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こんにちは、サステナブルビジネス・プロデューサーの足立直樹です。ご存知のようにサステナブル・ブランド国際会議は、今や世界11ヶ国で開催されており、アジアでは既にタイとマレーシアで行われています。ちょうど1カ月前にはタイで、SB16バンコクが開催されました。
バンコクで開催されるのは今年が2度目です。タイの主催者から日本のサステナブル・ブランドの紹介をして欲しいとの依頼を受け、日本のブランドを紹介するセッションのファシリテータを務めに、私もバンコクに行ってきました。その時の様子はまた別の機会にじっくりとご報告したいと思うのですが、今回はそこで特に印象的だったブランド、そしてその発表内容についてご紹介したいと思います。
早速ですが、まずは以下の映像をご覧ください。
どんな会社が、どのような目的で作った映像か、あなたは分かったでしょうか?これを見たある方は、最初はハイネケンのビールを買うなという競合メーカーのコマーシャルかと思ったそうです。
お気づきかと思いますが、最後に出てくる老紳士は、その前に出てくる若いカーレーサーの今の姿です。歳をとった今でも「I am still driving(僕はまだ自分で運転しているから)」と、最後の最後までビールを断り続けるというストーリーです。
おそらく数十年前に映像が撮影された時は、今より規制はずっと弱かったはずです。西洋人にとってはビールなんて水のようなもので、一本くらい飲んでも、実際のところどうということはないのかもしれません。
それであっても、そして自分がレースに勝った後の美酒でも、一仕事を終えた後でも、綺麗な女性たちに誘われた時でも(おそらく「あなた随分マジメなのね」呆れられながらも)、運転する時には飲まないを一貫して実行して来たこの紳士こそ、ハイネケンが求める姿勢なのです。
こうした映像を作るだけでも、ハイネケンが飲酒運転に極めて厳格な立場を取っていることが伝わって来ますが、背景を知るとさらにその深さに驚きます。
実はこの老紳士は、ジャッキー・スチュワートという有名なカーレーサーです。F1ワールドチャンピオンに3度もなったことがある、この世界では大変な有名人です。
さらに、現役を引退した後は、レースを安全にすることに力を注いで来たのだそうです。その結果なのでしょう、2001年にはエリザベス女王からナイトの爵位を受けています。
そうした背景を知る人が見れば、ハイネケンもまた同様に安全を非常に重視していることが伝わるのではないでしょうか。
実はこの時、ハイネケンの発表者の方がもう一つ別の映像を見せてくれたのですが、それはモデレートドリンク(moderate drinking)に関するものでした。
モデレートドリンクとあまり耳慣れない言葉かもしれませんが、日本語では適正飲酒と呼ばれ、世界中の大手のお酒メーカーがいま真剣に取り組んでいる課題です。
日本でもよくビール会社の広告などで、「お酒は適度に楽しみましょう」などというメッセージが添えられていますが、あれです。
言うまでもなく、お酒は飲み方によって楽しいものにもなれば、厄介なものにもなります。お酒会社としてはたくさん売れるに越したことはないのでしょうが、そればかり考えているようでは無責任な会社ということになってしまいます。
なので、ドライバーはもちろん、未成年や妊婦など、ダメな人にはダメと明確なメッセージを送る必要があるのです。なので、ハイネケンではこんな映像まで作っています。(バンコクで紹介されたものとは別の映像ですが、ご参考まで)
往年の名作「フットルース」の中でボニー・タイラーが歌った「ヒーロー(Holding out for a hero)」に懐かしさを感じますが、たとえこの曲を知らなかったとしても十分にカッコいいですよね。そして、酒に飲まれているようでは、カッコ悪いのです。
お酒を売る立場のメーカーがここまでするのか、ここまでメーカーの責任なのかとちょっと驚きますが、今やそのぐらいの責任感が求められているということなのでしょう。
飲み過ぎると良くないので適正飲酒で、というのはもちろん以前から分かっていたことです。しかし、メーカーからすれば、できれば避けて通りたかった問題であるに違いありません。だからこそ、その課題に正面から取り組むことに、その会社の姿勢、価値観が出てくるのです。
なぜなら、そもそもお酒メーカーは、お客様お酒を楽しんでもらいたい、お酒を飲んで幸せになって欲しいと願ってお酒を作っているはずです。それなのに、お酒の飲み過ぎでお客様や周囲の方々が不幸になるようなことがあったら、そもそもの意図に反してしまうはずだからです。
ちなみにハイネケンもそうですが、今や適正飲酒(moderate drinking)という表現よりさらに一歩踏み込んで、「責任ある飲酒(responsible drinking)」という表現も使われているようです。
そして、こういう厄介な問題は「靴の中に入った小石(a pebble in the shoe)」のようなもので、どの業界にもきっとあるはずです。なので、ハイネケンの方は発表の最後に私たちにこんな質問を発しました。
「あなたの靴の中の小石は何ですか?」

足立 直樹 (あだち・なおき)
サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー 株式会社レスポンスアビリティ代表取締役
一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ理事・事務局長。東京大学・同大学院で生態学を学び、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア国立森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、独立。2006年にレスポンスアビリティを設立し現在に至る。2008年からは企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長も兼務。