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  • 公開日:2018.02.21
  • 最終更新日: 2025.03.02
復興7年目、有識者が未来志向の「福島モデル」宣言
  • 松島 香織

福島の風評問題や情報発信に必要な視点などを議論する「アップデイトふくしま」が2月10日、都内で開かれた。復興に取り組む有識者らで組織するアップデイトふくしま実行委員会と環境省、国連大学が共催。この会議では、福島を訪れた外国人に正しい情報を発信してもらうこと、未来を担う若者に期待し現地視察を学校教育に組み込むこと、科学的なデータで説明するだけなく個人の思いに寄り添うことなどを、宣言文にまとめ発表した。(松島 香織)

「福島で生まれる子どもに健康被害はあると思うか?」という質問に答える来場者(2月10日、国連大学ウ・タント国際会議場)

冒頭「福島の今を考える」と題して、アップデイトふくしま実行委員会を立ち上げた4人の委員が登壇した。「新しい建物ができ、制度も変わりつつあるが、何よりも大切なのは我々の意識をアップデイトすること」と立命館大学衣笠総合研究機構の開沼博准教授は話し、福島に対する間違った認識や思い込みを変えるよう呼び掛けた。

物理学が専門の早野龍五(りゅうご)・東京大学名誉教授は、「場所や誰に向けてかによって、アップデイトする内容は変わる。東京で何をすればよいかを今回分かればよい」と来場者の理解と行動に期待を寄せた。

震災後、相馬市の病院に勤務していた東京慈恵会医科大学講師の越智小枝さんは、「知ろうとすることだけでも、福島の救いになると信じている。また福島の教訓は東京の防災にも役立つはず」とした。一方で「風評被害という『話題』で注目されているが、もし風評が無くなったら風化して忘れられてしまうと恐れている人もいる」と現地の複雑な思いを話した。

「省の仕事はマイナスをゼロにすることだったが、さらに未来志向で人のつながりをバックアップしていきたい」と環境省の森本英香(ひでか)環境事務次官(2月10日、国連大学ウ・タント国際会議場)

カナダ人で福島に移住した福島大学のウィリアム・マクマイケル助教は、福島大学が国際交流として2012年から実施しているスタディツアー「Fukushima Ambassadors Program」を紹介した。海外から福島にホームステイしてもらい、被災地を訪れた学生は8カ国150人以上となった。ツアーで来日していたグラスゴー大学の学生は、「海外だけでなく日本国内でも福島への偏見があると知って驚いた」「原発事故から学んだ教訓と、福島の人々の温かさや素晴らしさを伝えたい」などと話した。

ディスカバリー・チャンネルは環境省の協力を得て、福島の現状を伝える番組「Fukushima Diaries」をシリーズで制作している。登壇したビクナム・チャンナ クリエイティブチーフは、SNSで伝わるフェイクニュースの出現で、伝えることの難しさを実感しているという。またグーグルの検索エンジンのアルゴリズムが原因で、震災当時のネガティブなニュースや誤った画像が検索結果の上位にきて、ニュースを混乱させていると指摘。解決すべき課題だとした。

「福島」というラベルが付いているわけではない

福島高等学校とふたば未来学園高等学校の生徒3人は昨年10月に、米国カリフォルニア大学バークレー校で福島の現状を英語で発表した。3人はともに高校二年生だが、震災当時の家族の状況、置かれた環境や、今考えていることなどはそれぞれ違う。ふたば未来学園の遠藤瞭さんは「同じ福島の高校生でも三者三様。『福島』というラベルが付いているわけではないので、個人として見てほしい」と訴えた。

実行委員会はディスカッションや事例発表から出たキーワードをもとに、これからの福島をどう伝えていくべきなのか宣言文をまとめた。応援はこれからも必要だが自立すること、東京と福島、国内と海外、世代などの垣根を取り払い「日本の課題」として取り組むこと、などを盛り込んだ。広島・長崎は、原子力廃止という人類共通の課題提示に昇華されたが、福島も同様の取り組みが期待されている。だが、まだ具体的な形は見えていないとし、今後の課題となった。

本記者はアップデイトふくしま実行委員に、同じ専門家でも言うことが違う、大丈夫と言ったものを撤回したなどがあり、一般市民の有識者に対する信頼は薄らいでいるのではないかと質問した。開沼准教授は「痛感している」と答え、越智医師は「震災当時は混乱しており、自分の出来る範囲で善意をもって発信したこと。間違いを責められては委縮してしまう」と寛容であることを求めた。

「アップデイトふくしま宣言文」は近日中に、アップデイトふくしま実行委員会の公式サイトに掲載予定だ。
http://josen.env.go.jp/update_fukushima/

written by

松島 香織(まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。

アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。

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