![]() オンライン「冬キャンプ」の様子
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23人の高校生が“異分野融合”の視点で研究を行うプログラム「IHRP(Interdisciplinary High School Research Program)2024」は3ヵ月間のインプット期を経て、実際に研究活動を行うアウトプット期間に入りました。また12月には冬キャンプを行い、高校生たちがこれまでの活動を振り返り、お互いに共有する時間を通して、IHRPのプログラムでの学びを深めるとともに、新たな視点や気づきを得る機会となりました。(本文寄稿・IHRP=森垣穂香)
12月21~22日にオンラインで行ったIHRP2024の冬キャンプでは、これまでの学際的な学びや個人の研究活動を振り返り、次につなげることを目標に開催しました。
1日目には、「未来年表ワークショップ」と「便利ツールワークショップ」、そしてサステナブル・ブランド ジャパンのユースコミュニティ「nest」との交流会を行いました。「未来年表ワークショップ」と「便利ツールワークショップ」では、自分が進めている研究や時事ニュースをもとに実現可能な未来をテーマにしたディスカッションや、英語論文のリサーチ方法やプログラミングなど、研究内容をより深くするために必要なツールの紹介をIHRPの運営メンバーが行いました。最後に、nestの土岐厚博さんと本田萌絵さん、IHRP代表の辻本伸子さんと江川陸翔さんによる発表、そしてオンライン交流会を設けました。
プログラムの2日目は、参加者が夏キャンプで掲げたそれぞれの問いについて、これまでの5ヵ月間でどこまでを探究することができたのかを、発表し合いました。高校生たちは、アファーマティブアクション(格差是正の取り組み)、パッケージデザインの効果、ロスフラワーや合成燃料など、多様なテーマを取り上げていました。2日間を通じて、参加者は同世代の研究や活動に多くの刺激を受ける機会となったと思います。
2月には、今年度の新たな取り組みとして「卒業生の会」を行いました。会では、過去にIHRPのプログラムに参加した4人の大学生や高校生に登壇していただき、IHRPでの学びと、それがその後の進路や活動にどのようなに生かされていったのかを発表していただきました。登壇者それぞれが他の課外活動との両立、大学の選び方、IHRPで取り組んだ研究と現在の興味とのつながりなどについて話してくれました。参加者たちは、少し先を歩む先輩たちの経験談に熱心に耳を傾け、先輩たちが参加したことのあるサステナブル・ブランド国際会議での、ネットワーキングの方法などについて積極的に質問していました。参加した高校生たちは、1年後2年後の自分たちの姿を想像しながら、自分の活動の未来を考える良いきっかけになったことでしょう。IHRPのプログラムを通じて、卒業後も参加者同士がコミュニケーションを取り、お互いを高め合える良い仲間になっているということを、改めて感じることのできる時間となりました。
高校生たちの研究紹介
■佐野陽菜( IHRP4期生、Loohcs高等学院3年生)
IHRPへの参加理由は、都市開発における「<場所>の記憶」の可視化を通じ、開発者と地域住民の認識を調和させる方法論を探究したいと考えたからです。インプット期では社会学的な視点を学ぶことで「<空間>と<場所>は二分されるものではなく、<空間>を<場所>へと変えていくプロセスが重要である」との学びを深めました。
研究テーマは「『<場所>の記憶』の可視化を通じた、都市開発の第三の道の創」にしました。一方的な都市開発が地域住民の反感を招くことがあり、都市の歴史や文化が淘汰されてしまう現状への問題意識があったからです。特に、東京・下北沢の再開発における地域住民との対話を通じて、都市が変化する過程で生じる分断を可視化し、解決する必要性を感じました。
研究では、社会学的分析に加え、地域住民のライフヒストリーやメディアアートを用いた「<場所>の記憶」の抽出と、デジタルアーカイブや屋外展示を活用した可視化の方法論を構築しました。今後は、開発地域を対象に、住民・行政・開発者の三者が参加するワークショップを設計し、「<場所>の記憶」の共有を促進する実証実験を行う予定です。本研究を通じ、社会に経済価値と社会価値のリエゾンから生まれる、新しい都市風景の可能性を提案したいです。
■池上璃々子(IHRP4期生、不二聖心女子学院高等学校1年生)
私は、中学生の時に、公共の場における聴覚障がい者向けの情報保障について調査したことがありました。その際、視覚障がい者向けのサービスは多く展開されている一方で、聴覚障がい者向けの情報保障は不足していることが分かりました。そこで私は、聴覚障がい者への情報保障を充実させたいと考え、情報収集し、聴覚障がい者に向けた情報保障の機器を出している富士通がIHRPを支援していることを知りました。
IHRPに参加してからは、インプット期に運営側から紹介された、国立研究開発法人 科学技術振興機構が開催する科学のイベント「サイエンスアゴラ2024」に参加。そこで聴覚障がいのあるお子さんを持つ大学教授から、「聴覚障がい者であることを気づかれにくいため、十分なサポートが受けられない」という課題を伺い、当事者自ら周囲に情報発信できるツールの開発を考えるようになりました。
制作するにあたって、意思表示が難しい幼児に対象を絞り、求めるツールの形について聴覚特別支援学校でインタビューを行いました。今後は実際にツールを使用してもらい、改善を重ねながらより多くの人に使ってもらえるようにしたいです。この研究を通じて、聴覚障がい者と聴者との間にある“コミュニケーションの壁”を少しでもなくし、社会全体での情報保障に対する取り組み拡大への架け橋になれればと思います。
また今年度のプログラムの最後として、4人の高校生が3月18~19日に開催される「サステナブル・ブランド国際会議 2025 東京・丸の内」に登壇します。「巡り、繋がる、地球のいろ。」をテーマに、半年間のIHRPプログラムでの学びから得た研究成果を発表します。毎年多くの反響をいただくセッションですので、今年もどうぞご期待ください!
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https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1221050_1501.html
SB国際会議2024東京・丸の内レポート
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IHRP(Interdisciplinary High School Research Program)
IHRP(Interdisciplinary Highschool Research Program)は、世界各地で活動する大学生が、高校生の異分野融合の研究を支援する、特定非営利活動法人です。「社会課題解決のための研究」「異分野融合」「多様な高校生にチャンスを」をコンセプトに、高校生同士、高校生と研究者・企業の“新結合“をもって、社会問題へ斬新な解決策を創造することを目標にしています。