• コラム
  • 公開日:2016.12.12
  • 最終更新日: 2025.03.02
CSR/CSV 経営ポイント 第6回:「本業を通じたCSR活動」の限界
    • 森 摂

    「本業を通じたCSR活動」の限界

    仕事がらNGO/NPOに話を聞くことが多いが、最近、「企業からの寄付が低迷している」と嘆く担当者が増えているように感じる。

    担当者は「寄付が低迷するきっかけはリーマンショック」と異口同音に言うが、その後、世界経済は復調し、日本でも企業収益は増えているので、この説明では少々納得できない。

    そこで「寄付白書2015」(日本ファンドレイジング協会編)を開くと、驚くべき数字があった。

    個人の寄付(2014年)は7409億円と、2010年に比べて1.5倍になったが、法人からの寄付(2013年)は6986億円と、2010年と比べてほぼ横ばいにとどまっていたのである。

    時期は若干ずれているものの、「日本では、個人からの寄付が法人からの寄付を総額で抜いた」(鵜尾雅隆・日本ファンドレイジング協会代表理事)のだ。

    法人からの寄付が低迷する原因は何だろうか。と考えると、一つ思い当たるフシがある。それは「本業を通じたCSR/CSV活動」というスローガンだ。

    マイケル・ポーターのCSV(共通価値の創造)が日本に上陸して数年たったが、その論調は「寄付やボランティア」を「単なる社会貢献」、あるいは「古い形のCSR」と位置づけ、否定する傾向にある。

    「一時的な企業収益に頼った寄付は、持続的ではない。企業が社会に持続的な価値を提供するためにも、本業を通じたCSR/CSVが重要である」という文脈だ。

    CSR/CSVに取り組むことで企業収益が増えれば、経営者や株主の理解も得やすいし、まさに持続的になる。
    もちろん、この文脈自体は正しいし、筆者も否定するつもりはないが、「本業を通じたCSR」だけで本当に十分なのだろうか。

    ここまで書いて、ピーター・ドラッカーの「マネジメント」(1973)の一節を思い出した。

    「社会的責任の問題は、企業、病院、大学にとって、二つの領域において生ずる。第一に、自らの活動が社会に対して与える影響から生ずる。第二に、自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる。いずれも、組織が必然的に社会や地域のなかの存在であるがゆえに、マネジメントにとって重大な関心事たらざるをえない」

    ここで大事なのは「第二の領域」で、これは寄付やボランティアなどの「慈善」(フィランソロピー)活動と同義であろう。そのうち法人によるフィランソロピー活動が日本ではこの数年、停滞しているのだ。

    いま「本業を通じたCSR/CSV活動」に真剣に取り組んでいる企業には申し訳ないが、是非この「第二の領域」も重要であることを再認識してほしい。

    ところでドラッカーの「マネジメント」はビジネスパーソンなら誰しも一度は読んだことがある名著だが、その9章のうち、第4章はまるごと「社会的責任」に充てられている。CSRに関心がある方は是非、一読して頂きたい。

    40年前の著作であることを考えると、その先進性に改めて驚嘆するとともに、実は社会的責任の本質はこの数十年、変わっていないのではないか、とも受け止められる。企業には改めて、第一と第二の、両方の領域での活躍を期待したい。

    written by

    森 摂(もり・せつ)

    株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。

    東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。

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