• コラム
  • 公開日:2018.07.18
  • 最終更新日: 2025.03.02
SB創業者スカジニア氏に聞く:SBバンクーバー報告㊦

    森 摂 (もり・せつ)

    サステナブル・ブランド国際会議2018北米本会議(バンクーバー)で基調講演するコーアン・スカジニア氏(サステナブル・ライフ・メディアCEO)

    サステナブル・ブランド(SB)国際会議2018北米本会議(バンクーバー)では、SB創業者のコーアン・スカジニア氏(サステナブル・ライフメディア社CEO)に直接、インタビューする機会があった。今後のSBはどんな方向性を目指すのか、彼女に聞いた。(オルタナ編集長=森 摂)

    消費者や投資家の価値観が変わった

    森:「サステナブル・ブランド国際会議」は2017年から3年間、「グッド・ライフ」という世界共通テーマを掲げました。その真意と方向性を聞かせて下さい。

    コーアン:私たちは昨年、「Redefining the Good Life」(グッド・ライフの再定義)という年間テーマを設定し、今年は「Redesigning the Good Life(グッド・ライフの再構築)」としています。来年は「Delivering the Good Life」(グッド・ライフの発信)です。

    昨年、私たちは東京を含めた世界12都市の会場を回り、調査をし、「21世紀のグッド・ライフとは何か」を研究しました。

    森:どのような結論だったのでしょうか。

    コーアン:これは多くの国で共通の認識でしたが、「グッド・ライフ」の定義が20世紀と21世紀では大きく変わりました。一言でいうと、「お金では幸福は変えない」ということです。私たちが一定のレベルの収入に達すると、それ以上収入が増えても幸せになるとは限らないのです。

    森: それは米国資本主義の象徴である「ウォール街」でも同じでしょうか。

    コーアン:ウォール街も変わりつつあります。気候変動などの問題における企業リスクを感じ取っています。ESG投資のように、逆にそれをビジネスに生かす動きもあります。

    米国のビジネスパーソンは、サステナビリティ(持続可能性)をさまざまな角度からとらえ始めました。それを人生における個人的な体験と考える人もいれば、ビジネスリスクととらえる人もいます。

    サステナビリティをブランド戦略と位置づけ、それへの対応を強化することでブランド価値を上げようとするビジネスパーソンも増えました。サステナビリティに対する関心はさまざまな市場で高まっています。

    森:サステナビリティへの関心は、米国ではすでにメインストリームになったのでしょうか。

    コーアン: いえ、まだまだこれからでしょう。世界の消費者は、よりシンプルでバランスが取れた生活を目指し、コミュニティや環境への関心を強めています。そしてインターネットによって世界の環境課題が瞬時に伝わるようになりました。

    森:プラスチックの海洋ゴミの問題も、急速な勢いで世界に広がりましたね。

    コーアン:人々は、新しい環境の問題についても企業やブランドがどう対応するのか、どう変革するのかを注意深く見ているのです。

    森:米国の投資業界でも同じような動きになっていますか。

    コーアン:米ヘッジファンド大手ブラックロック社のローレンス・フィンクCEOは「これからの投資は長期でなければならない」と明言しました。投資業界でも、長期思考が主流になってきました。社会との対話の扉が開かれたのです。

    森:日本でも同様のことが起きています。2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国連の責任投資原則に署名して以降、多くの機関投資家がサステナビリティや非財務情報を重要視するようになりました。

    コーアン:世界中で同じことが起きていますね。世界のサステナブル投資は実は、1920年代にカトリック教会系のファンドから始まりました。

    リデザインとは「自己変革」するということ

    森:今年のSBの年間テーマである「Redesigning the Good Life」は、単なる再デザインではなく、企業やブランドに「自己変革」を迫るものだと感じました。

    コーアン:その通りです。そしてその変革は個人から始まるのです。問題はどう変わるかです。そのためのツールやスキル、手法を探しています。個人のライフスタイルを再構築し、組織の在り方を変え、エコシステム(生態系)とエコノミックシステム(経済社会)も変えなければなりません。

    森: 企業自身が変わらなければならないということですね。

    コーアン:もちろんです。 企業自身も変わらなければなりませんし、それを顧客に伝えられなければ成功とは言えません。顧客が変わって企業が変わらないのもダメです。成功しているブランドは、エコノミック・エコシステム(経済的な観点も含めた生態系)の中心にいるのです。そうしたブランドは顧客に良い影響を与えられると同時に、経済社会のルールを作ることもできるのです。

    森:こうした影響はサプライチェーンの全体に及びますね。

    コーアン:サプライチェーンも、投資家もすべてです。すべてのステークホルダーに影響が及ぶのです。

    企業の自己変革のための「5つの原則」とは

    森:さて、今回のSBバンクーバーの最大の見どころは何でしょうか。

    コーアン:グッド・ライフに向けて、企業が変わっていくべきロードマップを示したいことです。それは企業やブランドが自己変革するためのツールでもあります。
    それをいくつかの企業で実験して、広げていきたいと考えています。私たちはP&G、ダノンと協力し、その他の研究機関とも組み、ツールを開発してきました。

    森:そのツールには五つの原則があるそうですね。

    コーアン:第一に、どの企業もブランドも「パーパス(存在意義)」を持つべきことです。これは米国や欧州だけでなく、日本企業の事例も大いに参考になります。第二に、社会の変化に対応できるような組織作りとビジネスオペレーションの変革です。

    第三に、社会や環境に良い影響を与える製品やサービスを顧客に提供していくことです。第四は、ステークホルダー全体にサステナビリティを伝えていく努力です。第五は、企業がサステナブルや長期思考のコミットができるようなガバナンスづくりです。

    森:とても良いと思います。

    コーアン:これは五原則であり、五つの段階でもあるのです。企業やブランドはこの段階を一つずつ上がってほしいと考えています。

    科学やテクノロジーも重要な要素に

    森:SBの「グッド・ライフ」という共通テーマは、2017年~19年の3年間でどういう「ホップ、ステップ、ジャンプ」を描くのでしょうか。

    コーアン:今年は「デザイン・シンキング」も活用していきます。来年のテーマは「Delivering the Good Life」。つまりグッド・ライフという価値観をすべてのステークホルダーと共有することです。そのためには「サイエンス、テクノロジー、そしてストーリーテリング(物語り)」の三つを重視しています。

    森:テクノロジーとはITのことでしょうか。

    コーアン:すべてのテクノロジーです。ロボットやブロックチェーンも含めて、サステナビリティを実現するイノベーションを起こすためのテクノロジーすべてが含まれます。

    森:私は、deliveringとは、広告やコミュニケーション、マーケティングのことだと思っていました。

    コーアン:それは含まれますが、全てではありません。コミュニケーションが大きな役割を持つのはもちろんです。

    森:コミュニケーションだけでなく、テクノロジーも大事なのですね。

    コーアン:それと、サイエンスです。それからコラボレーション。その4つが重要な要素だと考えています。

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    森 摂 (もり・せつ)

    株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。

    東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。

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