• コラム
  • 公開日:2021.10.14
  • 最終更新日: 2025.03.02
フィリピンのココナッツで世界を変えるーー水井裕・ココウェル代表

    水野 浩行(みずの・ひろゆき)

    愚直に、真っ直ぐに。日本初のココナッツ専門店「ココウェル」を運営する水井裕さんは長くフィリピンのココナッツに焦点を当て、ただひたすら現地と未来を願って自身の行うべき仕事に向き合ってきた。それは儲けや名誉といった私的な欲求ではなく、人間として当たり前にあるべき「感覚」を大切にするとても自然体な姿勢だ。

    ボーイスカウトが育んだ環境問題への強い思い

    水野:水井さんは長くフィリピンを拠点とされていますが、幼少期や学生時代はどう過ごされていましたか?

    水井:僕は小さい頃にボーイスカウトをしていました。昔から自然と触れ合うことが好きで、外国語大学に入ったものの、英語より環境について学びたいと思うようになり、卒業後に環境の専門学校で学び直しました。勉強をする中で途上国の環境問題に関心が生まれました。

    水野:ちょうど時期的にはCOP3(1997年開催の第3回気候変動枠組み条約締約国会議、京都会議)の時期です。かなり早い時期から関心を持たれていたのですね。

    水井:はい。まさにCOP3が始まる少し前に、その専門学校で模擬COP3をやるという授業がありました。COP3は各国が温室効果ガスの削減量を決める会議だったわけですが、授業でやった模擬COP3というのは生徒で各国の大統領役を演じて行うわけです。そこで僕はフィリピンの大統領になりました。「途上国の立場で発言をする」という主体的な立場になることで関心が生まれたことは間違いありません。そこから休学してフィリピンへ行きました。

    水野:最初はフィリピンのどちらへ行かれたのでしょうか?

    水井:トンドという地区のゴミ山ですね。フィリピンって環境科学の授業の中でもゴミ問題にまつわる話が多く、初めてその現実を目の当たりしました。

    ゴミだけではなかったフィリピンの現実

    水野:環境科学を学び、ゴミの問題に焦点を当てた水井さんですが、現在のご事業は主にココナッツを主とした製品開発を展開されています。どのような経緯があったのでしょうか?

    水井:ゴミ山に行った時に、ゴミの量よりも衝撃的だったのはその周りに住んでいる子どもたちでした。ゴミの中から鉄屑やプラスチックを集めている子どもたちが目に止まりました。凄く劣悪な環境で目も当てられないようなひどいところだったのですが、そこに住んでいる人がいることに大きなショックを受けました。環境問題も大事だけど、貧困問題が強烈に自分の中に入ってきました。

    水野:僕もカンボジアで行ったことがありますが、フィリピンの場合はどのような人たちが住んでいるのでしょうか?

    水井:ほとんどの人は地方の農村から仕事を探しに来ていました。みんな夢を持って家族と一緒に都会に行く。でもなかなか仕事は見つからなくて、最終的にスラムに行ったり、ゴミ山に行ったりします。農村が本当に貧しく、仕事がない状態だと知った時、根本的な問題は農村にあるんだろうなと感じました。

    水野:やはり産業や仕事による貧困が原因なのですね。

    水井:そうですね。だから僕は実際に農村に行ってみました。そうしたらびっくりする位のココナッツが生えていて。ココナッツの存在は知っていましたが、ここから何かできないかと思いました。

    水野:そこが転機になったのですね。

    水井:フィリピンは元々、米国領だったので米国に流通する工業用のココナッツオイルは存在していましたが、かなり安い金額で買い叩かれていました。一方で、農家さん自身がオイルを自分たちで作れるかといわれれば難しいのが現状でした。

    水野:いわゆるフェアトレードの問題が存在していたわけですね。

    水井:そんな中、ちょうどバージンココナッツオイルというものが作られ始めていて、通常の工業用のココナッツオイルに比べ、付加価値が高いものでした。そしてココナッツは環境にも優しく色んな作物とも共生できるし、土地も痩せない。捨てるところがなく色々なものができることも知り、これをベースに農家さんたちの仕事に繋げていきたいと思いました。

    水野:そこからビジネスを本格的に始めようとお考えになられたのですか?

