企業はなぜCSRに取り組むのでしょうか。そこにはどんな要素が働いているのでしょうか。
これを一言で表すのは極めて難しいです。そこで、CSRという領域において、企業を取り巻く要因を分かりやすく図にしてみました。ここで留意しなければならないのは、大企業と中堅・中小企業では、企業を取り巻くステークホルダーや環境要因が違う、ということです。
大企業の事業フィールドは、グローバルが基本です。進出先が数十カ国にわたる例も少なくありません。企業行動や製品・サービスが、進出先の文化や社会慣習とそぐわず、思わぬ批判や騒動を引き起こした事例もこれまで数多く報告されてきました。
EUのCSR戦略やインド会社法(純利益の2%以上を社会貢献支出として義務付け)など、地域や国特有のルールも増えてきました。企業が上場しているかどうかも、その企業のCSRの取り組みに大きく変えます。「コーポレート・ガバナンス・コード」は主に上場企業が対象です。中堅・中小企業の場合は、経営者自身が株式の過半を所有していることも珍しいことではありません。
一方、横浜市立大学の影山摩子弥教授が指摘する通り、中小企業のCSRにおいて、最も重要なステークホルダーは「地域社会」です。そして、これは大企業も同様ですが、従業員満足度(CS)やモチベーションが企業の生産性に大きく関わってきます。企業がCSRを導入することで、従業員満足度が向上することもよく知られています。
![]() 上:図1、下:図2
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このような相関関係を、大企業版(図1)と中堅・中小企業版(図2)に分けて作成してみました。
図1では、「国連」「株主・市場」「国家・地域」「市民/NGO」という4つの要素と、それに対する企業自身の動きの合計5つのベクトルを明示しました。図2では、「地域社会」「従業員」「取引先」「市民/NPO」という4つの要素と、それに対する企業自身の動きの合計5つのベクトルを示しました。
この図を駒澤大学の青木茂樹教授に見せたところ、「マイケル・ポーター教授の5 forces に似ていますね」とのコメントを頂きました。
実は「5 forces」はよく知らなかったのですが、新規参入業者、代替品(間接競合)、供給業者、顧客、 競争業者(直接競合)という「五つの要因」が企業に影響して、その企業の収益率を決める―という考え方とのことです。
確かに、図1と図2はポーターの5 forces に似ています。いわば「ソーシャルな5 forces」とでも呼べるでしょうか。
ここで付言すると、図2の領域(地域社会、従業員、取引先、市民/NPO)は当然のことながら大企業も無関係ではありません。いわば図1と図2は二階建てで、大企業は1階と2階は必須、中堅・中小企業は1階が必須ということになります。
カーリー・フィオリーナ・元ヒューレット・パッカードCEOは「企業は真空地帯に存在しているのではなく、さまざまな要因の元に社会的責任を果たす義務がある」と言及しました。この「ソーシャルな5 forces」を活かして、企業がさらにサステナブルな存在になれば、社会的なリスクを減らし、本業を加速させる好循環を実現できると確信しています。

森 摂(もり・せつ)
株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。
東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。