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3月19日、「企業のエシカル通信簿」の第3回結果発表会が開催されました(主催:消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク)。今年は、家電メーカーと外食チェーン各5社の評価です。
エシカル通信簿~期待される教育効果~
エシカル通信簿とは、当ネットワーク39団体の参加団体が専門性を生かして、環境・人権など7つの大項目について公開情報をもとに採点し、企業のエシカル度をレイティングしたものです。
このネットワークの試みは、3年前から始まりました。昨年度の調査対象は、化粧品メーカー5社、コンビニエンスストア・チェーン大手4社、宅配便事業者3社の合計12社でした。一昨年は、食品業界とアパレル業界のそれぞれ5社(計10社)でしたので、順次、対象の業界を広げています。
SB-Jサイト昨年の記事:
第2回「企業のエシカル通信簿」、最高点は花王
SB-Jサイト一昨年の記事:
企業のエシカル通信簿で味の素がトップに
7つの調査項目、「持続可能な開発」「環境」「消費者」「人権、労働」「社会、貢献」「平和、非暴力」「アニマルウェルフェア(動物福祉)」について、開示している情報をもとに評価したものです。詳細は、当団体のHPで公開されていますのでご覧ください(消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク「第3回エシカル通信簿 調査結果」)
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第3回「企業のエシカル通信簿」、コロワイド最低点
![]() 調査項目を担当した発表団体による全体討論
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特徴としては、団体側で公開情報を基に分析した評価票(70頁)を企業に示し、双方向的な情報のやり取りを加えて結果を示していることです。
基本は公開されている建前的な情報だけでの判断なのですが、詳細に項目を評価することで各企業の特徴が、それなりにあぶりだされる点は大変興味深いものです。
今年の家電メーカーと外食チェーンの各5社については、10点評価のレーダーチャートで一目瞭然に示されています(下図参照)。
比較でわかるのは、ざっくりとした印象として、世界を相手にしている家電メーカーの評価度が多少とも高く出ているのに対し、国内向けの外食チェーンの評価度が低いことです(中心部分の大きさの違い)。その点は業界の性格の違いもありそうで、最近話題を呼んだ外食店でのバイト動画問題などが想起されます。
![]() エシカル通信簿のレーダーチャート
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もう一つの印象は、結果発表会で感じたのですが、結果以上に、企業の意識改革、教育的な効果が大きいことです。70頁もある詳細な調査票の結果を各社に提示して、相互コミュニケーションを加味するソフトアプローチですので、受け取った企業によっては、自己改革の契機として積極的な受け止めがあるとのことです。
![]() 「ぐりちょ」では、15の商品カテゴリーごとに商品や企業の評価が明示されている
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日本での試みは始まったばかりですが、欧米では古く1989年頃からエシカル・コンシューマー運動の展開がありました(連載第16回参照)。
比較として英国の団体のサイトを見ると、多分野の企業・商品を細かく評価し、ネットでの公開では、問題企業にはボイコットが呼びかけられています。日本の試みより、かなりシビアに取り組まれている様子が見てとれます(ソフトドリンクの一例)。
国際的な動向と比較すると、日本での通信簿評価という試みは、いたって日本的なやり方と言ってよいかもしれません。当ネットワークでは、通信簿のアプローチだけでなく、商品ベースのネット公開として「ぐりちょ」というサイトを作成・構築しています。現在は15の商品カテゴリーがあり、評価の高い商品や企業が明示されています。
点から面へ、地方展開し始めたエシカル
エシカルをめぐる動きは、急速に拡大し始めています。民間では、エシカル協会や日本エシカル推進協議会が2014年に設立されており、エシカルフェスタやエシカルサミットといったイベントが開催されてきました。
最近の動きで興味深いのは、地方での活動展開です。高校生による「次世代エシカルフェス」「エシカル消費自治体サミット」が昨年、徳島県で開催されて注目されました(2018年7月)。徳島県教育委員会では、エシカル消費に関する全国の高校生の取り組み成果を発表し合う場として、「エシカル甲子園」を2019年12月に開く計画を立てています。
国の消費者庁でも、エシカルは日本の経済社会の高品質化をもたらす可能性があるとして、消費者行動の進化と事業者取り組みの相乗効果に注目しています。エシカルの推進方策としては、地域の活性化につなげる普及・情報提供の場づくり「エシカル・ラボ」(シンポジウム)が、2015年に開催されて地方展開しだしました。
現在は、4つの県(徳島、鳥取、秋田、山口)から「エシカル宣言」が出されています(消費者庁、消費者教育・地方協力課)。エシカルが、点から面へ、大人から次世代の若者へ、中央でなく地方からの発信へと、日本のエシカルは興味深い進化・発展を見せつつあるようです。

古沢 広祐(ふるさわ・こうゆう)
國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。 大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。 地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。 著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。 共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。 (特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。 http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html https://www.facebook.com/koyu.furusawa