いま一部の企業経営者やビジネスパーソンの間でSDGs(持続可能な開発目標)バッジを付けることが流行っています。SDGsバッジは国連本部(NY)の売店などでしか買うことが出来ず、いま「ヤフオク」などインターネットのオークションでは1個2000円~4000円の値段が付くほどの人気です。
もちろん、スーツやジャケットにSDGsのバッジを付けることはビジネスパーソンとしてある種の意志表明であり、決意の発露とみることができます。だが、バッジを付けることは決してゴールではなく、あくまでスタートラインであることは言うまでもありません。
ことはバッジにとどまりません。2015年9月に国連で採択され、この秋で丸3年になります。当初の3年は、自社の事業が、SDGs17ゴールのどれに当てはまるかを参照し、CSRレポートに17ゴールのワッペンを貼りつけ、関連性を強調する試みが目立ちました。だがその手法も、そろそろ限界に来ています。
SDGsは「セカンドステージ」に突入しつつあります。この段階で企業各社は、自社事業をSDGsの各ゴールに合わせて、どう変革していくかが問われています。つまり単なる「参照」から自社組織の「変革」に脱皮できるかが問われ始めているのです。
例えば、「目標7:すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」。この文脈では、自然エネルギーの迅速で大規模な導入を各社に求めているのは明らかです。
そんな中で、CSR担当者は自然エネルギーへの切り替えを提案するものの、自社の調達や経理などの部署が一層のコストダウンを求めたり、あるいは大手電力会社が独占法禁止法で禁止する不当廉売ギリギリの価格を提示し、自然エネルギーの導入を断念させたりという話をよく聞きます。
「目標15:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、(後略)」。ここでは生態系の保全に配慮した木材や紙の調達が大きなテーマになっています。
しかし残念ながら、FSC(森林管理協議会)など認証材のシェアはまだ日本では低迷しています。ある大手格安家具チェーンの執行役員は「間伐材や国産材はコストが合わない。ウチが導入する可能性は皆無だ」と堂々と話していました。
このような事例には枚挙に暇がありません。今後、日本企業は、SDGsの趣旨をよく理解し、社会課題の解決のための自社事業を変革していかなければならないのです。
そして、国連のメッセージは「アウトサイド・イン」に象徴されるように、「社会課題解決のためにビジネスの力を使ってほしい、儲けて頂いて構いません」と解釈できるのです。
すでに、SDGsを社会課題「参照」のためのツールとして使うだけでは、社会課題への真剣な取り組みができないばかりか、社会やステークホルダーから、その真剣さを問われかねない時代に突入したと言っても過言ではありません。
今年5月末、日本経団連の次期会長に就任予定である中西宏明・日立製作所会長は、「全社的にSDGsに取り組む。もしそこで利益が上げられないのであれば、止めた方が良い」と公言しています。
経団連は昨年11月、企業行動憲章を7年ぶりに改訂し、SDGsの考えを全面的に導入しました。その会員企業のすべてが、今後、SDGsにどう取り組んでいくかが注視されています。その取り組みとは、単なる「参照」ではなく自社組織と自社事業の「変革」であることは言うまでもありません。

森 摂(もり・せつ)
株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。
東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。