![]() Image credit: University of Texas Rio Grande Valley
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テキサス大学リオ・グランデ・バレー校の研究者らは、枯渇する自然資源である“土”に代わり、廃棄ガラスが持続可能な農業に役立つかどうかを確かめる試験的な実験を行っている。研究者らは、リサイクルしたガラス粒子を土に加えて活用することは、沿岸地域の風食防止や生態系の保全にも役立つ可能性があると考えている。(翻訳・編集=小松はるか)
同大学の研究チームは、ビールやサイダーなどの廃棄瓶を粉砕したリサイクルガラスで作物を栽培している。実験の初期段階で、土にリサイクルガラスの粒子を一部加えたプランターでは、植物の発育が促進され、不要な菌の繁殖が抑えられることが分かった。研究者らは、この結果を8月18〜22日に開かれ、約1万件の発表が行われるアメリカ化学会(ACS)2024年秋大会で発表した。
ナノ材料分野の科学者、ジュリー・バネガス氏がテキサス大学の教員になった際に、指導教授となったのが食料安全保障や持続可能性に関する問題に取り組む生態学者テレサ・パトリシア・フェリア・アロヨ氏だった。
最初の話し合いのなかで、バネガス氏は、ルイジアナ州テュレーン大学が2022年に行った研究(リサイクルガラスでつくった砂で沿岸陸地の消失を防ぐ)のような、海岸修復プロジェクトに使うリサイクルガラスの粒子を調査していることを話した。アロヨ氏はそれを聞いて、ガラスが農作物を育てるのに使えるのではないかと考えた。
その問いの答えを探そうと、ふたりは成育が早く、コンテナや裏庭で栽培できる人気の野菜を育てる実験に取りかかった。そうして、メキシコに接するテキサス州らしく、メキシコ料理のタコスなどに使われるサルサ「ピコ・デ・ガヨ」の原料であるコリアンダーやパブリカ、ハラペーニョを選んだ。
![]() Image credit: Tesa Robbins
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「私たちは食べられる野菜を育てると同時に、ごみ処理場に運ばれるごみを削減しようとしています」。この秋の大会でチームの研究を発表する担当者で、バネガス氏の研究室ナノワールド・バネガス・ラボに所属する大学院生アンドレア・ケサダ氏は言う。
「もしこれが実行できるなら、私たちはここリオ・グランデ・バレーや全米の人々のために、ガラスを使った土を農業に導入することができるかもしれません」
アメリカ化学会が動画で説明している通り、リサイクルガラスを持続可能な土壌改良剤として使うことは3つの課題の解決に役立つだろう。
・埋め立て地に捨てられる廃棄ガラス
EPA(米国環境保護庁)によると、米国でリサイクルされているガラスは全体の約31%のみ。リサイクルされていないガラスは米国の埋立地に捨てられる年間廃棄物量の約5%(760万トン)を占める。
・土壌侵食
米国における風や水による平均土壌侵食率は年間おおよそ4.63トンで、土壌の総損失は17億トン。USDA(米国農務省)は、米国の土壌損失が年間約440億ドル(約6.4兆円)に及ぶと推定する。
・砂不足
世界中で数十億トンの砂がさまざまな用途で採取されている。UNEP(国連環境計画)によると、それによって土壌侵食や洪水、帯水層の塩害、防波堤の破壊が引き起こされている。
バネガス氏など研究者らは、土壌にガラスを大量に加えることは、テキサス州東海岸リオ・グランデ・バレーのような地域の風食や、侵食の影響を受けやすいその他の沿岸地域や生態系の保全に役立つだろうと期待している。生態系保全は、気候変動に対するレジリエンスを高める上でますます重要なものだ。
また、実験のために、彼女たちはごみ廃棄場から瓶を回収し、粉砕して粒子にし、その粒子を回転させて端を丸める事業を行う企業から、土壌として使うリサイクルガラス粒子を入手している。最終製品はガラスの破片を触っても手を切ることのないほど十分に滑らかなものになった、とケサダ氏は言う。植物の根は傷つくこともなく、ガラス片のなかで簡単に成長する。
最初の試験で、研究者らは3つの異なるサイズのガラス粒子の圧縮性や保水性といった土が持っている品質を評価した。その結果、粗い砂粒のような大きさなら、酸素が根に届き、植物の栽培に理想的な水分量を維持できることが分かった。
ケサダ氏は現在、リサイクルガラス素材を有望な土の代替品として評価している。彼女はキャンパス内の温室で、店で売られている園芸用の土のみが入った鉢からリサイクルガラスのみが入った鉢まで、さまざまな鉢を使ってコリアンダーやパプリカ、ハラペーニョの苗を栽培している。土の多い鉢は窒素やリン、カリウムなどの植物の成長に必要な栄養素がより多い。しかし、それぞれの鉢の土壌pH値(水素イオン濃度)の差はほとんどない。植物は土壌pH値の差が少ない範囲内で生育するため、期待できる結果といえる。
初期の結果は、従来の土100%で育った植物と比べ、リサイクルガラスで育った植物は成長率が速く、保水力が高いことを示唆している。「私たちが試験したほかの混合物と比べて、土に対しガラス粒子の重量比が50%以上であることが植物の成長に最も適しているようです」とバネガス氏は言う。しかし、研究チームは、どの混合土壌が収穫量が最も多く、おいしいかを確かめるために収穫期を待つ方針だ。
ほかの注目すべき発見は、園芸用の土だけを使った鉢は植物の成長を妨げる菌類を育てるということだ。フェリア氏は、そうした菌類は根からの栄養摂取に影響を与えるかもしれないと仮説を立てる。リサイクルガラスを多く含んだ土壌の鉢では菌類がまったく繁殖しなかった。研究者はその理由を見つけるべくデータを集めている。
ケサダ氏は、これらの結果は非常に見込みがあるものだ、と話す。研究には肥料も殺虫剤も防カビ剤も使っていないからだ。農業分野で働いてきた経験から、彼女は農作物や土壌に散布される大量の化学物質は、彼女の家族をはじめ、米国だけで240万人の農家や農場を取り巻く地域社会を含む、さまざまな人に害を及ぼすと指摘する。
「私たちの健康に悪影響をもたらす化学物質の使用を最小限にしようとすることは、とても重要です」とケサダ氏は強く主張する。「もし化学物質を減らし、リサイクルできるものを回収することで地域社会に役立てたら、人々の生活の質をさらに高めることができます」。
今回の研究は、米国農務省の国立食品農業研究所の「未来の農学者を支援する」補助金と、米国国立科学財団の助成金を受けて行われたものだ。国立科学財団は、ガラス粒子を供給している地域密着型のリサイクル組織「Glass Half Full」も支援する。