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第1回では、これから本格的に到来する自治体の都市経営の変化「都市のオープン化」について、第2回は都市のオープン化とテクノロジーの進化によってもたらさえる、新しい官民連携の姿「官民連携2.0」を取り上げた。第3回は、官民連携2.0を支える、パブリック人材のうち、公務員に焦点を当てよう。本格的に訪れる、公務員の複業・兼業時代の到来だ。
中央省庁が国家公務員の兼業を意識し始めた
2019年3月、内閣官房内閣人事局が興味深い資料を公開している。「国家公務員の兼業について」である。中央省庁が兼業の考え方を示していること自体が興味深い。10年前なら考えられなかったことだ。それだけ今、公務員に対する企業サイドからニーズが高まっていることの証だろう。
資料は国家公務員法を解説している。同法第96条の大前提「国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務」を確認しつつ、兼業の法的根拠となる第103条、第104条に触れている。端的に言えば、営利企業役員は報酬の有無に関係なく認められていないこと、非営利団体での兼業で、労働の対価として報酬を得る場合には許可を要すること、などが記載されている。
国家公務員の、金銭を伴う兼業・複業は現実的には不可能と見ていい。とはいえ、人生100年時代と言われ、ビジネスパーソンのキャリアを1社で完結する時代ではなくなっている中で、公務員だけで終えることに不安を抱えている官僚は多いだろう。近年、霞ヶ関を軽やかに離れ、民間へ転職していく若手が増えているのも、そうした不安の裏返しかもしれない。民間企業での、金銭を伴う兼業・複業の禁止と、一方でビジネスでのトラックレコードが欲しい公務員心理に対しては、ひとつのアイデアがあるので後ほど触れたい。
全国の注目を集める生駒市の取り組みとその先に見える未来
さて、中央省庁の一歩先を行くのが自治体だ。中でも注目は生駒市(奈良県)だ。生駒市の小柴市長は環境省出身の、元キャリア官僚。小柴市長は2枚目の名刺Webマガジンというメディアのインタビューに対して「自治体は副業をやってはいけないと勝手に思い込んでいただけで、国が基準を変えなくても、公務員の副業はできる」と答えている。具体的には、(1)公益性が高く、継続的に行う地域貢献活動であって報酬を伴うもの、(2)生駒市の発展、活性化に寄与する活動であること、を満たす場合に副業・兼業を認めている。
生駒市内という制限がかかっているものの、こうした動きが加速し、企業での副業、兼業が当たり前になる時代がやってくるのは間違いない。それはなぜかというと、「公益性」の定義が揺らぎ始めているからだ。これまでの連載で述べてきたように、これから行政と企業の境界線が急速にぼやけていく。従来は公共=行政だったが、これからは公共=行政であると同時に、公共=企業の時代だからだ。
第2回で触れたように、社会の様々な場面で「モノ」から「コト」へ移行している。それに伴い、あらゆるものがサービス化していく流れにあって、GtoCの領域では、その担い手は企業になっていく。企業が公共を担う時代にあって、公益性を担保しているのは今までのように行政や外郭団体のような組織だけと限定されることの方にこそ違和感があるだろう。つまり、そう遠くない将来、企業も公益性を有する組織として社会が認知する時代がやってくる。その時、公務員の副業、兼業の領域は一気に広がる。
そして、そういう未来を中央省庁そのものが見通しているのだ。2019年8月、経済産業省が「21世紀の『公共』の設計図」という報告書を発表している。詳細は本連載の最終回に譲るが、社会全体にとって大事とされるサービスや財を政府が設計し、管理・運営する仕組みは20世紀までは効率的で機能的だったが、経済の主体が工業からサービスへ移行した今、公共サービスもできるだけ民営化することがリーズナブルであることが明記されている。公益性を備えた企業でなければ、公共サービスを担えないのは自明である。
企業も公益性を引き受ける時代はもう目の前
日本は諸外国に比べて、一歩遅れていると言っていいかもしれない。例えば人材の流動性の高いアメリカだと公務員を務めた後、企業で働いて、また政府へ戻るということが当たり前になっている。そういう背景があるためか、例えば、ニューヨーク市では公務員の企業との副業・兼業は何の問題もない。都市開発局に務める公務員がクライアント企業を見つけてフィーをもらった上で、ニューヨーク市の他部署、例えば、公園局と掛け合うことは制度として認められている。都市開発局のスタッフが、都市開発局と折衝するのは利益相反に繋がるため、これは禁止されているが、自分が所属する部署でなければ、同じニューヨーク市への働きかけも認められているのだ。いずれ、日本もこれくらいまでに働き方の自由度は認められる時期がやってくるだろう。
これまで日本では経済活動は企業、公益活動は行政という住み分けが長らく続いてきたが、人口減少、少子化、高齢化、都市への人口集中という時代のトレンドにあって、公共を担う存在も多様化していく。それに伴い、公務員の働き方はより自由度を増していくし、公共を担うことの意味を肌感覚で有している人材リソースは企業にとっても喉から手が出るほど欲しい存在になっていくだろう。
さて、パブリック人材は何も公務員だけに限らない。地方議員も隠れたパブリック人材だ。社会的にはまったく認知されてない人的リソースとしての地方議員。次回は地方議員に焦点を当てて、新しい時代のサステナブルな都市経営を展望してみよう。

伊藤 大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役。元横浜市議会議員(3期10年)。
財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心した企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大学非常勤講師なども務める。