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「官民学の価値観が一様では面白くありません。違った上で、融合するきっかけが生まれる駆け込み寺です」――。そう話すのはSDGs未来都市・横浜市の中間支援組織「ヨコハマSDGsデザインセンター」の信時正人センター長。これまで三菱商事、東京大学特任教授、横浜市役所といった「官民学」それぞれに所属した経歴を持つ。SDGs未来都市の中でも先駆けて官民学をつなぐ組織を設置した意図やその役割、そして目指す地域の姿を詳しく聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)
市民力を生かし連携を促す中間支援組織
――「ヨコハマSDGsデザインセンター」設立の経緯をお聞かせください。
信時正人氏(以下、敬称略):内閣府が2018年にSDGs未来都市の公募を初めて行った際、横浜市は事業を提案する中で、その中核として「ヨコハマSDGsデザインセンター」の設置を決めました。
横浜市は「市民力」を生かした取り組みをしています。私が本部長をしていた横浜市温暖化対策統括本部でも市民力を生かして環境未来都市や、スマートシティの技術実証などのプロジェクトを行ってきました。市役所にも、市民や企業との連携、すべてにおいて産官学の連携で取り組みを進めようという気風があります。
SDGs未来都市としての事業に関しても、当然ながら市役所だけが旗を振るのではなく、大学や企業と一緒に考えるために、「センター」と称するものをつくって中核に置こうというわけです。それが象徴的なものになるのではと考えました。不安もありましたが、設置してみればさまざまな方が集まってきたなという実感しています。
――2020年度のSDGs未来都市の応募も始まっています。内閣府は「自律的好循環の形成に向けた取り組み」を新たに応募の記入項目に加えました。横浜市はこれに先んじて産官学の連携をより強固にする仕組みを取り入れられていたということですね。具体的にどのような活動をしていますか。
信時:例えば、最初に行ったのは横浜市旭区との連携です。旭区には若葉台団地があり、90ヘクタールの広さに1万4000-5000人が住んでいます。自治会のような機能を持つ「若葉台まちづくりセンター」と課題解決の連携をしました。
横浜市は大きな町ですが、各区にひとつくらいは「自宅からバス亭まで15分、20分」という交通の弱いエリアがあります。若葉台団地もそのひとつで交通網に関する相談を受けました。
ちょうどその頃、ソフトバンクが磯子区でライフワークに関連する課題解決のため、主婦の在宅勤務の取り組みを進めていました。そのご縁からMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ:ソフトバンクとトヨタが共同出資し設立した、モビリティの社会課題に重点を置く企業)からも何かできないかというご相談がありました。
そこで、若葉台団地とMONET Technologiesをマッチングし、オンデマンドバスを運行する実証実験を始めたんです。これは実は民間の財団の補助金を活用しているのですが、その申請・取得のサポートも含め、マッチングやコーディネートをするのがヨコハマSDGsデザインセンターの具体的な役割です。
オンデマンドバスの実証は単に交通を強化するだけでなく、自動車の数が減ることでCO2の削減にも貢献します。次に来年、再来年にはEVや自動運転といったように取り組みを進化させることを考えています。地域としても、商業施設にお客様が来るようになるなど、経済的な効果が出ます。地元の方々が「ゆくゆくは自分たちで事業体をつくりたい」とまで仰っています。
ほかの例ではアキュラホームの「木のストロー」プロジェクトに関連して、横浜市とのマッチングで市が山梨県道志村に保有している横浜市の水源林の木材を利用し「ウッドストロー」を共同開発しました。1本50円の価格なのでまだ啓発的な活動ですが、大手のホテルや商業施設で大量採用して頂きました。
――持ち込まれた案件やアイデアを具体化するという部分で力を発揮されるということですね。
信時:さまざまな案件がありますが、マッチング後に新たなイノベーションを生み出すような解法を編み出したうえで、プロジェクトをつくっていければベストだと考えています。
意外に廃棄物に関するご相談が多いんです。プラスチックごみの問題が注目されているためだと思います。大中小の民間企業だけでなく個人の方からも、廃棄物の処理方法の相談があります。「こんなアイデアがあるから企業とつないでほしい」と。デザインセンターのスタッフの人数にも限りがありますが、「市民力」をできる限り生かす方向で考えます。
「全部が一様になってしまえば面白くありません」
――活動が始まってから市内で意見が活発になったり、社会的課題への関心の高まったという変化はありましたか。
信時:世の中全体で社会的な課題の解決への関心が高まるなか、われわれが活動を始めたからそうなったとは考えていません。ただ、ある意味で駆け込み寺のような存在になったのかなと感じています。
SDGsのことは本を読めばわかりますが、具体的に何をどうすればいいのかという相談や、大川印刷のような市内の先進企業の活動を詳しく知りたいという相談もきます。SDGs関連のセミナーの開催や、講師のタイアップの相談もあります。
実はいま、準備中で未定な部分もありますが、アカデミアのユニットをつくることにしています。小・中・高・大学に在籍する先生を集めて、教育そのものや教育システム、大学での研究面を含めてSDGs授業のプロジェクトを進めています。横浜市でいえば教育委員会などと協働することを考えています。
