• 下田屋 毅
  • コラム
  • 公開日:2017.04.17
  • 最終更新日: 2025.03.02
バングラデシュの最低賃金引き上げデモが問う法整備

    下田屋 毅(しもたや たけし)

    国家も企業も「労働者の権利」を守る義務がある

    バングラデシュで2016年12月、最低賃金の引き上げを訴える労働組合や労働者のデモが行われた。その背景には、バングラデシュの労働者の最低賃金が世界で最も低いことがある。

    バングラデシュの警察は、デモが「一部暴力的に引き起こされている」という理由から、ゴム弾を使って抗議をする群衆を解散させ、約30人の労働組合リーダーや労働者を逮捕、投獄した。さらにデモに参加したという理由で、少なくとも1500人の労働者が59の工場から一時解雇を通告される事件が発生している。

    繊維産業は、バングラデシュ経済を担う一大産業で、多くの国民が従事する産業でもある。しかし過去には、非常に多くの労働者に対する強制労働などの人権侵害が行われており、建築基準を満たさず、防火設備が整っていない建物の中で働かされ、度重なる火災によって死傷者が発生していた。

    読者の方でご存知の方もいらっしゃると思うが、バングラデシュのダッカ近郊で、ラナプラザという縫製工場が入ったビルが2013年4月に倒壊した。強制労働下で働かされていた労働者1134人が死亡、2500人以上が負傷するという事故が発生している。

    この大災害は、大規模な抗議と業界の国際的な監視を引き起こした。工場に対する建築基準や防火基準の引き上げを行うとともに、バングラデシュの繊維労働者の月間の最低賃金が引き上げられた。しかし、それでも最低賃金設定は未だに世界で最も低く、労働組合や労働者は最低賃金の引き上げを求めてデモが行ったのである。

    労働者の権利が保障されていない、バングラデシュ

    国際的に団体交渉は労働者に認められている権利である。先進国であれば法的にも認められ、労使での交渉をすることができるが、バングラデシュでは、それができていない。

    一度逮捕や解雇をされた労働者は、ブラックリストに入ってしまい、他の工場で働くことができなくなる。労働者はその脅しに怯え、今回のように賃上げ交渉を国家と企業・工場がさせない状況を生み出している。バングラデシュでは、2013年の「ラナプラザ・ビル倒壊」のような大事件が発生していても依然として、人権への配慮が不足しているのだ。

    これに対し、国際的なアパレルブランドのH&MやC&A、Inditex、Nextや中立的な立場である英エシカル・トレーディング・イニシアティブ、そして労働組合、NGOからのバングラデシュへの国際的な批判が高まっている。現在、これらのブランド企業のバングラデシュからの撤退も視野にいれた交渉が行われている。

    昨今のブランド企業の立場としては、サプライヤーの不具合を発見した場合、すぐにサプライヤーとの契約を破棄することはない。企業は、サプライヤーに改善を促し、そしてよりコミュニケーションを行うなどエンゲージメントを図り、良い労働環境を作り出すことを手助けする傾向にある。

    しかし、今回の行動は、サプライヤーの状況を改善する上で必要とされる法整備に関するものだ。バングラデシュ国家が人権を保護する義務を怠っている状況に抗議するもので、繊維産業を主要産業とするバングラデシュに経済的な打撃を与えるという影響を利用して、行動を変えさせようとしているのである。

    この国際的な批判により、2017年2月下旬には投獄された労働組合のリーダーや労働者は解放されたが、引き続き動向を見守る必要がある。

    労働者の権利を守る、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」

    このように国際的に広がるサプライチェーンの管理は非常に複雑化してきている。そしてこれらの労働者の権利を守るものとして中心的に進められているのが、2011年に国連から発行された「ビジネスと人権に関する指導原則」である。

    その中には、3つの柱「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」がある。企業のみならず、国家も人権を保護する義務を行使することが求められているのだ。多国籍に活動している企業は、国内のみならずそれら地域の問題を理解するとともに、積極的に関わる必要があることがこの事例からもわかる。

    グローバルな状況において、企業は、自社の関わる海外の工場やサプライチェーン上の人権、労働者の権利に関して見て見ぬふりをすることは許されず、行動を起こすことが求められている。

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    下田屋 毅(しもたや たけし)

    サステイナビジョン代表取締役 一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事

    欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。

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