• コラム
  • 公開日:2018.01.22
  • 最終更新日: 2025.03.02
ESG投資をする側の見識も問われる
    • 森 摂

    「貴社のCSRの取り組みによって、どう価値創造されるのでしょうか。もし価値創造が無い場合は、当社はそれを単なるコストと見なします」――。最近、ある上場企業のCSR担当者が機関投資家やアナリストからこう言われて、頭を抱えたという。(オルタナ編集長 森 摂)

    急拡大するESG投資の現場で誤解と混乱

    2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に署名したことをきっかけに、日本でもESG(環境・社会・ガバナンス)投資へのシフトが急だ。

    それまで財務情報(売上高、利益、投資収益率など)を元にしていた機関投資家や証券アナリストの投資判断基準に、非財務情報が加わった。それがESG投資だ。欧州では株式市場の価値形成要因のうち6割以上が非財務情報というデータもある。

    ESG投資では、企業の環境活動、CSR活動、ガバナンス体制を評価し、それを元に株式購入やファンドへの組み込みを行う。

    それ自体は歓迎すべきことだが、日本では、ESGという新しい投資基準が投資家やアナリストが急速に浸透し始めたことで、現場ではさまざまな誤解や混乱が広がっているようだ。

    ESG投資の教科書的な存在として、IIRC(国際統合報告委員会)の「価値創造プロセスの全体像」(いわゆるオクトパスモデル)がある。「財務資本」「製造資本」「知的資本」などのインプットを元に、持続可能な取り組みを通じ、付加価値の高い製品やサービスを提供すべきという趣旨だ。

    このオクトパスモデルを見て、寄付やボランティアなど「社会貢献」と呼ばれる領域は価値創造をしないので評価に値しないと考えも出てきた。冒頭のコメントがその象徴だ。そもそも、「社会貢献」をCSRそのものと考える人も多いので、余計に話がややこしくなる。

    そこで、[新]CSR検定2級テキストに掲載した「「CSR/CSVの構造と領域」(オルタナ総研作成)で説明したい。4象限のうち右半分がいわゆる「攻めのCSR」であり、左が「守りのCSR」。上半分が価値創造型であり、下半分は価値創造が弱い領域だ。

    短期の価値創造を企業に求めるのは危険

    現状において、日本企業のほとんどのCSRの取り組み(寄付やNGO/NPOの助成、ボランティア/プロボノ、障がい者施設への助成など)は、第4象限(右下)の「社会貢献/フィランソロピー」領域に含まれる。

    もし投資家が「寄付やボランティアは、価値創造をしないので単なるコストである」と考えるのであれば、それは早計というだけでなく、我が国の社会貢献活動を著しく阻害しかねない。

    さまざまな社会課題を解決するNGO/NPOは、企業からの支援が欠かせない。持続的な支援をする企業に対しては社会満足度(SS)が必ず高まる。社員がボランティアをすることにより、社会的な意識や自社に対する忠誠心が高まり、ES(顧客満足度)が高まる。

    こうした現状を無視して、短期での価値創造を企業に求めることは危険である。価値創造のタイムスパンは、持続可能な取り組みであればあるほど、長期的になる。それをこれまでの投資慣例によって短期で判断してしまうとおかしな結果になる。

    参照図でも、第4象限の「社会貢献/フィランソロピー」の重要性を認めつつ、第1象限の「価値創造型CSR」を企業に勧めている。それが赤い矢印だ。だがその実現には時間が掛かる。投資家には、その点を理解できる見識と力量を求めたい。

    (本コラムは、サステナブル・ブランド国際会議フォーラム会員向けのSB-Jマガジンに連載しています)

    written by

    森 摂(もり・せつ)

    株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。

    東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。

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