    水井:実は、起業したいという気持ちは全くなかったんですけどね。

    水野:そもそもその時期のフィリピンって今でこそフェアトレードなどを通じて距離が近くなった気がしますが、その当時はどうだったのでしょうか?

    水井:語学留学とかをする方はチラホラ見かけましたし、マニラも日本の中古車が多いイメージでしたが、今は走っている車の種類が違いますね。随分と様変わりしたなぁという印象です。

    「ココナッツでセカイを変えたい」 ココウェル創設へ

    水野:ココナッツ製品の日本におけるマーケットの可能性はどのように感じていられたのでしょうか?

    水井:当時はまだドーナッツの表面にかけられたりとか、ココナッツミルクが缶詰で売られていたりとか。あるにはあったのですが、ココナッツオイルは全く知られていませんでした。

    水野:ご自身で起業することを考えたのですか?

    水井:実は全くそういうつもりはありませんでした。ただ僕は生まれつき腎臓が悪くて、フィリピンから帰ってきたら結構ひどい状態でした。入退院を繰り返していて、学校も辞めざるを得ない状況になりました。一方でフィリピンのことは気にはなっていて、今後どうしようか考えた結果、自分でココナッツとフィリピンに向き合っていくことを決意しました。

    水野:まずは何からスタートされたのでしょうか?

    水井:食用だと安定的な需要が見込めないかもと考えたので、化粧品の販売をしていこうと思い、原料を輸入して化粧品作りを一から始めました。容器屋へ行ったり、パッケージ屋に行ったり・・・半年くらいフィールドワークして、商品を完成させました。

    水野:製造の苦労話はみなさんに共通する話ですが、わりと早くに製品が完成したのですね。

    水井:そうですね。でもやっぱり協力先を探すのは結構苦労しまして、結局、愛知県で作りました。

    水野:製品ができ上がってからは、いよいよ販売ですがそこからはどのような展開をされたのでしょうか?

    水井:商品ができるまでの間も、本当にお金がなかったのでとにかくイベントに出まくりました。今みたいにマルシェとかもない時代だったので、フリーマーケットに出店していました。友達のブースの隣を間借りしてダンボール置いて、そこで売っていました。

    水野:THE スタートアップですね!反応はいかがでしたか?

    水井:数百円の製品でしたが、通りがかる人に試用して貰うと反応も良く、手応えは感じました。そこから毎週とにかくフリーマーケットに出て販売して、という日々を繰り返しました。そこからホームページを作って、ウェブで販売して、またフリーマーケットで宣伝しての繰り返し。そんな中、他のセレクトショップなどとのBtoBの繋がりもできて卸販売が始まったりもしました。

    水野:千本ノックですよね。僕も経験しましたが、どれくらい続けられたのですか?

    水井:5年間は続けました。そこから自分たちでイベントを主催したり、少しずつ自立していきました。

    水野:時間軸としてはそのあたりがCOP3の目標年(2008~2012年)に入った時ですね。先んじて環境問題に取り組まれていた水井さんですが、そうした気運は何か感じていましたか?

    水井:はい、感じていました。少しずつ同じような思いを持つ人が増えてきたなと思いましたし、アースデイ東京に出た時には仲間も増えました。イベントを通じた繋がりができた時期でした。

    水野:労力も必要だったと思いますが、順調な滑り出しのように感じます。

    水井:スタートして3年くらいはアルバイトをしながら過ごしました。でも2013年くらいになると、取引先もだいぶ増えてきて、ココナッツオイルも少しずつ認知が高まりました。大きなブームになったのは2014年。ちょうど10周年だったので、ココフェスというイベントをしてお祝いました。

    水野:ココウェルは直営店がありますよね?

    水井:大阪の北堀江にカフェがあります。

    水野:売上規模が広がっていくにつれ、フィリピンの産業や就労の変化はありましたか?

    水井:そうですね、働く場所は増えてきました。消費の量も増えているので、現地に割と影響をもたらせられた実感はあります。工場でオイルにするなど加工を現地で行っています。一部の地域なので、まだまだですが。

    水野:ここ最近の活動はどのようなことを行なっているのでしょうか?

