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「次は何をやる会社なんだろう」、社員にとっても「次はどう社会に貢献しようか」という「わくわくする会社」にしたい――。セイコーエプソンの技術開発部門の現トップであり、4月の社長就任が発表された小川恭範CTOはそう話す。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜で基調講演の登壇直後、小川CTOに具体的なオープンイノベーションへの取り組みや、社長就任に向けた意気込み、同国際会議のテーマ「Delivering the Good Life:“グッド・ライフ”の実現」について聞いた。
オープンイノベーションで実現する分野を超えた技術活用
――セイコーエプソンはオープンイノベーションを大きく掲げられています。今後どういった分野の企業やセクターとの連携を考えていますか。
小川恭範氏(以下、小川):さまざまな連携を考えています。2019の4月から大きな方向転換をして、オープンイノベーションを打ち出しました。特にインクジェットヘッドをいかに世の中のために役立てるか、ということを考えています。
セイコーエプソンではこれまで、インクジェットヘッドはプリンターにだけ利用していました。しかしいまインクジェットの可能性は非常に大きく広がっています。例えば、昨年に協業を始めたエレファンテック(東京・中央)というベンチャー企業があります。
エレファンテックは「プリンテッド・エレクトロニクス」を掲げ、インクジェットをつかって、さまざまな基板に配線をする技術を持っています。立体物に配線をしたり、フレキシブルケーブルを印刷することで配線したりするんです。これまでの技術では配線のために捨てる必要があった「レジスト」という材料がありますが、プリントして配線することで、これを捨てなくてもいい。しかも立体に配線ができるため、例えば車のダッシュボードなどにも配線ができるようになります。
インクジェットのご利用先はとても幅広くて、布地やタイル、壁紙にも印刷しています。3Dプリンターの領域にも可能性があり、これを発展させるとバイオテクノロジーですね、人工臓器をつくるといった研究が、実際すでに大学や関連機関で始まっています。
特定の協業先はいま、エレファンテックのほかに、東京エレクトロン(東京・港)などがあります。気象に関する装置や有機ELの製造装置への配線を、インクジェットのプリントヘッドで行っていて、これもすでに実際に使われています。非常に広がりのある領域なので、さらに広げていきたいなと思っています。
――協業先の規模の大小や産業などにかかわらず、より技術の生きる分野で立体的に協業を進めるお考えですね。
小川:まさにその通りです。
新たなイノベーションも視野に「わくわくする会社」へ
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――社長に就任される4月1日以降の、イノベーションへの意気込みなどをお聞かせください。
小川:セイコーエプソンを「わくわくする会社」にしたいですね。社会から見たときに「次は何をやってくれるんだろう」という会社であり、社員にとっても「次に何をやろうか、どう社会に貢献しようか」という会社にしていきたいと考えています。
セイコーエプソンには「Exceed Your Vision」というグローバルタグラインがあります。ここには「お客様の期待を超える価値、商品やサービスを提供して驚きや感動をもたらします」という強い意志が込められています。「わくわく感」はこのグローバルタグラインと同じものです。
そのわくわく感を、社会課題を解決するような方向にもっていきたいなと思います。社内も社会も意識が相当変わってきていると実感しているので、その意識と同じ方向に向けて新たなイノベーションをどうやって起こしていくか、ということが次の課題だと思いますし、既存の事業に加えて新たな柱はつくっていきたいと考えています。
――2015年に発表された、オフィス内で不要な紙を再生紙に変える「PaperLab」は大きなインパクトがありました。その次の、社会課題解決型の製品の構想もあるということでしょうか。
小川:まだまったくはっきりしたことを言える段階ではありませんが、実現すれば工場や商業エリアなどで、間違いなくイノベーションを起こせるのではないかと思っています。ロボティクスの分野から技術を活用して働く人を単純作業から解放したり、あるいは非常にコンパクトな、省スペースの工場をつくっていきたいとは考えています。
――実現の手応えはある段階でしょうか。
小川:私たちの持っている技術をうまく活用し、さらに開発を進めていけば、実現できるのではないかと考えています。
――すごく楽しみですね。わくわくします。
Delivering the Good Life
――サステナブル・ブランド国際会議2020横浜のテーマは「Delivering the Good Life:“グッド・ライフ”の実現」です。小川CTOが個人的に考えるグッド・ライフについてお聞かせください。
小川:30年前に同じことを聞かれればおそらく、「お金をたくさん儲けて、欲しいものを手に入れることが豊かな生活だ」と答えていたかもしれません。いまは、そうじゃないだろうと強く感じています。世の中に貢献するという言葉は、若い頃は少し偽善的にも感じていました。しかしもちろん、必ずしもそうではない。
社会に貢献するということは非常に気持ちがいいものだし、それこそがグッド・ライフなのではないかと感じています。物質的な豊かさよりも精神的な豊かさ、世の中に貢献できているという実感を持つことがグッド・ライフだろうと、いまは本当に純粋にそう思いますね。それはたぶん、社員の皆さんも同様に感じ始めていると思っています。
――「Delivering the Good Life」の実践そのものがGood Lifeだということですね。セイコーエプソンが社会や消費者にもたらしたい価値とは同じでしょうか。
小川:基本的には同じだと思っています。より便利になる製品、より快適になる製品という方向は揺るぎないですが、そこに必ず、使った人がサステナブルな社会とつながっているという実感が持てるような価値を提供したいなと考えています。
沖本 啓一(おきもと・けいいち)
フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。