• コラム
  • 公開日:2019.11.01
  • 最終更新日: 2025.03.02
PSR(Personal Social Responsibility)を促し、個人と組織でSDGsを実践するサステナブルな人事モデル
    • 西村 英丈

    「組織 vs 個人」を解決するために

    「次世代人事部モデル策定プロジェクト」では組織と個人の成長を支える、Holonic Management=「個と全体の有機的調和」型の新しい人事部モデルを仕組み化し、具体的に策定するための議論をしてきた。

    「個人」が考慮されだしたこのタイミングで、組織と個人の両立についてもう一度真剣に考えるべきだろう。

    日本の社会の中で新たに考えられる「集団主義の中で個人を尊重する」人事の仕組みは、同じように「集団主義」的な志向を持つ他国の人材にとっても「魅力的なもの」になる。似たような背景を抱える国・地域においてもフィットする仕組みであり、グローバルに浸透を展開できるものだ。つまり、われわれが目指す人事の仕組みは、「個人主義を前提に組織で頑張ってもらう」という欧米型の人事の仕組みに「右へならえ」するものではない。

    これからの日本企業の強みを人事の中で作った上で、それをきちんと次世代に渡すことが、「組織」と「個人」の両方の重要性を知るわれわれ人事部の宿題だ。そしてその強みとは、令和時代に適合する価値観として、CSR・サステナビリティ担当者と経営陣が連携するサステナブルな人事部門の新たな仕組みによって、企業がSDGsを実践することにつながっていなくてはならない。

    今回は、その仕組みについて、これまでの議論をまとめていきたい。CSRに対してPSR(Personal Social Responsibility)を促すことで社会の中での組織と個人の新たな関係性が生まれる。HR版SDGsはそのために実践するべき開発目標だ。

    組織・個人の関係がサステナブルな状態になるためのHR版SDGs

    HR版SDGsは有志団体「One HR」(コミュニティメンバー1000名程度)が、次世代人事部モデル策定プロジェクトとして設定し、現状の人事課題と“あるべき”という目標から導き出してきたものだ。企業人事、HR事業者を中心に大企業・外資企業・スタートアップ企業の人事、経産省、教育機関など多岐に渡るセクターをまたいで、2019年1月より隔週で東大本郷キャンパスに集まり、議論を重ねてきた。座長を務めたのは私自身だ。

    そしてこのHR版SDGsは国連の定める SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」を、組織・個人に落とし込んだときの開発目標だと言える。組織と個人の対立を解決するために人事部門が向かう先は、HR版SDGsの実践である。

    ※One HR共同代表西村英丈は、2019年10月にHRテクノロジーコンソーシアム(https://www.hr-technology.jp/)の理事に就任し、HR版SDGs実践におけるデータ利活用についても今後力をいれていく
    1.働く責任 働く自由

    組織に与えられた役割の中で、その組織に最適化されたスキルしか育たず、組織内においても時代とともにスキルが陳腐化し、不必要な人材になってしまう。そんな人たちを減らすために、
    私たちは「企業は、個人が自由を感じながら働くために役割を明確にし、個人も、自由を選ぶための役割を果たす」HRを創造します。

    2.違いを力に

    性別や国籍、信条、働く場所、身体、保育、介護などを理由に個人の活躍の幅が制限されることで、組織の人材獲得や成長の機会も制限される。個人の違いを、組織で生かすために、
    私たちは「制限や制約に捉われることなく働くことができる仕組み・文化を創る」HRを創造します。

    3.本音で語れる場づくり

    当事者同士が本音で話し合い、議論し合う機会や環境がないことで、個人の意見が企業に反映されず、企業も個人の意見を吸い上げることができなくなっている。「心理的安全性」を確保し、意見や感情を個人と組織の成長に結びつけるために、
    私たちは「企業と個人、個人と個人がお互いの感情や意見を交わし、高め合うための環境を創る」HRを創造します。

