![]() |
21日、カリフォルニアの州都サクラメントで、約2万人がトランプ政権にNOというメッセージを発信。ワシントンDCで50万人以上、サンフランシスコやニューヨークといった大都市でも10万人規模の人々が集結した。
2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。近年例を見ない低支持率での船出となった新政権のもとで、エネルギーやクリーンテクノロジーはどうなるのだろうか。サステナブル・ブランド会議のアドバイザリーボード・メンバーであり、エネルギー、サステナビリティ分野で多くの大企業のアドバイザーを務めるアンドリュー・ウィンストン氏に聞いた。(カリフォルニア州サクラメント・藤 美保代)
トランプ新政権が社会に与えるインパクト
―ついにトランプ政権が始動しますが、見通しは?
ビジネスの環境・社会への取り組み、例えば気候変動、クリーン経済の構築、労働格差や最低賃金の是正、幅広いヘルスケアの拡充などに、新政権がどのような影響を与えるか、まだ不透明です。とはいえ、今のところ明るい要素はあまりない。連邦環境庁(EPA)の長官には、気候変動否定派で、EPAを何度も訴えてきた人物が、労働省長官には、残業手当や最低賃金の引き上げに強硬に反対する人物が任命された。国務長官はエクソン・モバイルのCEOですが、エクソンは気候変動を一貫して否定しています。また、新政権はパリ合意やクリーンエネルギー関連の活動からの撤退を考えているとも漏れ聞こえています。
―サステナビリティは冬の時代に入ると?
いえ、連邦レベルでの逆風があったとしても、気候変動に対する世界的な取り組みは進んでいくでしょう–州、地方自治体、そして民間を主体として。企業はこれまでになく強いリーダーシップをとっていく必要があるし、そうなっていくはずです。悲観的になる必要はないと、私は思いますよ。
少なくとも、世界が向かっている大きな流れ、メガトレンド(下記参照)は、合衆国大統領といえども止められるものではない。もちろんアメリカ国内の動きが鈍化する可能性は否めませんが、世界は広いのです。
―クリーンテクノロジーは逆境に立たされるのでしょうか?
トランプ氏とて、今のクリーン経済の勢いは止められない。例えば、太陽光・風力発電のコストは2010年に比べて6割から8割も下がり、今や多くの州で、化石燃料よりも安くなった。しかもこのコストメリットは、すでに補助金なしで成立しています。もちろん政府からの補助は追い風ですが、いずれにしてもクリーン経済はすでに各州に経済的メリットをもたらしているので、議会における太陽・風力へのサポートは安泰だといえるでしょう。共和党(政権政党)のチャック・グラスリー上院議員も、もしトランプ氏が風力発電の税額控除を廃止するとなれば、「議員生命を賭けて阻止する」と言っています。
企業の多くが気候変動は「リスク」だと気づいている
―ビジネス界の気候変動対策への取り組みは、これからも続いていきますか?
大筋そうでしょう。なぜなら、気候が実際に変動しているからです。もはや事態は、「パリ合意を遵守するために、あるいは排出権取引や省エネ基準があるから、政府から言われてやる」というレベルではない。企業はすでに、気候変動の結果である異常気象による実際の金銭的被害に直面しています。
私は、ケロッグのジョン・ブライアントCEOが、2015年12月にパリ(COP21)でプレゼンした際に同席しましたが、彼は並み居る経営陣、外交官を前に、気候変動対策を取ることは、ケロッグにとって「ミッション・クリティカル(不可避の使命)」である、と発言しました。
なぜ不可避なのか。
理由の一つは、「脆弱なサプライチェーン」です。ブライアントCEOは、「気候がおかしくなれば、穀物の生産に影響が出る」とマイルドに表現しましたが、要するに、今後は必要なだけの食糧を生産できるか分からない、というレベルに来ているのです。他業界でも、未曾有の洪水や嵐が、世界中で何十億ドル相当の資産や地域経済などに被害を与えています。
気候変動はシステム的なリスクです。多くの企業がそれに気付いている。例えば、大統領選を前に、ジェネラル・ミルズのケン・パウェルCEOが、実にCEO的な言い回しで、気候変動に対するコミットメントを公表しました。
「私は企業のリスクに責任を負っている。そして気候変動はリスクであると、科学的にはっきり証明されている。」同様に、何百人もの米国企業のCEOが、次期大統領に対して気候変動対策、クリーン経済の構築を呼びかけたのです。
サステナビリティは企業にとって追求する価値のあるもの
―政権にかかわらず、今後もサステナビリティへの取り組みが重要であるとすれば、そのプレッシャーはどこから来るのでしょうか?
