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国際労働機関(ILO)の推定によると、全世界で2100万人が強制労働や人身取引、借金のかたによる労働など、奴隷のような環境で働いているとされる。その被害者の90%は企業活動により搾取され、企業は年間1500億ドルの不法利益をあげているとされる。
このような現代の奴隷労働や人身取引を根絶するために2015年3月、世界に先駆けて英国で現代奴隷法が制定された。この法律は、日本企業にも影響が及び、対応が始まっている。今回は、その最新動向と日本企業の対応状況についてお伝えする。
![]() 2015年3月に制定された現代奴隷法
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国際NGOビジネス・人権資料センターのウェブサイトによると11月7日時点で、この声明を発行している企業は938社(うち日本関連企業56社)である。この法律では、英国政府は対象企業の声明が要求事項を満たしているかについて確認しないとしている。この法律が求めている仕組みは、企業に透明性を促し、市民社会やNGO、大学の研究者などからの監視の目を利用するところだ。
現時点では、関連団体やNGO、市民社会は、企業に現代奴隷制を確認する取り組みを進めてもらうことを第一に考えており、声明の内容について指摘をすることは考えていない。しかし企業は計画の実行、そして毎年ステップアップすることが求められており、来年度以降は内容が不十分な場合、それら組織からの指摘が始まる可能性はある。
現代奴隷法の要求事項
さて、この声明を発行するに当たって要求事項があり、以下の通りとなっている。
1.取締役会の承認、そしてダイレクターの署名があること
2.当該企業のウェブサイトのトップページに目立つようにリンクを貼ること
3. 声明の中に以下の6つの内容を含むこと
① 構造:組織の構造と事業内容及びサプライチェーン
② 方針:奴隷と人身取引に関連する方針
③ デューディリジェンスのプロセス:事業とサプライチェーンにおける「奴隷と人身取引」に関連する人権デューディリジェ ンスのプロセス
④ リスクの評価と管理:事業とサプライチェーンのどこに奴隷と人身取引のリスクがあるか、またそのリスクに対して評価し、 管理するために講じるステップ
⑤ パフォーマンス指標:奴隷と人身取引が業務とサプライチェーン上で起こっていないことを確認する方法の有効性と、そ の行動の評価指標による測定
⑥ 研修:奴隷と人身取引に関する研修のスタッフへの提供
英国の関連団体の調査では、これらの要求事項をすべて満たしている企業は全体で6%だと言わ、今回弊社サステイナビジョンでは、9月17日現在の日本企業20社が発行している声明を確認した。
まず1の取締役会の承認については25%が記載、ダイレクターの署名があるのが70%。また、2.ウェブサイトへのリンクをホームページ貼っている企業は65%である。そして3だが、それぞれを声明の中でカバーしている企業の割合は、①構造35%、②方針35%、③デューディリジェンスのプロセス5%、④リスクの評価と管理20%、⑤パフォーマンス指標5%、⑥研修60%となっている。これらは単純に記載がカバーされている割合を示すもので、特に3の6項目に関しての記述内容はまだ多くない状況である。
日本企業に限らず、潜在的なリスクの特定がなされていないのにも関わらず実施する項目の記載があるなどちぐはぐな状況がある。また研修については60%と高いが、より詳細なターゲット設定、社内、そしてサプライヤーへの実施が記載されている事例は少ない。
この英国現代奴隷法がベースとしているのは、2011年に国連が発行した「ビジネスと人権に関する指導原則」となる。英国は国別行動計画を進めるなかで、英国内でも発生している現代の奴隷制を撲滅するため、そしてこの指導原則の推進を後押しするために英国現代奴隷法を制定した。この指導原則は、英国以外の国でも国別行動計画を持ち、関連の法律を制定しながら企業に促す状況もあり、世界では着々と取り組みが始まっている。日本企業は、自社の問題として取り組みを始める時期に来ている。

下田屋 毅(しもたや たけし)
サステイナビジョン代表取締役 一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事
欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。