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  • 公開日:2025.03.20
  • 最終更新日: 2025.03.31
戦後80年に国際貢献や平和への思いを論じ合う――サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内2日目

平和のために私たちに何ができるかを考えたセッション

ビジネスと社会の再生に向け、革新的な突破口を探った「第9回サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」。戦後80年の今年は、戦後の日本の歩みを振り返りながら真の国際貢献の在り方を論じるセッションや、すべての社会課題の前提となる平和についてあらためて思いを述べ合うセッションもあり、そのメッセージが参加者の心に深く響いた。SBならではの、国籍やジェンダー、世代を超えた出会いと学びのひとときとなった、2日目のプレナリー(基調講演)の様子を伝える。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

「しわ寄せのない幸せな世界」へリスクを可視化

季節外れの雪が舞う中、2日目のトップバッターを務めたのは、ESG評価に特化した九州大学発のAIスタートアップ、aiESG(アイエスジー)の最高経営責任者(CEO)、関大吉氏だ。創業メンバー4人全員に開発途上国での生活経験があり、その中で低賃金労働といった不公正な世界を目の当たりにしてきたことが、創業の原点になったという。関氏は、「資本主義の『しわ寄せ』は、環境や生物多様性の面でも起きている」とし、「“テクノロジーおたく”として何ができるか」を考えた結果、データとAIを使った「サプライチェーンの可視化」のソリューションに行き着いたことを説明した。

具体的には、各国の貿易統計やNGOの人権レポートなどをAIに読み込ませるなどして、独自のESGデータベースを作成。それらを駆使することで企業の原材料の末端製造地域までが可視化でき、関氏いわく、「複雑怪奇に結合する」サプライチェーンのどの工程に、環境や人権のどんなリスクが存在するのかを正確に把握することができるという。関氏は、スクリーンに丸印と放物線でサプライチェーンのリスクを示しながら、「真にサステナブルな商品や取り組みがきちんと評価される世界にしていかなければならない」と熱を込めた。

自社の歴史を振り返り、ストーリーでつないでいくことが重要

グローバル企業からはヤマハ発動機が登壇し、執行役員CSO 経営戦略本部長の青田元氏が、今年創業70周年を迎える同社の製品開発史と、今後の会社のあり方を統合した、新たなビジョンづくりに向けた思いを語った。

同社は1955年に日本楽器製造からスピンオフする形で独立し、オートバイや船外機、電動モビリティなどを数多く手掛ける。1990年からは「感動創造企業」を掲げると共に、2030年に向けた長期ビジョンでは「人はもっと幸せになれる」可能性を追求しており、青田氏は「皆さんも自転車に乗れるようになったときの喜びや感動を忘れていないと思う」と例えながら、同社が利便性や機能性にとどまらない製品価値を定義・探究していることを強調。

サステナビリティの取り組みとしては、従業員による自発的なビーチクリーン活動やゴルフカートを活用した地域交通支援、ナイジェリアでのオートバイリース事業などを展開しているが、それらの企業活動の根幹にもやはり「楽しく乗る」ことがあるという。

ここで青田氏は、創業者の川上源一が、戦後間もない日本に「レジャー」という概念を持ち込み、それが同社の将来の利益につながるかどうかも分からない時代から事業活動を通じて目の前の人に嬉しさや幸せを感じる製品やサービスを届け続けてきたことを紹介。そうした背景を踏まえて、同社は今、経済的価値と社会的価値を統合した価値創造ストーリーを再び言語化しようとしていると言い、「会社の歴史と創業者の思いは、皆さんの会社にも眠っているはず。こうしたものとリスクマネジメントの視点、ステークホルダーの思いをストーリーでつないでいくことが大切だ」と力を込めた。

子どもたちにとって学校があることの意味は?――ガーナでの支援を通して国際貢献のあり方を問う

米倉氏(左)と銅冶氏

「世界に日本があってよかった」と題したこの日注目のセッションは、一橋大学名誉教授でソーシャル・イノベーション・スクール学長の米倉誠一郎氏と、実際にアフリカでソーシャルビジネスを展開する銅冶勇人氏による、真の国際貢献のあり方を問うものだ。

