• コラム
  • 公開日:2017.10.19
  • 最終更新日: 2025.03.02
今となっては虚しく響く神戸製鋼所の「6つの誓い」
    • 森 摂

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    品質検査データの改ざん問題に揺れる神戸製鋼所では、「不正が40年以上前から続いていた」という報道も出て、その根深さが改めて浮かび上がった。実は同社は今年5月31日、「KOBELCOの約束」なるビジョンを発表していた。(オルタナ編集長 森 摂)

    「KOBELCOの約束」とは「全社員が一つになって、より良い企業集団、すなわち『誇り』『自信』『愛着』『希望』にあふれる企業集団を作り、当社グループが持続的に発展していくことを目指す」という内容だ。

    このうち「KOBELCOの6つの誓い」とは、

    1)高い倫理観とプロ意識の徹底ーー私たちは、法令、社内ルール、社会規範を遵守することはもちろんのこと、高い倫理観とプロとしての誇りを持って、公正で健全な企業活動を行います。
    2)優れた製品・サービスの提供ーー私たちは、安全かつ安心で、優れた製品・サービスを提供し、社会に貢献します。
    3)働きやすい職場環境の実現ーー私たちは、安全で安心して働くことができる職場環境を実現します。また、一人ひとりの人格・個性・多様性を互いに尊重し、それぞれが最大限の能力を発揮して活き活きと働ける職場環境を実現します。
    4)地域社会との共生(説明略)
    5)環境への貢献(説明略)
    6)ステークホルダーの尊重(説明略)=以上、神戸製鋼所ホームページから抜粋

    オルタナ編集部の取材によると、神戸製鋼が「KOBELCOの約束」を公表した時点で、すでに社内では事件の火の手がかなり回っていた。その経緯を時系列で追ってみよう。

    2016年4月 神戸製鋼グループ神鋼鋼線工業の子会社、神鋼鋼線ステンレスで工場長が変わった。この工場内での品質会議において、担当者からの報告を受けた新工場長(W常務)がデータの違和感に気付き、担当者を問いただし不正発覚
    16年5月 神戸製鋼本社にもこの件が報告される
    16年11月 神戸製鋼本社に品質統括室を設置、調査が始まる
    17年5月 神戸製鋼本社が「KOBELCOの6つの誓い」を公表
    17年8月 神戸製鋼のアルミ工場からアルミ部門管理職に問題報告
    17年9月 経済産業省に事実報告、その後、事実を公表

    「KOBELCOの6つの誓い」の内容は、CSR専門家の見地から見ても、至って真っ当で、網羅的である。残念なのは、そのタイミングと周知徹底の進捗だった。

    同社の広報担当者は「他社さんと同様、通りいっぺんの社内教育、浸透の取り組みは行っていた。社内規範の遵守、社会規範の遵守についても、定期的とは言えないが上長の講話などを通して行っていた。理念の6つの誓いもある。しかし、こうなってしまったからには浸透が徹底していなかったと思う」。

    かつて日本では「コンプライアンス=法令遵守」という誤訳が広がり、「法令(だけ)を守ることが大切だ」という誤解が蔓延していた。もうだいぶ減ってはいるが、それでも「コンプライアンス=法令遵守」と答えるビジネスパーソンは少なくない印象だ。

    コンプライアンスには3つの領域がある。第1に関係法令の遵守。第2に社内規則、業務マニュアルなど社内規範の遵守。そして第3の領域として、「社会の常識・良識などの『社会規範の遵守』に配慮し、ステークホルダーや社会からの要請に対応することである」([新]CSR検定3級公式テキスト第1章の5「コンプライアンスの本質」から引用)。

    「KOBELCOの6つの誓い」でも、コンプライアンスの3領域に言及していた。さらには、ステークホルダーとの関係性についても「私たちは、顧客、取引先、社員、株主等を含む幅広いステークホルダーを仲間として尊重し、健全かつ良好な関係を築きます」と強調していた。

    神戸製鋼の経営陣もその重要性を認識し、だからこそ、「KOBELCOの約束」を社内外に公表したのだろう。これより1年ほど前に、「品質検査データの改ざん問題」が経営陣には報告されており、品質検査データ改ざん問題を公表することを前提に、「KOBELCOの約束」を策定した可能性も考えられる。

    「KOBELCOの約束」とは、「CSRビジョン」の一種とみることができる。その浸透には時間が掛かり、いずれにしても40年前からの悪弊を完全に絶ち切ることは難しい。それにしても、もう少し早くCSRビジョンが徹底されていれば、少しでも傷を浅くすることは不可能ではなかっただろう。

    最近、日本を代表する大企業の不祥事が際立つ。その多くが、モノづくりの会社だ。東芝は半導体部門の売却を余儀なくされ、タカタは今年6月に民事再生法の適用を申請し、経営破綻した。

    規模や歴史を誇るエスタブリッシュ企業も、一つの不祥事で企業自体の存続が危うくなることは、もう常識になってしまった。本来、CSRビジョンはそこに有効に働くはずだが、神戸製鋼所は担当者の言葉通り、「浸透が徹底していなかった」。同社の信頼回復は、改めて「KOBELCOの6つの誓い」という原点に立ち戻り、ゼロから信用を積み上げていくしかない。

    written by

    森 摂(もり・せつ)

    株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。

    東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。

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