメンバー(WWFジャパンのプレスリリースより)

「国際プラスチック条約 企業連合(日本)」は、金融機関を含む世界260以上の企業が参画する国際プラスチック条約企業連合(Business Coalition for a Global Plastics Treaty)の日本における活動グループで、2023年11月に発足。日本でプラスチックのサーキュラーエコノミーを進める10社(Uber Eats Japan、エコリカ、キリンホールディングス、サラヤ、テラサイクルジャパン、日本コカ・コーラ、ネスレ日本、ユニ・チャーム、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス、ロッテ)が名を連ねる。

声明は、法的拘束力のある国際ルールに基づいた野心的な国際プラスチック条約が、「各国の規制の状況を統一・強化し、容器包装などの優先すべき分野で企業の解決策を促進する機会」であり、条約が各国の自主的な措置に基づいたものとなることで、「今後の対策を数十年にわたって遅らせ、企業にとっての法規制の状況を断片化し、コスト上昇や複雑化をもたらす。必要な変革を必要な規模で実行するために、大きな障壁となる」とする懸念を表明。

その上でINC-5の開催に当たり、「交渉で重要な役割を担う日本政府に対し、当初の条約において、少なくとも以下について規定することを要請する」として、「問題があり回避可能なプラスチック製品、懸念ある化学物質を規制または段階的に廃止し、製品設計を改善するための、世界共通の法的拘束力のある管理措置」「回収、リユース、リサイクルの目標と、システムを導入・前進させる国レベルの義務」「資金の流れを条約の目的と一致させ、条約の履行を支援するための包括的なパッケージ」などの5つを列挙した。

プラスチックからの移行は必然かつビジネスチャンスだ――世界350社以上が署名も

一方、INC-5を前に、グリーンピース・インターナショナル(本部、アムステルダム)も、プラスチック汚染のない世界実現のために活動する非営利組織であるプラスチック汚染連合と、国際的な脱プラスチックネットワークであるBreak Free From Plasticsとの共同で、プラスチック生産を削減し、使い捨てプラスチックを段階的に廃止する野心的な条約を採択することを各国政府に求める公開書簡プロジェクト「Champions Of Change」を立ち上げた。気温上昇を1.5度に抑え、生物多様性を守る水準でプラスチック生産量を制限するとともに、使い捨てプラスチックを段階的に廃止し、野心的なリユース目標を設定することなどを求めている。

同プロジェクトには、英国発祥のコスメブランド、ラッシュ(LUSH)や米国のアイスクリームブランドであるベン&ジェリーズなど世界350以上の企業が署名。日本からもリユース容器のシェアリングサービスを展開するMegloo(メグルー)やCircloopが賛同しており、プロジェクトを主導するグリーンピース・アメリカのグラハム・フォーブス氏は、「先進的な考えを持つ世界中のブランドや企業が、プラスチックはビジネス上のリスクであり、プラスチックからの移行は必然かつビジネスチャンスであると認識している。世界が前進するなか、多くの企業が今、プラスチック生産量を削減し、使い捨てプラスチックをなくすという人々の要求に賛同している」と話す。

深刻化する一方の気候変動と、生物多様性の損失とともに、地球を取り巻く3つの危機の一つともされるプラスチック汚染。2025年までに締結すること自体は決まっているプラスチック国際条約が、気候変動枠組み条約や生物多様性枠組み条約と並ぶ、実効性の高い国際条約として機能するものになるのかどうか――。INC-5での交渉が、大きな鍵を握っている。

written by

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。

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