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  • 公開日:2017.03.27
  • 最終更新日: 2025.03.21
農福連携で収入向上など、障がい者の働き方改善へ
    • 辻 陽一郎

    エフピコダックスの且田久美さん(左)は「障がい者だからこそできることを追求したかった」と話した (3月24日、農林水産省講堂にて)

    農業の人材不足の課題を解決しながら障がい者の働き方改善につなげる「農福連携」の動きが全国に広がっている。農福連携の現状や課題を議論する「農福連携推進フォーラム」(主催:農林水産省・厚生労働省)が24日開かれた。障がい者の収入や働く場の拡大が期待される中、農業側の理解不足や賃金向上の仕組み作りの課題も浮き彫りになった。(辻 陽一郎)

    厚生労働省によると、障害者手帳を持つ全国の障がい者は約860万人いる。その内、就労しているのは、一般就労者が約63万人、就労継続支援A型は約3万人、B型は約17万人だ。就業先がないため、働きたくても働くことができない障がい者もいる。さらに就労する障がい者も収入面で課題を抱える。就労継続支援A型事業所では、月額の平均工賃が約6万9000円で、生活していくには厳しい金額だ。

    一方、農業分野では従事者不足が深刻な課題だ。農林水産省によると、基幹的農業従事者数は174万人、平均年齢は66.5歳と高齢化が進む。耕作放棄地は20年前の2倍近くに増加し、2015年は42.4万ヘクタールと富山県と同程度の面積となった。

    障がい者の雇用と農業人材不足を解決する「農福連携」に昨今、企業が進出する取り組みが増加している。

    特例子会社で農福連携

    企業の農福連携の一つの形が特例子会社だ。2015年時点で422社ある特例子会社の内、農業分野に進出している会社は少なくとも32社ある。

    先駆けとして成功したのは、文房具メーカーのコクヨが設立した特例子会社ハートランドだ。2006年に設立。同社の社員は知的障がい者と精神障がい者の8名(2015年時点)が、サラダほうれん草を作っている。機械作業などの高度な作業も障がい者だけで行うことで、最低賃金以上を出すことができているという。

    会社としても経常収支で黒字を達成し、6次産業化などの事業展開に取り組んでいる。障がい者福祉施設から毎週100人ほどを受け入れ、障がい者の雇用創出に貢献する。

    企業が障がい者福祉施設に出資

    基調講演を行う、農林水産政策研究所の吉田行郷 企画広報室長

    企業が障がい者福祉施設に出資して設置する動きもある。農業分野には13施設が進出している。北海道河西郡芽室町にある九神ファームというA型の事業所は、惣菜会社のクック・チャム(愛媛県新居浜市)などが共同出資者となり設立した。同社は、平均賃金10万円以上を実現していることで注目を集めている。

    クック・チャムと芽室町をつなげたのは、障がい者雇用で先進的な取り組みを行うエフピコダックスの且田久美さんだ。九神ファームにアドバイザーとして関わる且田さんは「『障がい者でも』できることではなく、『障がい者だから』できることを追求したい。どんな規模や条件だろうと雇用できることを証明したかった」と事業への思いを語った。

    障がい者は3ヘクタールほどの規模で、じゃがいもやかぼちゃなどを作る。事業を始める前は、芽室町には給料を稼ぐ障がい者はほぼいなかった。だが、事業開始時は9名、現在は20名を雇用するまでに発展した。

    且田さんは農福連携の課題も指摘した。「これまでの農福連携では、想いがあって作っても、売れないという課題があった。だが、ビジネスとして成立させるために、売り先を確保し売れるものを作る。そして売れるから雇用を確立できるというのが、農福連携の本来の姿」。

    農林水産政策研究所の吉田行郷企画広報室長は「農業関係者には、農業のように大変な作業は、障がい者にはできないという誤解がある。福祉関係者にも、農業は障がい者に向いていないと考える人がいる。この誤解を解いていく必要がある」と農福連携の課題を述べた。

    フォーラムには農業・福祉関係者など250名以上の申込があったという。課題もあるが、相互の理解が進んでいけば、農業分野、福祉分野、企業それぞれにメリットのある連携ができていくだろう。

    written by

    辻 陽一郎 (つじ・よういちろう)

    オルタナ特約記者、NPO新聞代表。フリーライターとして、NPO・NGOやボランティア、ソーシャルベンチャー、企業のCSRなどを中心に取材。

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