最初に1人で壇上に上がった米倉氏は、「被曝80周年の今年に思うこと」として、長崎で焼き場に立つ少年や、戦後の子どもたち、空襲で焼け野が原になった東京の写真などを次々とスクリーンに映し出し、そこから日本が復興を遂げたことを、「世界は奇跡と呼んだが、僕は奇跡ではないと思う」と述べた。

その理由を米倉氏は、「なぜなら、教育に対する投資をしてきた国だからだ」として、戦前から英国などに比べても高水準だった義務教育比率を示し、「子どもたちにとって学校があることはものすごく重要だ」と続けた。

そんな米倉氏が昨年訪れたのが、世界最大の「電子機器の墓場」とされるガーナのレアメタルの採掘場、アグボグブロシーであり、「その真ん中に学校を作ろうと思った日本人がいる」として紹介し、壇上に呼び込んだのが銅冶氏だ。

銅冶氏は、アフリカ産のアパレルを日本などで展開するDOYAのCEOであり、ガーナで雇用創出や学校建設・運営を手掛けるNPO法人CLOUDYの代表理事でもある。会社とNPO法人を両輪に置くのは、「営利と非営利の循環」を重視しているためで、銅冶氏は、「現地の人たちで自走する仕組みがないと、取り組みは続かない。自分よがりな途上国支援が本当に現地のためになっているか、考えてほしい」と会場に投げかけた。

CLOUDYでは現地政府や自治体と連携して公立で学校を建設するなど、「建てて終わり」ではない中長期的な支援を行う。セッションでは、デザイナーやフォトグラファー、理容師などの職業訓練を通して経済的自立を支える活動や、米倉氏も訪れたアグボグブロシーで新たに学校を建設するプロジェクトが紹介され、現地の生々しい現状とニーズを捉えた映像に会場が見入っていた。

ガーナの子どもたちの給食の大切さにも触れながら、2人は「現地をより身近に感じてもらえるようにできるかどうかがソーシャルビジネスの一つのポイント。社会課題の解決に向けて、変わらなければいけないのは私たちだ」(銅冶氏)、「日本だからできることは何か。我々は微力だが無力ではない」(米倉氏)と語り、セッションを締めくくった。

明るい未来を描き、かなえるための「フューチャーフィット」な取り組みとは

続いて登場した英フューチャーフィット財団のマーティン・リッチ氏は、直前に登壇した銅冶氏の「変わらなければいけないのは私たち」という問題提起に呼応し「では、どう変われば良いだろう」と問いかけた。

目指すべき未来を明確にするため、リッチ氏は「2070年の自分から今の自分への手紙」を書いたという。スクリーンには、緑があふれる未来的な都市の絵など、同氏が心に描くポジティブな未来像が次々に映し出された。リッチ氏は、現状の問題を語るだけでなく、目指す明るい未来を語り「どうしたらそこに到達できるか」「その未来で自分の役割は何か」を考えようと呼びかけた。

フューチャーフィット財団は企業に対し、従来の「株主価値」や「共有価値」を超え、企業を社会と環境の一部として捉える「システム価値」の考え方を提唱する。こうしたフューチャーフィットな(将来に適応する)社会を目指すフレームワークは、同財団のサイトで公開され、誰でも活用できるようになっている。

同財団にはアジア太平洋地域連合があり、シンガポールなどには各国支部もある。このほど新たに日本支部が設立されたことが発表されると、会場から拍手が起こった。PwCなどの協力を受けて日本での普及を目指すという。

同財団のサイトではビジョンの投稿を募っており、約1カ月後には、AIボットにビジョン(未来像)を語ると、それを基にイメージ画像を生成するサイトも公開予定だという。「皆さんのビジョン(未来像)はどんなものですか?ぜひ共有してください。ともに歩んでいきましょう」。

平和はすべての社会課題解決の下地 私たちに何ができるか

国際貢献のセッションでも触れられたが、今年は太平洋戦争の終戦から、広島・長崎に原爆が投下されてから80年を迎える。国際会議が始まった18日にもイスラエルがパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦を再開するなど、トランプ政権下で世界が緊張に包まれる中、2日目のプレナリーでは、平和をテーマとするセッションが行われ、ファシリテーターを務めたSB国際会議D&Iプロデューサーの山岡仁美氏が冒頭、「ウクライナやガザで脱炭素について考えることができるだろうか? 社会が平和であることは、すべての社会課題解決の下地だ」と投げかけた。