まず、ミレニアル世代の「ビジネスのあり方」に対する期待が、今までの世代と全く違う。彼らは、2020年までに世界の労働市場の5割を占めるであろう、世界人口の最大勢力です。20代、30代を対象に昨年行われた世界的な調査では、回答者の実に87パーセントが「企業の成功は財政的な成功のみで測られるべきではない」と答えた。
モルガン・スタンレーの調査では、ミレニアル世代のうち、特に活発に投資を行っている層は、社会・環境問題に積極的に取り組んでいる企業に就職しようとする確率が、一般企業よりも三倍も高いという結果が出ています。
もちろん、今後裕福になったり、年を重ねたりすれば、彼らの考え方も変わるかもしれない。しかし、私が関わっている企業はどこも、若い従業員からの新しいプレッシャーを感じていますよ。ミレニアル世代は、社員として企業にサステナビリティを求めているのです。
―企業は、政権に関わらずサステナビリティに取り組むメリットがあるということですか?
もちろんです。世界を覆うメガトレンドにはいち早く対応するべきだし、加速するイノベーションによって、課題解決はより安価に、簡単になるわけですから。最終的に利益の話になれば、取り組みが利益に貢献する、ということは、これまで何度も証明されてきたことです。
顧客とともに環境・社会問題の解決に取り組んできた企業は、コスト削減、イノベーションの加速、能力ある人材の獲得、そして強いブランドの構築など、さまざまな価値をすでに創造しています。他にも、様々な価値創造のチャンスがある。サステナビリティは、政府に言われたからしぶしぶやるものではなく、そもそもビジネスにとって追求する価値のあるものなのです。
―そこまでして、企業は何を守るのですか?
最終的には、企業は、経済と社会が健全な発展を遂げるために最低限必要なものを、安定して確保する必要がありますよね。そしてそれは、きれいな空気や水であり、安定した気候であり、再生可能かつ豊富な天然資源であり、教育を受けた、熱意と能力のある人材であり、ローカルにもグローバルにもあなたの会社の製品を購買する経済力のある消費者です。他にも様々な要素を安定的に確保することが、結局企業を利することになるのです。
もし新政権が、強い経済をつくるためにに必要なこれらの重要事項を軽んじるのなら、企業はアクションを取る必要があります。無関心や怠慢があるのならばそれを埋め、連邦レベルでの動きが影響を持たなくなるぐらいに。政府がやるべきことをやらないのであれば、企業がリーダーシップをとるのです。
![]() |
![]() |
アンドリュー・S・ウィンストン
コネチカット州在住のコンサルタント、著者、講演者。プリンストン大学で学士、コロンビア大学でMBA、イェール大学で環境マネジメント修士号を取得。ボストン・コンサルティング・ファーム、タイム・ワーナー、MTVなどを経て、Winston Eco-Strategiesを創立。サステナブル・ブランド会議アドバイサリーボードメンバー。これまでに「グリーン・トゥ・ゴールド」、「グリーン・リカバリー」、「ビッグ・ピボット」と三冊の著書があり、時代の要請である「サステナビリテイ」「企業がいかに成功裏に利益を出しながら実現するか」というテーマを、 時代に先駆けて提唱してきた一人である。