    水井:2015年の1月に世界ふしぎ発見で取り上げられて、需要が上がりきってガクンと落ち、想定以上の売上高の落ち込みでした。4分の1くらいになりました。2016~2019年は下がりきってニーズが底をつきました。一方で会社の留保もあったので、何とか凌いで今はまた地道に上がってきています。

    水野:上がってきている要因は何だったのでしょうか?

    水井:ブームの時は需要も上がる一方で、新規参入も凄かったんですよね。そこで供給過剰が起きて、投げ売りが始まって100均で売られたり・・・。それが今落ち着いてきた感じです。もう一つは、一時的な情報ではなく論理的に地道に丁寧な販売を心掛けているので、もう一度ココウェルを通じてココナッツ商品を使う人が増えてきたという感じですね。

    水野:そういう市場荒らしの様なことが起きるとフィリピンの現地にも影響が出ますよね。

    水井:ナタデココも同じ様な目にあってるんですよね(笑)。僕らはココウェルの名の通り、ココナッツしか取り扱わないし、その産業保護と発展を意識しています。儲かるからといってふらっと参入されるとココナッツ商品の質やイメージ低下に繋がるので、現地を思って大切に育てたいですね。

    「SENSE OF WONDER」 感覚を変えていくこと

    水野:水井さん、ココウェルの今後の展望をお聞かせください。 

    水井:カフェがちょうど5年を迎えるにあたり、本社とカフェを一緒にしてしまおうと思っています。そこで製造もできるようにしようと思っています。ココナッツ原料を使った食物販とか、加工品全般を全国に届けられるようにしたいです。

    水野:ココウェルとして次のステージに向けた場づくりをされていくということですね。素晴らしいです。ぜひ一緒にモノを展開したいですね!

    水野:最後に、水井さんが100年後の未来を創る人として、伝えたいことはありますか?

    水井:やっぱり、このままいくと地球は持たないと思っています。僕は技術革新で環境が良くなるとはあまり思っていないんです。その前に人それぞれの価値観を変えていくことが必要かなと思います。僕が幼少期に影響を受けた『SENSE OF WONDER (センス・オブ・ワンダー)』(レイチェル・カーソン著)という本があるのですが、人それぞれが持っている価値観、自然を神秘と思える感覚とか、そういう感覚を持って欲しいです。現代人が持っている感覚や生活様式を100年後の人が持っていたとしたら、それは絶対に地球が持たないと思う。だから感覚を変えていくことがとても大切だと思っています。人間も自然の一部という感覚を取り戻して欲しいですね。

    水野:合理性だけを求めるのではなく、人間性を取り戻すような。ある意味感覚を変えていく、取り戻していくようなことを、ココウェルは製品を通じてますます発信していって下さい。本日は本当にありがとうございました。

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    水野 浩行(みずの・ひろゆき)

    2010年よりエコロジーをコンセプトとしたブランド「MODECO」を設立。産業廃棄物の削減と有効活用をテーマにした「アップサイクルデザイン」の第一人者として、国内外から注目を集める。とりわけ、自治体と連携した消防服の廃棄ユニフォームを再利用したFireman など一連のデザイン・社会問題は『ガイアの夜明け』などTVをはじめ100を超えるメディアから取材された実績を持ち、2015 年に株式会社アミューズの資本・業務提携を結び、ブランドビジネスの新しい在り方を示した。 またヒューレット・パッカード、パタゴニア、フォルクスワーゲンなど欧米のナショナルブランドとのコラボレーションも数多く手掛け、未来のために描くそのデザインは国境を越え高い評価を受ける。そのほか、小学校から大学の講師などさまざまな教育活動も行っている。2018年より、MODECOのモノづくりのみならず、サステナブル社会における企業づくりのため、HIROYUKI MIZUNO DESIGNを設立。上場企業から中小企業まで、未来的な企業、事業の設計に向けた顧問、コンサルティング事業を開始。また現在は「100年後の未来を創る」ことを掲げ、あらゆる社会起業家と 企業と連携し、社会をサステナブルにアップデートすることを目的とした新しいソリューションプラットフォーム「AFTER 100 YEARs(100s)」の設立に向け準備中。

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