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  • 公開日:2022.07.27
  • 最終更新日: 2025.03.02
ブルーエコノミー推進し、海洋大国日本からルールメイキングを イノカとデロイトが提携

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

人工的に海洋環境を再現した水槽内で世界初のサンゴの産卵を成功させたイノカ(東京・港)と、デロイト トーマツ コンサルティングがこのほど、海洋資源を保全し、持続可能な形で活用することで経済と環境の好循環を目指す「ブルーエコノミー」の推進に向けたアライアンスを締結した。企業活動の自然環境への影響の開示を求める国際的な枠組みTNFD(自然関連財務開示タスクフォース)を企業戦略に組み込み、テクノロジーを活用して海洋環境を評価する指標づくりを行うなど、海洋大国であり、世界有数の海洋生物多様性資源を持つ日本から、世界に向けたルールメイキングを主導する流れをつくり出す狙いがある。(廣末智子)

イノカは2019年創業の東大発スタートアップ。全海洋生物の約25%を占める約9万3000種が生息し、海洋生態系のインフラ的存在ともいえるサンゴ礁の8〜9割が、地球温暖化や環境悪化などにより2040年までに死滅するとされていることに危機感を抱き、独自のIoTデバイスを用いて水槽内に人工的な珊瑚礁をつくる「環境移送技術」を開発した。

これにより、従来、沖縄の海などに行かなくては研究できなかったサンゴの生態を東京・虎ノ門のオフィス内に設置した水槽でモニタリングできるようになり、サンゴと人間が同じ骨を作るメカニズムを持っていることに着目し、サンゴの保全に人間の再生医療の技術を用いるなど、「海の見える化」をミッションとする異分野を巻き込んだ研究に力を入れる。

一方のデロイトは経済価値と社会価値の両立を図るCSV(共通価値の創造)に立脚し、環境政策や生物多様性に関わる包括的なコンサルティングサービスを推進。約2年前からイノカとの間で「ブルーエコノミー」を巡る提携を模索してきた。

ブルーエコノミー市場 グローバルで約500兆円、国内28兆円を推定

同社の定義するブルーエコノミーとは「健全で持続可能な海洋生態系や海洋環境を保護・維持・回復し、経済成長・社会的包摂・生活の向上を促進する概念」をいう。海上輸送や造船といった日本がリードしてきた産業のほか漁業や水産加工業など既に確立された分野と、洋上風力発電や深海探鉱、海底通信ケーブルなどの新興・革新分野からなる。その市場規模は2030年時点でグローバルでは約500兆円、日本国内では約28兆円となることが推定されるという。

イノカとデロイトはともに2021年6月に発足したTNFDフォーラムに参画しており、今回の提携を通じて自然資本や生物多様性に関する知見を包括的に提供。全体的な流れとしては、企業が海洋生物多様性に対するリスクと機会を把握するところから支援し、来年9月に最終版が策定される予定のTNFDのルール形成に向けてイノカの技術を活用し、例えば汚染物質が海洋に流出した際の環境への影響評価などを通してその指標づくりに貢献することを想定している。

具体的にはTNFDの開示を企業戦略に落とし込む形で支援するとともに、科学的根拠に基づいてさまざまな海洋環境をモデル化し、新しいビジネスにつなげるパートナー企業を3年間で100社程度広げる目標。海洋生態系の状態を評価・モニタリングする上での指標生物としては、サンゴのほかに海藻類やホタテ、牡蠣などが考えられるという。

アライアンスの提携に際して両社は記者発表を行い、脱炭素の分野ではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とオランダの老舗化学メーカーが温室効果ガスの排出量という分かりやすいKPIが市場のルールになるようルールメイキングを行ってきた流れを説明。自然資本や生物多様性を巡っては今がまさにルールづくりのタイミングであり、海洋面積が多くを占め、世界で800種類あるサンゴの半数以上が存在するなど、多様な生物多様性資源を持つ日本からブルーエコノミーのルールメイキングを主導していくことの必要性が強調された。

イノカ「海と関係ないという企業をゼロにしたい」

会見で両社はそれぞれに日本企業がブルーエコノミーを推進することの意義について言及。「海に関係する新しいルールやビジネスモデルをつくることによって、日本はガラパゴスにならずに世界に技術を展開できる。環境的な価値は非常に高く、経済的にも大きなポテンシャルがある」(藤井剛・デロイト執行役員)、「サプライチェーン全体を見ると、実は海洋生物多様性に関わっている事例は多数あり、イノカとしては、10年後、20年後、『海とは関係ない』という日本企業をゼロにしたい。日本は海洋資源を守るべきであるのはもちろん、海洋資源を守ることによるリターンもしっかりつくっていくべきだと考えるので、海洋を使った新しいビジネスの策定などもぜひ支援していきたい」(竹内四季・イノカCOO)などと強い思いが語られた。

written by

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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