• ニュース
  • 公開日:2016.10.29
  • 最終更新日: 2025.03.21
46号 特集 「持続不可能」な漁業との決別
    • 冨久岡 ナヲ

    2016年6月15日のクロマグロデモ

    クロマグロやウナギの資源枯渇問題が話題になるたびに、日本は常に国際社会からやり玉にあげられる。一方で、日本の漁村は後継者難から崩壊の危機に瀕する。遠洋漁業は「捕り過ぎ」と批判され、沿岸漁業は収入減に苦しむ。日本の漁業が「持続不可能」だとすれば、どう改善できるのか。(オルタナ編集委員・瀬戸内千代、副編集長・吉田広子、編集部・池田真隆、小松遥香、編集委員・羽生のり子=パリ、冨久岡ナヲ=ロンドン)

    水産庁と日本水産にデモ

    「水産庁は資源管理をしっかりやれ!」─。今年6月15日午後、東京・霞が関の農水省水産庁前には、そろいのTシャツを着た男たちが集まり、一斉に声を上げた。

    デモ参加者の多くは釣り人たちで、中には海外から参加した人もいた。着ぐるみのマグロの姿もあった。参加者はその後、200メートルほど離れた水産大手の日本水産本社の前でも「産卵期のクロマグロを捕るな」「子どもを産ませろ」などと叫んだ。

    デモの主催者は、横浜で釣り具店を経営する茂木陽一氏。プロの釣り師でもある。「太平洋クロマグロの減少を肌で感じ、その危機感からデモを呼び掛けた」。

    「持続不可能」な漁業との決別クロマグロ、産卵期の禁漁は必須

    2015年夏に「太平洋クロマグロを絶滅から守る会」を立ち上げ、約1カ月で1万3279筆の署名と1228人のコメントを集め、初めてのデモを決行した。初回は86人、2年目の今年は105人が参加した。

    抗議の最大のポイントは、クロマグロの漁期だ。太平洋クロマグロは4─6月に南西諸島で、6─8月に日本海で産卵する。いずれも日本の領海内だ。

    茂木氏によると、メスは腹の卵を数回に分けて産むため、しばらく産卵地にとどまる。そこにオスも加わり、海面が濁るほどの大集団になるという。この産卵場での巻き網漁が、絶滅危惧種になった今も続いている。

    投網する鹿児島県・与論漁協組合長。水を含むと10kg近い投網を投げられるのは今では与論島で2人だけだという。機械化・大規模化以前の漁業は持続可能だった(撮影・青木信之)

    手ぬるい水産庁の規制

    水産庁は、成魚よりも未成魚の漁獲規制が先決と判断。2015年から、「メジ」や「ヨコワ」と呼ぶ30キログラム未満の未成魚の規制を始めた。

    クロマグロの有名な漁場である長崎県壱岐島では2013年、マグロの一本釣り漁師たちが「壱岐市マグロ資源を考える会」(代表・中村稔氏)を結成した。10年前から水産庁に資源保護を訴えてきた彼らは、この規制では回復はおぼつかないと考え、自主規制に踏み切った。

    産卵期には一本釣りでも卵を抱えたクロマグロが捕れることがある。そこで、隣の島の対馬の漁師たちとともに、2015年から3年間、産卵期の2カ月間は禁漁と決めた。

    同会は今年4月、手作りの「マグロサミットin壱岐」も実現。壱岐市のホールに500人を集めた。

    茂木氏は今年7月、産卵期のクロマグロが最も水揚げされる鳥取県・境港を訪問。現場を見学して懸念を伝え、山陰旋まき網あみ漁業協同組合の白須邦夫組合長をはじめ、約20人の漁師たちと話し合った。

    「産卵期クロマグロは味も落ちる。売れ残りに今年は輸入クロマグロの1割以下の安値が付いた」(茂木氏)

    (一部転載)

    SB.com オリジナル記事へ

    written by

    冨久岡 ナヲ(ふくおか・なを)

    ロンドン在住のジャーナリスト。イギリスを拠点に欧州全般のニュースやトレンド、文化事情など広くカバーしている。環境とビジネスとのかかわりに関心があり、循環型経済の発展から目が離せない。「オルタナ」誌をはじめさまざまな雑誌やウェブサイトに執筆するかたわら、日本の企業や団体の視察ツアーコーディネート、欧州市場進出のためのリサーチなども務めている。

    News
    SB JAPAN 新着記事

    循環型経済に向けて、企業に求められることとは
    2025.04.28
    • ニュース
    • #サーキュラーエコノミー
    • #プラスチック
    「RE100」が「石炭混焼発電を禁止」に基準変更――日本の脱炭素戦略へ影響必至か
    2025.04.28
    • ニュース
    • #再生可能エネルギー
    • #カーボンニュートラル/脱炭素
    発酵と再生――微生物が導く未来の循環型社会
    2025.04.25
    • ニュース
    • #リジェネレーション
    • #エコシステム
    米国の古着市場に吹く追い風と課題――トランプ政権の関税方針の影響は
    2025.04.25
    • ワールドニュース
    • #サーキュラーエコノミー

    Ranking
    アクセスランキング