    4.志と志を重ねて

    仕事をするための目的は「給与」や「やりがい」、「仲間」「社会貢献」など人それぞれ。企業が自身のミッションを押し付けてしまうと、個人は疲弊し、企業の成長を損ねることも。「理念ハラスメント」をなくし、個人と組織がひとつになって前に進むために、
    私たちは「個人と企業の使命や目標を共有・理解し合い、相互の実現に向けたパートナーシップを築く」HRを創造します。

    5.育つために育てる

    企業組織が評価する個人のスキルやスタンスは、組織外では評価されないことが少なくない。企業が積極的に個人の育成に投資をし、社外と接する機会を後押しすることが必要とされる。時代に合致した企業を創るために、
    私たちは「企業と個人が互いに成長するために、お互いの成長を支え合う」HRを創造します。

    6.はたらくを楽しく

    勤務問題を原因の1つとする自殺者数は2017年に1991人(警察庁自殺者統計データ)。日本の世界幸福度ランキングは58位(国連「世界幸福度報告書」2019年版)。個人と企業が持続可能な、豊かな未来のために、
    私たちは「個人も企業も幸せを享受し続けるために、心身の豊かさと働く喜びをもって変革していく」HRを創造します。

    HR版SDGsは、組織と個人がサステナブルに成長するための経営者・人事部に向けた共通の開発目標であり、国連の定める SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」を組織・個人に落とし込んだときの開発目標という位置付けだ。

    組織としてHR版SDGsの実践・進捗を測るためのアセスメントツールを発表

    HR版SDGsアセスメントツールは、組織として、個人とサステナビリティな関係が構築できているかを測るツールとして、 今後広く公開する。
    そのアセスメント結果と、個人の自己実現度合い(令和型人事部モデルの横のラインがきちんと機能しているか)との相関をみることで、組織と個人がサステナブルな関係を構築し、個人の自己実現が達成に向かいながら活力の極大化がきちんと図られているかを検証することができるようになる。その次の段階では、一人ひとりが自己実現から自己超越を目指すことでSDGsに自分ごととして取り組み、併せて個人の力が組織力として発露され、組織が本当にサステナブルな方法でSDGsに取り組むことができているかを検証していくというプロセスを踏むことが必要だ

    令和型人事部モデルの横のライン(下図参照)が機能しているか、この評価が令和時代、企業の競争優位の源泉となり、またこれから先の、ESG投資上の重要な判断要素となるだろう。

    まとめ:「PSR(Personal Social Responsibility)」を促し新たな関係性を創造する

    国連の定める8「働きがいも経済成長も」を促進するHR版SDGsを実行することで、個人の自己実現だけでなく、CSRに対してPSR(Personal Social Responsibility)とも呼べる自己超越を促す。そしてその先にある国連SDGsの全ての項目の達成への促進につながる。それが令和型の新しい人事部モデルの真髄だ。

    written by

    西村 英丈(にしむら・ひでたけ)

    One HR共同代表、一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム理事、一般社団法人シニアism.理事、一般社団法人インタープレナー協会代表理事

    東京理科大学卒業後、約70ヶ国/地域で事業展開をするグローバルカンパニーへ入社。アジアリージョン統括人事(シンガポール駐在)として5年にわたり、新興国市場の人材マネジメントを推進。HR版SDGsを策定し、次世代人事部モデルとしてメディアにも取り上げられる。そのほか、定年退職後のライフスタイル構築を応援する(一社)シニアism.を立ち上げ、HR分野のデータ活用の推進をする(一社)HRテクノロジーコンソーシアム理事、インタープレナー研究会プロジェクト代表に就任し、現在に至る。その他、(一社)日本バングラデシュ協会理事、東京ビエンナーレのエリアディレクターなども務めてきており自身としてもインタープレナーとして活躍中。 著書に『トップ企業の人材育成力』(さくら舎・共著)、『弁護士・社労士・人事担当者による 労働条件不利益変更の判断と実務ー新しい働き方への対応ー』(新日本法規・共著)がある他、数多くの登壇、執筆実績がある。

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