――教育分野での連携に企業も加わるといったこともあるのでしょうか。
信時:公立の学校だと企業が入るというのもなかなか難しいのが現状です。その要因のひとつは、企業の方とのコミュニケーションの難しさです。現場の先生方も勉強をする必要があるわけです。そこから変えていかないと事業が進まない、という状況もわかってくるわけです。
――いろいろな社会課題が注目されるにつれて、これまで閉じていた場所がオープンになってきています。
信時:そうならざるを得ないということですね。自分だけで解決はできないということを、皆さんがわかってきた状況かもしれません。これから力を入れたいのは金融です。金融の流れは欧州がリーダーシップをとってかなり変わってきています。「日本はいつまで石炭火力の発電に投資しているのか」と言われるように海外と国内はまったく状況が違います。もっと海外の事例を紹介して、警鐘を鳴らしたほうがいいんじゃないかという気がしています。
――国内に向けて横浜から発信するという点で、SDGsデザインセンターはどういった役割がありますか。
信時:横浜でひとつの事例をつくっていこうとしています。われわれの設立後、北海道下川町も中間支援組織を設置し、大阪府堺市などでも中間支援組織を設置する動きが出ています。産官学の価値観はまったく違っていますが、違っていて然るべきで、その上で融合する活動をしなければならない。融合のきっかけが生まれる場所はどこでも欲しているはずではないかと感じています。
中間支援組織への注目の高さはそこです。どこにも属さず、中立なところ。駆け込み寺とさきほど言いましたが、簡単に言えば、ふと立ち寄って雑談し、アイデアが出る場所も必要なんです。
役所も大企業も、アポイントが前提になり目的志向で足を運ぶ場所になりがちです。投資銀行のようなスタイルです。考えていることや問題点をざっくばらんに、腹を割って話せる場所がないと、イノベーションは生まれないですよね。
オフィスのレイアウトが注目されています。シリコンバレーのFacebookの本社を訪れましたが、雑然としています。ほとんど区切りがなく、ザッカーバーグもオープンな場所で寝ていました。融合できるレイアウトがすごく重要かなと思います。
ハード面だけではありません。いつ足を運んでも歓迎してくれる人がいて、気軽に話し、相談できる。そういう機能が、日本で失われてきています。現場レベルでもコミュニケーションを絶つ方向に進みがちです。ヨコハマSDGsデザインセンターは、そうならないようにしていこう、という活動です。
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――とは言え、活動には「官」寄りのイメージはありませんか。
信時:経済的にもいまのところ、官寄りかもしれません。しかし実際に動いている人間はすべて「民」です。ただ、中間支援組織ですから「官」のイメージがあってもいいと僕は思っています。役所ではコンプライアンスが行き過ぎている一面から皆さん身を固くしているようなところはありますが、外に出ればよくお話されます。「官」の人たちのそういう面を引き出すこともすごく重要です。
役所は新しい施策を進めるときに「これを言ったら民間はついてきてくれるだろうか」という不安を持ちながらやることも多い。だからSDGs未来都市のモデル事業も、結局は「自分たちの施策は、出せば欲してくれる民間企業がある」と思えることが重要なわけですよね。
そこは、官も民のニーズを汲み、有効にお金を使うという意味でも市民や民間企業の意見を聞くことが必要です。ヨコハマSDGsデザインセンターはそのコミュニケ―ションの中核になってもいいのかなと思っています。
――官民学それぞれを混ぜる場所ということですね。
信時:全部が一様になってしまえば面白くありません。違いや自分たちができることを生かしながら集合していくということでしょう。
イノベーションが草の根で生まれる地域目指す
――今後はどのようなセンターの姿、横浜市の姿を目指すのでしょうか。
信時:ヨコハマSDGsデザインセンターが大規模の組織体になることはあり得ないと思っています。常時働く人は数人いればよくて、ここに来ればいろんな人につないでもらえるとか、補助金などを利用した資金の調達の手伝いがあるとか、そういったつながりができる場所ではあり続けると思います。ヨコハマSDGsデザインセンターがハブとなり具体的なプロジェクトをつくっていく中で、そこに集った人が別のハブをつくるということも起こり得て構わないと思っています。
大川印刷や石井造園のような、中小企業の中でも先端的な考え方を持っている方とももっと連携をとれるようになりたいと考えていますし、NPOの方や個人の方ももっと活発に動いていただけるようになりたいですね。そういう横浜市で大企業さんに「何かしてみたい」と思って頂ければ嬉しいです。
横浜市と川崎市を合わせると、ちょうどシンガポールほどの規模感になります。シンガポールは「リビングラボ」の取り組みで先進的な国です。もちろん、自治体の体制や組織はまったく違いますが、横浜市を「リビングラボ都市」にしたいということをずっと言っています。
民間企業や海外の企業とも協働して、海外の技術を持ち込み、国内の中小企業とマッチングし、地域で実証実験を行う。そこには地域金融も関わって、イノベーションが草の根で起きるエリアになる。目指せ、「リビングラボ都市」です。それを受け入れる市民力は、横浜市には備わっていると考えています。
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ヨコハマSDGsデザインセンター
沖本 啓一(おきもと・けいいち)
フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。