• コラム
  • 公開日:2020.01.15
  • 最終更新日: 2025.03.02
自治体もサステナブル経営を意識する時代へ(4)

    伊藤 大貴(いとう ひろたか)

    シリーズ「公共からパブリックへ、変わる都市経営」の連載も今回で第4回目。今回は地方議員の社会的価値に焦点を当てたい。

    前回は公務員の本格的な副業、兼業時代のはじまりを取り上げた。今は「営利企業」は「公共性を持たない」と判断されることから、公務員の企業での副業、兼業は実質不可能だが、この状況がこの先、変わっていくだろう。経済産業省が2019年8月に発表した「21世紀の『公共』の設計図」では、企業が公共サービスを担う時代の幕開けを予測している。その未来における企業は「営利企業」でありながら、「公共性を有している」ことは論をまたない。

    翻って、地方議員。おそらく、ほとんどの読者にとって地方議員はまったく馴染みのない存在だろう。誤解を恐れずに言えば、むしろ「能力のない人たち」とすら思われているかもしれない。

    こうした誤った理解が社会に蔓延しているのも無理はない。政務調査費の不正利用が発覚し、テレビカメラの前で号泣した元兵庫県議の事件然り、地方議員がニュースになるのは、何か不祥事を起こした時だけだからだ。そのネガティブな印象がテレビという増幅装置を通じて社会へ広がっていく。

    首都圏を中心にビジネスパーソン出身議員はたくさんいる

    しかし、実際には地方議員にはビジネス経験を有した人材が数多く存在する。良くも悪くもメディアと永田町が作り出す政局によって5、6年に一度、第三極ブームが起きてきたからだ。2000年代初頭には政権交代前夜の民主党ブーム、その後、みんなの党、大阪維新の会、最近だと都民ファーストの会と、こうしたブームが巻き起こった際に民間から政治の世界へ、少なくない人材が流入している。都市銀行や保険、広告代理店、メディア、コンサルティングファーム、メーカー、ゼネコン、IT企業など幅広い業界から政治の世界へ参入してきた。弁護士、公認会計士といった士業出身者もいる。

    この十数年、こうした人材が政治の世界に流入し、彼らはビジネスと公共の両方を理解する稀有な存在として成長してきた。これまでの連載コラムで触れてきたように、都市のオープン化や社会のあらゆるもののサービス化により、公共サービスを企業が担う時代が目前に迫っている。地方自治体をめぐる環境は大きく変わろうとしており、10年前ならともかく、ビジネスと公共の両方を経験した人材は、官民連携2.0とも言うべき、新しい時代に最も必要とされる人材と言っていいだろう。

    privateとpublicの両方を理解した人材は稀有な存在

    日本では「政治の話はタブー」とされているほど、社会が政治に向ける目は厳しい。冒頭触れたように、地方議員に対する世間のネガティブな印象もある。本稿で書くように、地方議員にビジネス経験を有する人材がいることも認知されておらず、仮に認知されていたとしても、その議員にアドバイザーや事業企画などをプロジェクト単位で依頼するということは発想として生まれないだろう。

    一般にあまり知られていないが、公務員と異なり、地方議員の場合は兼業、副業に関する規制が基本的にはほとんどない。あるのは、自身が所属する地方自治体と取引関係のある企業の、当該自治体との取引に関わる兼業が禁止されていることくらいだ。つまり、横浜市議会議員が自分の政策的専門性を活かして、企業プロジェクトに参画し、東京や大阪、名古屋、福岡など横浜以外の都市でビジネスに関わることは何ら問題がない。日本は長らく、政治はタブーであったため、こうした基本的なことさえ意外に知られてない。

    公共からパブリックへ、今は時代の端境期

    繰り返しとなるが、今、自治体を取り巻く環境は大きく変わり始めている。公共=行政だった時代が終わりを告げ、企業もサービスやプロダクトを通じて公共を担う時代が始まりつつある。こうした状況において、サービスやプロダクトを開発するチームの中に、ビジネス経験と公共の経験の両方を有した人材がいれば、そのクオリティは格段に向上するだろう。

    これは私自身の経験に基づくアイデアでもある。議員時代、常々、社会課題を知る政治家、なかんずく現場感覚を有する地方議員が企業の事業企画やプロダクトの開発、あるいは公民連携事業にアドバイザーとして関わることができないだろうか、と考えてきた。従来の政治につきまとう口利きではなく、その議員の政策的専門性を活かす、という発想だ。このスキームを作ることができれば、議員にとっても企業にとっても、両者がハッピーになるはずなのだ。

    一つ、象徴的なニュースが2019年11月に配信された。現役の神奈川県議会議員、菅原直敏氏が磐梯町(福島県)のCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)に就任したというニュースがそれである。菅原氏は、「人々をテクノロジーでエンパワメントする」をビジョンに掲げた一般社団法人Publitechの代表理事を務める人物。菅原氏の県議としてのキャリアと社団での実績を評価し、磐梯町長が同氏をCDOに招聘したという。このケースは、地方議員が地方自治体をサポートする事例だが、今後、地方議員が民間プロジェクトを支援するという事例も生まれていくだろう。

    written by

    伊藤 大貴(いとう ひろたか)

    株式会社Public dots & Company代表取締役。元横浜市議会議員(3期10年)。

    財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心した企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大学非常勤講師なども務める。

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