• コラム
  • 公開日:2020.01.28
  • 最終更新日: 2025.03.02
自治体もサステナブル経営を意識する時代へ(5)
    • 伊藤 大貴

    シリーズ「公共からパブリックへ、変わる都市経営」の連載も今回で5回目。一旦、このテーマでの連載は今回で終了となるが、少しこれまでの連載を振り返ってみよう。

    第1回は「自治体の生産性の低さがトリガーとなって始まる、都市のオープン化」について取り上げた。これを受けて第2回は「公民連携で加速する都市のオープン化とテクノロジーの関係性」を解説した。自治体が生産性の向上に踏み切れば、必然的にそこでの働き方も変わってくる。その流れを予測したのが第3回で「これからの公務員の働き方、副業・兼業時代とキャリア形成」を、第4回では「専門性を有する地方議員の活用」について触れた。

    官と民の中間領域を株式会社として担う意味

    さて、シリーズ最終回となる本稿では、企業が公共を担う時代の様子を展望してみよう。既にその萌芽はある。

    例えば、弊社取締役、菅原直敏は現在、磐梯町(福島県)のCDO(最高デジタル責任者)を務めている。彼は現職の神奈川県議会議員でもあり、一般社団法人Publitechの代表理事でもある。

    彼に自治体CDOのオファーが舞い込んだのは、彼が持つ公共性ゆえ、だろう。議員や社団という公共性を備えつつ、Public dots & Companyという株式会社の役員も務める、その環境こそがこれから自治体のデジタル施策を策定する上で、有益だ。実際、菅原の元には日々、全国の自治体からデジタルトランスフォーメーションに関する相談が舞い込んでいる。

    事例はこれだけではない。弊社・Public dots & Companyは2019年10月に大手広告代理店の博報堂と契約を締結し、スマートシティの事業開発を支援している。これも詰まるところ、スマートシティは人々の暮らしそのものであるため、医療や健康、観光、スポーツ、教育、都市計画とこれまで自治体が担ってきた公共に対する理解なくして、いいサービスは設計できない。

    Public dots & Companyは、ビジネスセクターの経験を有する元地方議員、現職地方議員が中心となって立ち上げた会社ということもあり、官が担ってきた公共の文脈も、企業が担ってきた事業の文脈も、両方をバランスよく理解できる存在として、現在のところ、ユニークな存在だ。

    ブルーオーシャンが広がる官民連携

    もちろん、Public dots & Companyが未来永劫、唯一無二の存在であり続けるということはないだろう。これまでの連載で縷々、述べてきたように、官と民の境界線はぼやけ、公共の定義が変わってくるからだ。そこにビジネスチャンスを感じて、参入してくる企業や、あるいは私たちと同じように元議員、元公務員などの文脈を背景に起業する人も出てくるかもしれない。連載タイトルが「公共からパブリックへ」としたのも、確実に起きる未来の変化を織り込んでのものだ。

    自治体が従来のように自前主義で、公共サービスを提供する時代は終わりを告げつつある。これから公共サービスを企業が担う時代の到来であり、企業から見れば、ここはブルーオーシャンだ。問題は公共を担う感覚を有している企業がまだ少ないことだ。ここは事例を通じて企業が学んでいくのだろう。

    実際、弊社も多くの企業クライアントとのビジネスを通じて、その兆しを感じているところだ。この半年を振り返っただけでも、5Gや自治体DX、都市計画、食品など、様々な分野の新規事業開発を支援する中で、公共を経験している立場から「当たり前」と思っていることをアドバイスした時に、驚かれたことが多々あった。

    それはつまり、事業を進める上では持ち得ない視点ということになるが、企業もそうしたアドバイスと具体の事例を通じて、公共を担う意味を肌感覚として身につけていくのだろうと私自身は感じている。

    自治体CXが行政サービスを変える

    一方で、企業が持つノウハウの中には、自治体が提供する生産性の低い行政サービスのアップデートに役立つものも多い。分かりやすいのは、CX(顧客体験)だ。既に民間では商品/サービスの開発にあたっては、プロダクトアウト型からマーケットイン型に変わっている。その時に役立つのが、CXであり、消費者の購入前の動線を予測するカスタマージャーニーだ。

    自治体にはまず、マーケットインという発想が存在しない。長く日本の自治体は国の下請けの存在として運用されてきたことが一つには大きな背景としてあるだろう。1999年に機関委任事務が廃止され、国と地方自治体は法的には対等な存在に位置付けられたが、現実はまだ国を見ていると言っていい。つまり、自治体が提供する行政サービスは市民を向いていないことが多い。もちろん、現場の職員は「ちゃんと市民を向いている」と言うと思うが、民間のマーケットインの考え方からすると、まだまだ、なのだ。

    公共からパブリックへ

    ここに企業が公共サービスを担うことの意味がある。カスタマージャーニーやCXという考え方、やり方を導入することで、公共サービスのクオリティが一気に上がり、市民満足度も高まるだろう。それはすなわち、生産性の向上に他ならない。

    このように、「官は官、民は民」と役割分担していた、これまでのやり方から官と民が双方のノウハウとアイデア、経験を共有する社会が到来することで、そこにはビジネス機会が生まれ、自治体の生産性が上がり、市民も喜ぶという時代になっていくだろう。その時はもう、目の前に迫っている。

    written by

    伊藤 大貴(いとう・ひろたか)

    株式会社Public dots & Company代表取締役。元横浜市議会議員(3期10年)。

    財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心した企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大学非常勤講師なども務める。

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