イラン・イラク戦争下で生まれ、4歳で戦争孤児になった俳優・タレントのサヘル・ローズ氏は、心の中で今も抱えるトラウマや戦争の記憶について打ち明け、今ある日常が「決して当たり前ではない」と平和の尊さを強調。世界中で差別、紛争は起き続けているとし、「戦争を止められることはなかったとしても、次の戦争を生まないことは私たちにできるはず。『無関心』というスイッチを『関心』というスイッチに置き換えてほしい」と訴え、一人ひとりの変化を求めた。

LIFULL代表取締役会長の井上高志氏は、特定非営利活動法人PEACE DAYの代表理事も務めている。井上氏は「平和という話になると、企業協賛が非常に得づらい」と吐露しつつ、経営者の視点から「(戦争で)供給が止まるとサプライチェーンが壊れて、損失が莫大になる」と指摘。そのために「予防的措置」である平和活動を企業が自らのこととして行うことが「経済発展、繁栄という意味でも非常に重要」とし、産業界に働きかけていく考えを示した。

長崎の被爆3世でNPO法人BORDERLESS FOUNDATION理事の中村涼香氏は、8月の被爆80年に合わせ、長崎や広島でない場所でも被爆について考える企画「80actions」の準備を進めている。中村氏は「被爆は決して1945年の広島と長崎で起きたことだけではない」としながら、「当事者の方々がいなくなった時に、どうやって私たちが反核を担っていくか。考えるだけではもう遅くて、アクションを起こさないといけない」と強調。では、私たちにどのようなことができるのかという問いに対して、「アクションはそれぞれがクリエイトしていくもの」であり、SBのような場も問題提起の場として活用し、「『皆さんだったらこの時代、このタイミングで何をしますか?』との問いを投げかけ続けていきたい」と語った。

GX2040ビジョンが描く未来社会の実現に向けたイノベーションとは

日本政府は今年2月、GX(グリーントランスフォーメーション)型の産業構造と経済成長の両立を目指す「GX2040ビジョン」を閣議決定した。2日間のプレナリーでは、このGX2040ビジョンが描く未来の社会に目を転じ、その実現に向けたイノベーションを探るセッションも行われた。

経済産業省から登壇した、同省資源エネルギー庁 総務課 需給政策室長の植田一全氏は、「GX2040ビジョン」について、政府が同時に打ち出した「第7次エネルギー基本計画」や「地球温暖化対策計画」の方針を踏まえ、「2050年ネットゼロに向けた野心的な排出削減目標を達成するための各産業ごとのアプローチを明確に示したものだ」と説明した。具体的には今後10年間で20兆円規模の先行投資を行うことで脱炭素や循環型社会の構築に向けたさまざまな技術開発を促し、官民合わせて150兆円規模の投資を呼び込む狙いがある。

そうしたGXを加速させていく流れの中で、再エネの観点から大きな期待がかかるのが、ペロブスカイト太陽電池だ。本セッションにはそのガラス型タイプの開発に力を入れるパナソニックホールディングスから、GX本部グリーンイノベーションセンター ペロブスカイトPV開発部 部長の金子幸広氏が登壇し、デザイン性の高いガラス型電池を壁や窓に展開することで、「これまで太陽電池が置けなかった場所で発電ができる。エネルギー需要地である都市部での創エネ、省エネに貢献できる」とアピールした。

一方、2040年までにカーボンネガティブを達成するという野心的なロードマップを掲げる花王からは、ESG推進部環境推進マネジメント担当部長の舘野剛介氏が登壇。同社の製品のライフサイクルでGHGの排出が最も多いのは「原材料調達」と、「使用」の場面で、少しでも泡切れのよい洗剤の開発などを通してサプライヤーと協働し、生活者と一緒になったGXを進めていることが紹介された。

2社の取り組みを踏まえ、経産省の植田氏は、「イノベーションが起こった後も大事であり、新しい技術が社会に浸透していくところまでを一緒につくっていければと思う」と表明。ファシリテーターを務めたSB国際会議ESGプロデューサーの田中信康氏は、「人の育成も含め、GX関連のチャレンジングな流れにしっかりと乗っていくことが強い日本をつくる。政府と民間がしっかりと一体になって、新しいエネルギー産業を生み出していくことを期待したい」と述べ、セッションを締めくくった。

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