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  • 公開日:2017.12.21
  • 最終更新日: 2025.03.28
サイボウズ社長、「聞く経営」が働きやすさのカギ

    池田 真隆 (いけだ・まさたか)

    働きやすい組織はどのようにしてつくるのか。2005年に離職率28%だったサイボウズは2012年から5%以下を更新し続け、売上も伸ばしている。同社の青野慶久社長は「聞くことが経営者の仕事」と言い切る。どのようにして社員から話を聞いているのか。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

    インタビューを受ける青野社長

    口よりも耳を大きく

    ――2017年版「働きがいのある会社」女性ランキング(Great Place to Work® Institute Japan調べ)では、サイボウズは中小企業部門(従業員数100-999人)で1位に輝きました。いまの時代に働きがいのある組織をつくるために経営者の役割は何でしょうか。

    経営者がすべきことは、社員の話を聞くことです。これは断言できます。経営者は考えずに、まず意見を聞いたほうがいい。なぜなら、組織の制度に関して、経営者が提案するものはたいていが的を外れていると思います。ぼくが言い出したものも却下されることが多かった。

    今振り返ると笑い話しなのですが、社内で保活が大変だという声をよく聞いていたので、社内に保育園をつくろうとしました。よし!これでみんな喜ぶぞと思ったのですが、社員からは、「青野さん、アホですか?」と真顔で言われました。

    毎日、日本橋にある本社まで出勤時間に子どもを連れていくことは「地獄ですよ」と却下されました。

    日本橋にあるサイボウズの本社エントランス

    ――なぜ社長の提案は却下されやすいのでしょうか。

    社員が100人いれば100通りのニーズがあるので、すべてを経営者が一人で把握することは無理という前提はあります。把握しようとするのではなく、困ったことがあったらいつでも相談に乗れるようにしておくことが大切です。

    悩みが出てきたときに一緒になって考えてみる。自分一人で考えて思いついても、それに適合する社員がどれだけいるか分からない。繰り返しになりますが、経営者がやるべきことは、考えるのではなく、まず聞くことなのです。

    「意見しないのは卑怯」

    ――社員によっては組織の問題点を指摘しづらいこともあると思いますが、どのようにして悩みを聞きますか。

    サイボウズでは10年ほど前から社員に「質問責任」を求めています。不満があるのに言わないのは卑怯とし、質問があれば発言することを義務とした考え方です。組織制度について出てきた不満は人事部に集約されて、テーマごとに有志を募り「仕事Bar」でディスカッションします。

    サイボウズでは一人ひとりが質問し、担当者が返事することを非常に重要な社内文化としています。ですので、ここでの議論は全社に共有します。参加できなかった人でも意見できるようにしています。

    意見しないのは卑怯であるというルールがあるので、制度ができてからグチグチ言う人は減りました。

    実は、全社員のボーナスを決める仕組みは入社3年目の若手社員の意見で変わりました。入社歴に問わず、会社のビジョンと合った意見ならどんどん採用しています。そのため、社内には、「この会社は言えば変わる」という雰囲気が自然と生まれて、積極的に発言するようになりました。

    仕事Barでは飲食をしながら意見を交わす

    ――質問責任があることで、社員が当事者意識を強く持つようになったのですね。

    ぼくは、自分の人生は自分で責任を持ったほうが楽しいと考えています。だから、社員には「経営陣は現場を分かっていない」という不満を口にする前に、質問することを求めています。もちろん、会社のビジョンに即していないと共感はされないのですが、とりあえずすべての質問を受け付けています。

    ――ワーママ(子育てしながら働く母親)を応援する「パワーママプロジェクト」を支援しています。その意義はどうとらえていますか。

    2017年に世界経済フォーラムが発表した日本のジェンダーギャップ指数は144カ国114位です。意思決定権を持つ、国会議員や役員などのほとんどが男性です。このギャップで少子化問題が解決できず、働く母親への負担が増しています。

    働く母親に光を当てて、一人ひとりが声をあげていくことが重要だと思っています。だから、支援し続けています。

    ――ワーママにとって働きやすい職場にするために経営者の役割は何でしょうか。

    何度も言いますが、話しを聞くことです。これに限ります。子どもができて、働きづらくなり辞める人はいますが、きっと会社への不満をめちゃくちゃ持っていると思います。めちゃくちゃ(不満が)あるのに、それを言わずに退職していく。言ったところで、どうせ聞いてくれないだろうと思わせているかもしれません。

    こういった状況を改善できるのは経営者の意志です。経営者には、成功体験を話す必要はないから、「聞け」と言いたい。時間は作れる。聞く気がないだけです。

    interviewee
    青野 慶久(あおの よしひさ)

    1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を越えるまでに成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

    written by

    池田 真隆 (いけだ・まさたか)

    株式会社オルタナ オルタナ編集部 オルタナS編集長

    1989年東京都生まれ。立教大学文学部文芸思想学科卒業。大学3年から「オルタナS」に特派員・インターンとして参画する。その後、編集長に就任し現在に至る。オルタナSの編集及び執筆、管理全般を担当。企業やNPOなどとの共同企画などを担当している。 「オルタナ」は2007年に創刊したソーシャル・イノベーション・マガジン。主な取材対象は、企業の環境・CSR/CSV活動、第一次産業、自然エネルギー、ESG(環境・社会・ガバナンス)領域、ダイバーシティ、障がい者雇用、LGBTなど。編集長は森 摂(元日本経済新聞ロサンゼルス支局長)。季刊誌を全国の書店で発売するほか、オルタナ・オンライン、オルタナS(若者とソーシャルを結ぶウェブサイト)、CSRtoday(CSR担当者向けCSRサイト)などのウェブサイトを運営。サステナブル・ブランドジャパンのコンテンツ制作を行う。このほかCSR部員塾、CSR検定を運営。

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