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サッカーJリーグに所属し横浜市をホームタウンとするプロサッカークラブ「横浜FC」は11月24日、13年ぶりとなるJ1リーグ昇格を決めた。三浦知良や中村俊輔といったレジェンド級のスター選手を擁する同クラブの前身は「横浜フリューゲルス」だ。運営会社の経営的な理由によりチームが消滅した後、サポーター有志の募金や署名によって横浜FCが設立されたという経緯があり、今後も地域やファンに根差した活動に一段と力を入れる。カーボンオフセットなど環境課題にも取り組む同クラブは、来シーズンには「SDGsマッチ」を開催する考えだという。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)
横浜に根ざし、経済や文化を循環させている企業活動を山岡仁美 SB 2020 横浜プロデューサーがクローズアップ。
第5回はサッカーチーム「横浜FC」を運営する横浜フリエスポーツクラブ 上尾和大代表との対談。※対談はJ1リーグ昇格決定前に行った。
山岡:横浜FCがスポーツチームとして、地域や社会の中で大切にされているスタンスとは、どのようなことでしょうか。
上尾:成り立ちとして、Jリーグ創設時のオリジナルのチーム「横浜フリューゲルス」が、親会社の経営危機で解散してしまったという背景があります。こういった事情でチームが解散することは、世界的に見ても珍しいことです。
そのときに立ち上がってくれたのは地域の皆さん、ファンの皆さんです。なんとか継続してほしいと募金や署名活動を行い、結果としてはフリューゲルスの継続は叶わなかったものの横浜FCを始動することができました。私たちは地域のみなさんに支えられてできたクラブです。
だから、企業経営に左右されることなく、皆さまにご恩を返していくことが使命だと思っています。チームの勝利はご恩返しのひとつですが、応援したいと思って頂けるような、感動できる場所、集まることができる場所としてあり続けること、チームを継続することで、ファンや地域の皆さんにご恩をお返しし続けられるチームでありたいと思います。
われわれの施設は保土ケ谷区、戸塚区にあり、スタジアムは神奈川区にあります。横浜市内の18の区の中でも、この3区はつながりが非常に深いんです。地域のお祭りや商店街のイベントで、サッカーを用いたゲームの出展やマスコットキャラクターの交流などを行っています。
山岡:サッカーでゲームを主催するだけではなく、地域に根差した商店街や自治会のお祭りにも出られているんですね。
上尾:ホームゲームは年間に21試合しかありません。それではもの足りないんです。本当はファンや地域の皆さまの日常の中に入り込んでいくような活動をしたいと思っています。
継続的な社会をつくる
![]() 取得したカーボンオフセット証明書
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山岡:ファンの皆さまとの交流や競技活動を通して、社会や環境の変化を感じることはありますか。
上尾:環境という部分では、私たちは2008年にISO14001を国内のサッカークラブで初めて取得し、環境意識が強いと思いますが、世の中の動きは環境だけの取り組みから継続的な社会づくりへと変わってきていると実感することはあります。
一方ではまだまだ一般的にそういった変化が伝わり切っていないとも感じています。だからこそ私たちが発信できる、しなければならないことはたくさんあると思っています。
山岡:横浜FCではスタジアムやイベントなどで、ペットボトルのキャップ回収を積極的に行っています。ほかにもご活動はありますか。
上尾:毎試合のスタジアムでのごみ拾い活動のほか、来場いただくことで来場者数に連動したカーボンオフセットの取り組みを行っています。2009年から一部の試合で開始し、2014年以降は全試合、カーボンオフセットをしています。年に1回は、横浜市とタイアップし、ブルーカーボン(※海洋に貯留される二酸化炭素)に特化してオフセットをする試合も開催しています。
山岡:カーボンオフセットの導入の着手がとても早いですね。横浜市だけでなく企業とも協業されています。
上尾:環境系の活動ではエコパートナーというオフィシャルクラブスポンサーとは違ったパートナーを募集しました。例えば、東洋美術印刷さんという企業はエコパートナーがきっかけで協働するようになり、いまではスタジアムの看板やチラシはほとんどお任せしています。エコパートナーという制度を私たちがつくることで、環境意識が高い企業や団体が集まるきっかけを作ることができたと思います。
取り組みの先にあるもの――SDGsマッチ開催へ
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山岡:「SDGsマッチ」の開催について教えてください。
上尾:環境活動に取り組む先は何につながるのか、というところまでは、これまで社会に伝えきれていなかったと思っています。SDGsを冠した試合ができれば、これまでの活動の先にあるものをファンの皆さまに知っていただく機会にもなります。
具体的には、来シーズンのどこかでSDGsマッチを開催することを考えています。まずはやることに意義があると思っていて、実施のタイミングとしては2月20日のサステナブル・ブランド国際会議2020横浜への登壇の際に開催日程を発表できるかもしれません。
山岡:SDGsマッチではどのような企画をされていますか。
上尾:現段階で決まっているわけではないので例えばですが、17のブースを出展し、来場者の皆さんが楽しみながらそれぞれのゴールにつながる活動の体験ができる、といったことですね。ブースごとにスタンプを設置し、集めたスタンプの数によってグッズをプレゼントするというように、「体験」を促すことができればいいなと思います。
山岡:SDGsを全面的に掲げているスポーツのゲームはほぼないと思います。ぜひ実現を期待しています。
地域や社会に貢献するサッカーの力
山岡:今後のチーム運営のポイントを教えてください。
上尾:まずはスタジアムに足を運んで頂き、横浜FCを認知していただくことが必要です。認知して頂ければ、私たちが地域のハブになってお伝えできることがあります。それは事業面の強化にもつながるので、親会社の経営的な部分に左右されない運営、本当の「市民クラブ」にも近づくことができると思います。ファンを増やすことが多くの意味でプラスになると思っています。
山岡:利益や商品ありきではなく、いかに社会や人に寄り添うことができるかを出発点にする、昨今のサステナブルなビジネスにも共通するものがありますね。サッカーというスポーツの持つ力とはどういったものでしょうか。
上尾:まず世界の三大スポーツに数えられるサッカーには、競技人口の多さがあります。また貧困地域であってもボールがひとつあれば楽しめます。高価なものではなく、幅広い世代やすべての人に楽しんでもらえる「みんなのスポーツ」です。
チームスポーツですので、多くの人に応援して頂きやすいということもあります。Jリーグにはいま、55のクラブがあり、国内でも社会的な影響力がとても大きい競技になっていると考えています。だからこそ、競技を見せるだけではなくて、地域や社会に対して貢献できる力があると思っています。
山岡:国や宗教、世代が違っても共通のツールとして機能する、SDGsの根幹である「誰一人取り残さない」という言葉どおりの象徴的なスポーツですね。色々な可能性が見えてきます。
上尾:より活動を拡げて、チームに関わることで、意識しなくても間接的に社会に貢献する、ファンが知らず知らずのうちに社会貢献するような活動を増やしていきたいと考えています。
山岡:待ったなしで拡散していくことが重要です。SDGsマッチを含め、横浜FCの今後の活動にとても期待しています。
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沖本 啓一(おきもと・けいいち)
フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。