このスニーカーの本当にすごかったこととは?
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もしかするとこのスニーカーのこと自体はすでに知っていたという方もいらっしゃったかもしれませんね。海岸などから回収したプラスチックをアップサイクルして糸を作り、それを編むことでスニーカーの上部を作っているのです。
1足のスニーカーを作るために、ペットボトル11本分のプラスチックを回収することが必要だといいます。つまり、このスニーカーを作れば作るほど、売れれば売れるほど、海に流れ込むプラスチックを減らすことができるわけです。
けれど、このスニーカーがサステナビリティの観点から素晴らしいのは、そのことだけではありません。このスニーカーは布を裁断して縫製して作るのではなく、糸を編んで作ったものなのです。
ですから廃棄物の発生量を大幅に削減することができるのです。もちろん製造コストも削減することができますし、より高い評判を得ることもできるでしょう。
しかも発売以来、これが大ヒットしているのです。海を感じさせる爽やかなブルーのカラーでなかなかカッコいいのですが、実はこのスニーカー、1足3万円近くします。それが2017年には百万足も売れたというのですから、すごいことです。
これだけの人気になったのは、デザインだけでなく、背景にあるストーリーが顧客を惹きつけているに違いありません。以下の映像はアディダスがプロモーション用に作ったものですが、若い顧客にアピールするファッション性を持ちながら、しっかりと海洋プラスチックのことも訴えています。
adidas Running | adidas x Parley UltraBOOST(日本語字幕もあります)
もちろんwebでも背景の説明をしっかりしていますし(以下のリンクをご覧ください)、また「プラスチックの使用を減らすためにできること」として、個人が取り組める8項目を示しています。かなり本格的な内容で、企業というよりはNGOのページと錯覚するほどです。
踏み込んだ内容にできたのは、やはりパーレイというNGOとコラボしたからでしょうし、そしてそのことが見せかけの環境配慮ではなく本気であることを示し、顧客から信頼を得ることができたもう一つの理由になっているのではないでしょうか。
Run for the Oceans(ラン・フォー・ジ・オーシャンズ)
それにしても百万足ということは、1年間で1100万本分のプラスチックボトルを回収したことになりますし、小売価格では300億円近い売り上げをもたらしたのです。ビーチクリーンアップのような一時的な社会貢献活動ではなく、本業ど真ん中での活動だったからこそ、ここまで大きく広がることができたのです。
サーキュラー・エコノミーが着実に新たなビジネスを育てていると言っていいのではないでしょうか。
ところで、プラスチック以上に今年日本で話題だったのはSDGsですが、アディダスのこの取り組みはSDGsにもしっかり貢献しています。
海洋生態系を保全し(目標14)、責任ある消費と生産(目標12)のモデルとなり、さらには海洋プラスチックを回収する地域に新たな雇用や収入も発生させている(目標1,8)からです。
環境のためにちょっと良いことをしようではなく、それを徹底して自分たちのビジネスのあり方までを変えてしまう。そうすればSDGsなんて言わなくても、環境も、社会も、そして経済も良くできることを、この取り組みは教えてくれたように思います。
サステナビリティに取り組むのは当然。そしてよりサステナビリティを高めるために自分たちのビジネスのやり方も変える。そしてそれをしっかりと伝える。
アディダスはサステナブル・ブランドの王道を行っているようですね。来年はぜひ、日本発のこうしたブランドが育つのを見たいものです。

足立 直樹 (あだち・なおき)
サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー 株式会社レスポンスアビリティ代表取締役
一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ理事・事務局長。東京大学・同大学院で生態学を学び、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア国立森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、独立。2006年にレスポンスアビリティを設立し現在に至る。2008年からは企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長も兼務。