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  • 公開日:2017.03.06
  • 最終更新日: 2025.03.21
米国流社会貢献ビジネス「Buy One, Give One」は日本でウケるか?
    • 寺町 幸枝

    アルゼンチンの伝統的な靴「アルパガータ」をモチーフに作られたTOMSの靴 (C)Ariel Waldman

    商品を一つ購入したら、同じ商品を一つ寄付するという社会貢献型のビジネスモデル「Buy One, Give One(バイワン、ギブワン)」が米国で拡大している。草分けはTOMS(トムズ)シューズ(本社カリフォルニア州)で、2006年の設立直後から一躍成功を収めると、多くの社会起業家がこのモデルに注目した。その魅力と課題を探った。(寺町 幸枝)

    TOMSの創設者は、イケメン冒険家としてテレビ出演し一躍脚光をあびたブレイク・マイコスキーさんだ。2006年休暇で訪れたアルゼンチンの村で、靴を買うことができない子どもたちと出会い、彼の人生は一変した。子どもたちを救いたい一心で、帰国後すぐに行動を起こす。

    「Shoes for Better Tomorrow(よりよい明日のための靴)」というNPOを設立するも、「ビジネスとして確立する方が、より長期的な支援ができるのではないか」という考えにたどり着いた。その後ビジネスプランを練ったマイコスキーさんは、一足の靴を購入してもらうたびに、靴一足を寄付するという「One for One(ワンフォーワン)」モデルを確立し、ロサンゼルスでTOMSを興した。後にこのモデルは、「Buy One, Give One(バイワン、ギブワン/B1G1)」という名称で、社会的ビジネスモデルとして一般化していった。

    TOMSが成功した理由は

    TOMSのビジネスが突出した成功を収めた理由はいくつか考えられる。一つは、時代の「ソーシャルアウェアネス(Social Awareness/社会への意識)」の高まりに合致した点。ミレニアルと呼ばれる社会的意識の高い世代が、購買を牽引する年頃になったことは大きい。

    次に、アルゼンチン(途上国)に対して靴を寄付するだけでなく、生産拠点そのものを現地に築き、雇用を生み出した点。これにより、支援という一方通行ではなく、協力しあう両通行の関係性が築けた。

    そして、アルゼンチンの伝統靴を靴型に採用した一方で、ファッションのトレンドに敏感な層が欲しくなるようなデザインを施した点。そのおかげで、生産者にとっては馴染みがあり生産しやすい一方で、欧米での販売を促すような商品を生み出すことができた点だ。

    最後に、創立者のマイコスキーさんが、TOMSでつくりあげたモデルを、他の社会起業家に対して積極的に広めていった点にある。ビジネスでの成功で、さまざまなメディアや賞を総なめにしたマイコスキーさんは、講演活動に積極的で、時にはメンターとして若い社会起業家へのアドバイスを行ったり、投資家としても活動している。

    2015年までに、3500万足の靴を60か国に寄付しているTOMS。加えて、現在では靴だけでなく、サングラスやバッグの購入を通して、メガネの寄付や妊婦の安全な出産を支えるプロジェクトへの支援を行っている。昨年本国米国では、途上国での水の供給化100%を目指し、「TOMSコーヒー」の販売も開始した。

    SXSW2011に登壇したブレイク・マイコスキーさん (C)Ed Schipul

    社会的意識の高いミレニアル世代へのリーチ

    ニューヨークのリサーチ会社「コンコミュニケーションズ」の2015年の調べでは、ミレニアル世代は、似たような製品を購入する場合、ソーシャルブランド(コーズブランド)を91%の人が選ぶという。全米平均の85%を大きく引き離し、非常に高いCSRへのエンゲージメント率を誇る。

    TOMSが作り出したモデルはその後、メガネブランドの「Warby Parker(ワービーパーカー)」や、石鹸ブランド「Soapbox(ソープボックス)」、文具の「Yoobi(ヨービ)」などに取り入れられ、いずれもブランド認知の面でも成功し続けている。

    一方で批判もある。アショカのヴァレリア・ブディニッシュ副代表は、ニューヨークタイムズの取材で、「G1B1モデルは、無償で寄付することを続けることで、地元に根ざすビジネスに悪影響を及ぼす可能性がある」と指摘し、「問題の元凶を改善することにならない」と厳しい意見を浴びせている。

    あるいは、ブランドの成長や売上と、掲げている理念が一致しないこともある。オーストラリアのベビー服ブランド「Baby Teresa(ベビーテレサ)」は、売上が安定していないために、売り上げた商品と同じだけの子ども服を、途上国に届けるボランティアを見つけることができないという。

    日本での導入例はこれから

    だが、非常にわかりやすいモデル故に、米国では現在大手企業も、企画商品単位でG1B1モデルの導入を進めている。 例えば、シューズブランドの「Skecher’s(スケッチャーズ)」は、2012年から「BOBS(ボブス)」という子ども向けシューズを企画し、1足購入したら1足寄付するTOMSモデルを導入した。初年度だけで300万足の寄付を行っている。

    日本の企業やブランドによる寄付は、今も売上に対するパーセンテージで寄付することが一般的である。しかしこの春、住宅設備・機器大手のLIXIL(リクシル)が、国連と手を組んで画期的なプロジェクトを発表した。

    日本での一体型シャワートイレ1台の販売に対して、プラスチック製の簡易便器「SATO(サト)」をアジアやアフリカの発展途上国に寄付するキャンペーンを打ち出したのだ。ようやく日本の大手から、こうした導入例が見られるようになった。まだ日本は第一歩を踏み出したばかりだ。

    written by

    寺町 幸枝(てらまち・ゆきえ)

    Funtrapの名で、2005年よりロサンゼルスにて取材執筆やコーディネート活動をした後2013年に帰国。現在国内はもとより、米国、台湾についての情報を発信中。昨年より蔦屋書店のT-SITE LIFESTYLE MAGAZINEをはじめ、カルチャー媒体で定期出稿している。またオルタナ本誌では、創刊号以来主に「世界のソーシャルビジネス」の米国編の執筆を担当。得意分野は主にソーシャルビジネス、ファッション、食文化、カルチャー全般。慶應義塾大学卒。Global Press理事。

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